軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話 ユージと村人たち、ユージの映画の発声上映を楽しむ

ユージの家の前の小さな広場を改装して作られた、半円形の劇場。

そこにはエルフの魔法によるスクリーンが作られていた。

映し出されているのは、ユージの部屋のパソコンモニターに流れる映像。

ユージの話の映画である。

「んんー、家からだとちょっと見づらいかな?」

ユージの部屋の窓からスクリーンまでは20メートル近く離れている。

そのうえ、モニターからの照射なのだ。

エルフの少女・リーゼが作り出した水レンズは魔法であっても、解像度はどうにもならないらしい。

当然である。

というか『見づらい』で済むわけがない。無知の知である。違う。

「とりあえず、モニターの周りを暗くしてっと」

パソコンモニターから発する光量を魔法のレンズに向かわせるべく、ユージはモニターのまわりを用意していた厚手の黒い布で覆う。

本来はそんなもので覆ったところで、外にあるスクリーンにくっきり映せるものではない。

それを言ったら、水レンズでどうにかなるほうがおかしいのだが。

それでも。

外に映し出された映像は、多少見やすくなっていた。

ユージの話の映画はすでにはじまっている。

いまはユージの家が映し出されたところだが、効果音も音声もない。

無声映画である。

ユージ役の俳優が映し出された時も、音声ではなく字幕でセリフが表示されていた。

「うおおおおお! なんだこれ、なんだこれ!」

「ねえねえ、これが街でやってる演劇ってヤツなの?」

「そんなわけないじゃない……」

「ユージ兄! アリスわかったよ! この人、ユージ兄だ!」

「これは……あなた、どうしましょう」

「うむ……ひとまず楽しむとしよう!」

『これがテッサが言っておった映画か。この目で見られるとは……長生きするものじゃのう』

《なんだアレーッ! でっかいニンゲンだッ!》

《我にもわからぬ。文字はニンゲンの文字であるようだが》

窓の向こうは大騒ぎである。

いや、ユージの部屋にいるアリスも興奮していた。コタローも。

ユージの部屋も大騒ぎである。

この世界に『演劇』は存在している。

ユージが元いた世界では古代ギリシアや古代ローマの頃から演劇が存在したことを考えれば、当然かもしれない。

村によっては祭りの時に、小さな街では広場などで、王都などの大きな街では常設の劇場があるらしい。

だが、映画は存在しない。

この世界に様々な知識をもたらした過去の稀人たちも、さすがに難しかったようだ。

ホウジョウ村の劇場で上映されているこれが、この世界初めての映画である。

驚きが収まってくると、村人たちは純粋に映画を楽しみはじめていた。

いまはユージとコタロー、二人が森を探索して採集するシーンだ。

やたら指示が飛んでいるのは、当時のユージが無知だったせいだろう。

とりあえず赤い茸には毒があるらしい。見た目通りである。なぜ食った。

映画は続く。

『掲示板』がなんなのかはわからなかったようだが、書き込まれた内容は理解していた。

スクリーンに映し出されているのは日本語ではなく、この世界の文字だったので。

ユージ、必死で翻訳したのが役立ったようだ。

字幕でも楽しめているのは、ホウジョウ村の識字率が高いせいだ。

貴族である領主夫妻、代官や医者、研究者といった知識職、商人と元商人はもちろん、ホウジョウ村の住人は文字の読み書きができる。

ユージも難しい言葉を知らないため、必然的に字幕は簡単な言い回しになっている。

そのため、村人でもわりとすんなり読めるようだった。

これまでの勉強の成果である。

「ああっ、くそ、弱すぎだろ! いまだ、って遅いんだよ!」

「落ち着けエンゾ。新人冒険者だったらこんなも……危ねえ! ちゃんと死んだか確認しろユージさん!」

「ああもう! 結界があるなら弓矢で仕留めればいいのに!」

「ユージさんも昔は弱かったんだ……ボクももっとがんばらなきゃ!」

「あら? マルクくんは今夜、私と一緒にがんばるのよ?」

「ちょっと! 祭りの夜だからってはしゃがないの!」

戦闘シーンになると、観客はキャンプオフ参加者たちよりも盛り上がっていた。

ユージの初戦闘、対ゴブリン戦では怒声が飛んでいる。

生き物を殺した感触に呆然として謎バリアの外に出たユージを、コタローが危うく助けたシーンである。

ユージの行動に、もはやブーイングである。

あと犬人族の少年・マルクくんの貞操が危ない。暗闇で隣り合っているせいか。ここはピンク映画館ではない。

「コタローすごーい! ユージ兄、危なかったね!」

「……うん。いやあ、こうして見ると恥ずかしい……俺、よく生きてるなあ」

本当に。

イスに座ったユージのヒザの上で、コタローがぶんぶんと尻尾を振り回していた。わたし、わたしのおかげね、と誇らしげに。

映画は続く。

ユージとコタローは森の探索を続けるうちに、行き倒れていたアリスを保護した。

アリスというか、アリス役の少女を。

「うわあ! うわあ! ユージ兄、あれアリス? アリスだよね!?」

「そうだよアリス。あの頃はもうちょっと小さかった気がするけど……そういえば、いまのアリスに似てるかもね」

「そっかあ! アリス大きくなったんだね!」

アリス、上機嫌である。

ユージの部屋にいたリーゼも、祖母のイザベルも、そんなアリスをうらやましそうに見つめていた。

自分たちも出たいらしい。わかりやすい二人である。

映画は続く。

ユージは冒険者たちと遭遇し、街に行くことになった。

本当のお話とはちょっと違うんだけどね、などとフォローするユージ。

室内にいる三人と一匹はスルーである。

ユージの話よりも、映画に見入ってたようだ。

むしろ劇場にいた『深緑の風』が騒がしい。

おいおい、俺たちあんなんじゃねえぞ! などと言って。

ユージが街に行ったシーンでは、一気に登場人物が増えて話が進んでいった。

収穫祭にあわせて村に滞在していたエルフとリザードマン、最近移住してきた面々と医者は素直に話の流れを楽しめたようだ。

だが。

そうでない者たちもいる。

「む? アレが儂か。ふむ、悪くない。だがオルガはオルガのほうが美しいな」

「もう、あなたったら。私、あんなはしたない格好はしませんよ?」

「ぶはははは! よかったなケビン! アレがおまえだってよ!」

「お義父さん……いえ、これは演劇です。私、あそこまでお腹出てませんから……」

「くっそ、サロモンのおやっさんは出番ありかよ! 俺たちはねえのに!」

「落ち着けってエンゾ。『深緑の風』の名前だけは出たじゃねえか」

ユージの話の映画。

フィクションでありエンターテイメントであり、2時間という時間制限もある。

実際にあったことをそのまま再現しているわけではない。

現実と違ってリストラされた者、比較的本人に似た役者が選ばれた者、エンタメ性を増すためにキャラ変更があった者。

観客たちは悲喜こもごもであった。哀れケビン。

映画は続く。

このあとのモンスター集落の討伐は、ほとんどフィクションである。

実際は一度、開拓地にゴブリンとオークの集団の襲来と撃退があったし、そもそもすでに開拓ははじまっている。

映画ではそのあたりはばっさりカットされて、ユージとアリス、コタロー、冒険者三人組がユージの家で準備して、そのまま討伐戦に向かっている。

獣人一家のマルセルとニナ、マルクもカットされているが、本人たちのコメントはなかった。

「ユージ兄! あれクルマ? クルマだよね!?」

「あ、うん。ウチにあるのは軽自動車だし、あの時はもう動かなかったけど。クライマックスはやっぱり派手にしたかったみたいで」

「テッサに聞いたことがあるわ。クルマに、バクダンね。やるじゃないユージさん!」

「ゴブリンとオークの集落。じゃあこれが終わったら……ふふ」

準備を終えて出撃した映画の中のユージたちに、アリスとイザベルのテンションは高い。

ユージ自身はちょっと呆れ顔である。

話の筋は聞いていたし翻訳のために何度も映像は見ていたが、それでも。

やりすぎな準備とこの後の活躍の盛りっぷりがちょっと恥ずかしいようだ。

リーゼはリーゼで、モンスターの集落討伐と聞いてニヤついている。その後を予想したのだろう。

そして。

モンスターの集落討伐戦は、大盛り上がりだった。

「そこだっ! いけ!」

「なあ、あれ俺たちじゃねえ? あれが俺であれがブレーズで、いまのがジョスだろ?」

「ふふ、あとでユージさんに聞いてみたらいいんじゃない?」

「そうだ! モンスターは討伐せよ! くっ、儂もハルバードを手に!」

「あなた、これは演劇ですわ。現実ではありませんよ」

《おおーっ! すごい、すごいぞーっ!》

疾走する四輪駆動車、アリスの魔法とお手製爆弾、街から来た冒険者たちの活躍、派手に描かれた集落のボスモンスター。

手に汗を握るアクションシーンの連続は、異世界の人々を楽しませたらしい。

たとえ音がなくても、音声なしの字幕でも、余計な知識がなくても楽しめる。

さすがハリウッドである。

そして。

『やったあ! あれはリーゼね! リーゼよね、ユージ兄!?』

『うん、そうだよ。映画はここで終わりだけど……続編があればリーゼももっと出るかもね』

『リーゼちゃん、そっくりだね! アリスと一緒にがんばろうね!』

『ユージさん……私は? この後、私も出るのよね?』

『あ、いえ、今回の映画はここまでで……』

助け出されたリーゼ役の登場に、本人は大喜びであった。

逆に、いまも出ていないほかのエルフは不満なようであったが。

ユージの部屋にいたイザベルも、下で映画を見ていたエルフたちも。

『むう。ユージ殿! 儂ら! 儂らの出番は!?』

「はあ、演劇ってすげえなあ……」

「エンゾ、これは演劇じゃないわよ。こんな風に本物みたいにならないもの」

「いい劇であった。それにしても、これはどうしたものか……」

「あなた、見なかったことにしましょう。荒唐無稽な話ですから、私たちが黙っていれば信じる者はおりませんわ」

「オルガ様、ありがとうございます。私は口外する気はありませんので……お義父さん」

「まあそのほうがいいわな。おう、宿場予定地でもアイツらには黙っておく」

《おもしろかったッ! ニンゲンはすごいんだなーッ!》

《うむ。我もまだ侮っていたのかもしれぬ》

「ユージ兄、えいがってすごいね! おもしろいね!」

エンドロールが流れる中、観客たちはざわついていた。

感想だけではない。

領主夫妻やケビン、ゲガスはこの後の対処に悩んでいる。

とりあえず見なかったことにするらしい。

権威ある者が口にしなければ、映画の件が漏れたとしても理解できないだろうと判断したようだ。

ホウジョウ村が街からも他の村からも離れていて、往来を許可制にしていて何よりである。

街中で上映していたら、どれだけの騒ぎになったかもわからない。

まあ機材もなく、さすがに流しようがないのだが。

そして、エンドロールが終わり。

一つの文章が映った。

ユージが翻訳した、この世界の言語で。

『特別編

異世界で生き抜くユージさんとコタロー。

そして、私たちの世界からの来訪者を支えてくださったみなさん。

みなさんに、感謝と敬意を込めて』

キャンプオフで流された特別映像は、こちらでも流されるようだ。