軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 ユージ、別行動を終えて帰ってきたコタローを迎える

「ユージ兄、みんな大丈夫かなあ」

「大丈夫だよアリス。ケビンさんがついてるんだし、コタローはきっと無事だって」

「違うよユージ兄! アリス、お祖父ちゃんとシャルル兄とハルさんが心配なの! コタローは大丈夫!」

「そ、そう……アリス、あの二人も心配ないって。1級冒険者のハルさんがついてるんだし、バスチアン様もシャルルくんも火魔法すごいんだからさ!」

ホウジョウ村の南側にある、村への入り口。

そこには、プルミエの街まで続く道を見つめるアリスとユージがいた。

アリスは春に産まれた五匹の小狼たちにまとわりつかれている。

「ハルさんたちは水路だから、そろそろ王都に着く頃かなあ。ほら、無事に送り届けたらハルさんが一度帰ってくるって言ってたし、もうちょっと待ってよう」

「うん、ユージ兄! お祖父ちゃんとシャルル兄はもうすぐ家で、コタローはまだかなあ」

「先にオオカミが一匹走ってきたし、そろそろだと思うんだけど。どう思う? お前はどこで別れたの?」

そう言ってかがみ込み、ユージは足下の土狼を撫でる。

ユージの顔を見つめる土狼だが、答えはない。コタローほど賢くないらしい。いや、答えたところでユージにわかるはずはないのだが。狼なので。土狼はキョトンと首を傾げるばかりである。

「アリス、どうする? 村に戻る?」

「ユージ兄、アリス、もうちょっとここで待ってる! ちっちゃいオオカミたちと一緒に!」

「そっか、じゃあ俺もここにいるよ。それにしても……そろそろちっちゃいって言えなくなってきたね。大きくなるのが早いなあ。モンスターだから?」

アリスにじゃれつく五匹の小狼。

二匹は日光狼で、三匹は土狼である。

春に産まれた小狼たちはスクスクと成長して、いまでは大人の日光狼と土狼よりふたまわり小さい程度まで成長していた。

生後半年も経ってないことを考えると、驚異的な成長である。

「ほんとだね! アリスももっと早く大きくなればいいのに!」

「うーん、人間は無理じゃないかなあ……」

「ええっ!? じゃあイヴォンヌさんの赤ちゃんが産まれても、すぐに遊べないの!?」

「そりゃそうだよアリス。最初は赤ちゃんで、話せるようになるのは2才ぐらい? 3才ぐらい?」

「そっかあ……じゃあアリスが守らなくっちゃ!」

「そうだね、コイツらと違って爪も牙もないし。赤ちゃんは弱いから、みんなで守ってあげないとね」

「アリス、がんばる!」

ふんす、と両手を握って気合いを入れるアリス。

アリスはこれまでホウジョウ村で最年少だった。

元3級冒険者でいまは防衛団長のエンゾと妻のイヴォンヌは、出産間近。

村の最年少は、間もなく大幅に更新される。

アリス、お姉ちゃんになるのが楽しみでしょうがないようだ。

「みんなもよろしくな。でも人間の赤ちゃんにじゃれついたらダメだから」

五匹の小狼たちに言い聞かせようと近づいたユージは、伸ばした手に絡み付かれる。

蛇玉ならぬ狼玉である。

どうやら甘えられているらしい。決して同列か下に扱われているわけではない。決して。

「ちょ、止めろ、舐めるのはなし、くすぐったいって」

大きくなったとはいえ、人に慣れてじゃれつく小狼は愛らしい。

森を背景に人と触れ合う小さなオオカミは、心温まる一コマになったことだろう。相手がおっさんでなければ。

「あれ? 急にどうした?」

「ユージ兄! オオカミたちがピクって! 声が聞こえたみたい!」

ユージに絡んでいた小狼も、小狼たちの母狼も、一足先に帰ってきた土狼も。

ピクリと耳を立てて動きを止め、村の入り口から続く道の先をジッと見つめる。

「お! じゃあ帰ってきたのかな? おーい、コタロー!」

「あ、ユージ兄!」

オオカミたちの反応は、遠吠えが聞こえたからだと思ったのだろう。

ユージは道を駆け出していた。

追いかけるようにアリスが、オオカミたちが走り出す。

ユージ、一ヶ月弱離れていたコタローとの再会が待ちきれなかったようだ。

36才独身、犬に依存するおっさんである。アウトっぽい。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「おかえりコタロー!」

オオカミたちが聞きつけたのは、予想通り帰ってきたことを告げる遠吠えだった。

ユージの視界にコタローが映り、コタローもユージに向かって駆け出す。

そのままの勢いで跳躍したコタローを抱きとめるユージ。

感動の再会である。

片方がおっさんでなければ絵になったことだろう。

「コタロー、おかえり! アリス、エルフのみんなとたくさんお手伝いしたんだ!」

遅れて追いついたアリスが、ユージごとコタローに抱きつく。

さっそく報告するあたり、褒めてもらいたい系女子であるようだ。

コタローはユージの腕の中で体をよじり、アリスの頬をぺろっと舐める。いいこでまってたのね、よくやったわ、ありす、と言うかのように。アリスの頬に獣臭が移る。

二人と一匹の様子を眺めて、帰ってきた犬人族の少年・マルクもうれしそうに尻尾を振っていた。

マルクのまわりはオオカミだらけである。

たがいに匂いを嗅いで、再会を確かめ合っているらしい。

「ユージさん、無事に帰ってきました。オオカミたちがちゃんと言うことを聞いてくれましてね、見てください!」

「ケビンさん! ええ、ほんと驚きましたよ! これ、何頭いるんですか?」

「若い羊ばかり12頭です。メスもいますから、今後増やしていくこともできるでしょう。いやあ、いい買い物でした」

ケビン、ニッコニコである。

モコモコでモフモフな羊たちに囲まれているからではない。

単に、ここから生まれる利益を想像しているのだろう。

「ただの休耕地ですけど、柵で囲った牧場も準備して、建物も作りました。受け入れ準備はできてますよ! それ以外にもいろいろ変わったんです。医者も来たし、エルフの家もできたし……」

「そうですか、ではさっそく村に向かいましょう。コタローさん、あとちょっとよろしくお願いしますね」

笑みを浮かべたままコタローに話しかけるケビン。

コタローは、その言葉を理解したかのようにワンッ! と吠える。

すると、固まっていたオオカミたちが周囲に散っていった。ここまで同行してきたケビンとマルク、荷物を載せた荷車と馬、羊たちを囲むように。

合図一つで行動を始めるあたり、もはや獣の群れというより統率が取れた軍隊並の行動である。

コタローは面倒見のいい女だが、同時に規律に厳しいボスなのだ。犬なのに。

「見てくださいユージさん。こうして、はぐれを出すことなくここまで来たのです」

「す、すごいですね……コタローもオオカミたちもやるなあ」

得意気に胸を張って歩くコタローに、ユージはちょっと引き気味だった。

コタローのイチの子分は規律が苦手なようだ。

いや、そもそもユージがコタローの飼い主なのだが。

ともあれ。

ユージ、この世界に来てから7年目にして、初めてだったコタローとの長期の別行動。

ユージもコタローも、何事もなく過ごせたようだ。

頼りないとはいえユージは5級冒険者で、ホウジョウ村担当の文官という仕事に就く一人前のおっさんなので。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「バスチアン様とシャルルくんは帰られましたか」

「はい。夏休みも終わるから、ハルさんが船で送っていくって」

「そうですか。ああユージさん、商会の人間から、医者は予定通りこの村に移住したと聞きました。問題ありませんか?」

「はい、さっそくイヴォンヌさんを診てもらってます。診療所も完成したんですよ! いまは周辺で採れる薬草を調べながら、俺が渡した資料を読み込みはじめてます」

「おお、それはよかった。王都で聞いてきたのですが、山羊人族は草をかじって薬効を調べるのだそうですよ。辺境にはぴったりの人材かもしれませんね」

「あ、それで草を集めてたんですね! 好物なのかと思ってました!」

村に入ったケビンと並んで歩くユージ。

ケビンはこの村の住人ではないが、缶詰生産工場と針子の工房のオーナーである。羊を購入したのもケビンなのだ。

村担当の文官として、情報交換は大切な仕事である。

ユージに自覚があるかどうかはおいておいて。

「はは、まあ実際のところはわかりません。後で聞いてみましょうか。ところでユージさん、その、彼らは……」

「え? ああ、人間が食べ物を確保するところが見たいって言うんで、狩りだけじゃなくて収穫も見せることになりました。それが終わったら里まで送る予定です!」

《なんだこれっ! モコモコしてるのにフワフワだーっ!》

《む、確かに。湿原では見かけぬ不思議な生き物だ》

ユージとケビンの後ろには、羊たちがついて歩いていた。

初めて見る生き物に興味津々のリザードマンとともに。

「そうですか……まあめずらしい種族が村にいるといっても今更ですね。ユージさん、エルフの家が完成したと言っていましたが、もう誰か住んでいるのですか?」

「それはまだです。工事は終わって、みんな里に帰りました。そろそろ荷物を持って、村に来るみたいですけど……」

「なるほど。聞きたいこともありますし、私もしばらく村に滞在しましょう」

「了解です! ……聞きたいこと?」

「ユージさんに聞くのは控えていたのですが……その、王都でまた見つけまして、買ってきたんですよ。ユージさんは吐いていましたし、質問するのを避けていたんですが……稀人を保護してきたエルフなら、あの作物がどんなものか知っているかもしれないと思いまして」

いつになく歯切れが悪いケビン。

だが、それも当然である。

「王都で、俺が吐いた? ああ、米ですか!」

「はい。ユージさんはそう呼んでいましたね。すみません、ユージさんがあれほど拒絶していたのに。栽培することになったら、ここでは育てませんから」

ユージがこの世界で初めて米を食べた時、一口で吐き出していた。

味の違いに、ここは日本ではなく、もう帰れないかもしれないと郷愁にかられたのだ。

目の前で見ていたケビンが、ユージへの質問をためらうのも当然である。

「ああいや、見る分には問題ないです。それに、ここじゃ育てられないんじゃないかなあ……」

「ユージさん、詳しい話をお聞きしても?」

「あ、はい。たぶんエルフより、俺とかみんなのほうが詳しいと思うんで。育てるんだったら水路の整備がいるよなあ。水がないと田んぼを作るのは大変……水?」

チラッと後ろを振り返るユージ。

二体のリザードマンは、羊の毛に手を突っ込んで感触を確かめている。

「いや、でも、俺は詳しくないし、確かめてからじゃないと……それに頼むんだったら見返りがいるし……とりあえず掲示板のみんなに相談しないと。みんななら味を良くする方法を知ってるかもしれないし、うん」

「ユージさん? どうしました? ユージさん?」

「ケビンおじさん! ユージ兄がそうなったら、放っておくのが一番なんだよ!」

「はは、そうだったねアリスちゃん、ありがとう。さて、今度はどんなことが出てくるのか」

ブツブツと呟き出したユージは、ひとまず無視されるようだ。

ワフワフッと首を振るコタローもアリスも慣れたものである。

ユージがこの世界に来てから7年目。

ホウジョウ村は、12頭の羊の飼育をはじめることになった。

犬人族の農業担当・マルセルが見ているが、飼育の知識があるわけではない。

安定して羊を飼育していくには、また新たな住人の受け入れが必要だろう。

というか、工場は余剰生産力があって、服は作る端から売れている。

来年の春には工員も針子も農家も増やすべく、プルミエの街では移住者の募集と人物調査がはじまっていた。

ホウジョウ村は、順調に発展しているようだ。

発展しているのはホウジョウ村だけではない。

ユージと付き合いが深いエルフの里も、ケビン商会の本拠地があって新商品であふれるプルミエの街も、ユージの故郷で異世界ブームに沸く宇都宮さえも。

そして。

ユージと交流をはじめたリザードマンの里も、発展していくのかもしれない。

日本人のユージがいて、ユージはネットを通じて知識を得られ、リザードマンが住んでいるのは湿原で、ユージは味の違いにショックを受けていたが、ここには米があるのだから。