軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十九話 ユージ、レッドカーペットを歩く

「アリス、どうかな? 変じゃない?」

「…………うん!」

リビングで待つアリスの元に、恥じらいながら姿を見せるユージ。

もじもじしている。おっさんなのに。

妹のサクラたちがプロデューサーと脚本家の夫婦の家で着替えている頃、ユージも自宅で着替えていた。

掲示板住人たちと針子のヴァレリー、ユルシェルによる渾身の一品。

オーダーメイドの黒タキシードである。

しかも蝶ネクタイである。

アリスの答えに間があったのもしょうがないことだろう。優しい少女である。

『ユージ兄、その首のところはリボンじゃなきゃダメなの? ほかはカッコいいのに……』

『うーん、なんか格? とか考えるとこうなんだって。やっぱり似合わないよね』

落ち着かない様子で手をパタパタと動かすユージ。

アリスと違ってリーゼは正直なコメントであった。

長命種のエルフは細工物に凝る者も多く、エルフの里は絹の産地でもある。

リーゼ、里にある小物や服を見てセンスを培っているらしい。さすがレディ気取りの少女である。

『あら? ユージさん、私は悪くないと思うわよ? ニンゲンの夜会はそんな感じの服じゃなかったかしら』

『ユージさん、胸を張って、ウソでも自信あるように見せるの。それだけでだいぶ違うわ』

ユージ宅のリビングにいるのは、アリスとリーゼだけではない。

リーゼの祖母で稀人のテッサの嫁だったイザベル、稀人・キースの世話をしていたユリアーネ、二人のエルフもいる。

見た目は若いが実年齢は数百才クラスの二人は、少女たちと違ってユージのタキシード姿を評価していた。それなりに。

『はあ、がんばります。でも……並びたくないなあ…………』

リビングを見渡してボソリと呟くユージ。

それも当然である。

ドレスアップしたのはユージだけではない。

アリスもリーゼもイザベルもユリアーネも。

それぞれドレスに身を包んでいた。

ケビンが結婚を申し込む際にジゼルに送った総シルクのドレスほどではないが、女性陣のドレスはそれなりに手が込んでいる。

しかも見た目は若く美しいエルフの女性が二人、エルフの美少女が一人、表情が幼いものの人間の美少女が一人である。

普通の日本人なユージとしては、一緒に並びたくないと思うのも当たり前だろう。

心を落ち着けようと、ユージはしゃがみこんでコタローを撫でまわす。

キリッとした表情を見せるコタローの首には、蝶ネクタイが巻かれていた。コタローもドレスアップしているつもりらしい。

「でも、うん。実際に行くわけじゃないんだ。画面ごしだし音も聞こえない。うん、大丈夫大丈夫」

コタローを撫でまわしながら呟くユージ。

わっしゃわっしゃと撫でまわされたコタローは、迷惑そうにユージを見つめている。ちょっと、せっかくぶらっしんぐしてもらったのに、とでも言いたげに。晴れ舞台に毛並みが気になるお年頃であるようだ。

「よし、じゃあ行きましょうか。俺の部屋に」

コタローを撫でて落ち着いたのか、リビングにいる面々に告げるユージ。

ユージはそのままスタスタとタキシード姿で階段を上っていった。

ちなみに靴はない。

室内だし、というか革靴作るの大変だし、見えないからいいよね、である。台無しである。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

慣れないタキシードを着込んだユージは、パソコンの前にいた。

コタローはユージに抱えられて、アリスとリーゼはユージが座るイスの横に、稀人と関わっていたイザベルとユリアーネは後ろに立っている。

ユージが見つめるパソコンのモニターには、豪華な車の中の様子が映っていた。

「ユージ兄、これはなあに?」

「うーん、いまは車で移動中みたい。本番は車を降りてからだよ」

2月の最終日曜日。

ユージのモニターには、元いた世界の様子が生中継で映っていた。

場所はアメリカ、ロサンゼルスの映像である。

「あ、着いたみたいだ。……よし」

一つ呟いてぐっと表情を引き締めた、つもりのユージ。

ヒザの上のコタローも、キリッと顔を引き締めている。つもりらしい。

まるで現地にユージがいるかのように、映像が動く。

広く豪華な車内で座っていた目線から、ドアが開いて車の外へ。

ユージの目に、赤い絨毯とフラッシュの瞬きが飛び込んでくる。

「うわあ、まぶしい! きれい!」

「こ、これは緊張する……」

カメラの高さは、ユージが立ち上がった頭の位置とほぼ同じ。

ゆっくりと左右にパンして、現地の映像をユージに伝える。

アメリカ、ロサンゼルス。

リムジンから降りてド○ビーシアターに向かう、レッドカーペットの様子を。

ユージの目に、左右から近づいてくる人々が映る。

妹のサクラとその夫のジョージ、友人でCGクリエイターのルイス、映画のプロデューサーと脚本家の夫婦、稀人テッサの姉と母、稀人キースの子孫のケイト、ユージの映画に出演した俳優たち。

どうやらユージの目線にあわせたカメラ役の人間と一緒に、レッドカーペットを歩くつもりらしい。

ドル○ーシアター。

アカデミ○賞授賞式に向かう、ユージと一緒に。

ユージの目線のカメラ役の人間は、頭に特殊なカメラ機器を装着している。複数のカメラの映像を繋いで一つの映像にできる機器である。

ユージのパソコンモニターには、人間の視界以上に左右が見える映像が映っていた。

ちなみにカメラ役の顔の正面と左右には現在のユージの様子を映すモニターを付けている。

顔にモニター、頭にカメラ機器、体はタキシード。

向こうの世界では完全に不審人物だが、問題ではない。

ここまでしても、プロデューサーは伝えたかったのだ。

ユージに、アカデ○ー賞授賞式とレッドカーペットの臨場感を、その栄誉を。

スタッフや取材に来た面々、パーティ参加者に、ユージも参加しているということを。

わざわざこのためにユージに背格好が似た俳優を雇ってまで。

プロデューサーは、どうしてもユージに参加してる気分を味わってほしかったらしい。

「ああっ! ユージ兄! アリスだ! アリスとユージ兄がいる!」

「ホントだ。あ、俺の役とアリスの役の俳優さんたちが俺を案内してくれるみたい」

映像の左右から近づいてきたのは、映画でユージを演じた日本人俳優とアリス役の少女。

カメラを付けた人物の手を引いて、ゆっくりとレッドカーペットを歩いていく。

それはまるで、ユージ自身が手を引かれているような映像で。

『すごい! ユージ兄、まるでお話の中のパレードに出てるみたい!』

『パレード……そうか、そうだね。これはパレードなのかも』

レッドカーペットの横から照明に照らされて、並んだ記者は口々に質問を飛ばす。

取材陣ではなく一般の人が入場できる観覧席からは、拍手や指笛が。

それどころか先行していた他の映画の俳優やスタッフたちも、ユージを見つけて拍手を送っていた。

あいかわらずユージの耳に音は聞こえない。

それでも、注目されて、祝福されているのがわかる。

物語の中の凱旋パレード。

ドルビ○シアターに続くレッドカーペットは、現代の凱旋パレードなのかもしれない。

『パレードか、懐かしいわね。私はテッサと一緒に何度か出たことあるわよ』

『あらイーゼ、自慢かしら? ほらユージさん、胸を張って』

『あ、はい』

後ろに立ったユリアーネに促されて、すっと胸を張るユージ。

まるで計ったようなタイミングで、ユージ役の俳優とアリス役の女優が手を引いて歩き出す。

同時に動き出す映像。

それは、実際にユージがレッドカーペットを歩いているかのような感覚だった。

「すごいねユージ兄! みんなお祝いしてるね!」

「ほんとだねアリスちゃん。ユージ兄、まるでお話の主人公みたい!」

「主人公……映画の主人公は俺じゃなくて、俺の役の人がやったんだけどね」

アリスとリーゼの言葉に、照れたようにうつむいて笑うユージ。

「もう、私たちにだってわかるわよ。あの映画はユージさんの話が元で、ユージさんががんばった結果だって」

「自分の評価が低いのはキースと一緒ね。稀人ってみんなそうなのかしら」

パンパンと二つの手で背中を叩かれて。

ユージはまた背筋を伸ばす。

記者やカメラが並ぶエリアを越えて、観覧席からの拍手を浴びて。

○ルビーシアターに入る直前に、ユージのためのカメラをつけた男は振り返った。

ユージの目にレッドカーペットが映る。

世界中から集まったメディアが見える。

メディアの先にいるのはユージに注目している人たちだろう。

もちろん生中継を見ている掲示板住人たちも。

ユージに音は聞こえない。

それでも。

ユージの耳には、万雷の拍手が聞こえていた。

パレードみたい、と言ったリーゼの言葉を思い出して。

賞賛と祝福の拍手を受け。

ユージは一つ、頭を下げた。

2月の最終日曜日。

ドルビ○シアターに続く、レッドカーペットの上で。