作品タイトル不明
第七話 ユージの妹サクラ、ケイトと一緒にテッサの姉と母と会う
ジョージとルイスが宇都宮観光と不動産めぐりをしていたその日。
ユージの妹・サクラと、稀人のキースの子孫・ケイトの姿は別の場所にあった。
クールなニートの運転で、二人は別の場所に向かっていたのだ。
レンタルしてきたチャイルドシートにサクラのベイビーを乗せて。
ちなみに、ワンボックスカーには警備会社から派遣された男女も乗っている。
車移動でも同乗するようだ。
宇都宮から高速道路を利用して2時間ちょっと。
北関東に住む人々にとって、圏央道の破壊力はすさまじい。
なにしろ都心の渋滞に合うことなく遠方へ行けるようになったのだ。
東北道から圏央道に乗り継いで青梅へ。
目的地は、稀人のテッサの母と姉のもとである。
「はじめまして! 私はユージの妹で、サクラです」
「はじめましてサクラさん。高橋 土理威夢(どりいむ) ……えっと、テッサの姉の華です」
『ルイスに聞いたからね! テッサはアタシも知ってるよ! キースの話は聞いた? アタシはキースの子孫のケイト!』
クールなニートがサクラとケイトを連れていったのは、青梅市にある一軒の住宅。
そこにいるのはもう一人の稀人の家族。
テッサの姉と母であった。
高橋家の和室に上がってテーブルを囲む五人。
大人たちは座布団の上に座っているが、ベイビーは取り外したチャイルドシートで横になっている。どうやら用意したのは一台でベビーシート、ベビーキャリー、ベビーラックにもなるタイプらしい。便利な世の中である。
サクラ、ケイト、華、華の母親。
時代も国も違えど、血縁関係にある人が異世界に行き、こちらに残された者たちだ。
「そうですか、ケイトさんはキースさんの子孫……」
『そう、だから三人と違ってあんまり実感はないんだ! 爺ちゃんだって、その婆ちゃんから行方不明になった、いつか帰ってくると信じてるって聞かされてたぐらいでさ』
ケイトにとって、異世界に行ったキースは身近な話ではない。
子供の頃に祖父から聞かされた、神隠しにあったという先祖の話。
祖父やその父、キースの嫁である祖父の祖母はもちろん苦労したようだが、それはただの昔話である。
20才のアメリカ人女子大生に実感はない。
というかケイトのまわりにいる大学生だって、行方不明は珍しいものの、先祖を急に亡くしたという話は珍しいものではないのだ。
なにしろ100年以上も前、20世紀初頭のことである。
「うん、ケイトはそうだよね。それに私は、お兄ちゃんはいまも生きてて連絡が取れるし……」
ケイトの言葉を通訳していたサクラが続ける。
サクラにとって、異世界に行ったユージは身近な話である。
突然なくなった家、行方不明になったユージと愛犬・コタロー。
友達の恵美が気づき、サクラが知った掲示板の存在。
兄のユージが異世界に行った。
原因不明の事態だが、サクラはネットを通じてユージとコミュニケーションが取れる。
音声こそ理解不能なので会話はできない、直接は会えないものの、メールもチャットもできるし、ビデオ通話で通話もできる。
絶対に会えないが、遠距離で生活している状態とそれほど違いはない。
だが。
「そう……ケイトはともかく、よかったわねサクラ」
よかったわね、と言いつつ複雑な表情を見せる華。
華にとって、異世界に行ったテッサは身近な話である。
登校途中に行方不明になった弟。
必死に捜索するも、手がかりは何一つ残されていなかった。
心配して、自分を責めて、母を慰めて、それでも生活は続いて。
情報もなく、やがて自分の気持ちに踏ん切りをつけて。
約10年。
ようやく知った弟の所在。
弟は異世界に行って、よくわからない冒険をして、嫁たちを娶って幸せに暮らし、寿命で亡くなったのだという。
「華……」
「ほら、そんな顔しないでサクラ。ユージさんがいなかったら、弟がどうなったかもわからなかったの。行方不明のほうがいろいろ考えちゃうから……」
身近な話で、しかも亡くなっていた。
華とその母親の気持ちを思って涙ぐむサクラ。
むしろ華に慰められている。
「幸せだったってわかった。お母さんも私も、それで救われた気がするから。ユージさんのおかげよ!」
席を立って近づき、サクラの肩を抱く華。
人の温もりがきっかけになったのか。
サクラ、続けて華の目から涙が落ちる。
二人の肩を抱くように、ケイトが長い腕を伸ばし。
キース、テッサ、ユージ。
それぞれの血縁者は、ひとかたまりになるのだった。
「みなさん、よろしいでしょうか?」
32才のサクラ、28才の華、20才のケイト。
肩を抱き合いながら密着する三人の女性に話しかける男。
勇者である。
「みなさん、お茶が入りましたよ。ほら、華もいつまで泣いてるの」
勇者に続いて、家主のおばさまが三人の女性に声をかける。
二人目の勇者である。
いや、年配のおばさまに怖いものなどない。
クールなニート、続けてテッサの母の声かけでようやく離れる三人の女性。
涙を拭い、お茶を口にして気持ちを整えているようだ。
そんな三人の行動を無視して、クールなニートは持参したノートパソコンを開いてセッティングをはじめている。
「華さん、サクラさん、ケイトさん。そろそろ時間です」
「あ、もうそんな時間ですか」
『楽しみだね! でも、アタシがいてよかったのかい?』
『いいのよケイト! というか、お兄ちゃんから言われたから。キースさんのことを知ってる人を連れてきたんだって!』
稀人の血縁者たちが集まったのは、おたがいの情報を交換するためである。
だがそれだけではない。
クールなニートがソフトを起動する。
立ち上がったのは、おなじみのソフト。
Skyp○である。
どうやらネットが繋がる環境を利用して、異世界にいるユージとコミュニケーションを取るようだ。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
『これが ぱ(・) そ(・) こ(・) ん(・) ……』
『そうよユリ! これでユージさんが元いた世界と繋がるの! テッサの故郷、それから……』
『キースの故郷ね! ふふ、楽しみ!』
『あの、二人ともちょっと離れてください。操作しづらいです……え? アリス?』
ホウジョウ村開拓地、ユージの部屋。
パソコンデスクの前に腰掛けるユージは、美しい女性に挟まれていた。
挟まれていた、だけではない。
ぷくっと頬を膨らませたアリスが、イスに座ったユージの上に腰掛ける。
左右に二人のエルフ、ヒザの上に少女。
何人かのコテハンが見たら血涙を流す光景である。
『ごめんなさいユージさん、興奮しちゃって。これでいい?』
『あ、はい。時間になりましたし、繋ぎますね』
『ええ、お願い!』
ユージのパソコンのモニターにはウェブカメラがついている。
とはいえ、モニター備え付けのカメラはパソコンを操作する一人のためのものだ。
しかも元いた世界とは音声が通じないため、モニターに映る言葉を読める距離までしか離れられない。
映る画角が広くないため、二人のエルフはユージに密着するしかないのだ。
両手に花である。
一人は同郷のテッサの嫁で、もう一人はいまもキースに愛情を抱いているようだが。
アリス、密着した二人のエルフにちょっと嫉妬したらしい。
Sky○eのコール音が何度か鳴った後、相手が応答する。
モニターに相手の姿が映る。
『これにチャットを同時起動して……よしっと』
『テッサのお姉さまと……この女性がユージさんの妹さんかしら?』
『あ、そっか、イザベルさんも初めてでしたっけ。そうです、妹のサクラです。華さんとサクラが並んでるから、あとの一人が……』
チラリと右に目を向けるユージ。
そこにいたエルフの女性・ユリアーネは、静かに涙を流していた。
『ええ、わかるわ……女性だし、あの人とは違うってわかってるけど……覚えてる。ううん、思い出した。ふふ、キースそっくり』
稀人のキースの世話をして、キースを愛したユリアーネ。
元の世界に妻子がいたキースは、その気持ちを生涯受け入れることはなかった。
まあ遺した手紙には、愛していると書かれていたが。
ユリアーネはモニターに映るケイトを見て、稀人のキースの面影を感じたらしい。
『あらホント! 懐かしいわね!』
ユリアーネの言葉に同意するリーゼの祖母・イザベル。
キースはエルフに保護されて以降、エルフの里で暮らしていた。
当然イザベルとも面識がある。
稀人との恋を叶えて結婚し、やがて死別したエルフのイザベル。
稀人との恋は叶わず死に別れ、忘れ薬を飲んだものの思い出したユリアーネ。
血縁者の三人が集合した日本にも負けず、こちらはこちらで複雑である。ユージ以外。
ともあれ。
S○ypeを通して、この世界で稀人に深く関わったエルフの二人と、稀人の血縁者はコミュニケーションを取るのだった。
ケイトはキースと直接の面識はないが、それでも祖父がその祖母から聞いたいくつかのエピソードを披露していた。
まあそれよりも、ユリアーネが『あの人は……』とずいぶん美化した思い出を語ることが多かったが。
日本に来たユージの妹・サクラと、キースの子孫・ケイト。
ジョージとルイスと別行動を取った二人は、稀人の関係者で集まって語り合ったようだ。
ケイトと華と、異世界に残された者たちと。