軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 ユージ、ワイバーン戦の後始末をする

「おーい、イザベルさん! 確認するから魔法を止めてくれ!」

アリスの火魔法が腹の中で炸裂したワイバーンは、いまだ宙に浮いていた。

目、鼻、口、炎の球がつけた傷跡、あと一箇所からダバダバと血を流して。

ぐったりと生気がないワイバーンが空中に留まっているのは、リーゼの祖母でエルフの長老の一人でもあるイザベルの風魔法のせいだ。

「あらごめんなさい、忘れてたわ」

おほほ、とばかりに口元に手を当てるイザベル。

魔法を止めたのだろう。

宙にいたワイバーンが落下し、グチュっとやけに水っぽい音を立てて地面に堕ちる。

魔法の威力に驚いているのか、ユージはヒクヒクと頬を引きつらせてアリスを見つめていた。

一方で。

「はは、ははは! ブレーズさん、どうですか!? あれだけで死んでますか!?」

落下したワイバーンに息があるかどうか、確認しようと近づく元3級冒険者パーティのリーダー・ブレーズに質問するケビン。

ユージと同じく最後方の塹壕に陣取っていたケビン、やけにテンションが高い。

「……ああ死んでるわコレ。ははっ、アリスちゃんはすげえなあ」

ピクリとも動かないワイバーン。

警戒しながら近づいたブレーズだが、用心はムダだったらしい。

ワイバーンが死んでいることを確認したブレーズが、片手を天に突き出して叫ぶ。

「ワイバーンは死んだ! 全員無事で、ホウジョウ村開拓地第三次防衛戦の勝利だ!」

ホウジョウ村の中心で、勝利をさけぶ。

ムラチューである。ドラマ化はしない。映画化はするが、使われなさそうなシーンである。楽勝すぎたので。

ちなみに第一次防衛戦はユージがこの世界に来てから4年目のゴブリンとオークの群れの襲来、第二次防衛戦は5年目のワイバーン戦である。

ユージたちは無傷で撃退しているが、通常の開拓地であればどれも壊滅的な被害が出てもおかしくない戦いであった。

ホウジョウ村開拓地の戦力は、当時から過剰気味であるようだ。

「やったあ! ユージ兄、アリスの魔法で 殺(や) ったんだよ! アリス、位階が上がるかなあ」

「うん、見てたよアリス。アリスはすごいなあ!」

引きつった笑いながらもきちんと褒めるユージ。義妹に甘い男である。まあモンスターが跋扈する危険な世界において、強いことは褒められて当然なのだが。

足下にいるコタローは、ブンブンと尻尾を振ってアリスのまわりをグルグルまわっている。すごい、すごいわありす、わたしもあれぐらいできるようにならなきゃ、とでも言いたげに。上昇志向たっぷりな女である。犬なのに。

ブレーズの宣言を受けて、建物の中で見守っていた開拓民たちも、塹壕の中で戦いの準備をしていた元冒険者たちも飛び出す。

ブレーズは弓士で妻のセリーヌと抱き合い、斥候のエンゾは妻のイヴォンヌと抱き合い、盾役のドミニクは妻と抱き合い、針子夫婦は手を取り合って。

元5級冒険者の独身男たちは、その様子をただうらやましそうに見つめていた。いいところを見せるチャンスだと意気込んでいたのに見せ場がなくて。まあ笑顔でいるあたり、完勝したことを喜んでいるのだろう。モテるよりも全員無事なことが大事なので。たぶん。

そして。

「討伐おめでとうございます! あ、ニナさん待って! 解体はちょっと待ってください!」

ケビンは、テンション高くワイバーンの死体に駆け寄っていた。

さっそく解体しようとナイフをかざした狩人のニナに叫びながら。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ケビンさん、皮を剥ぐのは任せていいんだな?」

「ええブレーズさん! いま手紙を括り付けてオオカミを走らせましたからね、お義父さんと私でやりますよ! くふ、くふふっ、小さな傷跡一つだけのワイバーンの皮……」

奇妙な笑い声を漏らして上機嫌な様子のケビン。

ブレーズもユージも、それどころか開拓民たちもどん引きである。

ワイバーンの皮は鱗の模様が美しく、高値で取引される。

ユージが元いた世界の『ワニ皮』のように。

アリスの火魔法一発で倒したため、丸々一匹分の皮が手に入ったのだ。

使える面積だけではなく、希少性の面からもその価値は計り知れない。

ケビンは笑いが止まらないようであった。文字通り。

「あ、安心してくださいね? ちゃんと討伐したみなさんから買い取る形にしますから!」

ケビンの宣言に、おおっと沸き上がる開拓民。

先ほどまで引いていたのに、現金なものである。

『はあ、内部で爆発させる魔法。堅い敵相手にテッサが考えて、お嫁さんに教えた魔法だと。でも、今回はアレでしたけど外側がもっと堅かったらどうするんですか?』

『ユージさん、その時は口に炎の球をぶち込むのよ! あとは目か、その、お尻か……』

『う、うわあ、えぐい……』

ワイバーンの死体の前で話し込んでいるのはユージとイザベルであった。

アリスはかがみ込んでワイバーンの傷跡を確かめている。

グイグイとワイバーンの身体を押すコタローを見て興味を惹かれたのだろう。

ユージも腰を落としてワイバーンの腹部に触れる。

「うわ、柔らかい。ワイバーンってこんな肉質……なわけないよなあ」

ボソリと呟くユージ。

皮ごしに伝わってきたワイバーンの腹の感触は、ブヨブヨだった。

まるで筋肉も内臓も骨もどうにかなってしまったかのように。

いや、実際どうにかなってしまったのだろう。アリスの魔法で。

「うーん、あの子がこの魔法を使った時は弾け飛んだんだけど……」

「ええっ!? アリスまだまだだなあ。アリス、もっとがんばる!」

「いやいやいや! アリスちゃん、この威力で充分ですから! むしろ最高です! 次の春もこの威力でお願いします!」

アリスが今回使った火魔法、本来の威力はこれ以上だったらしい。でなければテッサも『きたねえ花火だ』という台詞までセットで教えないだろう。いや、それ以前に教える必要がない。悪ノリである。

反省の言葉を口にするアリスを、慌てた様子で諭すケビン。

弾け飛んでしまったら皮は散り散り。

商人としてはおいしくないのだろう。

「あ、ケビンさん。やっと正気に戻ったんですね」

「私としたことが、お恥ずかしい。見るに内部はボロボロのようですから、今回は干し肉に加工するのは難しいでしょうね。毒腺も潰れて安全な部位があるかどうかも微妙ですから……」

「尻尾に毒があるんでしたっけ」

「はい。まあ今回は関係ありませんでしたけど」

本来、ワイバーンは危険なモンスターである。

空中に留まったまま毒がある尻尾で攻撃する。後脚のかぎ爪や鋭い牙が並ぶ口で攻撃する。後脚で掴んで空中から投げ捨てる、連れ去る。

開拓民となった元5級冒険者の5人は『パーティでなら身を守るのは問題ないけど、飛んで逃げられるから俺たちだけで仕留めるのは難しい』と語っていたほど。

元3級の『深緑の風』も、ワイバーンの油断がなければ仕留めきれずに逃げられるというほど。

本来は、仕留めきるのは難しいのだ。

「でもケビンさん、なんでゲガスさんを呼んだんですか? あ、倒したって報告ですかね?」

「ユージさん、お義父さんを呼んだのは解体のためです。ああ見えて、皮を剥ぐのが上手いんですよ。モンスターの」

ケビン、なぜ『モンスターの』という言葉を付け足したのか。

きっと、そこに意味はない。単に『血塗れゲガス』は行商の途中でモンスターに襲われることもあり、撃退後に商品とするため皮を剥ぐのが上手くなっただけだろう。きっと。

「あ、それで。やっぱり上手い人がやると違うんですか?」

「そうですねえ、『深緑の風』のみなさんも狩人のニナさんも上手いほうです。そうそう違いはでませんが、せっかく希少価値が高い一匹丸々ですから。少しでもいい状態でと思いましてね」

「はあ、なるほど」

「いやあ、ジゼルも驚くだろうなあ」

「あっ! アリス、今度ジゼルおねーちゃんにも見せてあげる! またワイバーンこないかなあ」

アリス、もはやワイバーンをデモンストレーションに最適な的扱いである。哀れ。

「いやいやアリス、危ないからね? 来ないほうがいいから! 今回はほら、イザベルさんがいたから余裕だったんだし!」

ユージの言うように、今回楽勝だったのはアリスの魔法の威力もさることながら、エルフのイザベルのおかげであった。

アリスの火魔法で仕留めたが、ワイバーンを止めたのはイザベルの風魔法なのだ。

あの状態であれば、アリスが魔法を使わなくても倒せただろう。

バリスタと弓とクロスボウで狙うだけの簡単なお仕事である。

「ふふ、ありがとうユージさん。でもちゃんと使わなきゃダメね、腕が落ちたわあ」

「あ、あれでですか……」

また鍛え直さなきゃ、と呟くイザベル。

長老の一人で過去の稀人・テッサの嫁だったエルフは、まだまだ上があるらしい。

さすが旦那と嫁と子供だけで一軍を破り、伝説にうたわれるだけのことはある。

ともあれ。

ユージがこの世界に来てから6年目の春。

二年続けて飛来したワイバーンは、あっさりと撃退されるのだった。

もはやただのボーナスステージである。

ちなみにこの夜、アリスは望み通り、位階が上がる痛みにうなされていた。

ホウジョウ村開拓地の戦力は、さらに過剰になるようだ。