軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 ユージ、ホウジョウ村開拓地を見てまわる

「ユージさん? 大丈夫ですか?」

「すごいクマだよ! ユージさん、寝なかったの?」

「ええ、まあいろいろありまして……」

ホウジョウ村開拓地で定例となった朝の訓練。

そこに現れたユージに、ケビンとハルが心配そうな声をかける。

昨夜、パソコンに向き合ったユージはいろいろあったのだ。そう、いろいろ。

どうやらユージは徹夜明けのようだ。

「大丈夫ならいいんですけど……ユージさん、しっかり休息はとってくださいね? 開拓民にとって体は資本ですから」

「ありがとうございますケビンさん。でもちょっと大事なことだったので……」

大事なことである。

ユージにとっても、ここまで協力してくれている元の世界の人々にとっても。

ユージの足下で、コタローはワフワフッと鳴いていた。こればっかりはしょうがないの、とでも言わんばかりに。

「ゲガスおじちゃん! アリスにばしゅばしゅって教えてくれるんでしょ?」

「おお、任せとけ! じゃあまず木の枝でな!」

「お義父さん? ……いいですか、ゲガス商会の元ならず者たちとは違うんですからね。くれぐれもアリスちゃんに怪我させないでくださいね」

「そうよパパ! アリスちゃんに傷一つつけないように……心配だから私はあっちについてるわね、ケビン」

「ええ、頼みますジゼル」

朝の訓練に参加しているのは、元3級冒険者パーティ『深緑の風』、元5級冒険者の独身男5人、犬人族の少年・マルク。

それにユージとアリスを加えた12人が、開拓地のいつものメンバーである。

さらに今日は、滞在している現役の1級冒険者でエルフのハル、『血塗れゲガス』、『戦う行商人』ケビン、ゲガスの娘でケビンの妻・ジゼルも参加するようだ。

いかに開拓が進んでいるとはいえ、これだけの人数になると訓練に使っている広場も狭い。

『深緑の風』の4人と犬人族のマルクは、あえて視界と足場が悪い森の中で訓練しているようだ。

あるいは強くなると決意したマルクのためなのかもしれない。

「ユージさん、無理しないで今日は休憩したらどうですか? さすがにその状態では危ないかと……」

「そうですね、そうします」

「ユージさん! 今日からボクもまた泊めてもらっていいかな? いろいろ……あるんでしょ?」

「えっと、そうですね。ハルさんはもう中に入ったことありますもんね。わかりました」

「やった! ふふ、テッサさまが言ってたものがいろいろ……」

「その、ハルさんはいつまで開拓地にいるんですか?」

「え? ずっといたいところだけど、とりあえずユージさんが領主夫妻に報告に行くまでかなあ。一緒に街まで行って、そのまま帰ることにするよ!」

「そっか、報告もあるのか……」

「そうですよユージさん。リーゼちゃんを無事に送り届けたこと、少なくともユージさんは取引できることを報告しませんと」

「また偉い人と会うのか……」

「ユージさん、私とジゼルも、報告に行くのにあわせてプルミエの街に戻ります。道の様子も見たいですし、いろいろ準備しないといけませんからね」

「……寂しくなりますね」

ポツリと呟くユージ。

リーゼを送るために王都へ向かって以来、ユージはケビンとほぼ一緒に行動している。

ユージ、ちょっと寂しくなったようだ。

ちなみにずっと一緒に行動していたコタローは、ユージたちを置いて訓練所から去っていった。

オオカミたちの下に向かったようだ。自分の配下にいろいろ教え込んでいるのだろう。できる女である。犬だけど。オオカミのボスなのに。

「ユージさん、また来ますから。道もできましたし、缶詰の生産工場の建設もこれからが本番です。開拓地に鍛冶師を迎えることになりますし、エルフとの取引もあるんです。これからは頻繁に往復することになるでしょう」

「そうか……開拓地、気づけばいろいろできるんですね」

「ええ、これからが本番ですよ。だから体を大切にしてくださいね、開拓団長で村長のユージさん」

「はい。でも報告書は俺じゃなきゃ訳せないんだよなあ……」

ユージの徹夜の原因は、エルフの里にあった報告書を訳すためだったようだ。

当たり前だが報告書は現地の言葉で書かれている。

表音文字ゆえ、特殊なパターンでなければユージでも読み方はわかる。

そしてユージは、言葉を口に出せば意味を理解できるのだ。

たとえ難解な単語であっても、読み方さえわかれば。

つまりユージは、報告書をブツブツと読み上げてパソコンに日本語を打ち込む作業をしていたのである。徹夜で。

それでも分厚い報告書を訳し終えるには、まだまだかかるようだ。

「その、ケビンさん、いつごろ街に行きましょうか?」

「そうですねえ、急ぐ必要はありませんが、あまり待たせるのも……ただ開拓地は長く不在にしましたし、ユージさんが落ち着いてからでいいと思いますよ」

「じゃあ一週間ぐらいあとにします。報告書もそうだけど、まだ開拓地も見てまわってないし!」

「ええ、いいと思いますよ。では私もそれぐらいのつもりでいましょう」

「了解、ユージさん! あー、やっぱ誰かに引き継いでユージさんと一緒にいたいなあ」

ユージさんと一緒にいたい。

告白である。

いや違う、ハルは男であり、ノンケなのだ。

ただユージが元いた世界に興味があるだけなのだ。きっと。

「ハルさん、王都に帰ったら研究者さんたちの話を聞いてきてください。後で連れてきてもらうか、俺が行くか……どうにかして話は聞きたいですから」

「それがあったね! ユージさんは開拓地で待っててくれてもいいんだよ? あ、でも連れてくるとなったらユージさんが稀人なことが彼らにバレちゃうか……」

「そうですか……。うーん、アリスをシャルルくんに会わせたいし、落ち着いたらまた王都に行くかなあ」

「ユージさん、一歩一歩です。焦らず行きましょう。……考えるのは、睡眠不足を解消してからのほうがいいと思いますよ」

「……たしかに!」

ユージ、寝不足でいまいち頭が働いていないことに自覚がなかったようだ。

訓練の時間が終わると、ユージはケビンとハルに自宅へ押し込まれるのだった。

とりあえず寝てください、と言われて。

そこに卑猥な意味はない。

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「ケビンさん、ハルさん、ありがとうございました! すごくスッキリしました!」

そこに卑猥な意味はない。

徹夜だったユージが、自宅で二時間ほど昼寝しただけのことである。

ケビンもハルも、ユージに寝ることを勧めたが、一緒に寝ようという意味ではなかったのだ。当然である。一人は妻帯者で、一人は女性へのプレゼントを複数用意するほどなのだ。

「ああっ、ユージ兄だ! もう大丈夫なの?」

「ああ、ごめんねアリス。ハルさんが見ててくれたのかな?」

「えっとね、アリス、ハルさんとゲガスさんと一緒に開拓してたの! 二人がズバッて木を伐って、アリスがえいって土をへこませるんだよー」

「おおう、なんかすごそうな……」

「エルフの土魔法の使い手たちにいろいろ聞いたみたいでね、アリスちゃんの土魔法はまたすごくなってたよ!」

徹夜明けのユージが昼寝している間、アリスは土魔法で活躍していたようだ。

しかも、ユージと同じ日本人で元稀人のテッサがエルフに教え込んだ土魔法を、アリスも教わってきたらしい。

アリス9才。もはや人間重機である。

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「柵の内側はだいぶ木もなくなりましたね!」

「ああ、木を伐るのは俺も手伝ったしな。アリスちゃんが帰ってきたから切り株の処理を手伝ってもらって、すぐにすっきりしそうだ」

「あ、訓練場のまわりはどうしますか?」

「あそこは残しておくつもりだ。柵の外は森だろ? 見通しも足場も悪い環境を残して、外を想定した戦闘訓練に使いたいからな」

「なるほど……じゃあ、あそこは残すとして。また開拓地を広げたほうがいいかもしれませんね」

「そのほうがいいだろうなあ。工場ができれば人が増えるのは確定だろうし……余裕はあるが、できる時にな」

ホウジョウ村開拓地を見まわる村長のユージと副村長のブレーズ。

その会話は、長と補佐役のものであった。

ユージは曲がりなりにも村長なので。

「ユージさん、荷車が通れる道が開通したら、馬を二頭こちらに連れてくる予定です。あとの二頭は荷車をひかせるつもりですが、連れてくる二頭は開拓に使ってください」

「え? ケビンさん、いいんですか? 馬って高いんじゃ?」

「基本はケビン商会に関連する力仕事をやらせますが、空いている時に無理をさせない程度なら。開拓地の発展は、ケビン商会の商売に繋がりますから」

「俺たち以外でも力仕事ができるようになるのか! 助かるぜケビンさん!」

馬を提供するというケビンの言葉に、ブレーズは笑顔を見せていた。

それにしても『俺たち以外』とはなんなのか。位階が上がっている元3級の冒険者は、どうやら馬なみ、あるいは馬以上であるらしい。腕力と体力が。

「用水路もなんとかなりそうだし、道ができれば物も運べる。馬も来るし、農地も広がってきた。順調ですね!」

「そうですねえ。開拓民を集めて、本格的に開拓がはじまってから季節一巡りぐらいですから……すごく順調だと思いますよ。細々とですが、これからは取引もはじまるわけですし」

「そうか、俺たちが来てからまだそれしか経ってないのか」

「一年……来年はどうなってるんだろう……」

「次の春までには工場を稼働したいですね! ユージさん、開拓は順調ですけどこれから忙しくなりますよ?」

ちょっと未来を想像するユージに、ケビンがにこやかに告げる。

開拓団長で村長のユージ、副村長のブレーズ、開拓の初期から関わってきたケビン。

ユージが開拓をはじめたのは、この世界に来てから2年目のこと。3年目には獣人一家がやってきて、4年目には開拓団となった。本格的な開拓は4年目以降のこと。

ユージとコタローが家ごとこの世界にやってきてから5年目。

少なくとも、家のまわりの開拓は順調であるようだ。

だが、一年後。

というか、近い未来。

ユージは想像できていないのだろう。

この世界で、小さな規模であってもエルフと取引できる人間の重要性を。

元の世界で、ユージの話がドキュメント番組としてアメリカで公開されることの重大さを。

あるいは実感できていないだけかもしれない。

とりあえず、アメリカ組によるインタビューと領主夫妻への報告はもう間もなくである。