軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 ユージ、宿場予定地でケビンとゲガスと話をする

「ユージさん、アリスちゃん! ケビンさんもエンゾさんも、こんにちは!」

「ちゃーっす!」

「みなさんこんにちは! お元気そうで何よりです!」

「ちゃーっす!」

「はは、アリスちゃん、あの挨拶は真似しなくていいですよ」

「ゲガスさん、お帰りなさい!」

「けーりーっす!」

「おう、いま帰った。今年のワイバーンは終わりだってよ。それで、異常はねえか?」

「ゲガスさん、それが、その……」

「ん? お客人か?」

「はい。領主様の依頼で、家を建てにきたそうです」

「ああ、そういやそんなこと言ってたか」

ホウジョウ村開拓地から一日弱。

プルミエの街と結ぶ道の途中には宿場予定地がある。

ゲガスと7人の男たちが開拓を進める地は、いまは簡素な家が一軒に補強したテントが二張り、粗末な馬屋が一棟のみ。

すでに井戸もひかれていて、伐採も順調だ。

領主が秋に泊まった際、旧知のゲガスに家を一軒建ててやろうと話をつけていた。

どうやらゲガス不在の間に、必須の建材を持ち込んで職人たちが到着していたようだ。

「お疲れさん。詳細は聞いてんのか? ああ、じゃあ問題ねえな。よろしく頼む。人手が必要ならアイツらを使っていいからよ」

測量らしきものをしていた職人に声をかけるゲガス。

指示することに慣れた人間の態度である。まあゲガス商会の元会頭なので。

「おお、ここにもちゃんとした家が建つのか!」

「ふふ、ユージさん、ここに建つのは宿ですよ。大部屋の簡素なものでしょうがね」

「え?」

「なにしろ宿場予定地ですからね。行き来する私たちが使う宿です」

「うわあ! アリスが住んでた村にもホウジョウ村にもお宿はまだないんだよ! すごいねえ!」

ケビンの解説を聞いたアリスは、ぴょんと跳ねて驚きをあらわにしている。

少女からストレートに「すごい!」と言われて、開拓に励んできた7人の男と職人たちの顔がほころぶ。

「宿ができる……行きやすくなるなあ。あとは道と……」

一方で、ケビンの言葉を聞いたユージは考え込むのだった。

道造りに必要な魔法はアリスが教わった。

だが、不特定多数の人に見られる可能性があるためエルフたちが土の道を補強することは断られたのだ。

往来が増える道の舗装をどうするか。

そしてもう一点、ユージの頭を悩ませていることがあるようだ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「それでユージさん、なんの相談ですか?」

「えっと、みんなと治安維持の方法をいろいろ話していて」

「みんな? ああそうか、そんなこと言ってたな」

「ええお義父さん。エルフの里で、ユージさんが漏らしてましたねえ」

ユージは漏らしたが漏らしていない。漏らしたのは情報だけだ。

ユージが元の世界と連絡が取れるということは、ケビンとゲガスは知っている。

ケビンの言葉通り、エルフの里で漏らしてしまったので。

時刻は夜。

プルミエの街に向かう宿場予定地で、ユージはケビンとゲガスに相談を持ちかけていた。

アリスは仮設の建物の中で就寝、コタローはその護衛である。

コタロー配下のオオカミたちは宿場予定地へ向かうユージたちについてきて、途中で森に散っていった。今日は外泊する気分のようだ。あるいは周辺を警戒せよ、というコタローの命令があったのかもしれない。

「はい。それで相談なんですが……いずれホウジョウ村の入り口で村に来た人をチェックする予定ですけど、この宿場でもチェックしたらいいんじゃないかって。ほら、街からウチの村まで一本道じゃないですか」

「ユージさん、チェックとは衛兵による検査ということですかね?」

「あ、はいそうです。ケビンさんたちと王都に行った時の宿場町みたいなヤツで。ただ、ここでやるのはもっと厳しく検査したほうがいいんじゃないかと」

「ふむ。国境を越える際の関所みたいなもんか? えらい待たされたうえにやたら細かくてなあ」

「そうですね、関所みたいな感じで。でも表立ってやるんじゃなくて、知らない人はチェックされてるのも気づかない、みたいな」

「ほう? ユージさん、どんな感じだ?」

「例えばここに泊まる時に、ホントは何かを見せなきゃいけないとか、合言葉が必要とか……」

「ふふ、ユージさんの仲間はずいぶん頭がまわるようですね。なるほどなるほど」

「くくっ、許可を得ている者だけが知っているのか。まあここは一本道だ。迷い込むようなヤツもいねえだろうからなあ」

ユージ、というかユージのバックにいる掲示板住人のアイデアにニヤリと笑うケビンとゲガス。

どうやらお気に召したらしい。

「はい。その、街を出る時に違う行き先を言うようなヤツは、街では止められないだろうって。俺も聞かれましたけど、街を出る時に行き先はいつも聞かれるんですよね?」

「ええ、それも門衛の仕事の一つです。なるほど、正直に言う者はそこで止めればいいですもんね。申請と許可が必要だ、とでも言って」

「ケビンの商品やユージさんを狙ってくるようなヤツらは正直に言わねえだろうからなあ。森から来ようとするヤツはともかく、旅人や商隊を装ったヤツらは……」

「はい、ここで止められればホウジョウ村は安全じゃないかと。その、ホウジョウ村と違ってここの人たちはみんな戦えそうですし、ゲガスさんもいるみたいですし」

「くくっ、いいんじゃねえか?」

「お義父さん? 自重してくださいね?」

日焼けした肌に禿頭、長いあご髭。

海賊面したゲガスがニンマリと笑う。

『血塗れゲガス』、見た目は悪役である。

「俺やケビンさん関連の人たち、開拓民、開拓民の家族、職人さんたちぐらいですからね。発展していったとしても、ホウジョウ村の出入りってすごく少ないはずなんですよ」

「まあそうですね。缶詰工場の工員も針子たちもケビン商会の従業員で、ホウジョウ村は生産場所なだけ。仕入れたければプルミエの街のケビン商会、私の店に来ればいいんですから」

「それでも現地に行くってんなら真っ当な商人じゃねえわな。荷を盗もうとしてなくても、まあ情報は盗ろうと思ってんだろ」

「ですよね。ホウジョウ村は行き止まりで、その先には何も……エルフの里がありますけど、それは知られていないわけで」

「そうですねえ。ええ、ユージさん、ここで調べるのはいい案だと思いますよ」

「表向きは宿場予定地、裏は関所か。合言葉じゃ知られるかもしれねえから、まあ物だろうな。割り符かなんかでいいんじゃねえか?」

「あ、やっぱそういうのあるんですね。じゃあ、この線で領主夫妻か代官さまに話をしようと思います。街で許可するのは代官さま、こっちで許可するのは俺みたいな感じで」

「ああユージさん、そん時はどこまでやっていいかも決めないとな」

「え? どこまで?」

「お義父さん……ユージさん、お義父さんは許可なしで抜けようとした者をどうするか決めておきたいそうですよ。捕らえるのは前提として、生きたまま街かホウジョウ村に引き渡すのか、それともここで殺し……行方不明になってもらうのか」

「え? その、なんか選択肢がおかしくないですか?」

「あとはソイツが持っていた物だな。街に渡すか村に渡すか、俺たちがもらっていいのか」

ギラギラと目を輝かせる『血塗れゲガス』と『万死のケビン』。

ユージ、引き気味である。

「その、ひょっとしたら理由があったり、うっかり忘れてとかありえますし、できれば穏便にいこうかと……」

「穏便に……生かしておく、か。まあそうだな、旅してるわけじゃねえんだ、そんなことがあったら背後関係を聞いておいたほうがいいか」

「そうですねえお義父さん。幸いユージさんには領主とバスチアン侯爵の後ろ盾がありますし……ひどいようなら『稀人の安全を脅かす存在』がいると知らせなきゃですからねえ。捕まえたらちゃあんと質問しませんと」

この世界にはモンスターがいて、盗賊やならず者もいる。

しかも、この状態であってもテッサが基礎を築いたこの国はまだ治安がいいほうなのだという。

ユージはちょっと引いているが、大切なことなのだ。

ゲガスもケビンも、質問ではなく尋問する気満々のようだが。まあ尋問どまり、だろう。たぶん。

「俺は賛成だ。ユージさん、まあ領主夫妻と代官に話してみてくれ。決まったらできれば書類は欲しいし、俺も直接話しておきてえ」

「はあ……」

「隠れ関所になるにはかまわねえけどよ、せっかくアイツらが更正してんだ。いらねえ罪は背負いたくねえからな」

「あ、はい、わかりました」

「更生したかどうかの最後の確認。誘惑、激昂、血の試験。お義父さん、ついでに利用するつもりですね?」

「まあな。やるとしても現役で犯罪奴隷だ、領主に話をつけてからだな。ケビン、アイツらには黙ってろよ?」

「もちろんですよお義父さん」

ユージをしり目に何やら通じ合うゲガスとケビン。

王都のゲガス商会では、ゲガスがどこからか拾ってきたならず者を見習いに雇い入れ、イチから教育することもあった。ケビンは違ったようだが。

行商人としての知識、技術、戦闘力など必要な能力を鍛えるほかに、更正できたかどうか調べる試験もあるようだ。

性根が真っ当になったか調べるために。

試験を乗り越えて、変わったのだと自分に自信を持たせ、コイツはもう問題ないと周囲も信じるために。

「え、えっと、じゃあそういうことで。今回、少なくとも代官さまとは会えるはずですから! すぐ決まるかどうかはわからないんですけど、とりあえず話してみます!」

「おう、頼むわユージさん。俺は街に行かないからよ。ここで宿の建設を見ておきてえんだ」

「ユージさん、安心してください、私は同席しますね。隠れ関所の案、通すお手伝いをしますから」

ユージに向けてニッコリと微笑むケビン。

ホウジョウ村の安全確保のための掲示板住人たちのアイデアは、ゲガスとケビンのハートに響いたようだ。

乗り気な二人にユージはむしろ引き気味であった。

見た目がアレな男たちが運営する宿場予定地は、追いはぎ宿となるようだ。

いや違う。

そうなる場合も、領主夫妻や代官の公認があるのだ。

実は関所なだけであり、有益な秘密が多いホウジョウ村に盗賊や密偵の侵入を防ぐための策である。

ゲガスは海賊風な見た目だが商会の会頭だったし、7人の男たちは更正しているのだ。

真っ当な宿場となるはずである。たぶん。