作品タイトル不明
第十二話 ユージ、けっきょくテッサの本名を解説する
『あの、そういえばお墓は二つだけだったんですけど……他にももっと稀人がいたんですよね?』
『そうね、その話をしましょうか。ええそうよ、ユージさん。ここに眠るのは、エルフの里で暮らすことを希望した稀人だけね。ただ、今いる稀人は私たちが知る限りユージさん一人よ』
『……そうですか』
『ユージさんみたいに別の場所で暮らすことを選んだ稀人は、それぞれの人生を生きるけれど、何があってもいいよう私たちと情報交換を続けていたわ』
『えっと、その人たちもやっぱり……』
『そうね、還れなかったわ。いくつか託されたこともあるはずだから、長老会で確認するわね』
『あ、はい。名前とかいろんな情報と、物があれば何かわかるかもしれませんから。その、テッサさまの家族みたいに連絡が取れるかもしれませんし』
『わかりました。ユージさんが里を出るまでに用意しておきます』
『ユージ兄、アリスちゃん、コタロー……帰っちゃうのね……』
リーゼの祖母とユージの会話。
里を出るまでにという祖母の言葉に、リーゼは楽しい時間がもうすぐ終わってしまうことを思い出したようだ。
ユージと繋いだ手をギュッと握りしめる。
『あ、そうだ! その、テッサさまってなんでテッサなんですか? 二つ名だって書いてありましたけど!』
一緒にいるうちは楽しんでほしいと思ったのだろう。
ユージ、強引な話題転換である。ヘタクソか。
まあ話題を変えようと思いついただけでも、10年間他人と会話していなかったユージにとっては進歩なのだが。
『土を砂に、石を砂に、金属までも砂に変える。剣も鎧も盾も意味をなさず、攻めては砂を操り、削り取る。防御 能(あた) わず。『鉄砂』のドリーム、だそうよ』
『鉄砂でテッサ……土魔法、ですかね?』
『ええ、そのはずよ。金属を砂に変えるのは誰も再現できてないけど』
『ユージさん、石は砂なんでしょ? それで、金属は石だって!』
『え? えっと、石から金属を取れるのはこっちも同じですかね。あれ? でも別モノなんじゃないかなあ……気になるなら調べておきますけど』
『どうかしら、正しいことを知ったところで、土魔法の使い手もイメージできない気がするけど……』
『魔法には相性があるし、レベルが低くて魔素が足りなければ使えない。でもそれだけだ。イメージさえできれば、可能性は無限だよ。ってね! ユージさん、使い手が信じ切ってイメージできれば、真実はどうでもいいのさ!』
『は、はあ……そういうもんですか……』
ハル、暴論である。
だが実際にハルはテッサにそう教わり、里でも有数の風魔法の使い手になっているのだ。
そもそも風を操ったからといって、跳躍の距離を延ばしたり体重が軽くなったかのようにふわりと着地するなど不可能だ。そんなことをするにはどれだけの風速が必要なのか。
テッサもハルも、魔法に関しては大概おかしいようだ。
「うわあ、うわあ! テッサさまはすごかったんだね!」
まあ魔法に関して大概おかしいのは、ゲガスの同時通訳を聞きながら興奮しているアリスもだが。
んんーってやってえいっ! なので。
『鉄砂の二つ名がついてから、テッサはテッサと名乗るようになったみたい。私が初めて会った時は、もうテッサって名乗ってたわ。自分の名前が嫌いだからって』
『そうだユージさん! 二つ名の意味を教えたんだから、ユージさんも教えてほしいんだ! テッサさまは、名前には意味があるって! けっきょく最後まで教えてくれなかったんだけど』
『ハル、いいこと思い出したわね! どうなのかしらユージさん?』
『えっと、たしかにテッサさまの名前、俺の名前もですけど意味があります。でもテッサさまの手紙に教えないでほしいって』
『ええー?』
『ユージ兄、ユージ兄のお名前にはどんな意味があるの? リーゼ知りたい!』
「ああっ! だからサクラお姉ちゃんのお名前は桜なんだ!」
アリス、ユージの妹のサクラの名前と、ユージ宅の庭にある木の名前が同じことに気づいたようだ。賢い少女である。
アリスの足下にいるコタローは、気まずそうにワフッと鳴いて目を逸らしていた。なまえにはふれてほしくないわ、とでも言うかのように。コタローなのにメスなので。
「おお、アリスは賢いなー。『俺の名前は、【雄】と【二】に分かれてて、雄は勇ましいとか強いとかいう意味がありますね』」
自らの名前、雄二の意味を解説するユージ。
聞いていた6人に沈黙が落ちる。
勇ましい。強い。
それどころか【雄】の字を二つ重ねると『雄々しい』である。
ユージからかけ離れた意味である。
『……あれ? みなさんどうしました? それで、二は二つあるとか二つ目って意味です。父親が【一雄】で、一人目の勇ましくて強い人って意味だったので、俺が二人目の勇ましくて強い人って……あの、みなさん?』
アリス、リーゼ、リーゼの祖母。
ケビン、ゲガス、ハル。
6人の沈黙が続いていた。
『そ、そう、ホント、名前には意味があるのね! すごい、いい風習ね』
『お、おう、すげえなユージさん! いやあホント、俺も娘に意味を込めた名前を贈ればよかったな!』
『い、いいじゃないかゲガス、ジゼルっていい響きだよ!』
「ユージさん、その、素晴らしい名前ですね!」
リーゼの祖母、ゲガス、ハル、ケビン。
年の功である。
大人たちは気まずい沈黙に打ち勝ち、ユージをフォローしていた。
「ありがとうございます!」
おかげでユージには 覚(さと) らせなかったようだ。
【優二】であればここまで気まずくならなかったかもしれないのだが。
『でもユージさん、よけい気になっちゃったわ。ねえ、テッサの妻が名前の意味を知らないっておかしくないかしら? ユージさんのいた国では当たり前のこと?』
『いや、絶対ありえないですね』
リーゼの祖母に問いかけられたユージは、絶対ありえないと素直に答えていた。
まあ隠された意味がある場合や平仮名は置いておいて、漢字の意味であれば名前を見ればわかるのだ。
絶対かどうかはともかくとして、意味を知らないことはそうそうないだろう。
『ほら! じゃあ教えてちょうだい! テッサの妻に、テッサの名前の意味を!』
『……わかりました』
ユージ、押し切られたようだ。
『その、テッサさまは【どりいむ】っていう名前だったんですけど……たぶん読み方とその文字自体と、二つ意味があるんです。読みのほうは簡単で、夢って意味です。夜見る夢も同じ読み方ですけど、たぶん目標とか叶えたいことのほうの意味だと思います』
『夢。ドリーム。そう、いい名前だったのね』
『夢! テッサさまらしい名前だったんだ!』
夢という意味を持つ【どりいむ】。
リーゼの祖母とハルの目はキラキラと輝いている。
異世界人には好評だったようだ。
さすがキラキラしているだけのことはある。
『それで、文字自体の方は俺も正確にはわからないんですけど……当て字なのかなあ。【土理威夢】。地面にある【土】。えーっと、物事のスジとかことわりとかそういう意味の【理】。威力っていうぐらいだから、強い力とか勢力とかいう意味かな? 【威】。最後にこれも【夢】って意味ですね。それが【土理威夢】の文字の意味です』
『【夢のように強い力を持つ土の理】。ふふ、誰も真似できない強力な土魔法の使い手、テッサらしい名前だったのね』
『すごい、すごいよユージさん! 土理威夢! テッサさま、いい名前じゃないか!』
『ユージ兄、リーゼは雄二って名前もいいと思うわよ?』
本名の解説はしないでくれ、というテッサのお願いを破ったユージ。
だが、キラキラネームは好評だったようだ。
テッサの意図に反して。
さすがキラキラしているだけのことはある。
「あ、あの、でも【土理威夢】って俺たちがいた国では普通の名前じゃなくって」
『まあ! ありふれた名前じゃなかったのね! さすがありふれた土魔法の使い手じゃなかったテッサだわ!』
注意しようとしたユージの努力も虚しく、さらにキラキラと目を輝かせるリーゼの祖母。
キラキラネームの魔力よ。
「うわあ、うわあ! いいなあ、アリスもそういうの付ける!」
「名前に意味がある。言葉が力を持つって考える種族もいるからな、なるほど……」
「お義父さん、私とジゼルの子供には意味を込めて名付けましょうか」
ケビンにいたっては、ジゼルと子供ができたらキラキラネームにしようかと乗り気である。
「あ、あの、ケビンさん、それは 止(や) めたほうが……」
ユージの努力次第で、異世界にキラキラネームが流行るかもしれない。
ワフワフッと呆れた様子でニンゲンたちに吠えるコタロー。ゆーじ、せいぜいがんばってね、と言わんばかりだ。名付けに関してはコタローも諦め気味なようだ。何しろどれだけ吠え立てても、コタローと名付けられたので。
だが心配はいるまい。
現地の言葉もエルフの言葉も、音に文字をあてはめた表音文字。
表意文字と違って、意味を持たせるには難しい言語なのだ。
ユージが無理やり漢字で当て字しない限り、キラキラネームは付けられないだろう。
ユージが当て字でもしない限り。
あるいは、日本語を勉強しているアリスが漢字を覚えない限り。