軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話 クールなニート、秋のキャンプオフ兼試写会について打ち合わせる

ユージがエルフの里で暢気に少女二人を見守っている頃。

それなりに忙しいユージに対して、修羅場一歩手前の忙しさに悲鳴を上げる一団があった。

「あー、また取材申し込みの電話なんだけど」

「とりあえず申請書送っとけ! 可否はそれ見て決めるってな!」

「クールなニート、プロデューサーさんもうすぐ着くってさ。サクラさんから連絡あった」

「了解。ミート、資料は?」

「プリントアウト済み! 日本語版、英語版もね!」

「頼む、早く場所を決めてくれ!」

「ああ、今日の打ち合わせで決まるだろう。待たせてすまない」

宇都宮市内のオフィスビルの一角。

私服で働く男たちは、秋のキャンプオフに向けて忙しくしていたようだ。

通常、キャンプオフは春に行われる。

なにしろ春はユージが異世界に行った日で、キャンプオフのはじまりは『同じ日、同じ場所なら異世界に行けるかも』と掲示板住人たちが集まったのがきっかけだったので。

これまで秋に行われてきたキャンプオフは、いずれもテストのためだった。

一回目は企業の出店をテストするため、二回目は二箇所同時開催のテストである。

だが。

今回、秋に行われるキャンプオフは何もかもが違う。

ユニク○や靴屋、美容師チームだけではなく、出店したいと企業からの名乗りもあげられている。

参加希望者や、身内を参加させたい家族からの問い合わせも多い。

テレビ、新聞、ラジオ、ネットメディアからの取材申し込みもひっきりなしだ。国内に限らず海外からの申し込みも頻発していた。

こんな状況になったのは、すでにユージの話を検証する全六回のドキュメントが流れ、各種メディアに取り上げられて注目されているから、というのもある。

それもあるが、一番は。

秋のキャンプオフで、ユージの話の映画が試写されるのだ。

全世界で一番早く。

今回のキャンプオフの主催者はユージや掲示板の有志が設立したNPO法人だけではない。

映画化したハリウッドのプロデューサー、アメリカと日本の配給会社も主催者となっていた。

当然と言えば当然である。

ユージの映画、世界初公開の試写会なので。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

『場所か……それは私たちも懸念していた』

「これまで通り自由参加にした場合、ユージの家の跡地も宇都宮市の森林公園も難しいでしょう。キャパシティが足りません。おそらく清水公園も難しいかと」

NPO法人の打ち合わせスペース。

数人の男たちが資料を片手に難しい顔をしている。

NPOサイドはクールなニート、名無しのミート、元敏腕営業マン。

プロデューサーの左右には、通訳と配給会社の人間が座っている。

6人の男が座っているが、話し合っているのはクールなニートとプロデューサーの二人だった。間に通訳を挟んで、だが。

クールなニートは簡単な会話なら英語でできるが、ビジネスで使えるほどではない。

専門の通訳を介してのコミュニケーションであった。ちなみにとんでも通訳はしない。俳優による告知ではなく、ビジネスなので。

『では通常の試写会のように応募制にするか?』

「本音を言えば自由参加にしたいです。ユージの話が映画になる。これは、俺たちにとっても大きなイベントなんです」

『ああ、気持ちはわかっている。私たちも見に来る予定だからね。だが、ふむ……』

「自由参加にした場合、参加者は1000人を超えるでしょう。問題は食事と宿泊です」

『1000人規模でBBQとキャンプができる場所など日本にはそうそうないのだろう?』

「ええ。資料をご覧ください。過去に使った宇都宮の森林公園はキャンプと施設を合わせても400人も入れません。ユージ家跡地のキャンプ場は100人も厳しいでしょう。清水公園は詳細は不明ですが、600人は入れるようです。バッファはありませんが、1000人いけるかもしれません」

『そうか。……カミヤくん、君が優先させたいものはなんだ?』

「理屈で言えば招待制にすべきでしょう。自由参加では収拾がつかない可能性が生まれますから」

『ふむ。それで? ロジック以外では?』

「俺は……難しくても、自由参加にしたいです。ユージのことを見守ってきたみんなに参加してほしい。それに、気軽に参加できて、まったりと社会復帰の手助けを、というのがこのNPO法人の理念ですから」

じっとプロデューサーを見つめて告げるクールなニート。

理屈、論理を重視してきた男に似つかわしくない感情論である。

『希望は理解した』

クールなニートこと神谷の視線を受けて頷くプロデューサー。

手元の資料に目を落として、何やら考え込んでいる。

『……うむ、であれば答えは簡単だ』

「簡単? その、さすがに簡単では」

『カミヤくん。貸し切りにしよう。この清水公園というヤツを、キャンプ場だけではなく園内すべて』

「……はい?」

『駐車場に車を停めて寝られるようにする、あるいは駐車場にもテントを張る。テントを張らずに、フィールドアスレチックのエリアで雑魚寝してもいいだろう。もちろんテントを張る許可を取りたいところだがね』

「はあ、それが可能ならキャンプ場と合わせても1000人以上いけるでしょうが……」

『よし。スクリーンや音響設備の準備もある。リハーサルもしたい。前日、当日、翌日の三日間貸し切ろう』

「……はい?」

『フィールドアスレチック、アクアベンチャーの巨大迷路、ポニー……よし、アクターも手配しよう! お祭りだ!』

「……はい?」

『カミヤくん、さっそく三日間貸し切れる日を問い合わせてくれ。料金もね! ああ、人数が多いからBBQの食材も道具も園に手配してもらおうか。この資料によれば、それも可能なんだろう?』

「……はい? その、予算は?」

『はは、任せたまえ! 私はこう見えて、お金を集めるのは得意でね? 宣伝費から出してもいいが、無理だったらスポンサーを集めるさ! 100万ドルはかからないだろう?』

ブルジョアか。かかるわけがない。

プロデューサーのアイデアに、クールなニートは動揺を隠せない。

コテハンにした『クール』が崩れるほどに。

『今回、このキャンプ会場と試写の様子はレポートを入れようと考えている。またアメリカの放送局でね』

「ええ、宣伝ですからそれは理解しています。事前に告知して、映ってもいい参加者だけにするつもりですが……」

『ならば問題ない。いくらでも、そう、いくらでも広告は集まるだろう。むしろふさわしい広告を選ばないといけないほどだ』

宙を見つめて考え込むプロデューサー。

ハリウッドでも名の知れたプロデューサーは敏腕らしい。

すでにユージの話を世界中に広めた通り。

『ふむ、それでイメージを崩すぐらいなら、いっそ何人か呼んで寄付を募るか?』

ユージの話に興味を持っている金持ち連中はいくらでもいる。

というか、もうすぐアメリカで行われる学会で、参加する研究者たちのスポンサーとなっているのは彼ら金持ち連中だ。

『真剣に異世界に行きたい連中ではなく、興味本位の人間なら……ふむ……』

ユージが行ったのは『剣と魔法のファンタジー』の世界である。

位階が上がれば寿命が延びる。

ファンタジー世界の住人となって冒険する。

地球にはない動植物、金属、言語、文化、宗教。

掲示板の住人だけではなく、この話を聞いた一般の人だけではなく、研究者だけではなく。

時間とお金を持て余した金持ちたちも、興味を惹かれまくっていた。

『貸し切り初日は設営とゲストを迎える準備、それと上映のリハーサルだ。二日目は午前中からゲストに楽しんでもらおう。夜には映写会をはじめて、そのまま明るくなるまで繰り返し流そう。三日目の昼から撤収作業。うむ、いいじゃないか』

「予想以上の規模です」

『カミヤくん、かかる費用だけ教えてくれたまえ。あとはそうだね、せっかく貸し切るんだから、他の施設の使い方も提案してほしい。このシミズ公園が三日間貸し切れると決まったら、掲示板に相談してもかまわないよ』

「わかり、ました」

『うむ。他にサポートが必要なら、彼らにお願いしてくれ。彼らもイベントはお手の物なそうだ!』

隣に座った配給会社の広報の肩をポン、と叩くプロデューサー。

その日本人の顔はじゃっかん引きつっている。

彼にとっても初めての規模らしい。

通常の試写会のほかにさまざまなイベントを担当してきたとはいえ、1000人規模のイベントなどそうない。

規模も予算も、顔が引きつるのも当然である。小市民としては。

「よし! とりあえずコスプレOKにしよう!」

「ありだな。確かフラワーパークみたいなところもあったはずだ。貸し切りならコスプレ撮影もいけるぞ!」

「んー、あとはペットOKとか? あ、待って、立体迷路使っていいのか! 俺、おもしろいこと思いついちゃった!」

「二人とも落ち着け。あとでゆっくりな」

フィールドアスレチックもキャンプ場も、広大な公園を三日間貸し切り。

準備と撤収で一日ずつ使うが、丸一日は自由に使える。

同席していた名無しのミートと元敏腕営業マンは、さっそくテンションが上がっていた。

ユージがエルフの里で暢気に少女二人を見守っている頃。

秋のキャンプオフという名の試写会に向けて、日本サイドは忙しい日々を送ることになるようだ。

プロデューサーとの打ち合わせの後、平日であれば、ということで無事に三日間の貸し切りが決定した。

クールなニートが懸念していた場所の問題はこれで解決である。

プロデューサーの腕により、予算も基本は問題ないようだ。

だが。

準備に関してはこれからである。

NPO法人、サクラが社長を務めるユージの権利関係を管理する会社、映画関連企業、さらには掲示板住人たちの手を借りて。

秋のキャンプオフという名の試写会は、本格的に準備がはじまるのだった。

修羅場一歩手前である。

各々の経験を踏まえ、なんとかブラック踏み込みかけ程度でまわしているようだ。

まあ当日が近づけば、そんなことも言えなくなるだろうが。

暢気なのはユージ本人ばかりである。