軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 ユージ、リザードマンの頼みでスライム退治に取りかかる

「あれ? ここだけ草が生えてない?」

「ユージ殿、これがスライムが発生した際の特徴じゃ。ヤツらは悪食でな、生あるものならなんでも食う。人間も動物も植物も。ゆえに、群生地には何もなくなるのじゃ」

「動きは遅いので、それほど危険はないんですけどね。水場に居座るので、農村ではたいそう嫌われるモンスターです」

宿場町・ヤギリニヨンと王都の間に広がるマレカージュ湿原。

ハルに連れられてモンスターを殲滅していたユージたちはリザードマンと出会う。

リザードマンからの頼みを受けて、ユージたちは湿原に巣食うモンスター退治に向かうのだった。

そもそもこの湿原にはモンスターを殺して位階を上げるために来たのであり、スライム退治は目的とも一致している。

「ユージ兄、ここ? アリスここで火魔法使っていいの?」

「落ち着いてアリス。ユージさん、どうなんでしょう? 聞いてもらえませんか?」

アリス、すでに殺る気満々である。

この世界のスライムは物理攻撃が効きづらく、魔法で倒すのが一般的。

なかでも火魔法がよく効く、というのはアリスの祖父で貴族であり、火魔法の使い手でもあるバスチアンの言葉だ。

物理攻撃主体のリザードマンにとってはやっかいな相手だが、火魔法を得意とするアリスにとってはボーナスステージである。

《ユージ殿、ここがスライムの群生地だ。準備はよいだろうか? お連れの方々も》

ユージたちを案内してきたリザードマンが声をかける。

口からシューシューと不規則な音を吐くだけだが、ユージには言葉がわかる。

ユージ、エルフと人間の時と同じように今回も通訳であった。

《え? でも大きい池があるぐらいで、特に何も見えませんけど……》

《ユージ殿はヤツらを見るのは初めてか。では、見ておくといい》

リザードマンが、腰に付けた皮袋から何かを取り出す。

《これは我らの保存食。モンスターを加工したものであるが……》

リザードマンがスティック状の乾燥肉らしき物体をぽいっと投げると、池の手前に落ちた。

池、いや、ユージが池だと思っていたモノがうごめく。

ぐにゅぐにゅと動いて、粘性の高い液体の一部がユージたちの方向へ。

リザードマンの保存食に触れて、その身の中に保存食を取り込んだ。

《う、うわあ、きもい……》

「ふうむ、もはや全体がスライムとなっておるか。これはなかなか大物じゃのう」

「スライムの生態を考えると、これは一体ではなく複数が重なっているのでしょう。ここまでのものは私も初めて見ましたよ」

「ねえねえお祖父ちゃん、どんな魔法がいいかなあ? やっぱり囲んでぜんぶ 殺(や) るのがいい?」

初めて見る粘性生物に、きもいと感想を漏らすユージ。

スライムのことを知っているバスチアンとケビンに焦った様子はない。

10才の少女・アリスも怯えることなく、むしろ物騒な言葉を吐いている。

「ユージさん、殺っちゃっていいのかな? いちおう聞いてくれる?」

「あ、はい、ハルさん。《もう攻撃してもいいのかって聞いてますけど……いいんですか?》

《これは頼もしい。うむ、お願いしたい。この池は反対側まですべてスライムだ。ちまちまと削るのに難儀していてな》

へなっと尻尾を垂らしたリザードマン。どうやら困った、というボディランゲージらしい。

「《魔法は効きやすいんですよね? とりあえず攻撃してみます!》。ハルさん、アリスも。もう攻撃していいってさ。この池全部がスライムみたい」

「なかなかの範囲じゃのう。ではアリス、儂が炎の壁で閉じ込めよう。『赤熱卿』のこの儂が! さすればどんな魔法を使おうが、スライムは逃げられまいて」

「はーい! じゃあアリス、お祖父ちゃんの魔法が終わるまで待ってるね!」

元気をなくしたリザードマンを前に、バスチアンとアリスは暢気なものである。

バスチアン、孫にいいところを見せるチャンスだと張り切っているようだ。

いつもの袖なしのローブに身を包んだバスチアンが、火紅玉の指輪をはめた両手を高く掲げて朗々と詠う。

「万物に宿りし魔素よ。我が命を聞き顕現せよ。魔素よ、炎となりて我が敵を囲め。 炎の輪(リング・オブ・ファイア) 」

バスチアンの頭上に、大きな炎の塊が生まれた。

「うわあ、うわあ、お祖父ちゃんすごーい!」

「アリスや、これで終わりではないのじゃよ。さあ、広がれ! 鼠一匹逃がさぬように!」

掲げた炎は空に昇り、輪となって大きく広がった。

直径はおよそ100メートルほどだろうか。

広がり切った炎の輪は、ゆっくりと下りてくる。

そして。

地面に着いて、炎の壁となる。

スライムの群生地をぐるりと囲んで。

「お祖父ちゃん、すごい、すごいよ!」

「これがお祖父さま、『赤熱卿』の本気……」

「これはすごい! ここまでの規模の魔法は私も初めて見ましたよ!」

アリスはキラキラと目を輝かせてバスチアンを見つめていた。

魔眼を発動させたシャルルは、炎の輪を眺めてぽつりと。

ケビンも驚いているあたり、王都でも有数の魔法使いという話は真実なのだろう。

「そうじゃろうそうじゃろう! 何しろ儂は『赤熱卿』、この規模の魔法などそうそう使い手はおるまいて」

「エルフは火魔法がニガテな人が多いからねえ。ボクもここまでの火魔法は初めて見たよ!」

《これは素晴らしい。このままにしておけばやがてスライムも消滅するだろう。恥を忍んで頼んだ甲斐があった》

《あの……まだ終わりじゃないんです。火魔法の使い手はバスチアンさまだけじゃなくて》

「じゃあ次はアリスの番だね!」

手をあげて宣言した少女は、んんーっと小さくうなっている。

歳を重ねても、んんーってやってえい! は健在であるようだ。

「アリス? えっと、そんなに溜めてなんの魔法を使うつもりかな?」

イヤな予感がしたのだろう。

アリスに問いかけながら、ユージがすっと前に出て大盾をかざす。

スライムを警戒してではない。

すでにスライムは炎の壁に取り囲まれているのだ。

ユージが盾を構えたのは、アリスの魔法を警戒して、である。

この世界の魔法は、フレンドリーファイアがあり得るので。

「えーいっ!」

めずらしく溜めを作ったわりに、アリスは詠唱しなかった。

どうやら詠唱するのはエルフに教わった魔法だけであるらしい。

アリスの手から放たれた火の玉が、炎の壁の向こう側へ。

そして。

ゴウッ! と音を立てて、炎が広がった。

「さっきも使ってた炎の絨毯……? いや、また違う魔法かな?」

「うーんとね、さっきのとは別のヤツ!」

「儂も見たことがないのう。アリスは天才じゃな!」

炎の絨毯は広範囲で静かに燃える炎の魔法。

先ほどの反応を見ると、バスチアンも知っている火魔法であったようだ。

だが。

着弾後、轟々と音を立てて燃えるこの魔法は。

バスチアンも知らないものであるらしい。

掲示板住人の関与が疑われる案件である。なにしろナパームっぽいので。

《……ニンゲンはすごいのだな》

《あ、いや、あの、バスチアン様もアリスもけっこうすごい使い手みたいなので……人間の魔法使いが全員これができるわけじゃないっぽいですよ?》

ヒクヒクと唇の端を震わせるリザードマンに説明するユージ。

ユージの言うように、二人が標準以上なのは確かである。

事実、アリスの魔法に、博識なケビンもエルフのハルも目を丸くしている。

「あ、消えた。持続時間は短いんだ」

「ふうむ、では儂の炎の壁も消してみるとしよう」

「じゃあボクが反対側にまわってみるよ! 生き残りがいたら面倒だからね!」

ユージたちに言い残したハルが、風魔法を使って跳ねまわって遠ざかる。

アリスのナパームに続いてバスチアンの炎の壁が消える。

後に残ったのは、土がむき出しになった窪地だけだった。

コタローがヒクヒクと鼻を動かして顔をしかめる。ちょっとこげくさいわね、とでも言うかのように。

ユージたちが見ているうちに、乾いた窪地に周囲から水が流れ込んでいく。

《あれだけの量のスライムを……跡形もなく……》

《あ、あは、あはは》

驚いたときは目を丸くする、という動作はリザードマンも同じらしい。

ぎょろりと目を開いて縦型の瞳孔を露にするリザードマン。

ユージはごまかすように笑うだけである。

「ねえねえユージ兄! アリス、これで位階が上がるかなあ?」

「上がるんじゃないかなあ……どうですかねケビンさん?」

「先ほどの分、それから今回。あっさり勝っていますけど、かなりの数を殺していますからね。少なくとも二度分は上がるんじゃないでしょうか……」

「一気にレベルアップもあるんだ。まあそりゃそうだよなあ」

「アリスはいまより強く……」

「ふふ、シャルルや、負けてられぬのう」

物理攻撃メインのリザードマンを悩ませていたスライムの群生。

火魔法に特化したユージたちのパーティは、あっさり殲滅したようだ。

火力過多である。

スライムの群生地から窪地に。さらに水が流れ込んで池となった場所を見つめるユージの耳に、カチャカチャと独特な足音が聞こえてくる。

振り返ったユージが見たのは、こちらに近寄ってくる数体のリザードマンだった。

うち一体は先ほど会ったリーダー格のリザードマンであるようだ。

ユージは、というかこの場にいた人間もエルフも見分けることができなかったが。

トカゲの個体差など識別できなくて当たり前である。

コタローだけは匂いで気づいていたようだ。

《おばば様、お待ちを!》

《これは……あれだけおったスライムたちが……》

《おばば様。我らの判断でニンゲンに依頼しました》

《それは構わぬのじゃ。それよりも……》

シワだらけのリザードマンが、チラリとアリスに目を向ける。

近づいてくる途中でアリスの火魔法を見ていたのだろう。

《その者、ローブをまといて乾いた野に降り立つ。失われし湿地を取り戻し、リザードマンを清浄な水場に導かん……》

《あの、初めまして? ユージと言います。アリスのことですかね? その、伝説とかですか?》

《いや? 見たままの感想じゃが?》

《あ、はい》

おばば様と呼ばれたしわくちゃのリザードマンとユージの会話はどこかズレていた。天然同士であるらしい。ツッコミ不在である。

そもそもユージ以外の人間には言葉が通じていない。

ただ一人、いや、ただ一匹。

コタローだけが、足下でワンワンッ! と吠えたてるのだった。もったいつけていってんじゃないわよ、ゆーじもはいじゃないし、とばかりに。

スライムを撃退して、アリスの火魔法の余波で乾燥した元湿地に。

コタローの咆哮が虚しく響くのだった。

その意味を理解する者は誰もいない。コタローは賢いが犬であり、ただの犬の鳴き声なので。