軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話 ユージ、船を保管してあるマリーナを見学する

「うわあ、ユージ兄、すごいね! 船がいっぱいだね!」

「こんな風になってるんだ……なんかフツーな」

「そりゃそうだよユージさん! あ、ユージさんの故郷では違う感じなのかな?」

『ユージ兄! リーゼの船を見せてあげる!』

テンション高くはしゃぎまわるアリス。

足下にいるコタローも、何が気に入ったのかブンブンと尻尾を振ってウロウロしている。

ユージはカメラ片手にキョロキョロと周りを見渡し、ちょっとがっかりしているようだ。

エルフの里、ユージたちが辿ってきた小川と船着き場のさらに上流。

小さな湖。

いや、大きさと人の手で作られたことを考えると貯水池と呼ぶべきだろうか。

そこには20艘を超える船が泊められていた。

「ハルさん、だって自動で戻るって言うし、なんかこう、すごい施設があるのかと思ってました」

「ああ、そういうこと! き(・) か(・) い(・) だっけ? それはないよ! 魔力を使うからね!」

一艘の全長は3mから4mほど。全幅は2mもないだろう。

上から見ると木の葉のような形をした木造船。

現代日本では、湖などでよく見られる二人乗りの手こぎボートをふた周りかそれ以上に大きくした船。

見た目はちょっと大きな手こぎボートだが、ユージが聞かされ、体験した性能は驚くべきものだった。

魔法を使って進み、潜り、所有者が一定時間離れると自動でこの場所に戻ってくるというのだ。

壊れ性能である。

まあそのせいで、鍵をなくしたリーゼは里に帰れなくなったのだが。

ユージとアリス、コタロー。

エルフと人間を繋ぐお役目を継いだケビンと、その義父ゲガス。

ユージが里の外で保護したエルフの少女、リーゼ。

今日の案内役は、冒険者でもあるエルフのハルとリーゼの祖母の二人であった。

『じゃあ二人の魔力を登録しましょう。ユージさん、こちらへ』

リーゼの祖母がユージに声をかけ、船が泊められたマリーナの奥に向かう。

魔力を登録する、という異世界らしい言葉に目を輝かせるユージ。単純な男である。もういい歳なのだが。

『この船はエルフの里で作ってるんですか?』

『そうよユージさん。でもね、この鍵と錠、それからフレームはテッサしか創れなかったの。だから船はこれ以上増やせないわ。ううん、船は増やせるけど、同じように動かすことは不可能ね』

『あ、テッサさま、ちゃんと役に立つこともしてたんだ』

ユージ、先達に対してずいぶん失礼な物言いである。

だが仕方あるまい。

ここ数日エルフの里に滞在して、ユージは気づいてしまったのだ。

あれ、テッサさま、ずいぶんよけいなことを教えてるな、と。

里までの秘密の水中トンネルはともかく、『エルフっぽくないから』と隠された農地、長老たちの会話や里のエルフから出る言葉の端々。

さすがのユージも気づいたようだった。

『ちょっとユージ兄! 失礼だわ!』

『ふふ、いいのよリーゼ。ほんと、テッサはやる時はやるんだけど……普段はこう、覇気がなかったもの』

目を細めて昔を懐かしむリーゼの祖母。

最期を看取ってから140年ほどが経ったというが、いまもテッサの嫁の胸には愛情が残っているようだ。嫁のうちの一人には。

『さあユージさん、これがこの船の鍵と錠よ。それぞれに手をかけて、魔力を流してちょうだい』

『魔力を流す? えっと、どうやれば?』

『ユージさん、ギュッと握ってググッて魔力を動かして、ドンッて送るだけだから!』

謎言語である。

エルフの言葉ではあるが、理解できないという意味で。

ハルはアリスと同じ感覚派であるようだ。

意味がわからず小首を傾げるユージ。

一緒になってコタローも首を傾げている。さすが19年も連れ添った一人と一匹、動きがシンクロしていた。

ハルの説明はユージには理解できなかったようだ。当然である。

『ユージさん、とりあえず手で触れてちょうだい。そうね、右手は錠に、左手は鍵に』

ハルの説明をスルーしてユージに説明するリーゼの祖母。

その言葉に従って、ユージは鍵と錠に触れる。

鍵はハルが持っていたものと似たような形をしていた。

長さは10センチほど、太さは指ぐらいの小さな棒状の鍵。

ユージは左手で幾何学模様が刻まれた棒の先、潰れた円形を握る。

右手で鍵が差し込まれた『錠』に触れるユージ。

『錠』と呼ばれていたが、南京錠のようなものではなく、ユージの胸の高さから水面、さらにその下の水底まで繋がる3メートルほどの杭のようだ。

鍵が差し込まれていたのは杭の上部。

杭の途中から伸びる鎖は、船に繋がって 舫(もやい) となっている。

『えっと、こうですかね?』

『ええ。ユージさんは魔法が使えるのよね? その状態で魔法を使おうとしてちょうだい。そうすれば大丈夫よ』

「『あ、はい』。光よ光、輝きを放て。 でも俺は禿げてないよ(フラッシュ) 」

詠唱したユージだが、魔法は発動しない。髪の毛のせいではない。

『あれ?』

『ふふ、大丈夫よユージさん。魔法の分の魔力がその錠と鍵に流れただけだから。リーゼ、どうかしら?』

『お祖母さま、えっと、まだ足りないと思うわ!』

『そう、ありがとうリーゼ。ユージさん、リーゼがいいって言うまで繰り返してね』

『え? リーゼ?』

『ユージ兄、魔眼はまわりの魔素が見えるのよ! リーゼ、鍵と錠に魔力が溜まったか教えてあげる!』

なぜだか出てきたリーゼの名前に疑問を抱くユージ。

リーゼは誇らしげに胸を張っていた。胸はない。まだ12才なので。

エルフの里、船が並ぶマリーナ。

ユージの詠唱が、何度も響くのだった。

『ユージ兄、もう大丈夫!』

『あら、ユージさんはなかなか優秀ね。それでユージさん』

『あ、はい』

『この鍵と錠にユージさんの魔力が登録されました。稀人であるユージさんにこの鍵を贈ります』

『え? でも、船はもう造れない貴重なものだって……』

『ユージさん、エルフは稀人を保護すると言ったでしょう? 何かあれば、エルフの里に繋がるこの川に鍵を差して魔力を流してね。距離によっては時間がかかるかもしれないけれど、エルフが向かうわ』

『ユージさん、もらっておきなよ! 便利だから!』

『ちょっとハル! ユージ兄はハルと違うの!』

『はい。ありがとうございます。こんなによくしてもらって、俺もエルフの皆さんに何かお返ししないとなあ』

『ふふ、ユージさん、気持ちだけで充分よ。私たちはそれだけ稀人の世話になってきたんですもの』

『それはわかるんですけど、でも俺は何もしてないので……』

『何言ってるのユージさん! ユージさんはリーゼを助けてくれたじゃない』

『そうよユージ兄! リーゼ、感謝してるんだから』

ユージ、リーゼといることが自然になりすぎてちょっと忘れていたようだ。

『うーん……じゃあ、この先に何かあったらまた、ということで』

ユージの得意技、先送りである。

だがこの場合は、きっとこれが正解なのだろう。

『あれ? じゃあこれで潜水艇が俺のものに! ふふ、ふふふ』

鍵が贈られ、船が使える。

移動手段を手に入れて、ユージは気持ち悪い笑みを浮かべていた。

なにしろ自分用の潜水艇なのだ。男であれば多少気持ち悪い笑みを浮かべても仕方ないことだろう。きっと。

『ユージさん……あのね、潜るのは魔法が必要なのよ? ユージさん、潜る魔法を使えるかしら? 行きと同じ経路を辿るから、魔力さえ溜めていれば帰りは問題ないのだけれど』

『あ、無理です』

『ユージさん、はやいよ! まあほら、エルフの船頭も一緒に来るからさ! 普段はここに船があって、鍵を差したらエルフが船でやってくる。情報交換だけなのか里まで連れていってもらうかはユージさん次第ってこと!』

『じゃあ俺はこう、水を割ってばしゃっと登場! はできないんですね……』

『そうね、風魔法か水魔法に相性がないと……』

『ユージ兄! リーゼがやってあげるから! リーゼ、水魔法を使って一人で潜れる立派なレディなのよ? さあみんな乗り込んで!』

『リーゼ、また怒られたいのかしら?』

『う……。里の中! お祖母さま、里の中でやるから!』

『イザベルさん、里の中ならいいんじゃない? ユージさんとお嬢様とアリスとコタロー。それにボクがついていくよ! ほら、お役目の継承の方が大変でしょ? 二人とも魔法を使えないんだし』

『そうね、じゃあお願いするわ。リーゼ、ハルの言うことをよく聞い……リーゼ、絶対に里からでないように! 絶対よ!』

「『わかったわお祖母さま!』。ユージ兄、アリスちゃん、コタロー、リーゼと行こ!」

リーゼの祖母は、ハルの言うことを聞くようにと言おうとして止めていた。賢明な判断である。

『次はこっちね。お待たせ、ゲガス』

『ああ、じゃあやろうか。しっかし、ケビンにこの鍵を譲ることになるなんてなあ』

『何言ってるの、あれだけ嬉しそうに今度丁稚で入ったヤツはーってさんざん言ってたじゃない』

『おい! ああ、まあコイツはまだエルフの言葉が通じねえか。通じねえよな?』

チラリと横目でケビンに目を向けるゲガス。

娘を娶った義理の息子で、商売も戦闘もゲガスが鍛えてきたケビンは、ニコニコと笑っていた。

『おい。通じてねえよな?』

「なんでしょうお義父さん? 何か言いましたか?」

ケビンは、ニコニコと笑っていた。

エルフの里、船が並ぶマリーナ。

稀人のユージは、エルフとの繫がりの証として鍵をもらったようだ。

開拓地から一日の距離にある川。

エルフの里と繋がるその川に差せば、船付きでエルフが現れる便利アイテムである。

エルフの里を経由して流れる川は、プルミエの街、その先の王都まで繋がっている。

ユージ、異世界生活5年目にして、ついに異世界らしい移動手段を手にしたようだ。しかも運転手付きである。

さすが貴族の後ろ盾もある開拓団の団長で、村長で、ケビン商会の新商品開発に協力して利益の配分を受ける男なだけはある。

ユージ、異世界で運転手付きのVIP待遇を得たようだ。

水路限定で、しかも運転手に逆らったら溺死コースだが。