軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十一話 キャンプオフ参加者たち、映画の『特別編』を楽しむ

ユージの話を映画化する。

世界に先駆けて、その映画が上映された秋のキャンプオフ。

キャンプ場に集まった参加者が口々に余韻を語る中、エンドロールが流れていく。

そして、エンドロールが終わり。

一つの単語と、文章が映った。

『特別編

異世界で生き抜くユージさんとコタロー。

ここまでアドバイスしてきた掲示板住人。

みなさんに、敬意を込めて』

黒い背景に白い文字が浮かび、スクリーンには再び映像が流れる。

ざわめくキャンプ場。

スクリーンには、一軒の家が映っていた。

先ほどまで流れていた映画の中の家ではない。

観客は、とうぜんこれが誰の家か知っている。

スクリーンに映ったのは、森にポツンとたたずむユージの家だった。

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「おい、これって……」

「エンドロール後の特別映像? 粋な計らいってヤツか」

名無しのニート@待避所:え、続きあるの?……トイレ行きたいんだけど

名無しのニート@待避所:漏らせ!

名無しのニート@待避所:止めろ、それは俺に効く! 俺たち同じ場所にいるんだぞ!

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日本語の字幕とともに、何枚かの写真が切り替わる。

森の風景、異世界だと証明するために撮影された謎生物、ユージが採取してきた森の実り。

スクリーンに映る当時の掲示板とアドバイス。

そして、初めての戦闘となったゴブリン戦の動画。

それは、先ほどまで流れていたフィクションの映画ではなく。

ユージと掲示板住人たちが体験してきた、リアルなお話である。

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「はは、懐かしい。ユージ、この頃ホント命知らずだったなあ」

「ああ。でも気持ちはわかる。俺も、特に大事なものはなかったから」

名無しのニート@待避所:映画のユージはやっぱりイケメンだったわ

名無しのニート@待避所:そりゃ俳優さんだからね!

「おおおおお! 俺の本物の書き込み発見!」

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写真と動画が切り替わって、時間は進む。

森を探索して人里を探すユージは、森でアリスを保護する。

薄汚れ、やせ細った幼女。

ユージとコタローしかいなかった家に、異世界の幼女が一緒に暮らすようになった。

沸き立つ掲示板は、アリスの過去話と異世界の事情、魔法を知って加速する。

長い冬と何気ない日常。

ユージとアリスとコタローの写真と動画、掲示板を利用したコミュニケーション。

この頃には、一部の掲示板住人たちは本当に異世界に行ったんじゃないかと騒ぎはじめていた。

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「アリスちゃん! この頃のアリスちゃんはやせ細っててちょっと痛々しい……」

「初魔法! はあ、俺はいつになったら魔法使えるのか。修業もしてるのに」

「懐かしいなあ。アリスちゃんのパンツ事件もこの頃だっけ」

「幼女の……パンツ……?」

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時間は進む。

映画とは違って、新人に毛が生えた程度の冒険者三人組との遭遇。

ここからは、フィクションである映画とは違う。

アリスと知り合いだった行商人のケビンを連れてくるように交渉するユージ。

掲示板住人のアドバイス、過分すぎる報酬、ケビンとの初対面と開拓の開始。

現実は物語とは違う。

失敗を重ねながらも、ユージは家を出ることなく生活を続けていく。

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「映画と違ってもう一年経過!」

「いま思えばほんっとケビンさんで良かった。疑ってた頃が懐かしい!」

「映画ではちょい役だったけどね! 陽気なデブ枠ってかわいそすぎる!」

名無しのニート@待避所:俺、このイレーヌより映画のイレーヌのほうがいい

名無しのニート@待避所:うるせえ! 当たり前だろ! ハリウッド女優なめんな!

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ケビンと会っても、ユージのドキュメントは家のまわりだけで続いていく。

ネットと掲示板住人の知識を活かして、ケビンに保存食の作り方を教えるユージ。

金銭的な問題をクリアしても、ユージはいまだにアリスとコタローと一緒に家で生活する。

オークを撃退しても、犬人族の獣人奴隷を入手して、獣人一家が移住しても。

家から離れることなく開拓を続けるユージと、物足りない気持ちを抱えつつのんびり相談に乗る掲示板住人たち。

それは、映画とは違うリアルなお話。

引きこもりから脱却したものの、守るべき存在ができて安全策を選び続ける男のお話だった。

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「第一回キャンプオフの映像きましたー!!!」

「もう見慣れたけど郡司先生はやっぱりスーツ!」

「そっか、この時はユージ家跡地でやったんだっけ。異世界に行けるんじゃないかって」

名無しのニート@待避所:もう二年経過! 映画は忠実にやらなくて正解です!

名無しのニート@待避所:キャンプオフを別にしたらいまだに家と近くの森の映像しかない件

「それにしても参加者増えたなあ……」

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時間は進む。

時間は進むが、ユージは獣人一家の三人とアリスとともに、家のまわりの開拓を続けている。

ゴブリンやオーク、春にはワイバーンが飛来するものの、平和な日常。

もはやただの開拓日記である。

そして。

ユージは、ついに異世界の街へ行く。

写真も動画もバリエーションが増えて、掲示板に新参が増えていったのもこの頃からだろう。

ユージを取り巻く環境は、一気に変化していく。

異世界でも、元の世界でも。

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「くっそ! 領主夫人にカメラを向ける勇気があれば!」

「お貴族様は無理でもせめて夜の街ぐらい撮ってこいよユージ!」

「初めての異世界の街。ユージが撮ってきた写真と動画が少なかったなあ……」

「出ました本家『深緑の風』! ブレーズさーん!」

「あ、木こりと猿の写真はあるんだ。そうか、コイツら森に行ったから」

「あああああ! 俺も異世界行きてえ!」

「こうして見ると映画のCGすごかったな。リアルな動画よりよくできてる」

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街に行って冒険者になったにもかかわらず、ユージは開拓団長として家のまわりの開拓に精を出す。

元冒険者、木工職人。

移住者を迎えたことで、開拓はスピードアップした。

元冒険者たちの訓練を受けて、ユージが戦う術を身につけていくのもここからである。

商人ケビンに服飾の知識を提供して、ユージが金に困らなくなるのもここからである。

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「あ、うん、そのまま映画にはできないわ。懐かしい、懐かしいけど……」

「異世界なのに冒険してねえぞユージ! 剣と魔法の世界なのに!」

「おまえらのアドバイスがぬるすぎたんだよ!」

「待て待て、ここからだから。盛り上がるのはリーゼちゃん保護してからだから」

「実はこの頃、映画のお話が動き出してました!」

「はあ、そんな時間かかるもんなんですねえ」

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映画とは違う、ユージのお話。

大きな変化が訪れたのは、4年目の秋だった。

ユージとアリス、コタロー、元冒険者たちや獣人一家、木工職人が暮らす開拓地に、ゴブリンとオークの群れが襲来する。

スクリーンに流れた動画は、一つのアングルなのに充分な迫力になっていた。

リアルだからこその迫力、現実の戦闘だからこそのグロさである。

続くモンスターの集落討伐よりも、防衛戦のほうが迫力があったようだ。

なにしろ集落討伐戦では、ユージは離れた場所から撮影していたので。

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「おっさん劇場! ……うん、映画のキャストに変更して正解だったと思う」

名無しのニート@待避所:グロいっす……

名無しのニート@待避所:血湧き肉躍る! スプラッターな意味で!

「リーゼちゃん救出です!」

「エッルッフ! エッルッフ!」

「ユージがいろいろ行動するようになったのはここからか」

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ユージの話の映画化は、エルフの少女を救出したシーンで終わった。

だが、特別編は違うようだ。

字幕での説明が入りつつ、ユージが撮影してきた写真と動画、当時の掲示板がスクリーンに映し出されていく。

雪景色にはしゃぐコタローとアリス、リーゼ。

いくつもの写真と動画が映る。

ユージ、すっかりカメラマン兼保護者である。

雪解けを迎えて春になると、開拓民の総力戦となったワイバーン戦だ。

ユージにとっても掲示板住人たちにとっても、いまやすっかり雑魚になった感があるワイバーンだが、初討伐のこの時は違った。

万全の準備をして臨んだ、文字通りの総力戦である。

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「リーゼちゃんが開拓地で暮らすのはこの時以来か……」

「そりゃアリスちゃんのテンションも上がるっしょ!」

名無しのニート@待避所:ワイバーンが強敵だと思ってた時代がありました

名無しのニート@待避所:輝いてる! 輝いてるよワイバーン!

「映画の続編あるんでしょ? ワイバーン戦が楽しみ!」

「ユージ、強くなったなあ。……あ、ユージがじゃなくてアリスちゃんだったわ」

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特別編は続く。

ワイバーン戦を終えて準備を整え、エルフの少女・リーゼを里に帰すためのユージの長旅である。

現実では掲示板住人たちはヒマしつつ待っていただけだが、特別編は時系列にそって構成されているようだ。

ユージが撮影してきた旅の様子が、次々とスクリーンに映し出されていく。

森の中の道、宿場町、峠越え。

峠で遭遇した盗賊との戦闘の様子は、帰ってきてから報告した掲示板と字幕で説明される。

救出したアリスの兄・シャルル、狼人族のドニ。

写真と動画が流れる度に、観客から声が飛ぶ。

やがてたどり着いた王都での出来事は、撮影できなかったところもあって映像は飛び飛びである。

それでも。

文字と当時の写真と動画を見れば、キャンプ場に集まった観客たちは当時を思い起こすのに充分なようだ。

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「あれ? けっきょくユージって童貞?」

「え? 20才の頃に捨てたって書き込んでなかった?」

「そっちじゃねーよ!」

名無しのニート@待避所:アリスちゃんのお祖父ちゃんが見つかったのもこの時か

名無しのニート@待避所:シャルル&アリスちゃんは波瀾万丈すぎ!

名無しのニート@待避所:シャルルくん……かわいい……

「イケメンエルフ登場! 爆発しろッ! それか俺と代われッ!」

「『血塗れゲガス』と『万死のケビン』。異世界の商人は化物ぞろいっすなあ」

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映像は流れていく。

王都からの帰路、プルミエの街を経由して開拓地へ。

そして、「剣と魔法の世界なのにいまいちファンタジー感が足りない」とぼやいていた掲示板住人を熱狂の渦に叩き込む、エルフの里へ。

ユージが撮影した写真と動画なのに、エルフの里だけはクオリティが違う。

堂々と撮影できたこともあるが、映り込むものの美しさが主な原因である。

エルフ自身も街並みも小物も、すべてが美しかった。ファンタジーである。道中の魔法による潜水艇も含めて。

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「はあ、やっぱりエルフの里は別格だわ」

「ちょっと! 例の水着の写真がないんですけど!」

「あれはこの時じゃなくて後日だから。そのうち出るだろ」

名無しのニート@待避所:よし明日から山ごもりしよう。どっか霊山に行ってくる

名無しのニート@待避所:気持ちはわかるけど落ち着け! とりあえず神社だ!

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エルフの里から帰っても、ユージの物語は続く。

過去にユージの世界に行った稀人の話は、掲示板住人たちを巻き込んで盛り上がりを見せた。

別世界の出来事ではなく、世界と世界の繫がりを実感したのだろう。

これがきっかけで、こちらの世界にも学会が誕生し、研究者たちがそれぞれの成果を発表するようになっている。

ユージが異世界に行ったという話を検証するドキュメント番組が放送されたのもこのタイミングだ。

一人と一匹が暮らしていた一軒家のまわりには、次々に家が建っていた。

エルフとの交流をきっかけにスピードアップした開拓。

一軒の家のまわりは開拓地となり、開拓地はやがて村となる。

一人と一匹で、二人と一匹ではじめた開拓は次々と人が増えていった。

写真と動画は流れていく。

ホウジョウ村への来訪者と移住者、発展していく村。

リザードマンとの出会いと交流。

やがて、写真と動画と掲示板は最近の村の様子に追いついた。

キャンプオフの現地で最後の編集をしたのか、特別編のラストはつい先ほどユージがアップした、収穫と収穫祭の様子だった。

一人で家の敷地に引きこもっていた男の姿はそこにはない。

自らの命を軽く扱っていた男の姿もない。

ユージは笑っていた。

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スクリーンに映っていた収穫祭の様子がフェードアウトする。

特別編もこれで終わりだろうと、キャンプ場で眺めていた人々が気を緩める。

一度スクリーンが黒に染まって切り替わり。

ユージが映る。

自室にいるユージは、妹のサクラの部屋から持ち出したスケッチブックを抱えていた。

リアルタイムの映像なのだろう。

ユージが口を動かすが、音声は届かない。

世界をまたぐと音がおかしくなるのは変わらずである。

音が届くかどうかはただのテストだったようだ。

でなければ、スケッチブックを用意した意味がない。

ユージが自分を映すカメラを見つめて一つ息を吐き。

スケッチブックをめくる。

映画と特別編の最後に、ユージからのメッセージがあるようだ。