軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 ユージ、収穫祭で誕生日と成人をお祝いする

秋のホウジョウ村開拓地には、奇妙な音が流れていた。

音色の一つは、祭りだからね! とハルが持ち込んだリュートのような弦楽器の音色。

エルフ手製の楽器らしく澄んだ音を立てているが、演奏はたどたどしい。

ハルは踊り手であり、演奏はできなかったようだ。なぜ持ち込んだのか。とりあえずノリである。

ハルが持ち込んだ弦楽器は、けっきょく『ちょっとだけ触ったことがある』という理由でエンゾの妻のイヴォンヌが弾いていた。

イヴォンヌはプルミエの街のお高い夜の店で働いていた経験がある。ただ、楽器までは習わなかったようだ。

それでも徐々にうまくなっているあたり、センスはあるのだろう。

あるいは音楽を聴いた経験が多いからかもしれない。

ユージが元いた世界と違って、音楽はどこにでもありふれているわけではないので。

イヴォンヌが働いていた夜の店では、夜ごと楽師が生演奏していた。なんとなくでも耳に残っていたのだろう。

もう一つの音色は、弦楽器よりもはるかにわかりやすい。

リザードマンから贈られた、木材と皮を組み合わせた楽器。打楽器である。

弦楽器と違って叩けば音が出る小さな打楽器を、ボンゴボンゴとアリスがノリノリで演奏していた。

謎のノリだが一定のリズムは刻んでいる。

ボコボコと太鼓を叩くアリスの前で、コタローが踊るように動きまわっていた。ボンゴのような打楽器の音色を気に入ったらしい。

「賑やかになりましたねえ」

「はい、ケビンさん。すごくお祭りっぽくなりました」

「はは、収穫祭ですからね。ユージさんも踊ってきたらどうですか?」

「いや、俺はいいですよ、踊れませんから」

人が増えたホウジョウ村は、広場を新設していた。

これまでのユージ家の前にあった小さな広場ではなく、41人が入れる大きな広場だ。

周囲では村人が飲み食いして、中央では村人たちが踊っている。

ダンスというよりも、リズムに合わせて体を動かしているだけではあるが。

それでもみんな笑顔だった。

「ハルさんが上手いのは知ってましたけど……エンゾさんが踊れるのは意外です」

もちろん全員が踊れないわけではない。

かつて剣舞を見せたハルは当然として、意外なことに元3級冒険者の斥候・エンゾも華麗なステップを踏んでいた。

妻であるイヴォンヌちゃんが弦楽器に夢中なので、独りで。

エンゾ、モテるために覚えたのに最愛の妻にはスルーされている。まあもう射止めたので問題はないだろう。

「ああ、こんなことならジゼルを連れてくればよかったですねえ」

「ああん? ケビン、俺の前で娘と踊るつもりか?」

「そうですよお義父さん。私たちは結婚してますからね。ほら、お義父さんも踊ってきたらどうですか」

舌打ちを残して『血塗れゲガス』が踊りに加わる。

ハルやエンゾとは違う、垢抜けない踊り。

だが、村人たちにとってはそのほうがマネしやすかったようだ。

バラバラだった動きがなんとなく揃っていく。

「ゲガスさんも踊れるんだ。すごいなあ」

「はは、お義父さんはお祭りごとが大好きですし、いろいろな経験をしてますからね。言葉が通じない場所でさえ」

音楽や踊りに飛び込んで全力で楽しむのは、その集団に溶け込むのに有効な手段である。

ゲガス、異文化コミュニケーション力が高いようだ。芸人か。この世界の行商人には必須のスキルなのかもしれない。

「ユージさん、みんな踊り疲れてきたようですし、そろそろいい頃合いだと思います」

「あ、そうですねケビンさん。じゃあ俺、ちょっと行ってきます!」

中央で踊る人が減ってきたのを見て、ケビンがユージに告げる。

ユージは立ち上がって、広場に進んでいった。

二つの木箱を小脇に抱えて。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「アリス、ちょっといいかな?」

「うん! アリス、ちょっと疲れちゃったから休憩したかったの!」

座って足に挟んでいたボンゴを置いて立ち上がるアリス。

ユージに連れられて、トコトコと広場の中央に歩いていく。

「どうしたのユージ兄? アリスと一緒に踊るの?」

「あはは、そうじゃなくてね。えーっと、開拓地のみんなとケビンさんたち、それとエルフの人たちからアリスに贈り物があるんだ」

「贈り物?」

「そうだよ。だってほら、アリスは誕生日でしょ? おめでとう!」

「ああ! アリス11才になるんだった!」

パッと両手をあげて、いまにも小躍りしそうなアリス。

元の世界でいう小学校高学年にしても、この世界の11才にしても幼い仕草である。

ユージも村人たちも、アリスを甘やかしすぎなのかもしれない。

なにしろホウジョウ村最年少の少女なので。

「はい、これがプレゼントだよ!」

「ありがとうユージ兄、みんな! 開けてもいいかなあ?」

「言うと思った。うん、開けてごらん」

村人たちの拍手とともにユージから小さな木箱を手渡されたアリス。

さっそくいそいそとフタを外す。

「うわあ、うわあ! ユージ兄、このお洋服、すっごくキレイ!」

中に入っていたのは、ボウタイ付きの白いブラウスだった。

それも、シルク製の。

ユージが伝えた養蚕技術で絹の布の余剰分が増えたエルフがシルクを提供して、掲示板住人がデザインと型を描いて、ホウジョウ村の針子が縫い上げた合作である。

全員アリスに甘過ぎである。

そもそも白いシルクのブラウスなど、村暮らしのアリスには着る機会が少ない。

絹の産地のエルフの里と、王都の貴族でアリスの祖父・バスチアンに会う時ぐらいだろう。

「あ、下にもまだ入ってる! あれ? 同じお洋服?」

「アリス、そっちは普段着用だって。同じデザインだけど、絹じゃないからこっちのほうが気軽に着られるだろうって」

「うわあ! みんなありがとう!」

アリス、満面の笑みである。

この秋の収穫祭で、アリスは11才。

大人として扱われる15才まであと4年。

ユージもホウジョウ村の村人たちも、アリスを甘やかすのをそろそろ意識的に止めたほうがいいのかもしれない。

大人の階段を登れなくなりそうなので。

「アリス、じゃあちょっとケビンさんのところで待っててくれる?」

「はーい!」

アリスを広場の隅に誘導して。

ユージはまだ中央に残っていた。

「じゃあ次は……マルクくん! こっちに来てくれるかな?」

「え? あの、ユージさん? ボクですか?」

突然の声かけに動揺する犬人族の少年・マルク。

父である犬人族のマルセル、母の猫人族のニナに背中を押されて、おずおずと広場の中央に歩み出る。

不安なのか、尻尾は足の間に巻き込まれていた。

「マルクくんは、この収穫祭で15才。ホウジョウ村開拓地で初めて成人しました!」

ユージ、精一杯声を張っている。

引きこもっていた10年からは考えられないほど。

開拓団長、村長、防衛団長、冒険者、エルフ護送隊隊長として数々の修羅場を潜り抜けてきたユージ。さすがに成長しているようだ。

ユージの声に合わせて、拍手とおめでとうという祝福が響く。

マルクは照れたのか頭に手を当てている。

「ホウジョウ村開拓地で初めて成人したマルクくんには、みんなから贈り物があります! マルクくん、はいこれ」

「ありがとうございます! ユージさんも、みんなも、ボク、ボク……」

ユージから木箱を渡されて、マルクは涙ぐんでいた。

うれしい! という感情を表すように、尻尾は激しく振られている。

「マルクくん、開けてごらん」

「はい! お、おお……」

木箱のフタを開けたマルクが感嘆の声を漏らす。

木箱を地面に置いて、両手を箱の中へ。

成人したマルクへのプレゼントは、金属製の胸当てだった。

「すごい……ありがとうございます! ボク、みんなを守れるようにもっと強くなります!」

マルクの宣言に、ニコニコと笑顔を浮かべてユージが拍手を贈る。

見ていた村人たちも、ケビンもゲガスもハルも。

アリスに贈られたブラウスに一番労力をかけたのは、ホウジョウ村の針子たち。

マルクに贈られた胸当てに一番能力をかけたのは、ホウジョウ村の鍛冶師たちだった。

布と金属を手配したケビンの努力はもちろんだが。

後日もらった胸当ての強度を試したマルクは、驚愕することになる。

同席していた元冒険者たちとともに。

ユージが提案してケビンにさまざまな金属を用意させ、鍛冶師に作らせた胸当て。

それは、ユージが金属加工の技術を教えて鍛冶師たちに作り込ませた胸当てだった。

まあユージというか掲示板住人たちであり、彼らも知識だけで作ったことなどないのだが。

それでも鍛冶師たちは試行錯誤を繰り返し、これまでとは違う強度の胸当てが完成したようだ。

マルクが成人するのは以前からわかっており、一年前からそれなりに時間をかけていたので。

「ユージさん、喜んでもらえてよかったですね! それで……本当に売る気はないのですか? あれなら欲しがる人は数えきれないほど……」

「すみませんケビンさん。武器じゃないからまだアレですけど、それでもあんまりおおっぴらにはしたくなくて……マルクくんや知ってる人が死ぬのはイヤですから、いくつか作ってもらうかもしれませんけど」

「稀人ならではの悩みですね。わかりましたユージさん。これは秘密にしておきましょう。幸い、代官さまはすでに外してらっしゃいますし」

「ありがとうございます、ケビンさん」

「ユージさん、いまさらですよ。本当はもっといろいろ知っているのでしょう? 争いごとに使われたくないと、ユージさんが教える技術を選んでいるのはわかってますから」

ユージ、バレバレだったらしい。

当然である。

何しろケビンは、すでにユージが元の世界と連絡を取れることを知っている。

保存食や服飾などの知識で満足しているのは、ケビンなりの誠意だろう。

ひょっとしたらそれだけで充分利益を得ているせいかもしれない。

二人へプレゼントを贈ったあとも、ホウジョウ村の収穫祭は続く。

弦楽器の演奏はふたたびイヴォンヌが、打楽器の演奏は元3級冒険者の盾役・ドミニクが担当して。

祭りは、意中の異性へのアプローチ大会の様相を呈していた。

田舎の祭りとしては当然の流れである。

ちなみにユージは、就寝時間となったアリスを連れて家に帰っていた。

そこに出会いはない。