軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十八話 掲示板住人たち、キャンプオフに参加するpart3

「あれ? 加奈子さん、今日は働かなくていいの?」

「うん。設営と最初のレクチャーはやったけど、午後はお休みにしてもらったんだ」

「え?」

「だから、ひさしぶりに文也くんの服を見てまわろう!」

「ママ、おジャマなら私は一人でお店を見てるよ?」

三回目となった秋のキャンプオフ当日。

午後、キャンプ場のバンガロー付近に三人の姿があった。

コテハン・洋服組A、その彼女のアパレル店員でバツイチの加奈子、娘のひなこである。

間に娘を挟んでゆっくりと歩き、出店されたユニク○の店内を見てまわる三人。

子連れデートである。

「うーん、ひなちゃんは一人で行動しないほうがいいと思うなあ……」

「文也お兄ちゃん、私、もう迷子にならないよ? はぐれたらここ! って決めておけばいいんだもん!」

「あ、うん、そうだね、迷子の心配はしてないんだ」

苦笑して答える洋服組A。

そう、彼が気にしているのは迷子の心配ではない。

彼女である加奈子の娘、ひなこは現在10才で、まもなく11才となる。

子供用のケータイを持たされており、はぐれた場合も簡単にやり取りできる。

心配なのは、迷子になることではないのだ。

「文也くん?」

「えっと、おかしなヤツはいないと思うけど、その、ちょっと」

洋服組Aの歯切れは悪い。

少女が一人で行動して、危害を加えられることはないだろう。

貸し切りとなった清水公園には、トラブルを避けるため警備スタッフも各所に配置されている。

問題は、直接的な危害ではないのだ。

「ほ、ほら、ひなちゃんはかわいいから、写真を撮られたりするかもしれないし!」

「ええー? 私、かわいいかな? でもここに来てる人たち、すごく歳上だよ?」

「ああ、そういうこと。ひな、はぐれちゃダメよ!」

洋服組Aが心配しているのは、YESロリータNOタッチな者たちである。

同名のコテハンさえいる。

キョロキョロと周囲を見まわす保護者二人。

とりあえず差し迫った危険はないようだ。

「じゃ、じゃあ、お店を一通り見てまわったら、ひなはおばあちゃんに連れ帰ってもらうから」

「ええ、そうしましょう。ちょっと早いですけど絶対そのほうがいいです」

「ええーっ?」

不満げにぷっくりと頬を膨らませる少女。

幼い仕草に、チラチラと盗み見ていたキャンプオフ参加者たちがほっこりしている。

危ない。

コテハン・洋服組A。

キャンプオフをきっかけに恋人ができた男は、楽しい時間を過ごしているらしい。

他の参加者の嫉妬の目から彼女を、ロリ野郎たちの視線から彼女の子供を守りつつ。

ハートはだいぶ鍛えられてきたようだ。

ユージをきっかけに足を踏み出した男は、掲示板住人たちの中で一番成長した男なのかもしれない。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「今回もありがとうございます!」

「ああ、恵美ちゃん、ひさしぶり! 今回もよろしくねー」

「その、毎回いいんですか? 私、知らなかったんですけどけっこう有名な人だって……」

「はは、ありがと。でもいいんだって! ボクら美容師にとって、すっごくモチベーションが上がる機会なんだから。ちゃんとお金ももらってるしね!」

「本当にありがとうございます」

キャンプ場のバンガロー付近に出ている店は服屋だけではない。

いつものごとく、美容師たちの臨時ヘアカットサロンも用意されている。

仕切るのは常連となったチャラいおじさま美容師である。

「それで、今回はどうですか? またモデル役を呼んできま……あれ?」

「ああ、前にここでやった時、バンガローの中だけだとなかなか人が来なかったでしょ? 入りづらいらしくて。だから今回は最初から外のスペースも準備したんだ! しかも、外は完全無言バージョンで!」

ささやき声で張り切るという器用なことをするおじさま。

日焼けした肌にインディアンジュエリーが光る。ちょっと古い。

微妙な古さが気になるおじさまだが、腕は良く、流行も捉えている。

しかもこのおじさま、キャンプオフに参加する人たちのコミュニケーション能力の低さにもキチンと対応しているのだ。

人は見た目によらないものである。

「こうしてるとやっぱり頼みやすいみたいでね! ちなみに、中じゃなくて外の無言バージョンの方にエース級を持ってきました!」

「え? エース級?」

「道具が制限される分、こっちのほうが技術いるからね! それに完全に無言だからって、こだわりがないとは限らない。注文は紙に書いてもらってるけど、微妙な表情の変化を読み取れるヤツじゃないと!」

「……それ、難しくないですか?」

「うん、だからエース級。大丈夫、アイツらもいい訓練になってるから! これでお客様に自信を持たせられるようになれば、店に来るようなお客様なんて余裕だよ」

サクラの友達・恵美とチャラいおっさんの前でまた一人、カットが終わる。

髪を切られたばかりの男は、鏡に映る自分を見て呆気にとられていた。

伸びっぱなしだったこれまでとの違いに驚いているようだ。

「いかがです? もし気に入られたようなら、このカルテをお持ちください。私がいる店じゃなくても、これに近い髪型で切ってもらえますから」

カットしていた美容師が、ボーッと鏡を見つめる男に紙を差し出す。

本来、美容師にとってカルテは大切なもので、お店の財産である。

だがこのキャンプオフに出店している美容師チームは、惜しげもなく利用者に渡していた。

髪を切ることで、容姿に自信を持ってもらう。

少しでも自信が得られたら、継続してもらえるように。

チャラいおっさんのツテで複数の美容院からかき集められた美容師たちは、ただそれだけを願ってカットしているのだ。

もちろん、あわよくばということで自分が所属する店のショップカードも渡しているが。

ただの善意だけではない。

チャラいおっさんが言った通り、自分がカットしたお客様が、明らかに自信をつける様が見られる。

美容師チームがキャンプオフに参加することは、自らの仕事の意義を再確認して、モチベーションを高めることに繋がるらしい。

もちろん、美容師チームの出店にメリットがあるのは美容師側だけではない。

せめて悪目立ちしないようにと、勇気を振り絞って髪を切る参加者たちも得られるものは大きい。

ありきたりであっても清潔でシンプルな服と、ちゃんとした美容師に切られた髪と。

それだけで、驚くほど周囲の反応は変わるのだ。

それだけで、少なくとも街に埋没できる程度になる。

ユージの話の映画が上映される予定の、秋のキャンプオフ。

清水公園が貸し切りとなっても、参加者が増えても、ユニク○と美容師チームは何も変わらない。

一歩足を踏み出した引きこもりやニートに、わずかでも自信を持ってもらえるように接客するだけである。

ただし参加者が増えたため規模は拡大されて、もはやそこそこの売上を叩き出すようになっていたようだが。

クールなニートの思惑通り。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「やべえ、びっくりするぐらい目が悪くなってる」

「え? ウソでしょ? この値段、レンズは別料金だよね?」

「……6年同じメガネです。はい、変えるの面倒で」

今回、キャンプ場のバンガロー付近に出ている店は、服屋、靴屋、美容院だけではない。

初めてメガネ屋も出店していた。

洋服と靴を変えて髪型をそれっぽくしても、メガネがそのままだと垢抜けない。

そんな意見を受けて、クールなニートが交渉しての出店である。

「最後に作られたのがそうとう前であれば、一度眼科に行かれたほうがいいかと思います」

「いえ、基本的なレンズであればその値段に含まれてますよ」

「ええ、わかります。ですがレンズには細かな傷もつきますし、流行もありますから。2〜3年に一度は替えるのがおすすめですね」

横の服屋より美容院スペースよりも、メガネ屋は好評だった。

ファッションとして気にしたわけではない。

キャンプオフ参加者には、ずぼらなメガネ男子が多いらしい。

「……なんか視界がすげえクリアなんだけど……」

「度数は変わっていません。以前のレンズには細かな傷がついていましたから、そのせいだと思います」

フレームを選んで視力を測定して注文し、受け取る。

出張出店にもかかわらず、このメガネ屋では一連の流れが行えるようになっていた。

「一度視力を測ってみませんか? バンガロー内にはなりますが、無料で行なってます。いま使ってるメガネのクリーニングも併せてできますよ」

フレームは野外に並べて、割り当てられたバンガローには視力測定の機器を持ち込んでいた。

この日のために、一台50万円以上する視力測定器を搬入したようだ。

チェーン店のメガネ屋だが、顧客獲得のため本気らしい。

「え? 2時間後に受け取れる?」

「はい。特殊なレンズはどうしても時間がかかりますが、在庫がありますから」

「在庫って? え? ここに持ち込んだんですか?」

「いえ、近隣の店舗で調節して、ここへ運び込む形となっています」

「あ、なるほど」

現地でフレームを選び、視力を測定してレンズを決める。

その後、メガネ屋の店員は発注フォームに記入して、近くにある店舗に送る。

受け取った店舗で対応して、完成品をまとめてキャンプ場に納品する。

そんな流れが組まれているらしい。

清水公園からは、国内最大級のショッピングモールであるレイクタウンまで30分ちょっと。

だからこそ可能な作戦である。

というかこれがあるからこそ、服屋としてユニク○が、メガネ屋としてZ○ffが、靴屋が出店できているのだ。

清水公園に 出(で) 張(ば) る店員のあても、事前に商品を集めておく在庫のあてもある。売れ行きに応じて補充する在庫のあてもある。

該当する店舗のバックヤードは、この日のための在庫であふれかえっていた。

そもそも秋のキャンプオフを初めて開催した時に清水公園が選ばれたのは、レイクタウンの存在を考慮してのことだ。

出店するにあたり、近くに大型店舗がない場合は準備が大変なことが想定されたので。

単にアスレチックがしたいから選ばれたわけではない。たぶん。

「……フルコースでやってみた。これ、ホントに俺か?」

最終調整のために受け取ったメガネをかけて、姿見に自分を映すキャンプオフ参加者。

ポツリと呟いた言葉は本音だろう。

服も靴も購入して、髪を切って、長年使って寿命がとっくに過ぎていたメガネを買い替えた。

姿見に映ったのは、どこにでもいる若者である。

着古したジャージでボサボサの髪のまま、母親に車で送られてきた男の姿などどこにもない。

『量産型のファッション』『どこにでもいる若者』『普通』『ありきたり』。

キャンプオフ参加者の中には、そんな言葉が褒め言葉になる者たちもいるのだ。

三回目の開催となった、秋のキャンプオフ。

ユージの映画の上映のために規模を拡大したそれは、これまで以上の参加者を集めている。

参加者が増えたため、服屋も靴屋も美容室チームも、初出店のメガネ屋も、これまでにない売上を叩き出した。

きっと。

きっと、その数だけ、自信を得た者たちがいるのだろう。

少なくとも、見た目は『普通』で『ありきたり』になれたのだから。

キャンプオフは続く。

ゆっくりと陽が傾いてきたいま。

貸し切りとなった清水公園のアトラクションや出店スペースを楽しんできた参加者たちは、自然とキャンプ場のBBQスペースに集まりつつあった。

キャンプオフは続く。

いよいよ、今回のキャンプオフのメインイベント。

バーベキューである。

違う。

バーベキューもあるが、いよいよユージのお話の映画の公開である。