軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話 ユージ、収穫を前にした秋のホウジョウ村を見てまわる

夏が終わり、木々が紅く色づく秋を迎えたホウジョウ村。

収穫を控えた村は、どこかそわそわしているようだ。

この時ばかりは、ふだん工場で働いている者も針子工房で働いている者も、総出で収穫にあたる。

収穫とその後の収穫祭は、ホウジョウ村の住人にとって一大イベントなのだ。

いまから浮つくのも仕方ないことだろう。

そんな村の中を、ユージはバインダー代わりの木板とこの世界の紙を手に歩いていた。

ユージの横にはアリス、二人の前にコタロー。

夏に別行動を取った二人と一匹は、再会して以降、一緒に行動することが多かった。

まあコタローはふらりと離れて、ボスとして群れの様子を見に行くこともあったが。

「ユージ兄、今日は何するの?」

「今日は村を見てまわるんだよ、アリス。変わったことはないか、手伝ってほしいことはないかってね」

最後にホウジョウ村に移住してきた医者も含めると、現在の村人は42人。

加えて村には、鶏、2頭の馬、20匹の狼、12頭の羊がいる。

家畜とオオカミたちはともかくとして、村人は真面目に働いている。

だが真面目な分、忙しくてもSOSを出さずにがんばってしまうことがあるらしい。

村長のブレーズも気にしているが、手が空きがちなユージが時おり村を見まわりすることになっていた。

体のいい厄介払い……ではなく、元村長の経験を活かし、村担当の文官として。

「あ! ユージ兄、お医者さんとエンゾさんとイヴォンヌさんだ!」

「ほんとだ。アリス、ちょっと診療所の様子を聞いてみようか。おーい!」

ユージの家からわずかに離れた、村の中心部にある広場。

二足歩行する黒ヤギの医者の診療所は、広場に面した場所に建てられている。

一等地である。

「おっ、ユージさんにアリスちゃん!」

「こんにちはエンゾさん、イヴォンヌさん! 赤ちゃんの様子はどうですか?」

「こんにちは、アリスちゃん。いまちょうど診てもらってね、順調ですって。お医者様が出産は収穫の後になるんじゃないかって言ってたわ。収穫と重ならなくてよかった」

「おお、収穫の後! じゃあみんなで手伝えますね! バンバン指示を出してください!」

「そうだなユージさん! お医者様、必要なものはどんどん教えてくれ! なんだったら王都まで走って往復するからよ!」

「はは、大丈夫ですよエンゾ殿。ユージ殿もありがとうございます。みなさん本当に協力的で、助かってます。ここはいい村ですねえ」

右手で自慢のあご髭を触って、微笑みながら答える山羊人族の医者。

医者は夏に移住する前から、妊婦がいることは聞いている。

ケビンの協力もあって、すでに出産の準備は整っているようだ。

ホウジョウ村ができて以来、初めての出産。

医者や父親のエンゾのみならず、村人も気合いが入っていた。

なにしろ村には、ほかに三組の夫婦がいるので。

「赤ちゃんが産まれたら、アリスが守るんだ! それでね、大きくなったら一緒に遊ぶの!」

「ふふ、よろしくねアリスちゃん」

「うん! 男の子かなあ、女の子かなあ」

「さあ、それはわかりません。ユージ殿がいた世界では事前にわかったようですが」

ユージは、医者に稀人であることを明かしている。

稀人の知識で、過去の稀人がもたらした医学書を改良する。

そのためもあって、山羊人族の医者はホウジョウ村に移住したのだ。

「なあに、男でも女でも、俺とイヴォンヌちゃんの子供には変わりねえんだ! 無事に産まれてくれれば何よりってもんよ!」

「そうね、エンゾ。でも事前に男か女かわかってれば、服の準備はもっと楽しいかもしれないけど。それに名前も。エンゾ、名前は考えてくれた?」

「うっ。イヴォンヌちゃん、それはまだ……ユージさん、なんかねえかな?」

「俺ですか!? いやいや、がんばってくださいよエンゾさん!」

「だよなあ。しっかし、文字を習っておいてよかったぜ。知らなかったら文字でどう書くかもわからねえもんな!」

「そうですよねえ。うーん、子供も産まれるし、みんなで自主的にやってた勉強会を、ちゃんと学校にしようかなあ」

「ユージさん、その時は教えてちょうだいね。私たちの子供を通わせるから」

辺境の識字率は低い。

ホウジョウ村ができた当初、開拓民たちは文字の読み書きができない者がほとんどだった。

ユージは自分がこの世界の文字を学ぶためにも、希望者を集めて文字や計算の勉強会を開いていた。

独身時代のエンゾは、そこで文字を学んでイヴォンヌに恋文を送ったのだ。

いまやホウジョウ村では、すべての住人が最低でも簡単な読み書きと四則演算を身につけている。

ユージは加えてエルフの文字を、アリスはエルフの言語と日本語を勉強中。

ホウジョウ村は、辺境ではありえないほどの識字率を誇っていた。

「ケビンさんとブレーズさんに相談してみますね! みんな働いてるから夕方とか夜のほうがいいだろうけど、子供はそれじゃアレだし、昼にやるって言っても子供は一人だし……うーん、どうするか」

あごに手を当てて、ブツブツと呟き出すユージ。

会話していたイヴォンヌもエンゾも、医者でさえその様子を見て苦笑している。

いつものことである。

「みんな、またねー! ユージ兄、行こっ!」

独り言を呟きながら、アリスに手を引かれて歩き出すユージ。

コタローは、諦めたようにワフゥと小さく首を振っている。

ホウジョウ村の平和な日常である。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

ユージとアリス、コタローの散歩、ではなく見まわりは続く。

診療所に続いて針子の工房、缶詰生産工場をまわって。

いま二人と一匹は、農地にたどり着いていた。

ホウジョウ村の中にある農地 兼 牧場エリアである。

「おーい、マルセル! ……お邪魔だったかな?」

「ユージさま! そんなことありません! むしろちょっとお話が……」

農地の端にある切り株に腰掛けていたのは、犬人族のマルセルとマルク。

親子の時間の邪魔をしたかと立ち止まるユージだったが、マルセルは話がしたいようだった。

「どうしたの? まさか、収穫に問題が?」

「いえいえ、今年も豊作ですよ。そちらではなく、牧場と羊のほうです」

「あ、そっちですか。まさかオオカミたちが何か? それともエサが足りないとか?」

ユージの言葉に、足下にいたコタローがキッと牧場へ目を向ける。こぶんたち、だいじょうぶよね、と確かめるかのように。

「いえいえ、オオカミたちはよくやってくれてますよ。信じられないぐらいに。それに、エサは心配ありません。ケビンさんが大量に運んでくれましたし、収穫の時に追加が出ますから」

そう言って、切り株に座った息子のマルクを見るマルセル。

マルクのまわりには、五匹の小狼がまとわりついている。

十五匹いる大人のオオカミのうち、十匹はホウジョウ村の外の森の見まわりに。五匹は牧場で羊の誘導と監視 兼 護衛役として残る。

小狼を除いたローテーションは、うまくまわっているらしい。

上出来なほどに。

「ユージさま。昔住んでいた村に馬と牛がいましたから、なんとなくは私も知っています。ですが、なんとなくです。早いうちに専門家を移住させたほうがいいかと」

「そうですよねえ……いま、ケビンさんが探してます。でも早くて次の春になるだろうって。今年の秋と冬は、みんなでがんばって乗り越えるしかないんです」

「そうですか……」

「お父さん、オオカミたちと一緒に、ボクががんばるよ! 冬になれば村の入り口の見張りはオオカミに任せればいいんだし。それに、厩舎も羊小屋もオオカミたちの家も近いから、冬の間、ボクはそっちで生活しようと思ってるんだ」

「マルク?」

「ボクはもう大人になったから! お父さんとお母さんと暮らすのは幸せだけど、ボクはもう一人前で」

「そうか……マルクが決めたなら、それでいい。ただ、いつでも帰ってきなさい。狭い村だ、すぐに会える。マルクは大人になったけど、いつまでも私たちの子供なんだから」

「お父さん……」

涙ぐむマルクの頭をそっと撫でるマルセル。

親子の触れ合いに交じって、五匹の小狼と、今日当番のはずの大人のオオカミがマルクにじゃれついていた。

マルクが一緒に暮らすつもりだ、という言葉を理解したかのように。

「えっと?」

「ユージ兄、こういう時は二人っきりにしてあげるんだよ!」

「あ、うん、そうしよっか。じゃあマルセル、マルクくん、詳しい話はまた今度」

親子の世界を放置して、アリスに手を引っ張られて歩き出すユージ。

コタローは、オオカミたちの塊に突っ込んで喜びを分かち合っている。

オオカミたちはマルクと一緒に住むのがうれしいらしい。モンスターのクセに。

しばしオオカミたちを祝福したコタローは、先に歩き出したユージとアリスを追いかける。ぶんぶんと尻尾を振りながら、わたしはゆーじとありすといっしょよ、とばかりに。

ユージがこの世界に来てから7年目の夏は、いろいろなことが変化した。

医者の移住、羊の購入。

秋の収穫時期を前に、村はようやく落ち着いたようだ。

だが、夏に決定してはじまった変化はそれだけではない。

ホウジョウ村に、エルフが常駐することが決まっている。

ユージの仕事の一つである村の見まわり。

診療所、缶詰生産工場、針子の工房、農地 兼 牧場に続いて、ユージはエルフ居留地を見に行くようだ。

アリスと手を繋ぎ、コタローを連れて。