作品タイトル不明
第十四話 ユージ、開拓地に鍛冶師を迎える
「ユージ兄、そろそろかなあ?」
「うーん、どうだろう」
「荷車の速度を考えりゃもうすぐだな。俺は途中で先行したからよ」
ホウジョウ村開拓地からプルミエの街に続く道を見ながら言葉を交わすユージとアリス。
アリスの質問に応えたのは、宿場予定地から駆けてきたゲガスだった。
昨日、ゲガスと7人の男たちが建設中の宿場に、ケビンとその妻のジゼル、鍛冶師たちが到着した。
ゲガスはそれを知らせるため、先行して開拓地に来たのだった。
愛娘に会ってはしゃぎすぎ、追い払われたとも言う。
ユージの足下でじっと道の先を見つめていたコタローの耳がピクリと動く。
ワンッ! と一つ吠えるコタロー。きたわよ、と言うかのように。
コタローが鳴いてからしばらくして。
道の先に、馬と人影が見えてくる。
「すごいなコタロー! おーい、ケビンさーん!」
大きく手を振って呼びかけるユージ。
アリスもその横でブンブンと手を振っている。
荷車が通れる道ができたら移住する。
かねてからの約束通り、鍛冶師たちが開拓地へと到着したようだ。
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「ドミニク、次はこっちを頼む」
「ほれ、女性陣にいいとこ見せるんだろ? 働け働け」
「親方、予定ではこの場所です!」
「おう、いいだろう」
ホウジョウ村開拓地は喧噪に包まれていた。
副村長のブレーズとエンゾの指揮で荷物を下ろしていく元冒険者たち。
先行して開拓地に出張に来ていた鍛冶師たちは、親方に報告して一つ一つ承認を、あるいは修正の指示をもらっている。
ケビンとジゼルが連れてきたのはドワーフの親方夫婦と何人かの弟子たち。
弟子のうち二人と、先に開拓地に入っていた二人がこのまま移住する予定となっていた。
缶詰工場で容器を生産し、合間に開拓地で使う金属製品を生産・修理する部隊である。
「あ、ケビンさん! 一段落したらちょっと相談したいことが……」
「了解ですユージさん! まずはこっちを片付けちゃいましょう!」
元冒険者や鍛冶師たちに混ざって、ユージやケビン、ゲガスも荷下ろしを手伝っていた。
荷車に満載された荷物は重い。
すべてが鍛冶工房で使う道具とその素材なのだ。
ふうふうと荒い息を吐きながら、ユージは汗を流している。
元引きニートらしからぬ働きっぷりである。
ちなみに。
急に人数が増えたため、針子見習いの独身女性三人組とイヴォンヌの妹は、野外で料理をしていた。
元5級冒険者の男たちは、チラチラと女性陣を横目で見ながらキリキリ働いている。いいところを見せようと思っているのだろう。
ケビンの策略である。いや違う、偶然なはずだ。たぶん。
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「いやあ、ひさしぶりの力仕事でした! たまにはこういうのもいいですね」
「そうですか? 俺はわりとこれが日常なんで……」
荷下ろしを終え、あとは鍛冶師たちと木工職人のトマスたちに任せて、ユージとケビンは切り株を加工したイスに座っていた。
サボリである。いや。相談ごとがあったのだ。
「ユージさん、それで相談とは?」
「あ、はい。用水路造りのことなんですけど……川から開拓地の近くまではできたそうなんです。それで、開拓地の近くは隠れてやれないから、いつにしようかって」
「早いですね、もう近くまで? 繋ぐだけじゃなく、広さと深さをどうにかしたいと言ってましたよね?」
「ええ、それが……もう用水路っていうか小川ですね。ほら、水中トンネルから出て、里の中心部に向かう時に通ったみたいな」
「あの規模をこの短期間で。それはまた……。ユージさん、開拓地の周辺をやってもらうとしたら、何日ぐらいかかるか聞きましたか?」
「はい。三日だそうです」
「はい? 聞き間違いですかね?」
「ケビンさんでもそうなるんですね! 俺も聞き直しましたけど……応援を呼んで、三日で終わるそうですよ」
「……すげえなエルフ」
ケビン、あまりの驚きに口調が荒れている。
いろいろな街をまわって経験を積んだ行商人であっても、エルフの土木工事の能力は驚くべきものであるらしい。
長命種なため位階が上がりまくっているエルフたち、その中でも有数の土魔法の使い手。
魔法が存在するこの世界のニンゲンの常識を超えているようだ。
「それで、顔合わせしたエンゾさんは出張組がいない時がいいんじゃないかって。開拓民がトチ狂ったら俺たちで止められるしって」
「なるほど。開拓民に不届き者が出たとしても『深緑の風』がいる。まあ三日で終わるなら、何か起こる頃にはもうエルフのみなさんはいないでしょうけど」
「はい。でも不確定要素は減らしたいって言ってました」
「それで出張組がいない時、と。ええユージさん、それがいいでしょう。加えてその時には、お義父さんも来てもらいますよ」
「あ、はい、そのつもりです。通訳もできるし、エルフと仲良いですし」
「ええ、そういうことです」
「それで、いつがいいですかね?」
「缶詰の生産工場ができるまで、鍛冶師や木工職人の出入りがあります。私たちケビン商会も頻繁に往復しますしね。夏の終わりには完成予定ですから、その後、収穫で忙しくなる前はどうでしょうか? ちょっと先になってしまうのですが……」
「うーん、いまは水にも困ってないですし、いいんじゃないですかね?」
「急ぎでないならそこにしましょう」
「わかりました! じゃあその予定を伝えておきますね。あ、それからもう一つ!」
「どうしました?」
「リーゼから手紙で誘われて……夏のうちに、一度エルフの里に行こうと思ってるんです。ケビンさんも一緒に行きますか?」
「ええ、もちろんですよユージさん! 商品を持っていってもいいんですよね?」
「はい、そのつもりです。ああでも水着は向こうにあるのかなあ。今度聞いてみよう」
「水着? ですか?」
「はい! ケビンさん、エルフの里にはプールがあるんですって!」
ユージ、すでに目を輝かせている。握った拳は気合いの表れだろう。
「 ぷ(・) う(・) る(・) ? よくわかりませんが、テッサさまがらみですかね?」
「たぶん、いえ、きっとそうです!」
「……なるほど、私がわからないわけですね。それにしても夏のうちにですか。ではユージさん、鍛冶師たちの荷物や移住のための往復は専属護衛に任せて、私とジゼルは一度街に戻りますね」
「そっか、早くなったって言ってもここから街まで往復で4日か」
「そういうことです。針子たちに作らせたい商品もありますし、今日明日は開拓地に泊まって……出発できるのは早くても7日ほど後でしょうか」
「わかりました! じゃあ俺とアリスも準備しておきます!」
ユージ、テンションが高い。
仕方あるまい。美形揃いのエルフたちがいる里のプールで遊ぶのだ。どんな男であってもテンションは上がることだろう。
それにしてもユージ、混浴温泉は逃げたくせになぜプールは乗り気なのか。羞恥心とエロの線引きが謎である。
ともあれ。
こうして、用水路造りとエルフの里への旅の予定が決まるのだった。
話を終えたユージは、ケビンに開拓地を見せてまわっていた。
ケビンが開拓地から離れていたのは2週間ほどのわずかな期間。
だが、開拓地は微妙に変わっていた。
「それにしてもユージさん……柵の外側はずいぶんすっきりしましたねえ」
「ええ、ブレーズさんたちと俺とアリス、それにケビンさんが提供してくれた馬がいましたから!」
「お役に立てたようで何よりです。そういえば厩舎も建っていて驚きましたよ」
「いやあ、考えなしに馬を連れてきちゃって。慌ててトマスさんに手伝ってもらったんですよ。ほら、乾いていない木ならいくらでもあったので、ひとまずってことで」
ユージとケビンの視線の先にあったのは、丸太を組み合わせて造ったログハウス風の建物。
どうやら急ごしらえの厩舎であるようだ。
「乾燥してきたら歪んだり隙間ができちゃうかもしれないらしいんですけど……その時は隙間を埋めるか、建て替えるかしようって。それよりとりあえずでも雨風を凌げる場所を造るほうが大事だと」
「すみません、私も考えておけばよかったですね」
「いえいえそんな!」
「それにしてもビックリしましたよ。ユージさんに連れてきてもらった2頭の馬が、オオカミたちと同じ厩舎で大人しくしてるなんて……」
遠い目をして厩舎を眺めるケビン。ちょっと呆れ気味である。
「いやあ、俺もビックリしました。人は襲わないって俺もみんなも信頼できたんで、オオカミたちを開拓地に入れたんですけど……」
ユージは、横を歩いていたコタローをチラリと見やる。
「15匹のオオカミを引き連れて、コタローが厩舎に入っていって。慌てて追いかけたら、馬とオオカミが普通にくつろいでるんですもん」
「はあ……」
「4頭分のスペースを用意してたんで、2頭分が空いてて人が通るスペースも空いてはいたんですけど」
「ユージさん、普通はありえないですからね? あの馬は力もありますから、本来は殺し合いになります。群れてる分、オオカミたちが勝つでしょうね。何匹か犠牲になるかもしれませんが」
「ですよねえ。ブレーズさんたちも驚いてました」
ユージとケビン、呆れたように首を振って視線を下に向ける。
二人の視線の先にはコタローがいた。
ちょこんとおすわりして、誇らしげに胸を張って。
15匹のオオカミも2頭の馬も、コタローの子分であるらしい。
ホウジョウ村開拓地。
ユージは開拓団長で人間のボスで、コタローは動物たちのボスであるようだ。頼れる女である。犬だけど。