作品タイトル不明
第二十一話 ユージ、ホウジョウ村開拓地で収穫祭を行う
「ユージさま、あとはこの畝で終わりです!」
「了解、マルセル。それにしても順調だなあ。人数が増えたこともあるけど……」
秋、ホウジョウ村開拓地は収穫の時を迎えていた。
『開拓民の救世種』と呼ばれる芋、今年から挑戦した麦、いくつかの秋野菜。
畑は広がっているが、初期と比べて開拓民は増えている。
ユージ、アリス、コタロー。
獣人一家の3人、元冒険者があわせて9人。
木工職人が3人、鍛冶職人が4人。
針子2人、針子見習いが4人、調理担当が1人。
移住済みの28人総出で取りかかっているのだ。
いかに畑が広くなったとはいえ、午後には収穫作業を終えようとしていた。
人が増えただけではないので。
「土さん、ちょっとどいてー!」
アリスが畑の畝にペタッと両手を叩き付ける。
すると、土だけが左右に割れて地中にあった芋がむき出しになっていく。
「ほ、ほんとすごいねアリス」
「えへへ、ありがとユージ兄! これね、エルフのおねーちゃんに教わったんだよ!」
収穫作業はアリスが大活躍であった。
エルフの里で、そして開拓地に水路を造りにきたエルフからも魔法を教わったアリス。
切り株の処理に役立つだけではなく、収穫でも大車輪の活躍である。
ユージの顔が引きつるほどに。
アリスに魔法を教えたエルフたちは、すでに開拓地を後にしている。
ホウジョウ村開拓地を訪れた10人のエルフは、予定通り三日で仕事を終えていた。
開拓地周辺まで来ていた用水路を通し、上水・下水・農業&工業用水の水路を造って。
ユージの都市計画に基づいていまの開拓地より広い範囲の工事になったものの、エルフの中でも優秀な土魔法の使い手にとって、たいしたことではなかったようだ。
10人のエルフたちは開拓地を後にして、今度は開拓地から川まで排水のための水路を造るべく工事に取りかかっている。
完成したらふたたび開拓地を訪れて、水を流してチェックすることになっていた。
「やっぱりエルフってすごいんだなあ……みんなも驚いてたし」
ニコニコと得意気なアリスを褒めた後、遠い目をするユージ。
ぼんやりと見つめた視線の先には、木々の合間から土の壁が見えていた。
さすがに全周はキツイからひとまず半分だけ、と言い残したリーゼの祖母。
ホウジョウ村開拓地の東側からはじまり、南をまわって西側まで。
長老の一人とリーゼの祖母、二人掛かりで土の壁が造られていた。
開拓地を半円に囲む土の壁。
高さ2mほどの壁は、まだ開拓が終わっていない森ごと囲んでいる。
新しい土壁と元々開拓地を囲んでいた木の柵と空堀、その間の森は15匹のオオカミたちとコタローの遊び場になっていた。遊び場、であろう。キルゾーンではない。たぶん。
ユージが開拓団として本格的に開拓をはじめたのはこの世界に来てから4年目のこと。
それからまだ一年半しか経っていないのにこれである。
開拓の規模、速度、防衛力。
ちょっと異常な開拓地であるようだ。
だいたい掲示板住人とエルフたちの悪ノリのせいである。あと重機と化した少女の。
「みなさん! 以上で今年の収穫作業は終了です!」
「ほんとかマルセル? じゃあ……いいんだなユージさん?」
「ええ、エンゾさん。みなさんお疲れさまでした!」
農作業を仕切っていたユージの奴隷、犬人族のマルセルが作業の終了を告げる。
その言葉を受けて、労働を終えた男たち、女たちがユージに目を向ける。
開拓団長 兼 村長のユージが疲れを労い、そして。
「今夜は収穫祭です! 準備をよろしくお願いします!」
ユージの宣言に、総出で収穫作業をしていた開拓民たちがワッ! と沸き立つのだった。
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「ユージさーん!」
「あ、どうしましたケビンさん?」
「コタローさん配下のオオカミの首にこれが……お義父さんからの手紙です」
「ありがとうございます。しっかし、おまえらかしこいなー」
開拓地、ユージの家の西にある共同浴場。
農作業を終えたユージは、露天風呂で汗を流してきたようだ。
ちなみに共同浴場は木の板で仕切られ、男湯と女湯に分かれている。
ユージ、過去の稀人のテッサと違って『混浴が当たり前』という文化を導入できなかったようだ。チキンである。
ユージ宛ての手紙を持ってきたのはケビン。
というか、ざっと手紙を読んでユージ宛てだと理解し、手紙を持ってきたのがケビンである。
そもそも開拓地まで手紙を運んできたのは、コタローの子分の土狼だった。
コタローと15匹のオオカミたちは、現在のホウジョウ村と開拓予定地の土壁までの間の森だけが縄張りではない。
信頼しはじめたユージたちは、南は宿場予定地まで、西は用水路ぞいの川まで、オオカミたちが自由に行動することを許していた。人間は襲わないように言い含めて。
宿場予定地まで認めたのは、ケビンの義父でゲガス商会の元会頭『血塗れゲガス』の提案でもあった。
言うこと聞くんだろ? なんかあったら手紙をくくりつけて開拓地まで走らせてやるからよ、と。
伝書オオカミである。
「ゲガスさんからか。えーっと……はい? ケ、ケビンさん、どうしましょう?」
手紙を読んで動揺するユージ。
それも当然である。
「前回は代官さまだけだったんですけどね……ユージさん、粛々と迎えるしかありませんよ。騎士団にも所属している方ですし、華美なもてなしは嫌われると聞いています。と言いますか、いまからでは何もできません。あるものでもてなすしかないでしょう」
「そうですよねえ。何しに来るんだろ、 領(・) 主(・) 様(・) 」
ゲガスからの手紙は、この開拓地の徴税官でもあるプルミエの街の代官と、領主の来訪を告げるものであった。
ユージが動揺するのも当然である。
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「ひさしぶりだなユージ殿! ケビン殿!」
「おひさしぶりです領主様。……すげえ、騎士だ……」
手紙が到着して間もなく。
ホウジョウ村開拓地に三人の男がやってきた。
一人はゲガス。
『拳を交わすほど』旧知の仲であった領主の案内 兼 護衛役を宿場予定地から買って出たようだ。
もう一人はプルミエの街の代官で、この開拓地を担当する徴税官でもある男。
こちらは旅装で普通に徒歩である。
そして。
ユージが思わず呟いてしまった通り。
辺境の領主は、金属鎧を身につけて騎乗していた。
物語の騎士のように。
「本日はちょうど収穫祭となっております。少々騒がしいかもしれませんが、ご容赦ください」
「かまわぬ」
「レイモン、おぬしは相変わらず固いのう。ユージ殿、ケビン殿、気にせずやってくれ! 儂は貴族だが騎士でもあるので慣れておるでな! ここは辺境、貴族への気遣いなぞ開拓の役には立たんわ。年に一度の収穫祭なのだろう? 気にせず祝うがよい!」
「ありがとうございます!」
領主の言葉に喜ぶユージ、はあっとため息を漏らす代官。
貴族らしからぬ領主とそれを諌めるもスルーされる代官の姿は、領主の館の応接間で見慣れた光景である。
「あー、ユージさん、言葉通り気にするな。この人は心底そう思ってる。じゃなきゃ俺と模擬戦なんかしねえよ」
「言うではないかゲガス! おお、そういえばこの開拓地に『深緑の風』がいるそうだが一手――」
「ファビアン様、後にしてください。それより来訪の目的を」
「う、うむ。ユージ殿、なんのことはない、この目で新たな開拓地を見ておきたかっただけだ。あとはオルガに言われてな、エルフとの交流がはじまったその褒美を持ってきたのだ」
「そうでしたか」
領主の言葉を聞いて、ユージはほっと息をつく。
畏まらなくていい人だと知っていても、相手は貴族。しかも開拓村も所属している領地のトップである。
ユージ、緊張していたようだ。
「収穫祭となれば忙しいであろう。過酷な辺境の開拓民の数少ない楽しみ。儂を気にせず準備するがよい!」
「ありがとうございます!」
「では領主様、宿と湯を用意しております。こちらへ」
鷹揚な貴族である。
頭を下げるユージ、如才なく領主と代官を案内するケビン。
来訪するという手紙を受け取って、ユージとケビンは独身の男たちが使っている共同住宅を空けたらしい。
元冒険者の独身男たちは、今日はテントで野営するようだ。まあ収穫祭で酔いつぶれなければ。あと独身男たちは『泊まるところがなくてよ』という言葉を口説き文句にするつもりのようだ。単純か。そもそも空き家がない。
ともあれ。
予定外の来訪者があったものの、ホウジョウ村開拓地の年に一度の収穫祭がはじまるのだった。
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「えっと……お、俺でいいのかな」
夕方、ユージ宅の前の広場に集まった開拓民たち。
立ち上がって前に出たものの、ユージはいつになくプルプルしていた。
収穫祭の最初の挨拶。
ユージに任された仕事である。
だがユージは、というか開拓民たちはチラチラと一人の人物をうかがっている。
当然である。
「ユージ殿、気にするな! 皆も儂のことは忘れてよいぞ!」
戸惑うユージを励ますかのように大声を張り上げる領主。
呆れたようにコタローがワンワンッと小さく鳴く。むりにきまってるじゃない、とばかりに。
封建制の社会において、貴族である領主が同席しているのに忘れられる平民がいるはずがない。
「そ、そうですか……えーっと、じゃあ。みなさん一年お疲れさまでした! みなさんのおかげで去年よりも収穫が増えました。この調子で一緒にがんばりましょう! 乾杯!」
ユージの挨拶を受け、開拓民たちが木の器を掲げる。
乾杯、と唱和して。
それにしてもユージ、開拓団長 兼 村長がだいぶ板についてきたようだ。
「ユージ殿、ケビン殿。いい開拓地ではないか。のうレイモン?」
「ええ、類を見ないほど開拓が速い。そのうえ土壁まで完成している。農地は広がり、冬の手仕事も準備された。いい開拓地です」
「レイモン、儂が言いたいのはそういうことではない。いやまあ大事なことなのだが」
木製のコップに口をつけながら言葉を交わす領主と代官。
ホウジョウ村開拓地は高評価であるらしい。
「あの、俺、ちょっと席を外します。出番があるもので」
「うむ。ユージ殿、気にするなと言うておろう」
領主の言葉に、ハハハと乾いた愛想笑いを返すユージ。
無理に決まってんだろ、という言葉は呑み込んだようだ。賢明な判断である。
立ち上がったユージが広場の中央に進む。
どうやら今年の収穫祭にはイベントがあるようだ。
それまで自由に騒いでいた開拓民たちが口をつぐむ。
何が行われるか、彼らも知っているのだ。
「みなさん、お待たせしました! それでは……新郎新婦の入場です!」
今年の収穫祭、最大のイベント。
それは新婚夫婦が多い開拓民が誰一人やっていないことから考えついたもの。
そして、開拓村で開発された衣服を活かしたもの。
合同結婚式である。
その単語に特定の宗教的な意味はない。
ただ何組もいるだけだ。
ユージの宣言を受けて、先頭を歩いてくるのはエンゾとイヴォンヌ。
元3級冒険者で斥候のエンゾ、ようやく射止めたイヴォンヌちゃんに先頭を歩かせることは譲れなかったようだ。
そのイヴォンヌは開拓地で作られたドレスを身にまとっている。
スタイルの良さを活かしたマーメイドライン。腕を組んだエンゾの鼻の下はデレッと伸びていた。
イヴォンヌのドレスは絹ではないものの、レースや光り物が散りばめられている。
エンゾ、結婚しても貢ぐ男であるらしい。
二組目はブレーズとセリーヌ。
『深緑の風』のリーダーと元弓士、パーティ内でくっついた二人である。
こちらも街で手に入る布を使ったドレスだが、イヴォンヌとは形が違う。いわゆるAライン。現代日本では選ばれることが多い比較的オーソドックスなデザインである。
どうやら一人一人違うデザインのドレスを用意したらしい。
針子たち、そしてネットの向こうにいるデザイナー&パタンナー陣の苦労たるや。
三組目に同じ『深緑の風』の盾役・ドミニクと元奴隷の女性、四組目に針子のヴァレリーとユルシェル。
針子夫婦の目の下にくっきりとクマが浮いているのはご愛嬌だろう。
ドミニクの妻は、スカートがふわっと膨らんだプリンセスラインのドレスを着ていた。夫のドミニクのセレクトである。貧しく、奴隷になるしかなかった女性に『お貴族さまらしい』衣装を着せたかったようだ。
ユルシェルは……まさかのミニスカドレスであった。たしかにユージが元いた世界では存在する。が、この世界ではまだまだ『はしたない』とされる先進的すぎるドレスである。
「うわあ、うわあ! みんなキレイ! お嫁さんってスゴいね!」
「そうですねえアリスちゃん。ふむ、イヴォンヌの衣装は人を選びそうですね。ユルシェルの衣装はさすがに受け入れられないでしょう。売るならあの二人が着ているデザインか……」
「そうね、私のドレスはちょっと高価すぎるし。いいじゃないケビン! 開拓地の名産にしましょ!」
「おいジゼル。そう言っても結婚なんてそうあることじゃねえだろ? 売れねえだろうよ」
「なに言ってるのパパ! ちょっと裕福な平民とか……それに、村で一着持ってたっていいんだし!」
華やかな女性陣の登場にはしゃぐアリス。
すでに商売の算段を立てるケビンとジゼル、ゲガスたち商人組。
そして。
「なるほど、結婚式であったか! 領民たちが目の前で結婚するとなれば、儂も祝わぬわけにはいくまい!」
領主が立ち上がって、ユージの横に進む。
代官は呆れたように小さく首を振っていた。
領地のトップ自らが結婚の見届け人になる。
顔が引きつる新婚の4組8人。
いや。
イヴォンヌだけは平然としていた。プルミエの街の夜の蝶は強心臓であるらしい。まあ顔に出さないことを叩き込まれただけかもしれないが。
「それでは結婚式をはじめる!」
「あ、あの、領主様」
「なあに、そう固くならずともよい! ただ幸せな家庭を作ると儂らに誓えばよいのだ! 開拓団長で村長のユージ殿と、領主たるこの儂に!」
「な、なんかハードルが上がってる……よかった、俺こっち側で」
こっち側も何も相手がいない。
ユージ、じゃっかん混乱しているようだ。
ホウジョウ村開拓地、収穫祭。
思わぬ飛び入りを迎えながらも、それぞれが楽しい一夜を過ごしたようだ。
合同結婚式では、新婚夫婦が独身男女のうらやましそうな視線を一身に浴びて。
ちなみに。
独身の元冒険者たちは、揃ってテントで夜を明かしていた。
祭りの夜であっても恋愛は成就しなかったようだ。
もちろんユージも独り寝である。
まあ一つ屋根の下には女性がいたが、少女と犬なので。