軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 ユージ、ホウジョウ村にアリスの兄・シャルルと祖父・バスチアンを迎える

「アリス!」

「わあい! えへへ、ひさしぶり!」

「アリス、ほーら、お祖父ちゃんもいるんじゃよー」

「ユージさん! 約束通り、連れてきたよ!」

「ありがとうございますハルさん! シャルルくん、バスチアン様、おひさしぶりです!」

「えへへ、シャルル兄、シャルル兄だあ」

しっかりと両腕で抱きしめて、シャルルの胸にぐりぐりと頭をこすりつけるアリス。

二人の横ではコタローが、よかったわね、ありす! とばかりに跳ねまわっている。

「その、アリス? のう、ひさしぶりのお祖父ちゃんにも挨拶を……」

「お祖父ちゃん! お祖父ちゃんもおひさしぶり!」

「うむうむ、孫娘はいいのう」

アリス、度重なる声かけでようやく祖父のバスチアンに挨拶する。

バスチアンはそれだけでデレッと相好を崩していた。爺バカである。

「あれ? その、シャルルくんとバスチアン様と、アリスの繫がりがバレるとマズいんじゃ……」

「ユージ殿、いまは問題ない! お忍びじゃからな! ここにおるのはただのシャルルで、儂も貴族ではなくただのバスチアンじゃ! ユージ殿もケビン殿もそのように振る舞うように!」

「え、ええっ?」

「畏れ多い気はしますが……了解しました。ユージさん、バスチアンさんの言う通りです。年長者、アリスちゃんのお祖父さんとして敬うのはいいですが、貴族とは覚られないほうがいいかと」

「は、はあ……」

「うむ、その通りじゃ! 遠くで暮らしているアリスの祖父と、アリスの従兄ということでよろしく頼む! ほーれアリス!」

「お祖父ちゃん、おヒゲがチクチクする!」

シャルルとバスチアンは、裏社会も悪行を重ねる貴族も敵にまわすと決意した。

弱点として狙われかねないアリスの存在は知られないほうがいい。

ここが王都やバスチアンの領地から遠く離れた辺境の開拓地で、誰にも知られないように来たとはいえ、ここでは貴族ではなくただの平民として過ごすようだ。

アリスの身に危険が及ぶのを避けるために。

決して、家族にも心を隠す貴族ではなく、平民の祖父として孫娘を溺愛するためではない。

頬ずりという貴族ではありえない振る舞いで、アリスにキャッキャと文句を言われているが。

「わかりました。じゃあ俺もバスチアンさんって呼ぶことにします。失礼があったらすみません」

ユージ、ケビンのアドバイスもあってバスチアンの言葉に従うようだ。

ジットリした目でケビンとコタローがユージを見つめているのは、ゆーじ、これまでしつれいがなかったつもりなの、と言いたいわけではあるまい。たぶん。

「うむ。ユージ殿、それで頼む」

「わかりました、バスチアンさん。あれ? ハルさん、研究者の人は?」

「ユージさん、研究者はほかの冒険者に護衛を頼んで陸路で来ることになってるよ! ユージさんが稀人なのはともかく、シャルルくんたちと違ってあっちは移動したことを隠す必要ないからね!」

「あ、たしかに」

「プルミエの街のケビン商会に行くようにって言っておいたから、もう何日かしたら着くんじゃないかなあ」

「……あとで店まで誰かを走らせておきます」

ケビン、初耳だったらしい。

王都を拠点にする1級冒険者でエルフのハル、あいかわらずマイペースであるようだ。

あるいはエルフらしい感覚なのかもしれない。

「えへへ、じゃあホウジョウ村では、シャルル兄はシャルル兄なんだね!」

「そうだねアリス。従兄ってことにしておけば、兄って呼ばれてもおかしくないからって」

「うむ。シャルル、ここでは儂をお祖父ちゃんと呼んでいいからの! ここだけじゃぞ!」

「わかりました、お祖父ちゃん」

「おお、おお……くふふ、病み付きになりそうじゃ……」

家族であっても、屋敷の中でも、貴族は貴族であらねばならない。

シャルルが貴族になることを決めて以来、バスチアンは孫に厳しく接していた。

が、ここでは貴族ではない。

というか貴族と気づかれないように振る舞わなければならない。

そう、決してただの爺バカではなく、気づかれてはいけないから仕方ないのだ。バスチアンが二人の孫にデレデレしているのは、平民と思わせる演技なのだ。

「服装は……問題なさそうですね。ユージさん、エンゾさんは気づくでしょうし、ブレーズさんにも話しておいたほうがいいでしょう。ジゼルとユルシェルには私から話しておきますね」

「あ、はい、わかりました」

「あとは……お義父さんか」

ケビン、二人が貴族だとバレないように算段を立てている。

ユージがエルフの少女・リーゼを連れて王都に行った際、エンゾと針子のユルシェルが同行していた。

屋敷にも出入りしていたため、エンゾとユルシェルは二人のことに気づくだろう。

当然、二人と面識があるケビンの妻のジゼルも、ゲガス商会の元会頭・ゲガスも。

「大丈夫ですかね?」

「ええ、まあ問題ないでしょう。そうですね、シャルルくんは王都のギルド学校に通っていて、王都で隠棲していたお祖父さんと一緒に遊びに来た、という話にしましょうか」

「うむ! ではシャルルは、魔法ギルド学校とすればよい! 儂はかつて魔法ギルドで働いていた市井の魔法使いで、引退したという設定でどうじゃ?」

「そうですね、お二人とも……魔法を使うな、魔法の話をするな、というのは難しいでしょうから。アリスちゃんが魔法の話をしてくるでしょうし」

立ち話でざっくりと打ち合わせた二人のバックストーリー。

貴族という身分とシャルルが通うのは上級学校だという違いこそあれ、ほぼ真実である。

ずさんな話ではあるが、真実と嘘が交じり合っているほうがすべて嘘より見抜きづらいものだ。

「あのね、アリスいろいろ新しい魔法を覚えたんだよ! エルフさんたちに教えてもらったの!」

「そっか、アリスも勉強してるんだね」

「ほうほう、魔法に長けたエルフの教えか。アリス、じゃがシャルルもハル殿に教わっておるぞ?」

「わあ! じゃあシャルル兄と魔法を見せ合いっこしなくちゃ!」

「えっと、その、アリス? 森で使っても危なくないヤツでね?」

ふんす、と張り切るアリスにユージがおそるおそる声をかける。

賢明な声かけである。

「はーい! あ! ユージ兄、シャルル兄とお祖父ちゃんはどこに泊まるの?」

「ウチに招待するよ。シャルルくんには家の中を魔眼で見てもらいたいから」

「やったあ! アリス案内するね!」

「バスチアンさん、ユージさんの家のことは口外しないようにね! じゃないとボクらエルフが……」

「うむ、承知したハル殿。アリスとシャルルの恩人じゃからな、儂もユージ殿を守りたいと思っておる!」

そもそもユージがシャルルを開拓地に呼んだのは、その魔眼で『元の世界の物に魔素が宿っているか』見てもらうためである。

とうぜん、ユージの家の中に入ってもらうつもりであった。

まあユージなりにシャルルもバスチアンも信頼しているのだろう。

なにしろその気になれば、権力で開拓地を潰すこともユージとアリスを囲うこともできたはずなので。

「さあアリス、ここで話してないで、みんなのところに戻ろうか!」

「うん、ユージ兄! お家より先にホウジョウ村を案内しなくっちゃ!」

「アリスちゃん、缶詰工場と針子の作業所の中は案内しないようにね? ではユージさん、私は先に戻ってエンゾさんとブレーズさん、ジゼルに話をしておきます。ゆっくり来てください」

「あ、わかりました。よろしくお願いします!」

ペコリとケビンに頭を下げるユージ。

会釈を返してケビンはさっそうと駆け出す。

何が楽しいのか、ユージたちに付きまとっていたオオカミたちは、走るケビンを追いかけていた。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ねえねえ、シャルル兄はどうやってここまで来たの? ずっとお船?」

「王都から馬車で離れて、そこからお祖父ちゃんと二人で抜け出して……その後でハルさんと合流して、あとは船だよ」

「そっかあ! エルフさんのお船はすごいよね! ドボンって潜れるんだもん!」

「ふふ、そうだねアリス。でもあんまり大声で言わない方がいいよ?」

「そうそうアリスちゃん、それはヒミツだからね!」

コタローを先頭に、ホウジョウ村の出入り口へ向かってゆっくりと歩いていくユージたち。

アリスはシャルルと手を繋いで、いつになくご機嫌である。

ユージ、バスチアン、ハルはその様子を微笑みながら見守っていた。

「そうだ! シャルル兄は何してたの?」

「ずっと勉強して、この春から学校に通ってるんだよ」

「学校! ねえねえ、学校ってどんなところ?」

「そうだなあ、あとでゆっくり話してあげようか」

「わあい! アリス、今日はシャルル兄と一緒に寝る!」

「はは、そうだね、ひさしぶりにそうしよう」

「のうアリス、お祖父ちゃんとはどうじゃ?」

「ええー? 大人は一人で寝るんだよ!」

「そ、そうか……」

バスチアン、あっさり振られたようだ。

がっくりと肩を落としている。

「バスチアンさん……そ、そうだ、こっちに来る時、大丈夫でしたか? うまくごまかせましたか?」

へこむバスチアンに話しかけるユージ。

フォローのつもりか。

ユージも少しは気がまわるようになったのかもしれない。

「う、うむ、領地の儂の館に馬車ごと入ることになっておる。館の者には気づかれようが……何、お忍びで領地をまわるのはいつものことじゃからな。今回もどこぞをまわっていると思われておるじゃろう」

「いつものことって……」

どうやらユージのまわりには自由人が集まるらしい。

なにしろ横を歩いていたエルフのハルは、バスチアンの言葉にうんうんと頷いている。みんなに内緒でふらっと出かけることってよくあるよね、と言わんばかりに。

「見えてきた! シャルル兄、お祖父ちゃん! あそこがホウジョウ村の入り口だよ!」

小さな手で前方を指さすアリス。

ホウジョウ村の西、外側の水路からぐるっとまわって南側の出入り口へ。

再会を喜んでゆっくり歩いていた一行は、ようやく村の入り口にたどり着いたようだ。

すでに話を終えたのか、そこにはケビンとジゼルの夫婦、副村長のブレーズと元冒険者のエンゾの姿が見える。

「アリス案内するね! いいところなんだから!」

誇らしげに胸を張って、シャルルと繋いだ手をぶんぶん振るアリス。

ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

ユージはホウジョウ村開拓地に、アリスの兄・シャルルと祖父のバスチアンを迎えた。

間もなく。

『魔素が見える』魔眼によって、ユージの家のことが少しはわかるだろう。

元の世界に魔素は存在するのか。

掲示板住人や元の世界の研究者たちが知るのも、もう間もなくである。