軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 ユージ、旅を終えてホウジョウ村に帰り着く

船は水面を切ってゆっくりと進んでいく。

左右に広がるのは土魔法で築かれた土手。

冬と春を越えて、土手には緑の絨毯が広がっていた。

茂った草はまだ短い。

これから何年もかけて草が、木が、土手を覆っていくことだろう。

「ねえねえユージ兄、みんなアリスの成長に驚くかな!」

「そうだねアリス。魔法はいろいろ使えるようになったし……日焼けしたしね!」

「ニンゲンはおもしろいね! エルフは外にいても色が変わらないから!」

「リザードマンとの交流、購入してきた魚介類。ふふ、お話もお土産もたくさんありますからね。アリスちゃん、みんな驚くでしょう」

夏の陽射しにきらめく水面を船が進んでいく。

笑顔を見せる人たちを乗せて。

ユージ、アリス、ケビン、ハル、コタロー。

三人の人間と一人のエルフ、それから一匹の犬。

パワーレベリングと、シャルルとバスチアンを送る旅。

四人と一匹は、旅の終わりを迎えていた。

船の進行方向、右側。

ヒクヒクと鼻を動かして、最初に気づいたのはコタローだった。

土手の上に現れたのは、くすんだ橙色の毛皮をまとったオオカミ。

日光狼(サンウルフ) である。

オオカミを見つけたコタローがワン! と吠える。おむかえごくろうさま、と言うかのように。

「ん? あ、オオカミか。ほんと、こっちを見つけるのが早いよなあ。コタロー、あれは元ボスかな?」

ユージが暢気に声をかけている間に、続けて二匹。

く(・) す(・) ん(・) だ(・) 橙(・) 色(・) の(・) 毛(・) 皮(・) をまとったオオカミたち。

「……あれ? えっと、どこかから迷い込んだ? 日光狼が三匹……」

さらに続けて、焦げ茶色のオオカミたちが続々と。

総勢15匹のオオカミたちである。

全体の数に変化はない。

「これは……土狼の位階が上がると、日光狼になると考えられています。ただ、これまで誰も確認したことはありませんでした。同一個体かどうか、はっきり見分けられませんから。ただのうわさ話かと思っていましたが……」

「あはは、ボクも初めて見たよ!」

「位階が上がったんだね! アリスとおんなじだね!」

まだ確定したわけではない。

確定したわけではないが、コタローの配下になっていたのは一匹の日光狼と、14匹の土狼たちだった。

だがいま、ユージたちの前に三匹の日光狼と12匹の土狼が姿を現している。

オオカミたちの仕事は、ホウジョウ村周辺の早期警戒と、広い縄張りの維持。

そして、モンスターや害獣の排除である。

命を奪っていくうちに位階が上がったのだろう。

ホウジョウ村に向かって水路を進む船と併走するように土手を走るオオカミたち。

そして村が近づき、1級冒険者でエルフのハルが船を岸に近づけはじめると。

アオーンッ! と、オオカミたちが遠吠えを響かせた。おかえりなさい、と言わんばかりに。

ホウジョウ村開拓地、西側の外周部。

ユージたちの帰村を迎えたのは、今回もオオカミたちであった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「それにしても、おまえらは賢いなー。あれ? いつもと隊形が違う?」

上陸するユージたちを歓迎するかのように、オオカミたちが整列する。

見慣れた光景である。

ボスのコタローが不在であっても、鉄の規律は守られているようだ。

いつもは元ボスの日光狼だけ一歩前でおすわりするのだが、今回は違っていた。

日光狼の横に、もう一匹ずつ日光狼と土狼の姿があった。

「えっと……これどういうことだろうコタロー? というかアレだな、日光狼が増えて、元ボスがどれかわかんなくなりそうだ」

足下にいるコタローに問いかけるユージ。

アリスとハルは何が起こるのかと目を輝かせてオオカミたちを見つめ、ケビンは一人で船から荷を下ろしていた。

ユージたちがサボっているわけではない。ケビンが自分で買い込んだ商品なので。

コタローはユージの言葉に首を傾げている。どうやらコタローも心当たりがないようだ。

元ボスらしき日光狼がガウッ! と一つ吠えると。

横にいた二匹のオオカミが立ち上がり、たがいの体を密着させながらコタローにガウガウ言っていた。

「ええっと……?」

「ユージさん、群れのボスに 番(つがい) になる許可をもらおうとしているのではないでしょうか。いえ、ただの推測ですけどね」

「ああ、それで二匹が前に!」

「うわあ! オオカミさんたち、結婚するんだね!」

「いや、結婚って考えはないんじゃないかなあ。どうなのコタロー? どうするの?」

ふたたびコタローに問いかけるユージ。

コタローの答えはない。コタローは賢い女で群れのボスだが、しゃべれないので。

前に出た二匹に近づいて、コタローがペロリと顔を舐める。

と、嬉しそうにじゃれ合う二匹。

どうやら 番(つがい) になる許可が出たらしい。

「よかったねえオオカミさんたち!」

「ふむ、一夫一妻型なのでしょうか。ともかくこれで数が増えてくれそうな……繁殖期は冬でしょうか。やはり彼ら用の建物を……」

モンスターなのに賢く、コタローの指揮下で役に立ってきたオオカミたち。

数を増やすことを画策していたケビンは、カップルの誕生を喜んでいた。

一方で。

「そっかあ、オオカミにも先を越されちゃったかあ……」

「ユージ兄?」

ぼやく人間にかぶせるように、何頭かのオオカミから遠吠えが響く。

カップル誕生を見せつけられた独身たちの嘆きであった。むごい。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ユージ兄、もうすぐ家だね! ひさしぶりだね!」

「そうだねアリス。いなかったのは……10日ぐらいかな?」

「ユージさん、ボクは研究者の様子を見たら王都に帰るね! けっこう空けちゃったし」

「あ、はい、わかりました。ローレンさん、荷物も運ばせたいって言ってましたもんね」

「うーん、そっちの手配は問題ないんだけどね! ほら、指名依頼がくることもあるしさ」

「指名依頼……上級者っぽい響きですね!」

「はは、ほら、ボクは1級冒険者だから!」

船を下りたユージたちは森の中を歩いていく。

現在、ホウジョウ村の出入り口は南側の一箇所だけ。

潜水すれば水路から侵入することは可能だが、ユージはいまだにその方法を使っていない。

緊急事態以外は、面倒でもちゃんと入り口から入ることにしているのだ。

律儀な男である。なにしろ村長なので。

のんびり歩くユージたちのまわりを、コタローとオオカミたちが走りまわっている。

いつものごとく周囲の警戒と、コタローは不在の間の縄張りのチェックである。

イチャつきながら駆けまわる二匹は、 番(つがい) になることを認められたペアだろう。

まあユージもアリスもケビンも、どのオオカミがそうなのか見分けられないようだが。

「ユージさん、一段落したら私もプルミエの街に向かいます。一度王都に行くつもりですから、次にホウジョウ村に来るのは秋になるでしょう」

「そっか、ゲガス商会に商品を卸すって言ってましたね。了解です!」

「まあそうは言っても、ウチの商会の人間が街とホウジョウ村を往復しますよ。何かあったら伝えてくださいね」

ホウジョウ村には、ケビン商会の缶詰生産工場と衣料品を生産する針子の作業所がある。

特に工場ができたいま、このホウジョウ村まで素材を運ぶために、ケビン商会の荷車は頻繁に往復するようになっていた。

缶詰を作るには、食材も金属も必要なので。

「了解です! お店も開けてくれますからね、助かってます」

ホウジョウ村に店は一つだけ。それも常時ではなく、ケビン商会の人間がいる時だけ開かれる店舗である。

店が開けられるたびに、住人たちは買い物を楽しんでいた。一大イベントである。

そもそもこの規模の村で店があるのは珍しい。

開拓民が増えたといってもホウジョウ村にはまだ41人しか住んでいないのだ。

農業はまだこれからで、外貨を稼ぐ産業はやっと軌道に乗り出したところ。

発展するのもこれからである。

「ユージ兄、見えてきたよ! あ、誰か来てる!」

村の西を流れる水路から上陸して、回り込んで村の南へ。

ようやく村の入り口が見えてきた。

オオカミの遠吠えを聞きつけたのだろう。

そこには、何人かの開拓民の姿があった。

「お迎えは誰でしょうかねえ。……おや、お義父さんもいる。ふふ、自慢話をしてやりましょう」

「ケビンさん、悪い顔になってますよ! あとは、ブレーズさんとエンゾさんですかね」

目を凝らして入り口を見やるユージたち。

走り出さないあたり大人である。

まあユージがホウジョウ村を空けるのはいつものことで、10日程度の不在期間は短いほうなので。

やがて、ユージたちは、村の入り口にたどり着いた。

「アリスちゃん、ユージさん、ケビンさんも。えらく日焼けしたなあ」

「そうですかね? 自分じゃあんまりわからなくて」

「もう、ユージ兄! ブレーズさん! 帰ってきたら挨拶が先なんだよ!」

「そうだな、すまんすまん。ユージさん、アリスちゃん、コタロー。おかえり! ケビンさんもハルさんもな!」

「ただいまー! アリス帰ってきたよ!」

「あ、俺も。ただいま、みんな!」