軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 ユージ、ケビンと一緒に針子の作業所を訪れる

「ヴァレリー、ユルシェル、いま大丈夫ですか?」

「ケビンさん! もちろんよ!」

針子の作業所となっている一棟の建物。

人員増加にともなって増築された作業所の扉を、ケビンが遠慮がちにノックする。

村長のユージと雇い主のケビンだが、女の園に入るには許可が必要らしい。賢明な判断である。

いまや針子チームを率いる立場となった女性・ユルシェルの許可を受けて、ケビンとユージが中に立ち入る。

ユージはゴクリと唾を飲み込んで、女の園に入る気合いを入れてから。

「ユージさん、ケビンさん、お帰りなさい」

二人を迎えたのは、この作業所で働く唯一の男。

ユルシェルの夫で同じ針子のヴァレリーだった。

12人いる針子と見習いのうち、ただ一人の男である。女性に囲まれて働く鋼の男である。

「ケビンさん、それで今日はどうしたの?」

「私は間もなくプルミエの街に帰る予定でして、進捗確認に来ました。あの服はどうですか?」

進捗確認。

恐怖のワードである。

だが、ユルシェルもヴァレリーも怯まなかった。

「順調よ! 男性用は10着できてるわ! 明日まで時間をもらえれば、あと2着仕上がりそうね。シャルルくんより大きめで作ってるから、最終調整は着せてからだけど……大丈夫?」

「ええ、それはお任せください。何しろ王都で販売するのですから!」

ケビンの言葉に、ワッ! と盛り上がる針子たち。

ホウジョウ村に移住してきた針子たちは、全員が辺境の街・プルミエと近隣の農村出身である。

王都に行ったことがあるのは、ケビンやユージに連れられてユルシェル一人だけ。

プルミエの街の夜の蝶だったイヴォンヌでさえ、辺境を出たことはない。

そんな田舎に暮らす自分たちが作った服。

それが流行の発信地、大都会の『王都』で販売されるのだ。

盛り上がるのも当然である。

「ありがとうケビンさん、ユージさん! 二人のおかげで私の夢が叶ったわ! あとはこれが流行れば……」

「ユルシェル、落ち着いて。ケビンさん、ユージさん、女性用の試作品も完成したんです。よかったら見てもらえませんか?」

「それはそれは! ぜひお願いします!」

「シャルルくんが着た制服風ブレザーの……女性用?」

アリスの兄・シャルルが男性用を試着した後、販売を決めてノリノリなケビンが質問した女性用の制服風ブレザー。

ユルシェルは、すでにデザインと型紙をもらっていると言っていた。

その試作品が完成したらしい。

「どう? 試着できたかしら?」

「ええユルシェル。まずは例のほうでいくわ」

「ユルシェルもイヴォンヌも本気だったのか……」

作業所の一角、布で仕切られたスペースに声をかけるユルシェル。

ヴァレリーはがっくりと肩を落とす。

針子たちは作業の手を止めていた。キラキラと期待に目を輝かせる女性、なぜか恥ずかしそうに顔を赤らめる女性。

そんな反応に首を傾げるユージとケビンをよそに、イヴォンヌが登場する。

イヴォンヌを見て、ユージとケビンは目を丸くしていた。

イヴォンヌが着ていたのは、制服風ブレザーだった。

上半身はシャルルが試着したものとほとんど変わらない。

白いシャツ、わずかに青みがかった黒のジャケット。

違いは男性用がネクタイで、こちらはリボンになっていることぐらいだろうか。

「マ、マジかよ……」

ポツリと呟くユージ。

問題は上半身ではない。

プリーツスカートだったのだ。

それも、ヒザ上の。

「ユルシェル、やっぱりこれはダメだって。はしたないよ。妻が悪ノリしてごめん、イヴォンヌ」

「なに言ってるのヴァレリー! こっちのほうがかわいいってみんな同意してたじゃない!」

「そうは言ってもさ……」

針子の夫婦は揉めはじめ、残る針子の女性たちはキャーキャーと盛り上がっている。

この世界のスカートの丈は、ヒザ下が基本である。

というか、スネが見えるだけで『はしたない』レベルだったのだ。

そんな価値観の中で、ヒザ上のプリーツスカートである。

「これはさすがに厳しいでしょうねえ。その、下着も見えてますし」

「え? ウソでしょケビンさん? 下着?」

ケビンの発言に食い入るようにイヴォンヌを見つめるユージ。アウトである。哀しき男の 性(さが) である。

「ユージさん、あれはユージさんがよく履いているそっくすではなく……ユルシェル」

「ええ、ヒモで縛る形も作れたんだけど! こっちのほうも作ってみました!」

「ああ……ほんとごめん、イヴォンヌ……」

イヴォンヌが履いているのは、いわゆるニーハイに似た形のソックス。

形だけは似ている。

だが、ソックスを上手く作れなかったのは、ずり落ちるのを止めるゴムのように伸縮する素材が見つからなかったからである。

ニーハイも同様に、動けば簡単にずり落ちていく。

本来ならば。

イヴォンヌが履いたニーハイには留め具がついていた。

留め具から伸びるヒモの先は、スカートの中へ。

ニーハイ。

ガーター付きの。

この世界では、下着に分類される。

「な、なかなかの破壊力で……」

すらりと伸びたイヴォンヌの足、下着という事実。

当たり前だが、プルミエの街の夜の蝶として人気だったイヴォンヌは美人である。

元3級冒険者のエンゾが苦労して射止めたほどに。

35才独身のユージには刺激が強かったようだ。

女性用のブレザー風制服は、イヴォンヌによく似合っていた。

年齢は20代後半であったが、固定観念がないため、この世界の住人たちは違和感を持たないだろう。

まあ年齢に違和感があるせいで着ている女性が恥ずかしがるのもアリで……そういう話ではない。

「たしかにイヴォンヌに似合ってますし、キレイだと思いますよ。ですがユルシェル、さすがにこれは売れません」

「うーん、やっぱりダメかあ。かわいいんだけどなあ」

「ほらイヴォンヌ、早く着替えちゃって! もう一つのほうでね!」

ケビン、さらっと褒めるあたり妻帯者の余裕である。

ユージにその余裕があれば、今ごろは……相手がいない。これまでは。ユージのまわりにいたのは、幼女か少女か人妻か犬だった。

だが開拓民が増えた分、独身女性も増えたのだ。チャンスである。ユージに自覚はない。

ヒザ上まで見せた足、ニーハイに『靴下留め』という本来の意味でのガーター。

ユルシェルや針子たちはカワイイ! と言っていたものの、それでも『はしたない!』が勝っていたようだ。ツイッギーはいない。

針子のヴァレリーはケビンのNG宣言を受けて、そそくさとイヴォンヌを目隠しの向こうに追いやっていた。

「いいと思ったんだけどなあ」

「ユルシェル、あれは革新的すぎます。夜のお店には売れるかもしれませんけどね」

「じゃあ!」

「順番、順番ですよ。まずは抵抗なく受け入れられるものを売りましょう。もしも流行ったらその時は……」

「あの? ケビンさん?」

ユージが不安な面持ちでケビンに問いかける。

ケビンの答えはない。

もしも王都で制服風ブレザーが流行ったら。

ミニのプリーツスカートで紺ソックスやニーハイを制服にした夜のお店が誕生することになるのかもしれない。

ユージのせい、いや、デザインと型紙をおこした掲示板住人のせいで。

ユージが未来の稀人に蔑まれないことを祈るばかりである。

「スカート、着替えました。これでどうですか?」

「うん、こっちもカワイイ! 私は前のほうが好きだけど……」

「ユルシェル、いいかげん諦めて。こっちはどうですかケビンさん?」

「ええ、いいと思います。男性の対になる女性用はこちらにしましょう」

着替えを終えたイヴォンヌは、制服風ブレザーに合わせて長めのスカートを履いていた。

スケバンスタイルである。

違う。

上は白いシャツにリボン、濃紺のブレザーは変わらず。

プリーツスカートなことは変わりないが、長さはマキシ丈。

男性用のパンツよりもやわらかい素材を使うことで、女性らしさを出したらしい。

プリーツマキシスカートはコーデ次第でフェミニンにもガーリーにも! この秋マストバイ! 的なアレである。意味はわからない。

「うーん、なんかちょっと違和感がありますけど……」

上は制服風ブレザーで、下は長めのスカート。

掲示板住人が想像したであろうベーシックな制服を知っているユージとしては、この組み合わせに違和感があったようだ。ファッショニスタ気取りか。いや、単にイメージの問題である。

「ユージさん、男にはわからないわよ!」

「ユルシェル、僕もケビンさんもいいと思ってるけど……」

「これなら女性用は何種類かスカートを作ってみましょうか。素材や色を変えてもおもしろいかもしれません」

「そうよケビンさん、オンナゴコロがわかってるじゃない! やっぱり違いを出さなきゃ!」

ケビンの提案で、ユルシェルと針子たちはだったらこんな感じで、ううん、あれもいいんじゃない、などと盛り上がるのだった。

ユージを置き去りに。

ともあれ、これで女性用の制服風ブレザーを売り出すことも決まったようだ。

ケビン商会、新たな主力商品の誕生である。

ちなみに。

ヒザ上丈のプリーツスカートとニーハイ、ガーターのセットは、売り出さないため試着に協力したイヴォンヌにプレゼントされていた。

イヴォンヌが恥ずかしさをガマンして試着したのはこのためだったようだ。

イヴォンヌは人妻である。

この日からしばらく、ホウジョウ村にある一軒の家は、夜が白むまで物音がしていたらしい。怪奇現象である。

家の主である元3級冒険者は、日に日にげっそりしていったが、満足そうな表情を浮かべていたという。心霊現象である。