軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話 ユージ、ホウジョウ村開拓地にケビンを迎える

「ユージ兄、遠吠えだよ!」

「うんアリス、俺にも聞こえたよ。誰か来るのかなー」

春のホウジョウ村開拓地。

付近の森からオオカミたちの遠吠えが聞こえてくる。

あいかわらずコタロー率いる日光狼と土狼の早期警戒システムは機能しているようだ。

ホウジョウ村開拓地はこれまで木の柵で囲われていた。

出入り口は南、街へと続く道に接した箇所だけ。

いまは柵の外側にエルフの手による土壁が作られ、ホウジョウ村の東から川がある西まで防壁を築いている。

ホウジョウ村の発展を見越して作られた土壁は、未開拓の森をそのまま内包していた。

コタローと15匹のオオカミたちが自由に動きまわっている空間である。

まあ犬とオオカミは、土壁の外の森林も『縄張り』として動きまわっているようだが。

「おーいユージさん! ケビンさんたちが来たってよ!」

「あ、はいブレーズさん、いま行きます!」

来客を知らせるオオカミの遠吠え。

雪が融けた道をたどり、ホウジョウ村開拓地にケビンが到着したようだ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「おひさしぶりですユージさん、アリスちゃん。みなさんはもっとおひさしぶりですね」

「そっか、俺とアリスはソリで街に行ってましたけど、みんなとは雪が降る前が最後ですもんね!」

「ええ。ユージさん、積もる話もありますが、まずは缶詰工場に……」

「ええっ? ケビン、針子たちのところが先よ! 服にドレスに新製品、どうなったか気になるもの!」

「ケビンもジゼルも落ち着け。どっちから見に行ったって同じだろ?」

「わかってないわねパパ! ユキウサギの缶詰は販売先が決まってるけど、服はこれから売り出してくのよ?」

「あ、お帰りマルクくん」

「ユージさん、アリスちゃん、ただいまです!」

ケビン、その妻のジゼル。ジゼルの父にしてゲガス商会の元会頭・ゲガス。

馬に引かせた2台の荷車の横には、専属護衛の二人と修業中のマルクの姿も見える。

到着したケビンたちも迎えたユージも思い思いに会話を交わす。

ホウジョウ村の入り口はカオスであった。

「ああ、もう動けるぐらいに雪が融けちゃったのか! はあ」

「ハルさん?」

「ハル、まだここにいたのか。そろそろ王都に帰らないとマズいんじゃねえか?」

「ゲガスか。そうなんだよねえ」

「ケビンさん! その、商店を開くんですか!?」

「商店が開くんだったら、その前に冬の間の賃金は今回もらえるんでしょうか!」

「おうケビンさん、缶詰は予想以上の量ができたぞ。確かめてくれ」

「ジゼル! 今回も新商品ができたわよ! 下着も進化したんだから!」

長い冬を終えて初めての来客。

しかも相手はケビンである。

ホウジョウ村ケビン商会支店の主にして、缶詰工場の工員と針子たちの雇い主の。

開拓民たちは、作業の手を止めてホウジョウ村の入り口に駆けつけていた。

駆けつけるだけではなく、口々に質問している。

カオスである。

「こりゃ今日は仕事になんねえな。おう、みんな落ち着け! とりあえず広場に移動するぞ! ケビンさん、荷は商会のところか?」

「ありがとうございますブレーズさん。一台目はすべて商会へ、二台目の荷は缶詰工房です」

「了解だ。聞こえたな! 元冒険者ども、力仕事だぞ! いいとこ見せてやれ!」

ブレーズの言葉に、元5級冒険者の独身男たちが動き出す。

ホウジョウ村の入り口には開拓民たちが集まっていたのだ。もちろんそこには、独身の針子見習いの女性たちも。

力仕事でいいとこ見せてやれ、というブレーズの発言の効果は覿面であった。単純か。

そして副村長のブレーズの仕切りを、村長のユージはニコニコと見守っている。鈍感か。いや、ユージは近い将来、村長の座を退いて文官、さらに代官になるかもしれないのだ。後任候補の働きを見守っているだけなのだ。きっと。

元冒険者の男たちに誘導され、馬に引かれて2台の荷車が動き出す。

ホウジョウ村開拓地は、春を迎えて一気に活気づいたようだ。

活気づきすぎてカオスだが。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ユージさんから話は聞いていましたが……予想以上ですね! これは楽しみです」

「みんなよくがんばったわ。あとは私が売るだけね!」

「冬の間、みんな働いてましたからね」

「試運転であれか。本格稼働したら……」

ホウジョウ村にはケビン商会の建物がある。

常にオープンしているわけではないが、ケビンやジゼルがいる際は、時に商店として営業する店舗が。

その建物の中でケビンとジゼル、ゲガス、ユージとハルが話し込んでいた。

缶詰工場と針子の作業所を見てまわった一行は、今後のことを話すために集まったようだ。

「ケビンさん、すぐに帰るんですか? その、できれば商店を開けてほしいんですけど……みんな娯楽に飢えてるみたいで」

「ユージさん、なに言ってるの! ユージさんが提供した娯楽がこんなにあるのに!」

雪が積もって動きづらく、日が短くて夜が長い。

缶詰工場での作業、針仕事、ソリで移動して狩り、木々の伐採。

この世界の普通の農村よりは仕事があったが、それでも手持ち無沙汰な時間は長かった。

見かねたユージは、家にあった将棋盤と駒、トランプなどを持ち出したようだ。

「娯楽、秋に持ってきてたんですけどね。売れませんでしたから……それにしても、このあたりは稀人由来でしたか」

この世界には、時々『稀人』が現れる。

キースやテッサのように。

どうやら過去の稀人は、簡単な玩具をすでに広めていたらしい。

「ユージさん、手伝ってくれたみなさんの賃金の精算もあります。短い期間になるでしょうが、商店は開けるつもりですよ」

「そうですか、それはよかった! あ! ケビンさん、マルセルたちは開拓地に残ってくれることになりました!」

「ああなるほど、冬の間の手伝いの状況次第で買い戻せるお金が貯まりますからね」

「はい! 計算してあげてください!」

「では私たちはしばらくここに滞在して……マルセルが自分を買い戻せるお金が貯まっているようなら、街に行く際に同行するか確認しましょうか。手続きが必要ですからね。それとユージさん、ユージさんも出発の準備をしておいてください」

「え? なんかありましたっけ? あ、俺がマルセルの主だから手続きで必要とかですか?」

「それもありますけど……ユージさん、領主か領主夫人、代官とお話ししませんと」

「あ! ……いやだなあ、忘れてたわけじゃないですよ?」

稀人であることはもちろん、エルフとの取引が可能になったのがユージ一人の功績と知られれば、貴族や商会から引き抜き工作が入る。

領主やアリスの祖父のバスチアン侯爵の後ろ盾があるため強引な手法は取られないが、懐柔される恐れはある。

ユージは、より強力な庇護を受けるために領主付きの文官となることを決めていたのだ。

多少の仕事は引き受けてもらうが、開拓地担当でそのまま生活してよいという好条件も出されていたので。

「冬の間に来た際は、無理して往復しているのでとお目こぼししてもらっていましたからね。春になりましたから、一度はご挨拶に伺いませんと」

「ですよねえ」

ですよねえ、ではない。

ヘッドハンティングされて受けると手紙を出して以降、就業先に挨拶一つしていないのだ。

いかにこの世界の交通網が発展しておらず、雪が積もる冬は動けないのが普通とはいえ、春になった以上は挨拶に行ってしかるべきである。

さすがバイトもしたことがない元引きニート。

「はあ、ユージさん、ボクはそろそろ帰るよ。名残惜しいけど」

ポツリと呟くハル。

この会合に参加していたのは、それを伝えるためだったらしい。

「ハルさんは王都の冒険者ですもんね。船で帰るんですか?」

「そうだねえ。ああユージさん、夏ぐらいになるかなあ、例の研究者を連れてくるから!」

「還る方法を研究してる人ですね! あれ、でも俺が稀人だってバレたらマズいんじゃ……」

「口が固い、というか話すような人もいない変わり者だし、研究バカだから大丈夫じゃないかなあ。それにほら、怪しい動きがあったら、ね?」

ユージに向けてパチリとウィンクするハル。

王都在住で1級冒険者のエルフ、何が『ね?』なのか。

稀人を保護するというエルフの約定は、物騒な方法で危険を排除することもあるようだ。

「そ、そうですか……あ、ハルさん、もし可能だったらお願いがあるんですけど……」

「どうしたの? ユージさんが口ごもるって珍しい!」

「その、アリスのお兄ちゃん、シャルルくんを連れてこられないでしょうか。魔眼で見てほしい物があるんですけど、リーゼはやっぱり里から出られないみたいで」

「ああ、リーゼお嬢様はね。うーん、侯爵の孫、か。しかも開拓地と深い関わりがあるってバレたらマズいんだもんね?」

アリスの兄・シャルルは、盗賊に襲われて家族と住む場所を失った自分のような人を出さない、そのための力をつけるんだ、と祖父のバスチアン侯爵のもとに身を寄せている。

盗賊、そして盗賊と取引する商人、裏社会や繫がりがある貴族。

すべてを許さない修羅の道を行く。

自分はともかく、狙われないために妹のアリスやユージとの関係性は隠すことを決めていた。

シャルルが決断する場にいたため、ハルもその事情は知っている。

「はい。その、難しいでしょうか? ダメならダメで諦めるんですけど」

元の世界に魔素があるかどうか確かめるため、家や家の中にある物を『魔素が見える』という魔眼持ちに見てもらいたい。

ユージや掲示板住人、アメリカ組も望んでいることだが、そのためにシャルルの決断をないがしろにしたら意味がない。

ユージもそのあたりはわかっているようだ。さすがに。

「ちょっと考えてみるよ! 貴族の館には出入りできるから、向こうにも相談してみるね!」

「それでその、報酬はいくらぐらいで」

「ああ、いいのいいの! この冬もさんざん楽しませてもらったしね! ほら、稀人の保護の一環ってことで?」

ハル、あいかわらず軽い。

「その依頼内容ならハルが最適だろうな。なあ、『不可視』のハル?」

「まあね! ユージさん、期待して待ってて! でも早くてもやっぱり夏以降かなあ」

軽いが、ハルはこれでも現役の1級冒険者なのだ。

それも『不可視』の二つ名を持つ。

「わかりました! でもその、ほんと無理しないでくださいね。俺だけならともかく、シャルルくんもアリスも危ない目には遭ってほしくないですから」

「りょーかい! 夏に連れてきて、帰す時にユージさんとアリスちゃんを ぱ(・) わ(・) あ(・) れ(・) べ(・) り(・) ん(・) ぐ(・) に……うん、タイミング的にはそれが……」

ハルの後半の呟きは、誰にも聞こえなかったようだ。

それにしても。

ユージの発言が元の世界に知られたら、あちらの研究者たちは血涙を流すことだろう。

なにしろ元の世界に魔素があるかどうかが、いまの研究の最初の関心事になっているので。

まあいかに重要とはいえ、アリスを危険にさらさないユージの判断は、古株の掲示板住人は支持するだろうが。

元の世界が大騒ぎになっていても、ユージはユージのままであるようだ。