軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十二話 ユージ、収穫祭の夜に魔法を使う

収穫祭を終えたユージは、家に帰ってきていた。

アリスとコタロー、エルフの少女・リーゼ、リーゼの祖母のイザベルを連れて。

「ユージ兄、みんな集まって何するの?」

「アリスちゃん、それはナイショなの!」

ユージを先頭に、手を繋いだアリスとリーゼが階段を上がっていく。

エルフの言葉を勉強したアリス、現地の人間の言葉を学んだリーゼ。

話し言葉であれば、二人はどちらの言葉でも理解できるようになっていた。

「アリス、もうすぐわかるよ。とりあえず俺の部屋に行ってからね!」

「ふふ、やっとね。調整もなかなか大変だったもの、みんなの反応が楽しみだわ!」

稀人・テッサの嫁だったイザベルは、期待で目を輝かせている。

ちなみにイザベルもユージも、エルフの言葉も人間の言葉もわかる。

この場にいるのはバイリンガル以上のメンツであった。あと犬。

ふよふよと浮かぶ明かりの魔法の後に続いて四人と一匹が向かったのは、ユージの部屋だった。

薄暗い部屋の中、パソコンを起動するユージ。

リーゼはまっすぐ窓に向かってガラリと窓を開ける。勝手知ったる男の部屋である。深い意味はない。

『ユージ兄、みんな外で座ってるみたい。準備はどう?』

『ちょっと待ってねリーゼ』

窓際から話しかけるリーゼに返事しつつ、ユージはパソコンをカチャカチャ操作する。

カメラからメモリーカードを抜き出してリーダーに差し込むユージ。

Photosh○pのアクションを走らせてからブラウザを起動する。

ユージは開いたサイトにIDとPASS打ち込んでログインする。手慣れた手つきである。

パソコンのモニターに映ったのは、キャンプオフの様子の生中継だった。

「ああっ! アリス知ってるよ! ばーべきゅーで、きゃんぷでしょユージ兄? 今日やってたんだね!」

にっこりと笑って知ってますアピールするアリス。

ユージがアリスと出会ってから6年。

ずっとユージと一緒に暮らしてきたアリスは、キャンプオフのことも知っている。

というかリーゼと一緒に、人差し指を駆使して日本語で名前を書き込んだこともあるのだ。

「そうそう、よくわかったねアリス。とりあえず写真をアップしといて……うん、よし」

パソコンの前に座るユージと、窓際に陣取ったリーゼとイザベルの間をパタパタと動きまわるアリスとコタロー。

一人と一匹だけ、これから何が起こるのか知らないらしい。

『リーゼ、こっちは用意できたよ。どう? できそう?』

『まかせてユージ兄! 今日のために、リーゼがんばったんだから!』

『うふふ、いい子ねリーゼ。さあユージさん、はじめましょ?』

『はい、やりましょう』

イザベルに声をかけてから、ユージは窓に身を乗り出す。

「みなさーん! いまから暗くなりますけど、慌てないでちょっと待っててください!」

ユージの家の前に設けられた半円形の劇場。

そこには42人の村人とエルフ、領主夫妻、ケビンたち商人、リザードマンたちゲストが集まっていた。

総勢で50人を超える観客である。

リザードマンを一人とカウントするのか一体とカウントするのかは別として。

ユージの言葉に、代表して村長のブレーズが了解の言葉を返す。

貴族である領主を差し置いて。たいがいな村人である。

「じゃあいきます! 光よ光。その輝きを消せ。 だからフサフサだって(ダークネス) 」

ユージが魔法を詠唱して、部屋と外の二箇所に魔法を使う。

ふよふよと浮かぶ明かりは消えて、室内はパソコンモニターの明かりに照らされる。

同時に、半円形の劇場の上空に浮かんでいた明かりも消えた。

今日は星一つ見えない曇天。

外はすっかり暗闇である。

それにしてもその詠唱はなんなのか。ユージ得意の目つぶし魔法と対をなすように考案された詠唱は、完全に掲示板住人の悪ノリである。ユージはフサフサである。ダークネスでもトラブらない。

『ふふ、本当に真っ暗ね。ユリ、お願い!』

『はーい!』

ユージに続いて窓から身を乗り出して、古くからの友人に声をかけたのはイザベルだ。

暗闇の中から、劇場の最前列に座っているはずのエルフの女性・ユリアーネの返事が聞こえてくる。

続いてかすかに音が聞こえてきたが、ユージの耳には詠唱は届かなかった。

問題はない。

ここまで打ち合わせ通りであり、ユージとエルフたちは付近に村人がいないタイミングを見計らって何度も練習してきたのだ。

『イザベルさん、大丈夫ですかね?』

『見えないけど、ユリならきっと大丈夫。さあ、リーゼの番よ。がんばってね!』

『はいお祖母さま! アリスちゃん、見ててね! 水の魔眼はすごいんだから!』

グッと気合いを入れて、リーゼは腰に付けた皮袋を外して胸の前に持ってくる。

集中するように大きく一つ息を吐くリーゼ。

何が起こるのかとワクワクしたアリスに見つめられながら。

リーゼが口を開く。

『万物に宿りし魔素よ。我が命を聞いて其を動かせ。我の魔眼に全てを見せよ。 遠見水鏡(ウォーターレンズ) 』

リーゼの手にある皮袋からするすると水滴が飛び出して空中に浮かぶ。

そして。

『遠くを見るんじゃなくて、ここからこうして、よし! えいっ!』

流れるような詠唱と違って、うんうん苦戦しながら空中の水滴を見つめるリーゼ。

やがて水が集まり、中央がわずかに膨らむ円形の塊ができあがった。

えいっ! というリーゼの掛け声とともに。

「リーゼちゃん? これ、お水でしょ? どうするの?」

「アリス、こうするんだよ。リーゼ、お願いできるかな?」

首を傾げるアリスに答えたのはユージだった。

パソコンデスクごとズリズリと運んで、事前に印をつけていた場所へ。

「もちろん! そのための魔法だから!」

「ありがとうリーゼ! さーて、どうかな? ……おおっ!」

「うわあ! ユージ兄、すごーい! リーゼちゃんもすごいすごい! お(・) 外(・) に(・) お(・) 外(・) が(・) 映(・) っ(・) て(・) る(・) !」

「ふふ、成功ね! リーゼ、微調整できるかしら?」

「はい、お祖母さま!」

四人のテンションは高い。

室内で見守っていたコタローは、跳ねまわってワンワンワン! とおおはしゃぎである。ユージのベッドがメチャクチャである。

騒がしいのはユージの部屋だけではない。

ユージの部屋以上に、半円形の劇場に集まった村人とゲストたちは大騒ぎだった。

「おいおいおいおい、なんだこの景色!」

「なんだこれは!……魔法か? レイモン」

「存じませぬ。申し訳ありません」

《暗いのに明るい? ニンゲンは不思議だなーっ!》

《魔法でここではないどこかの地? むう、ぜひ教えてほしい》

「ちょっと待て、いつの間にこの壁が? 暗闇になった時か!?」

村人たちが座る半円形の劇場。

村人たちが入ってきた時、設けられたステージの後ろには何もなかった。

背中側はユージの家で、前はステージだけ。

いまそこに、巨大な壁が屹立しているのだ。

だが、村人たちは壁に驚いたわけではない。

壁には、ユージが元いた世界で行われているキャンプオフの風景が映っていた。

バーベキュー中の清水公園である。

ここではない景色、ここにはいない人々。

それが突然、眼前に映し出されたのだ。

魔法がある世界においても驚くべきことらしい。

「すごいよリーゼ! ちゃんと映ってる!」

「ふふん、リーゼ、たくさん練習したんだから!」

ユージの光魔法で明かりを消して、ユリアーネの土魔法でスクリーンを作り、リーゼの水魔法でレンズを作る。

三人の共同作業で、ユージは家の前の劇場にキャンプオフの生中継を映すことに成功したのだ。

村人とゲストは大騒ぎである。

ところで、リーゼが水魔法で作り出したレンズは一つにもかかわらず、天地が逆さになっていない。

練習中に判明した事実に、ユージが元いた世界も驚いていた。

まあ『魔法はイメージ』であり、掲示板住人のアドバイスを受けたユージは、最初からエルフに反転することを教えなかったのだが。

というか本来、パソコンモニター程度の光量ではどうあがいてもこれだけ距離が離れた場所に映せない。

いま、不鮮明とはいえ人の表情がわかる程度には映っているのだ。

思い込みと無知とは恐ろしいものである。

魔法が存在する世界では、特に。

「よし、じゃあこれで操作してっと……」

仮設スクリーンにモニターの映像が映ったことを確認して、ユージがパソコンを操作する。

とうぜん外の映像も、キャンプオフの映像からデスクトップ画面に切り替わる。

どよめく観客。

聞かなかったことにして、ユージは操作を続ける。

そして。

ユージが再生したのは、ユージだけに渡されたデータ。

ユージの話の映画の、特別なデータである。

モニターに流れる動画が、家の前の仮設スクリーンに映し出される。

この世界の数字で書かれたカウントダウンである。

何がはじまるのかと静まり返る観客。

元いた世界のキャンプ場とは逆の反応。

だが。

30秒前からはじまったカウントダウンが20になると、ワクワクを抑えられないアリスが大声でカウントする。

窓際にイスを持ってきて、座り込んだリーゼとイザベルもカウントダウンに加わって。

10秒前には、村人も一緒にカウントダウンしていた。

表示された数字が0になる。

ユージの映画が、はじまった。

ユージが暮らす、異世界で。