軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 ユージ、開拓地に遊びに来たエルフに事情を説明する

『あのイザベルさん、「来ちゃった」って、ハルさんはもう王都に行っちゃいましたし水路も土壁も完成してますけど……』

『知ってるわよユージさん! ほら、ユージさんさえよければ、またテッサのお母さまと華さんと話させてもらおうと思って。私のお義姉さんとお義母さまなのよ?』

『あ、たしかに。えっと、向こうにも都合があると思うんで、とりあえず連絡を取ってみて……でもこっちがそれどころじゃないかも』

『え? 何かあったのかしら?』

『リーゼちゃんのお祖母ちゃんだ! こんにちは!』

「アリスちゃん、こんにちは。エルフの言葉がうまくなったわねえ」

『リーゼちゃんとしゃべるために勉強してるの! リーゼちゃんのお祖母ちゃんも、アリスたちの言葉が上手!』

「ふふ、やっと思い出してきたのよ。テッサがいた頃は、いろんな種族のお嫁さんたちがいたからね。みんなでいろんな言葉を教え合ってたものだわ。もうだいぶ忘れてるけど」

「へえええ! あ! アリス、あの魔法を見せたらみんなに褒められたんだよ!」

「あらあら、そうなのね。……そう、春。ユージさん、そろそろワイバーンが来るってことかしらね?」

「あ、はい、そうです。テッサの家族と連絡取りますけど、待ってる間に戦いになるかもしれませんし、話してる間に来たら……危ないんで出直してもらったほうが」

「ふふ、その辺は気にしないでちょうだい。ユージさん、何か忘れてないかしら? ケビンはどう?」

「え?」

「ユージさん……イザベルさんは長い時を生きた長老格のエルフですよ。弱いわけがありません。それに……」

「ああ、そりゃそうですよね。すみません、ちょっと忘れてました。それでケビンさん、『それに』ってなんですか?」

「ユージさん、バスチアン様の執事から聞いたでしょう? この国の興りを。いまの王都・リヴィエールが、独立の際に元の国に攻められたという話を」

「あ、はい。テッサが街を囲む石の壁を創って、住人は街を守るために決死の覚悟を決めたけど、テッサとお嫁さんたちと子供たちが無双したって……あ!」

「そうです。イザベルさんは、テッサのお嫁さんの一人です。ちなみにイザベルさん、あの戦いにはいたんですか? その、短命な人族の間ではもう伝説となっていて真偽も定かではなく……」

「ふふ、懐かしい。そうね、私たちは戦った。虐げられた者たちに自由を。みんなちがって、みんないい、を。ユージさん、ケビン、これでも私、強いのよ?」

ふふん、とばかりに胸を反らすテッサの嫁・イザベル。胸はない。いや、なくはない。A以下でも無乳ではないのだ。

「イザベルさんが得意なのは風魔法……えっと、『魔法で竜巻を起こし』って話があったような……」

「あら、そこまで伝わってるの。それは私ね! 当時は『風神姫』って呼ばれてたわ」

「『風神姫』……雷神もいたのかな? っていうか神なのか姫なのか……これ名付けたのどうせテッサだろ……」

イザベルの二つ名を聞いてボヤくユージ。

数多くの偉業を残した初代国王の父・テッサだが、知れば知るほどユージの中のイメージが崩れていく。

「うわあ! やっぱりリーゼちゃんのお祖母ちゃんはすごかったんだ! アリス、魔法を教わって、すごいなって思ったの!」

「ありがとうアリスちゃん。でも、アリスちゃんのご先祖さまもすごかったのよ? アリスちゃんに教えたのは、テッサがその子に教えた魔法なの」

「へええええ! じゃあ今度、お祖父ちゃんとシャルル兄に教えてあげようっと!」

「ふふ、血族なら使えるかもしれないわね。そうそうアリスちゃん、ユージさん、あの子は『炎神姫』って呼ばれてたのよ」

「あ、やっぱりほかの属性もいたんですね。安直だろテッサ……」

ユージのボヤきは止まらない。まあツッコミになっていないあたり、エルフの長老たちからまた叱られそうだが。

「だからユージさん、私の心配はしなくていいわよ。この子のもね」

「接近戦はハルよりずっと弱いですけど、私は土魔法が得意です。ドラゴン相手でも自分の身ぐらいは守れますから」

恥ずかしそうに自分の戦力を告げるエルフの女性。

比較対象がおかしい。

ワイバーンはドラゴンではなく、冒険者最強クラスの1級以下である。

「あ、はい、土魔法がスゴいのは知ってます……ケビンさん、これ」

「ええユージさん。楽勝、でしょうねえ……」

「そういうこと! 空を飛ばれたところで風魔法で落としちゃうし……ワイバーン、倒してしまってもいいんでしょう?」

ニッコリと笑うリーゼの祖母・イザベル。

どうやらワイバーンなど相手にならないらしい。

だが。

「えええええー!? ダメだよ! ワイバーンはアリスが 殺(や) るんだよ! アリス、位階を上げたいの!」

ブンブンと手を振って、アリスが自分が殺るのだとアピールする。

位階を上げれば長生きできるようになる。

そうすれば、エルフの少女・リーゼが大人と認められる100才となった後も一緒に遊べる。

10才のアリスはそのためにワイバーンを殺りたかったようだ。

物騒な少女である。

「ふふ、そうだったわねアリスちゃん。そのために私が魔法を教えたんだものね」

「うん! みんな『これなら殺れるな、任せたぜ!』って言ってくれたの!」

「そう、じゃあ私はお手伝いだけにするわね」

「やったあ! ありがとうリーゼちゃんのお祖母ちゃん!」

話し合いの結果、アリスがワイバーンにトドメをさすことに決まったようだ。

ユージがこの世界に来てから最初に見たモンスター・ワイバーン。

目にしてすぐに、ユージとコタローは家の中に避難した。

1年前。

ユージと開拓民たち、エルフの少女・リーゼは策を練り、力を合わせてワイバーンを初めて討伐した。

そしてユージがこの世界に来てから6年目のいま。

ワイバーンは『誰がトドメをさすか』揉める程度の相手になってしまったようだ。

哀れ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「……ケビンさん、バリスタ、いりましたかね?」

「ユージさん、ほら、エルフのお二人が来たのはたまたまですから。それに設置は認められましたし、ワイバーン戦後は外周部にでも置けばいいんです。いずれ、いずれ使う時が……来ますかねえ…………」

「アリスちゃんがいればいらねえんじゃねえかなあ……」

ケビンとブレーズは遠くを見つめて半笑いであった。

「ブレーズさんまで、そんな」

「ああ、ユージさんにはあの魔法はナイショなんだったか。まあもうすぐ見れるだろ」

二人のエルフは、冬を越えた後も水路が問題ないかどうかチェックしに行っている。

アリスとコタローは散歩がてら二人についていったようだ。

ユージの家の前の広場では、ユージとケビン、ブレーズが引き続き話をしていた。

ワイバーン戦に備えた戦力の確認である。

いかに楽勝ムードとはいえ、備えるに越したことはないのだ。いちおう。

「ケビンさん、ゲガスさんはどうするつもりですかね?」

「ああ、お義父さんは宿場予定地の守りのために残るそうです。こっちに来ねえかなあって言ってましたよ。残念そうに」

「は、はは。危なくないですか?」

「空を飛べるワイバーンに逃げられることはあっても、お義父さんがどうにかなることはありませんよ。『血塗れゲガス』ですから」

「まあ上空から見えるのは宿場予定地じゃなくてこっちだろ。次の春もその次も、ワイバーンが来るのは基本こっちじゃねえか?」

「そんなもんなんですね。ブレーズさん、もしエルフの皆さんとアリスがいない場合って……開拓地はどうなんですか?」

「バリスタが4基。俺たち元3級冒険者のうち近接担当が3人。まあ余裕だな。非戦闘員の守りだけしっかりしてりゃ問題ねえよ。前回もそうだったろ? 空を飛ばれるのが厄介なだけでな」

「は、はあ……。その、避難所みたいなところを作ったほうがいいですかね? 毎年あるわけですし」

「ユージさん、それはいいかもしれませんね。石造りは大変でしょうから……どこか地面に穴を掘って、ついでに保存食を置いて」

「防空壕ってヤツですね! ちょっと聞いておきます!」

誰に、とは言わない。

ケビンはもうユージが元の世界と連絡が取れることを知っているのだ。

まあ古参の開拓民たちも、ユージが何かに困って出入りする度にいろいろな知識が出てくることから、家に何かあることは気づいているようだが。

「ユージさん、道の舗装のこととあわせて、エルフの方々に聞いてみたらどうですか? イザベルさんは風魔法ですが、もうお 一方(ひとかた) は土魔法が得意なようですから」

「そういえば……見まわりから戻ったら聞いてみます!」

ユージ、ギブアンドテイクどころかエルフたちからはもらってばかりである。

『過去の稀人にお世話になったから』というエルフの律儀さにすがるのではなく、いずれ返さねばならないだろう。

まあ過去の稀人のテッサの家族に連絡をつけたり、キースの手紙を訳したり、養蚕技術を教えたりとすでにそれなりの役には立っているようだが。

ともあれ。

ホウジョウ村開拓地の春の風物詩となったワイバーン戦。

備えは終わった。

後は襲来を待つばかりである。

もはや苦戦するさまも思い浮かばないが。

ユージ、今回は三脚にセットするのではなく、手持ちでカメラを構える余裕さえあるかもしれない。

撮影担当の面目躍如である。