軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 掲示板住人たち、第五回キャンプオフを開催してユージは生中継を見つめる

4月12日、お昼過ぎ。

ユージ家跡地のキャンプ場は近隣住人を招いたBBQで盛り上がり、清水公園では先行して集まったニートたちがフィールドアスレチックに興じている頃。

海の中道海浜公園では、キャンプオフの準備が着々と進んでいた。

指揮をとるのは名無しのミート、元敏腕営業マンたちNPO所属の出張メンバーである。

「よし、会場は問題なし!」

「ずいぶん手慣れていたな。どこからスタッフを見つけてきたんだ、ミート?」

「ああ、地元が熊本なんだ! 音楽イベントの経験があるヤツらでねー」

「なるほど、それで。まあ野外フェスみたいなもんか」

「ステージと音響設備はいらないし、めんどくさいアーティストがいない分めっちゃラクだね! この前の秋に一回やってるし!」

クールなニートに任された名無しのミート。

秋にテスト開催したキャンプオフでも、熊本が地元で歌唄いだったその伝手を活かして、準備を取り仕切っていた。

今回もその伝手は大いに役立ったようだ。

「さてっと。あとは出店のほうを確認しに行きますか!」

「そうだな、搬入も終わってそろそろ設営なはずだ。俺も行くよ」

キャンプ場をざっと見渡して準備が順調なことを確認し、二人は歩いていく。

BBQを行うキャンプ場に隣接した、出店スペースへ。

清水公園同様に、海の中道海浜公園にも出店者がいる。

服屋、靴屋、美容師チーム。

そして。

「な、なんかここだけレベルが違うんですけど……」

「ホテルを運営してるのはパーティプロデュースが本業の会社と聞いてはいたが……すごいな」

「あ、お疲れさまです!」

「お疲れさまでーす!」

二人が足を運んだのは、海浜公園内にあるホテルが出店するバースペースだった。

秋のキャンプにはなく、このキャンプオフが初出店である。

ターフの屋根にかけられた茅っぽい草。

ドリンクを提供するカウンターは木材で化粧されている。

そこには、海外リゾートの浜辺にあるバーのような小洒落た空間が完成していた。

同じ出店者のユニク○の店員さんも、唖然とした表情でこの作り込みを眺めている。

「お疲れさまです。ガワはこんな感じですね。どうですか?」

どうですか、と言いながら自信満々に尋ねてきたのは、公園内にあるホテルのパーティプランナーの男だった。

名無しのミートたちと出店についてやり取りしていた担当者である。

「レベル高すぎじゃないですかね……」

「俺たちはともかく、参加者にはハードルが高いかもしれません」

「ああ、心配しないでください。そう思って、このカウンターの前にテーブルを散らすつもりです。こんな感じで」

男が目で合図を送ると、後ろにいた二人のスタッフが、一つずつテーブルを抱えてくる。

どうやら2〜3人がスタンディングで囲めるテーブルを16ほど並べるらしい。

それぞれの幅を広く取って、バーカウンターに近づかなくてもいいように。

「たしかにこれなら入れるかもしれません。ここでも注文できるんですよね?」

サンプルとして置かれたテーブルを見て、元敏腕営業マンが問いかける。

不動産営業をしていたこの男、距離感の取り方はわかっているようだ。グイグイ突っ込むばかりが営業ではないのである。たぶん。

「もちろんですよ。テーブル上にはこうしてメニューを置きます。ソフトドリンクとビール、簡単なカクテル程度ですけれども」

バーカウンターはオシャレだが、スタンディングで使うテーブルはカウンターから距離がある。

たしかにこれであれば、オシャレすぎるカウンターに気が引けても利用できるだろう。

「それに……制服はこんな感じで揃えました」

パーティプランナーの男の合図で、三人の男が前に出る。

白いTシャツ、ベージュのチノパン、黒いショートエプロン。

シンプルでラフな格好である。

「思いっきりドレスダウンしています。これなら気軽に声をかけていただけるかと」

「はあ、まあ確かに。気取ったウェイターとかバーテンだと俺でも気後れしちゃいますからね!」

コクリと頷く名無しのミート。

リゾートバイトで飛び回ってきたコミュ力高い男でも、小洒落た空間は苦手らしい。

「それに、この日のために全国からエース級を呼んできました。ちゃんとお客様を見て接客を変えられるメンバーですよ」

パーティプランナーの男が胸を張る。

先ほどから聞くでもなく会話を聞きながら、話に合わせて行動してきたスタッフたち。

できる男たちは、全国から呼び出したヘルプらしい。

「その、どうしてそこまで? 出店料はそこまで高くないつもりですけど、これでは赤字でしょう?」

作り込んだ空間、わざわざ集めた接客用スタッフ。

元敏腕営業マンが言うように、これではどれだけドリンクが売れようと赤字だろう。

そもそもテーブルの上のメニュー表を見る限り、値段設定も高いものではない。というか海の家や野外フェスよりはるかに安い。

「ええ、赤字でしょうね。ですがそれは今日の売上と、この場所だけを考えれば、です」

「えっと……?」

「このバースペースを利用して、キャンプを楽しんでいただく。きっとこの公園を好きになってもらえることでしょう。運が良ければ、このバースペースを手掛けた私たちのホテルも」

「ファンを増やす、ということですか?」

「ええ、そうです。ただそれだけじゃありませんよ? 秋のキャンプを見ていて驚きました。キャンプの様子は、みなさま掲示板やブログ、SNSで発信されているでしょう?」

「そうですね! あ、後で写真撮ってアップしていいですか?」

「おいミート。すみません」

「はは、もちろんです。むしろこちらからお願いします。そうして発信された情報は、私たちの宣伝になりますから」

「ああ、それでカウンターにロゴが」

「はい、気合い入れて準備させてもらいました。秋のキャンプより今回のほうが注目されているようですしね!」

清水公園、海の中道海浜公園。

それぞれのキャンプ場には、わかっているだけで200人ほどの参加者が予定されている。

おそらく今回はそれより増えると予想されていた。

ニート、引きこもり、普通の勤め人、学生。

ユージの話に興味を持って、あるいは単に外に出るきっかけとして。

比較的コミュニケーションが苦手な者たちが集まっているが、全員に共通しているのは『それなりにネットを使いこなしている』ということだ。

とうぜん、キャンプオフの様子はネット上に報告される。

小洒落たバーカウンターは、それを見越してのことらしい。

「ですから、この場が赤字でもいいんです。言ってみれば宣伝と未来への投資ですね。写真だけでなく、ウチのエース級の接客が話題になればいいんですが」

「神対応ってヤツですね! 期待してます!」

「おいミート」

「格好つけるだけが良いサービスではない。それをお見せしますよ」

名無しのミートの無茶ぶりに、ニッコリと笑って答えるパーティプランナー。自信満々である。

距離を置いて作業を進めていたスタッフたちは、その言葉に微笑みを浮かべている。自信満々である。

コミュ障だらけの集団を相手にして、その自信が打ち砕かれないことを祈るばかりである。

ともあれ。

海の中道海浜公園。

こちらも第五回キャンプオフの準備は順調なようだ。

あとは夕方、参加者の到着を待つばかりである。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

4月12日、夕方。

いや、この世界の暦は違う。

ユージが元いた世界で、4月12日の夕方を迎えた頃。

ホウジョウ村のユージ宅に、一人の男が足を踏み入れていた。

「ユージさん、今日はどうしたんですか? いえ、お招きは嬉しいのですが」

「ケビンさん、あのね、今日はみんな集まる日なんだよ!」

「みんな? ユージさん、どういうことです?」

ケビンである。

ケビンはすでにユージの家に入ったことがある。

とはいえ、ケビンがホウジョウ村に来ても普段はケビン商会の建物に泊まっており、ユージの家にはほとんど立ち入らない。

ここはユージとアリスとコタローの家なのだ。

宿泊場所がある以上、あえてこっちに泊まることもない。

「ケビンさんに会わせたい……あ、いや、実際に会えるわけじゃないんですけど、見せたい人たちがいるんです」

ふよふよと浮かぶ光魔法を先頭に、階段を上るユージがケビンに告げる。

ユージ、アリス、ケビン、コタロー。

三人と一匹が向かったのは、ユージの部屋。

パソコンの前である。

自分の部屋に光魔法の明かりを飛ばすユージ。

パソコンはすでに起動し、いくつかの場所が映っていた。

「以前見せてもらった ぱ(・) そ(・) こ(・) ん(・) 、ですか。ユージさん、これは?」

「俺が元いた世界の映像です。生中継って、えっと、いまの様子なんです」

「はあ……けっこうな人数が集まってますね。お祭りですか?」

パソコン画面は四分割されている。

ユージ家跡地のキャンプ場、清水公園、海の中道海浜公園。

最後の一つは、いまパソコンデスクの前に座るユージたちが映っていた。

「元の世界と連絡が取れるって、ケビンさんはもう知ってると思うんですけど……」

「ええ、以前にユージさんが漏らしてしまいましたからね」

「これが、ここに集まっている人たちが、俺にいろいろ教えてくれたんです」

そう言ってユージはパソコンを操作する。

引いた絵から切り替わり、三つの画面がそれぞれアップの映像に。

カメラは各会場に一つどころではなく用意されていたらしい。

BBQを楽しむ者、スマホを覗く者、キャンプ地の大型モニターを眺める者、一人でノートパソコンのキーを叩く男、談笑する男たち。

それぞれが思い思いにキャンプオフを楽しんでいた。

途中、どん引きする男たちが映ったのは、コテハン・ドングリ博士の周辺だろうか。

「この方々が……みなさんいい表情ですね。ですがユージさん、なぜいま私にこれを?」

「その、節約してますけど、謎バリアがいつなくなって、いつネットが通じなくなるかわからなくて。だからいまのうちに、ケビンさんに知ってもらいたかったんです」

ユージはいつになくマジメな表情だった。

ユージの家のライフラインとネットは、謎バリアの魔素を使って繋がっているらしい。

だが去年の夏に、その謎バリアの魔素が減って、穴が大きくなっていっていることが判明した。

以来、ユージは明かりは自前の光魔法で、水は水路から、お湯はアリスの火魔法を利用して魔素を節約している。

いまのペースであれば、ユージが死ぬまで持つだろう。

それでも不測の事態は起こりうるのだ。

ユージがケビンを招いたのは、掲示板住人たちを見せたかったかららしい。

ネットが繋がっているうちに。

「みんながいなければ、俺はきっといまこうしていられませんでした。ケビンさんに会う前に死んでいたかもしれません。ケビンさんに商売になる情報を教えられなかったかもしれません」

「ユージさん……」

「俺がいるのも、ホウジョウ村が発展したのも、みんなのおかげなんです」

「ユージ兄! アリス知ってるよ、ユージ兄もがんばったんだよ!」

「はは、ありがとうアリス。それで、ずっと俺を支えてくれたケビンさんにも見せたかったんです。これが、俺の友達で、俺の仲間で、元の世界から俺を支えてくれた人たちです」

ユージは、目を細めてモニターを見つめていた。

モニターに映る、キャンプオフ参加者たちを。

ユージがこの世界に来てから、6年目が終わる。

誰もが予測していた通り。

今年も、ユージの家に元の世界の誰かが現れることはなかった。

朝、満開の桜を見つめて。

ユージの7年目が、はじまる。