軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 ユージ、領主の勧誘についてエルフに相談する

木々が葉を落とす秋の終わり。

ユージは思い悩んでいた。

街に入るには開拓民となる必要があり、生きていくために迷うことはなかった。

家のまわりの開拓をはじめたのも、食料を生産して生きていくため。まあ気がつけば開拓団長になっていたが。

村長も防衛団団長もその延長線上で、商人のケビンや元3級冒険者パーティのリーダー・ブレーズのサポートもあった。

冒険者は自分から登録したが、それも冒険者ギルドに行ったついでのようなもので、ギルドマスターのサロモンに勧められて。

エルフ護送隊隊長は引き受けたが、そもそもエルフの少女・リーゼを里に帰すための行動を領主に承認してもらっただけだ。

10年間引きニートだったユージ。

この世界に来てから様々な肩書きを得ているものの、実はユージ自ら望んだものはないのだ。

すべて必要にかられて、あるいは成り行きである。まあ冒険者だけは別かもしれないが。専従でもなくロマンなので。

領主からの部下にならないかという今回の勧誘は、選択の余地があり、ユージは悩んでいるのだった。

ユージ、掲示板の住人とケビンに相談したものの結論は出せていないようだ。

まあまだエルフに相談できていない、ということもあるのだろう。

ちなみに領主と代官はすでにプルミエの街に帰っている。

それにしてもユージ。

組織のトップから声をかけられて誘われるとか、立派な『ヘッドハンティング』である。

「ここにいたかユージさん。コタローとオオカミが反応しててよ、ユージさんに来客みたいだぞ」

家の前の広場に置かれた切り株のイスに座り、ぼーっとしていたユージの下にブレーズがやってくる。その足下にはコタロー、そして日光狼の姿があった。

今日は土壁と木の柵の間の森で伐採に励んでいたブレーズ、来客を告げるコタローと日光狼の登場でユージを呼びにきたようだ。

秋の収穫を終えた開拓民は冬支度がはじまっている。

薪を集めて冬の間の燃料を確保する、自分たちの住居や共同住宅を補修する、狩りに出て保存食を作る。

元冒険者たちとコタロー&オオカミたちが本気を出したせいで、周辺の獣は狩り尽くされんばかりであった。春になって他所から流入されることを祈るばかりである。ちなみにユキウサギは見逃されている。冬においしくなるので。

「わざわざありがとうございますブレーズさん。柵のほうですかね?」

「ああ、たぶんな。コタローが尻尾を振ってるから……知り合いみたいだぞ?」

「あ、ほんとだ。コタロー、誰なんだろ? おまえもしゃべれたらラクだし相談もできるんだけどなー」

切り株から立ち上がってするりとコタローの頭を撫でるユージ。

無茶振りである。

コタローは、なにいってるのゆーじ、いぬなんだからしょうがないじゃない、とユージを見つめるばかり。

あはは、ごめんごめんと言ったユージはわっしゃわっしゃとコタローを撫でまわし、ホウジョウ村開拓地の南門へ向かうのだった。

うらやましそうにユージとコタローを見つめる日光狼の目つきには気づかないままに。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

『ユージさん! よかった、コタローと会ったから、呼んできてくれるかなーと思って待ってたの』

『あ、リーゼのお祖母さん。ちょうどよかった、相談したいことがあったんです!』

『ユージさん、イザベルでいいわよ。そう? じゃあ私の用件とどっちを先にしようかしら』

『あ、急ぎじゃないんでこっちは今すぐじゃなくて大丈夫ですよ。それで、イザベルさんはなんの用だったんですか?』

『うふふ、あのね……ついに川まで届いたの! それで、開通させていいかしら? って確認を取りにきたのよ』

『はい? 用水路、ですよね? ずいぶん早くないですか?』

『ほら、冬になって雪が積もったら大変でしょ? だからその前にやっちゃいましょうって』

『そ、そうですか……それでどうしたらいんですかね?』

『ユージさんたちがOKなら、明日、予定の半分ぐらいの水を流してみるわ。ほかのみんなは各所に散って水路に問題ないか確かめる役ね。開拓地は私の担当よ!』

『わかりました、ちょっとみんなに聞いてみます。でもよかった、領主様たちが帰った後で。そういえばすれ違ったりしませんでしたか? おっきい人で金属鎧きて馬に乗ってて、ゲガスさんと一緒にいたと思うんですけど』

『ああ、あの人ね。ちゃんとみんな隠れたわよ? 森の中で、エルフが金属鎧のニンゲンに見つかるわけないじゃない! ゲガスが一緒でもみんな知らないニンゲンには警戒してるわよ?』

『あ、よかった。まあ領主様はいい人っぽいんで見つかっても何もなかったと思いますけど。ゲガスさんもいたわけですし』

『ふふ、心配してくれてありがと、ユージさん』

『あ、その、いえ、はい』

ユージに向けて微笑むリーゼの祖母・イザベル。

実年齢はアレで、いまは亡き稀人のテッサの嫁ではあるが、見た目は30代の美しいエルフ。

34才のユージ、頬を赤く染めて照れていた。乙女か。

『えっと、じゃあどうしましょう。水路に水を通していいかみんなに確かめてきますけど……』

『私は開拓地周辺の水路に異常がないか下見しておきたいわね。水を流してからも見てまわりたいし』

『はあ、じゃあ開拓地に泊まるところを用意しますか? 女性用の共同住宅でいいかな、それとも誰かのところに一緒に……』

ブツブツと考え込むユージの思考を、リーゼの祖母がぶった切る。

『ユージさんの家に泊めてもらってもいいかしら?』

爆弾発言である。

顎に手を当てて考える姿勢のままフリーズするユージ。

『あの日、とても楽しかったもの。ユージさん、また素敵な夜を過ごさせてもらえないかしら?』

にっこりと笑うリーゼの祖母。

爆弾発言である。

ユージは固まったまま。

『えっと、あの、その』

『ふふ、言い方が悪かったわね! はあ、ユージさんはテッサと違っておもしろいわあ。だいたいユージさん、この前も泊めてもらったじゃない! ぱ(・) そ(・) こ(・) ん(・) で話をしてたから寝具は使ってないけど』

ユージ、あまりの初心さを弄ばれてしまったようだ。

そもそも34才にしてこの程度で動揺するのも如何なものか。いかに美人の発言とはいえ。

リーゼの祖母・イザベルは、以前テッサの母と姉とビデオ通話をするためにユージの家に入った。話が長くなったため、夜にはじまった会話は明け方まで続いた。

イザベルが言うように『寝具は使ってないけど泊まった』のは事実である。

『あ、ええ、はい、そうでしたね。でもどうかな、急だと向こうが準備できないかもしれません』

『あらそう? うーん、じゃあどこか違う場所に泊まったほうがいいかしら』

『えっと、とりあえず連絡をとってみます。もしだめでも相談したいこともありますし、部屋は余ってるので……リーゼも泊まってたし、いいですよ』

『ありがとうユージさん!』

ユージ、けっきょくイザベルを泊めることにしたようだ。

ちなみに相談という名目で二人きりになるアプローチではない。ユージにそんなテクなどないのだ。むしろそんなテクで騙されるほうである。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

『うーん、お姉さんは離れた場所で暮らしてて、お母さんだけじゃ使いこなせなくてビデオ通話できないみたいです。残念でしたね……』

『そう、まあしょうがないわ、また今度来るわね! テッサのお母さまとお姉さまに、私とテッサの子供も見せたいし、孫も……』

『そっか、リーゼのお父さんはテッサの子供。孫がリーゼになるのか。あれ? でもリーゼは大人になるまで外に出られないんじゃ』

『そう、だから連れてくるのは私の子供だけね! リーゼはまだ先のことよ』

『えっと、イザベルさん、元いた世界では人間は寿命が短いですよ……100才まで生きればすごく長生きで……』

『あ、テッサが言ってたわね。じゃあリーゼは……』

『その、今度俺がエルフの里に撮りに行きますから。そうすれば見せられますよ』

陽が暮れて、ユージの家の中。

リビングではユージとリーゼの祖母・イザベルが向かい合って座っていた。

ユージ、今日はイザベルを部屋に連れ込まなかったらしい。いかがわしい意味はない。

ビデオ通話ができなかったので。

リビングのソファでは、アリスとコタローもくつろいでいる。

アリスはリーゼの祖母から渡された手紙を読んでいるようだ。

エルフの里にいるリーゼからの手紙である。

親友になったリーゼとアリスは離れて暮らしているものの、頻繁に出没するエルフによって手紙をやり取りできていた。

ペンフレンドである。古い。

古いが、ポケベルもケータイもスマホもパソコンもないこの世界ではこれしかないのだ。

「ユージ兄、リーゼちゃんは元気だって! いっぱい魔法を教わってるんだって! アリスもがんばらなくっちゃ!」

「そっか、リーゼは偉いなあ。アリスも偉いから……魔法、ほどほどでいいんじゃないかな?」

「えー?」

手紙を読み終えたのか、アリスがユージに報告する。

リーゼに触発されたのか、アリスはさらにやる気になっていた。

ユージは二人を褒めつつも、小さく乾いた笑い声をあげる。最近のアリスの魔法にちょっと引き気味らしい。

「アリスちゃん、また私が教えてあげるわね」

「ああ! リーゼちゃんのお祖母ちゃん、人間の言葉だ!」

「そう、ひさしぶりだけどやっと思い出してきたのよ。100年以上使わなかったから、ちょっとおかしいかもしれないけど許してね」

リーゼの祖母・イザベルはテッサの嫁であり、テッサの嫁の中には人間の言葉を話す嫁もいた。もちろんテッサも。

140年ほど使わなかったせいで錆び付いていたようだが、このところの騒動でイザベルも思い出しつつあるようだ。

「えっと、相談はこっちの言葉のほうがいいですか?」

「あ、エルフの言葉でお願い。『それでユージさん、何かしら?』」

『了解です。えっと、領主様から言われたんですけど……領主様の部下で、文官にならないかって。この村とエルフの窓口役を担当する文官にって』

『そう、それで私に相談したいことって何かしら? その、いまの内容だとユージさんの好きにしたらとしか言いようがないけど』

『あ、はい。引き受ける場合は領主様がほかの貴族から守ってくれるそうで、ただ俺が仕事ができるかどうか不安なだけなんですけど。その、引き受けない場合は、無理な勧誘とかがあるかもしれなくて……それで、もし強引な勧誘がきたら』

『ユージさん、逃げようと判断したらエルフの里は歓迎するわよ。ユージさんも、連れてこようと決めた人も。ただあんまりユージさんと関係ないのに連れてきたら、自由は制限させてもらうかもしれないけど』

『え? その、例えばアリスやコタローも?』

『ああ、家族やお嫁さんはいいのよ! テッサだってたくさん連れてきたんだし! ケビンはお役目だからいいとして……そうね、たとえば開拓民とかかしら? 断りはしないけど、里から出るのは制限することになると思うわ。エルフの里の場所は秘密ですもの』

『そう、ですか』

『ユージさん、どちらにせよエルフは稀人の判断を尊重して、必要ならいつでも保護するわよ? だから好きにしたらいいのに』

『はあ……』

『でも、ニンゲンって立場があるほうが安全なんじゃないの? 自由じゃなくなるのがイヤだーってテッサはエルフの里で暮らしてたけど』

『はあ、まあそうみたいですね。部下になれば、代えがいない大切な部下だから俺を守れるって領主様が』

『あら、けっこう情に厚いニンゲンなのね』

『そうみたいです。部下にならないでここにいてもいいんですけど、その時はたぶん貴族とか商人が俺を勧誘してくるだろうって。できるだけ退けるけど、別に悪いことをしてるわけじゃないんでぜんぶは避けられないだろうって』

『はあ、ニンゲンはめんどくさいわねえ』

『はは、そうかもしれません。俺一人ならこんなに悩まなかったんですけどね』

『アリスちゃんのお義兄さんで、開拓団長だものね』

『はい。みんなのことも気になるし、ここが俺の家ですから……うん』

一つ頷いて、ユージが顔を上げる。

うつむいて丸くなっていた背を伸ばして。

『俺、部下になる話を受けようと思います。開拓団長も村長も、それらしいことは何もできてないかもしれませんけど……アリスのこともみんなのことも守りたいですから。受けなかったら強引な勧誘もあるかもしれませんしね』

『そう、決めたのね』

『はい。受けないでここで暮らすと危ないかもしれない。受けないんだったらエルフの里に行こうかと思ってたんですけど……やっぱり、ここが俺の家ですから』

ゆっくりとリビングを見まわすユージ。

ユージがいた元の世界では、なんの変哲もない二階建ての一軒家。

この世界では見かけない造りの、なぜかライフラインもネットも繋がる一軒家。

かつてユージが10年引きこもっていたその家は、いまやホウジョウ村開拓地の中心地となっている。

ここからユージの新しい生活がはじまったのだ。

ユージとコタローと、途中からはアリスやリーゼの。

『ふふ、ユージさんもそういう目ができるのね。ユージさん、大丈夫よ。面倒になったらエルフの里に逃げてくればいいんだもの』

『え? いや、そんな、決めたからにはがんばりますよ』

ユージ、決めた途端に投げかけられた悪魔の誘惑を退けたようだ。

まあそれでも逃げ道が用意されているのはいいことだろう。たぶん。

『そうねえ、問題が起こったら、ユージさんの家の裏に流れる水路に渡した鍵を差せばいいわ』

稀人の保護のためにと、エルフの里でユージに渡された鍵。

里に繋がる川にさせば、船着き場の錠が反応するある種のマジックアイテムである。

『里からここまで半日もかからないわ。逃げたくなったら水路に鍵をさして、半日後に船に乗って、里までドロンね!』

あいかわらずエルフの言葉遣いはときどき謎である。テッサのせいで。ドロンね、など最近のおっさんでも言わないだろう。気をつけたいものである。

『は、はい?』

『困ったことがあれば気軽に使ってくれていいわよ? ニンゲンとの戦争は後がややこしくなるからちょっと避けたいけど』

『えっと、その、ひょっとして、ウチの裏に水路があるの……わざとですか? 裏口のすぐ近くを通ってるのって』

『当たり前じゃない! 稀人に助けられてきたエルフは、稀人を助けることにした。そう言ったでしょう?』

『あの、作ってもらった土壁は……』

『そんなの考えてあるに決まってるじゃない! 上水も下水も通さないといけないわけだし、水路も通してるわよ?』

何日も思い悩み、ようやく領主の部下になることを決めたユージ。

予定された役割は、この村とエルフとの交流を担当する文官である。

ホウジョウ村開拓地が発展すれば、領主は代官にとも考えていると言っていた。

街の治安を維持して、街を守る代官に。

だが。

防衛計画には最初から穴が空いていたようだ。文字通り。

潜水艇で侵入も脱出もOKのガバガバっぷりである。

『えっと……エルフの船じゃなきゃ通れないから、ああでも水棲モンスターとか、道具を用意した人間がちょっと潜ってとかあり得るのか。スパイ映画じゃお約束だもんな。な、なにか考えなくちゃ……』

ユージ、いきなり難問であった。

たしかにお約束の潜入方法である。この世界で道具はないだろうが、代わりに魔法もあるので。

ともあれ、ユージは決断したようだ。

部下になると言っても、領主いわく最初は名目上。

このホウジョウ村開拓地で、これまでと同じ生活でいいと言われていた。

これまで通りに生活すれば開拓は進み、ケビン商会が手がける産業が順調に成長していきそうなので。

しかも現在、過剰なまでの防衛力もあるのだ。

ニンゲンではなくモンスター相手であれば、エルフに助けを求めてもいいらしい。

決断したとはいえ、しばらくはユージの生活が変化することもないのだろう。

ユージがこの世界に来てから5年目。

稀人の知識を活かしてホウジョウ村開拓地を発展させ、細々とだがエルフとの交易をはじめたユージは。

自らの身を守るため、家族の身を守るため、開拓地を守るため。

就職することを決めるのだった。

10年間家の敷地から出ない引きニートだったユージは、異世界で代官になるようだ。