軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 ユージ、ケビンたちと一緒に医者の勧誘に向かう

「それにしてもケビンさん、調査にけっこう時間がかかりましたね」

「そうですね、ユージさんにはその辺りの話をしておきましょう。実はこの話のきっかけは、ゲガス商会なんです」

「え? ゲガスさんは何も……」

「ユージさん、お義父さんはもう引退してますから。現会頭からの話です」

領主との面談を終えたユージたちは、ケビン商会で一晩を過ごした。

日が明けて、ユージたちはプルミエの街を歩いている。

ホウジョウ村に移住してもらえるよう、医者を勧誘するためである。

ユージとケビンはのんびりと話しながら歩を進め。

コタローは、ユージの横で尻尾を振り振りご機嫌な様子で歩いている。朝、ケビンの嫁のジゼルから珍しい肉をもらったらしい。単純な女である。

まあその後ろにいる犬人族のマルクの尻尾が揺れているのも同じ理由なのだが。

「大丈夫だ、ユージさんの作戦を信じろ。ケビンさんの手腕を信じろ。大丈夫、大丈夫。もし断られても問題ない。なあに、ちょっと夜に忍び込んで袋をかぶせて……眠り薬でも仕入れるか」

一方で。

最後尾を歩く元3級冒険者のエンゾは緊張した様子で独り言を呟いている。危ない。顔つきも、独り言の内容も。

エンゾの妻・イヴォンヌは妊娠している。

村での出産とその後の生活を考えると、医者に移住してもらうのは大切なこと。

エンゾ、この勧誘にいろいろ賭けているようだ。

犯罪奴隷にならないことを祈るばかりである。

「この国の西にある人族至上主義の国。大河を挟んで小競り合いを続けているという話はしましたね」

「あ、はい。海に行った時に聞きました。実は平和じゃないんだなって驚きましたよ」

「大規模な戦闘はここ何年も起こっていません。最後に起きたのは、10年前のことです」

「俺はまだこっちにいない時ですね。それでその、それと医者になんの関係が?」

「10年前の戦争の際に、捕虜になった一団がありました。装備は貧相で、最初から傷だらけの者たち。中には病気にかかっている者もいた、という話も聞きました。囮として使い捨てられた部隊です」

「ケビンさん、西の国は人族至上主義って……まさか……」

「ユージさん、察しがいいですね。ええ、獣人の傷病兵でした。それを見た当代『獣神』が烈火の如く怒って戦場を一騎駆けしたのは有名ですが……まあ今回の話とは関係ありません」

「はあ」

「この国の軍医たちは、捕虜となった傷病兵に治療を施しました。人間も獣人も分け隔てなく。まあこの国にとっては当たり前のことなのですが……それを見て、一人の獣人が頼み事をしてきました」

「あ、その人が医者ですかね? なんとなく読めてきました!」

ユージ、気づいた自分にご機嫌である。単純か。

ケビンの話は続く。

ユージを無視したわけではない。たぶん。

「戦争になると、獣人は治療されなかったようです。それに元々の生活も、こちらで言う犯罪奴隷のような扱いだそうです。知識を得る機会はなく、自分たちで手当しようにも方法がわからない。だからその獣人は、手当や治療の方法を教えてほしいと言ったようですね」

「……でも、捕虜だったんですよね?」

「はい、ユージさん。ですから軍医も迷ったようです。もし医学を教えて国に戻ったら、ある意味で戦力になるわけですから。現場の軍医では判断できず、前線基地の責任者に話が行きました。当代『獣神』に」

道を歩きながら語るケビン。

いつの間にか、ユージもマルクもエンゾも静かにケビンの話を聞いている。

足下を歩くコタローも。

「それで、どうなったんですか?」

「『そんなもん気にするな、教えてやれ』だそうです。戦人だからこそ、助かる命が失われるのが許せなかったのかもしれませんね。一緒に連れていかれたその男は、あっさり許されて呆気にとられたそうですよ」

「『獣神』……豪快な人ですね」

「ええ、それは間違いありません。そして、かの国の獣人の現状を聞いた軍医たちは、その男に医学を叩き込んだそうです。捕虜交換で国に戻される時には、かつての稀人が作った医学書を持たせたようですね」

「え? 戻ったんですか? じゃあなんでこの国に?」

「その男は、国に戻って獣人を看る医者になりました。ですがユージさん。『人間のほうが優れている』と考えるその国では『獣人の医者』というものは、存在すら認められなかったようです。医療知識は『優秀な人族』が独占したいんでしょうかね」

「そんな」

「殺されなかったのは、その男が治療した獣人たちやその縁者の暴動を恐れたからのようですね。鎮圧するのは『手間』でしょうから。そうして、男は国から追放されたのです」

「それでこの国に」

「ええ。しばらくは大河のそばの前線で、かつてお世話になった軍医に教わりながら治療をしていました。ですが、それが隣国の耳に入ったのです。まあ立候補もあって捕虜の治療もしていたわけですから、当然かもしれませんが」

「え? でも追放されたわけで、問題ないんじゃ」

「『獣神』や軍医たちもそう思っていたのですが……その男はこの国の兵も治療しているわけで、敵対行動とでも取られたのでしょう。これ以上軍医として働くなら、親類縁者の命はない。そんな話をされて前線を離れざるを得なかったようです」

「なんて言うか……なんなんですかね……」

「そうですねえ。こうした考え方が受け入れられなかったからこそ、テッサ様は独立したのでしょう。ともあれ、その男は働き口を探すことになった。そこで面識があった『獣神』の一族から、王都以外、それどころか国外にも顔が広いゲガス商会に声がかかったわけです」

「なるほど、それで」

「ええ。この辺境なら、かの国から見つかることもない。騎士でもある領主様と当代『獣神』は面識がありますから、何か起こっても対応しやすい。この辺境で医者がいるのはこのプルミエの街と宿場町・ヤギリニヨンだけで、辺境に医者が来て困ることはない。ということで、ゲガス商会から私に声がかかりました」

「それでホウジョウ村にどうかと。……それにしてもケビンさん、ずいぶん詳しいですね?」

「経緯はどうあれ、出身は他国なわけですから。領主様にもご協力いただいて、怪しいところはないかきっちり調べましたよ。ええ、それはもう全力で」

ニッコリと笑うケビン。

移住希望者の身辺調査のために、ケビンはゲガス商会から一人引き抜いていた。

その男が動きまわり、ここまでの話も含めて調べたらしい。

時間がかかったのも当然である。

「怪しいところはなし。ただし念のため、辺境からの外出は領主様の許可を必要とする、となったわけですが……医者という仕事の都合上、人に会うのは避けられません。領主様としてもホウジョウ村に移住させたいのでしょうね」

「そっか、ウチの村なら村人以外と会うことはほとんどないから」

「そういうことです。ですから……勧誘、成功させましょう。村のため、領主様のため、その男自身のためにも」

「はい!」

「ケビンさん、ユージさん! イヴォンヌちゃんと俺の子供のためにもな!」

長い話を終えたところで、プルミエの街の下町にある一軒の家の前で足を止めるケビン。

どうやらここに、波瀾万丈な半生を送った医者がいるらしい。

ケビンはちらりとユージたちに目を向けて、準備ができたことを確かめ。

コンコン、と扉を叩くのだった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ケビン殿、わざわざお手紙ありがとうございます」

「いえいえ、村への移住はこちらの希望ですから」

医者と言葉を交わすケビン。

おそらく二部屋しかないだろう小さな家のリビング兼ダイニング。

そこで、ユージたちは医者の男と向かい合っていた。

挨拶もそこそこに、ケビンは医者に領主からの営業許可証と紹介状を渡す。

封がされたそれを受け取った医者を、ユージとコタローは何かを期待した表情でじっと見つめていた。

何しろ波瀾万丈の半生を送ってきた獣人の医者は、二足歩行する黒ヤギだったので。

山羊人族であるらしい。

黒ヤギが手紙を受け取った。

ユージとコタローが期待するところはただ一つである。

いや、一人と一匹の期待通り、黒ヤギさんがお手紙を読まずに食べたら大惨事なのだが。

「何もない村ですけど……もし移住してくれるなら、そこにある医学書にないことも教えられます。それと……その医学書の、間違いも」

ユージ、気を取り直してちゃんと勧誘することにしたようだ。

掲示板住人から教わった、勧誘のためのキーワードを口にする。

ユージの目は、黒ヤギのあご髭に釘付けであったが。

妊娠中のイヴォンヌのためだけではない。

ホウジョウ村が発展して人が増えたいま、いつ誰が病気になってもケガをしてもおかしくない。

何しろ村には金属加工する工場もあるのだ。

ホウジョウ村に『医者』を移住させる。

勧誘に成功すれば、エンゾやイヴォンヌだけでなく村人も喜んでくれることだろう。

あと、とある掲示板住人も。

ユージ、黒ヤギさんとのお話はまだ続くようだ。

用件がわからず手紙を食べ続けるエンドレスにならなくて幸いである。