軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 ユージ、歓迎の宴に参加する

「ユージ兄、歌が聴こえてきた!」

「アリス、今日は歓迎の宴なんだってさ」

「うたげ! ユージ兄、お肉いっぱいでるかなあ?」

「どうだろう。でも、リーゼもハルさんも普通に肉を食べてたし、エルフだからってベジタリアンじゃないみたいだし……でるんじゃないかなあ」

「うわあ、アリス楽しみ!」

予想外だった長老会を終えて、木立の中からエルフの里の中心部へと向かうユージたち。

ハルの指笛を合図に、宴ははじまっているようだ。

歓迎される対象をおいて。

細かいことを気にしないのは長命種ゆえか。

テンションが高いアリスに手を引かれたユージが木立の先、里の広場に目を向ける。

そこには、行きにはなかったテーブルやイスが持ち出されていた。

すでに里のエルフたちが思い思いに集団を作り、木製のコップを片手に談笑している。

中にはリュートのような弦楽器を手に曲をかき鳴らす者、あわせて歌を歌う者の姿もあった。

目に入る前からアリスを喜ばせた音楽である。

「さあユージさん、主役の席はあそこだよ!」

「え? ハルさん、あそこはちょっと……」

「ユージ兄、アリスちゃん、行こ!『リーゼ、おめかししてきたんだから!』」

どうやらリーゼは長老会の後に宴が開かれることを知っていたようだ。

開拓地の針子が縫い上げた服を着てコサージュをつけ、左の手首にはミサンガを、首からはギルド証を下げている。

きっとポケットにはハンカチが入っていることだろう。

エルフの少女・リーゼと案内役のハルがユージたちを案内した場所は広場の中央。

たしかに主役が座ってもおかしくない席だが、考えようによっては見せ物となる席である。

ユージ、気後れしたようだ。

まあ元引きニートでなくとも、美男美女のエルフに囲まれた完全アウェイで中央に座るのは気後れすることだろう。

たとえぼっちではなかったとしても。

「あの弦楽器は人の街にも似たような物がありますね。食器やテーブルなんかも目新しい物はなし。服装は……一部に絹を使う、と。歓迎の宴ですから、着飾ってるのでしょうか」

「ケビン、宴だぞ? いろいろ見るのはまた今度にしろ」

「何を言ってるんですかお義父さん! こういう場こそ大事なんです!」

ユージの後ろを歩いていたケビンとゲガスはがちゃがちゃと言い合っている。義理の親子の仲は良いようだ。

さらに後ろには老エルフたちも続き、広場の中央へ。

それぞれが用意された席に座って宴がはじまるのだった。

いや、主役を待たず宴ははじまっていたようだが。

『ユージ殿、楽しんでおられるかな?』

『あ、はい』

稀人のユージと帰還したリーゼを歓迎するエルフの里の宴。

広場の中央に座らされたユージは、長老会に参加していた一人の老エルフに話しかけられていた。

エルフとユージ、それぞれの手にあるのは木製のコップ。

注がれているのはエールビールのような何かである。

すでに何杯か空にしたユージの顔は赤い。

ちなみに両親に挟まれてニコニコのリーゼにはアルコールが入っていないフルーツジュースが提供されているようだ。

『それにしても……みなさんすごいですねえ』

『ふふ、儂らは時間だけはあるからの。楽器、踊り、細工……みな趣味を持っているのじゃ』

『あ、そうか。それでみんなうまいんですね』

『うむ。飽きて次の趣味に移ったところで、覚えたことはそうそう忘れんでな』

中央の席からあたりを見まわすユージ。

エルフたちは楽器を弾き、歌い、踊り、酒を手に談笑して楽しんでいる。

残念ながら露出は少ない。やはり風呂上がりに上半身裸でうろつくハルが特殊だったようだ。

座ったままのユージも目や耳で楽しみながら、三脚に固定したカメラをまわしていた。

『あ、コタロー』

音楽に合わせて踊るエルフたち。その足下を、コタローが駆けまわっていた。

どうやらコタローも踊っているつもりらしい。

せわしなく動くコタローを見て、女性陣が黄色い声をあげている。

コタロー、すでにエルフの女性のハートをわしづかみしたようだ。

ユージはただの置き物である。

『あれ? 曲が変わりました? これ、聴いたことあるような……』

『剣舞をはじめるようじゃな。ユージ殿が知っておるとなると、どこぞでハルが舞ったかの?』

『ああ、それで! はい、ケビンさんの結婚披露パーティの時に、ハルさんが舞ってました』

ユージが座る広場の中央近くにスペースが空く。

空いたスペースに進んできたのは、一組の男女だった。今回、ハルは舞わないらしい。

ゆっくりと流れる音に合わせて細剣が抜かれる。

エルフの剣舞。

今日は男女一組バージョンであるようだ。

音楽に合わせてステップを踏み、細剣を振るうエルフの男女。

華奢な体、陽光を浴びて輝く金の髪、整った細面。

時に近づき、時に離れて二人が舞う。

エルフたちに交じって手拍子をしながらその様子を見つめるユージ。

クライマックスが近づくに連れて曲のテンポが上がる。

優雅な舞いは、やがて激しくキレがある剣技へ。

空気を切り裂く音を最後に、二人がピタリと動きを止めた。

観衆から拍手が巻き起こる。

ユージも一緒に拍手を送る。

だが。

『ふふ、ユージ殿。ハルの舞いのほうが美しかったじゃろう? 顔に書いておるよ』

『あ……すみません』

『よいよい。アレは里でも有数の舞い手じゃからな。アレで性格がああでなければのう……』

あの長老会に参加していたメンツが言えることではあるまい。

ユージはスルーである。

コミュ力は進歩が見られるが、ユージはそもそもツッコミタイプではないのだ。

『あれ? ハルさんはどこに行ったんだろ』

『ハルならほれ、あそこにおるよ』

そう言って広場の一角を指す老エルフ。

指をたどったユージが目にしたものは。

一人の女エルフの前で跪き、開拓村で購入したコサージュを掲げるハルの姿だった。

『何してんだハルさん……』

『贈り物じゃろうなあ。口説いておるのか友好の証なのか』

『あ、受け取ってもらえた。……けど、行っちゃった』

『振られたようじゃな』

『もう立ち上がってキョロキョロしてる。ハルさんタフすぎるだろ……』

『本気なのか冗談なのかよくわからん。どうやらニンゲンの街に行っても変わっておらぬようじゃな』

『え? ちょ、なんかハルさんまた跪いてるんですけど』

『うむ、これで四人目じゃ。すべて立ち去られておる』

『……はい?』

王都から帰ってくる途中、旅に同行していた針子が作ったコサージュを見て、ハルは『五つぐらい欲しい』と言っていた。

どうやら言葉通りに購入していたようだ。

そして活用したらしい。物だけ持っていかれていたが。

『あーあ、振られちゃったよユージさん。ちょっと慰めて!』

『ハルさん? 酔ってます?』

四人に振られたハルは、ちょっとふらつきながら中央のユージの下へ近づいてくる。

ふらついているのはお酒のせいか、それとも振られたショックなのか。

ハルの胸元には、コサージュが一つ付けられていた。

どうやら本当に五つ用意していたらしい。

沈んだ様子のハルとは裏腹に、コサージュを受け取った女エルフは笑顔を見せていた。

振ったものの、プレゼント自体はうれしかったようだ。

コサージュという、ハルが初めて持ってきた物に女性陣が群がる。

布で作られてるのね、単純だけど面白い、ハルも一人に絞ればいいのに、『枯れない花には枯れない花を贈ろう』だって! 顔だけはキリッとしちゃって! などと、きゃいきゃい盛り上がっている。

気持ちは受け取らないが贈り物は受け取り、それを肴に盛り上がる。女性の恐ろしさよ。

そんな女エルフたちの様子をちょっと引き気味で眺めるユージ。

立ち直ったのか、ハルは暢気にコップに口をつけてごくごくとエールビールを飲んでいる。タフガイか。精神的に。

と、タイミングが良かったのか悪かったのか。

奏でられた曲の合間、静かになった刹那にユージの耳に届いた声。

『これ、稀人さんが開拓地で作ったらしいわよ。リーゼの服も、あの子の服も』

コサージュを囲んで盛り上がっていた数組の女性エルフのグループ。

ギラリと。

揃ってユージに目を向ける。

「ひっ」

ユージ、思わず悲鳴が漏れていた。

蛇に睨まれた蛙である。

どうやらエルフの女性はベジタリアンではなく、肉食系であるようだ。

「あ、ユージ兄! アリスね、エルフのおねーちゃんとお話ししてたの!」

「そっか、よかったなーアリス」

「あらあら、お姉ちゃんなんて。私、これでもけっこう歳とってるのよ?」

「えー? 見えないよ? あれ、ユージ兄、後ろ見てどうしたの? 誰か来るの?」

「い、いや、なんでもないよ。アリスがどうしてるかなーと思ってさ」

ユージ、肉食獣の襲撃から逃げてきたようだ。

かつてハルが領主に言っていた『エルフはそれほど物欲がない』とはなんだったのか。

あるいは女性にとって、オシャレや新商品とはそれだけ魔力があるものなのかもしれない。世界が変わっても、種族が違っても。

「あれ? そういえば、あなたは人間の言葉がしゃべれるんですね」

「ええ、いまのお役目はハルだけど、いつか代わるかもしれないもの。しゃべれるエルフは他にも少しはいるわよ」

「ああ、そっか、一人じゃ大変ですもんね」

「ところで……ユージさん、アリスちゃんの服を作ったって本当かしら?」

「え? ああ、俺じゃないですよ。開拓地にいる針子が作りました」

「へえ、開拓地……ハルは近いって言ってたわね……」

「エルフのおねーちゃん、どうしたの? 聞こえないよ?」

「ああ、なんでもないのよアリスちゃん。そう、なんでもないの」

ユージ、逃げ切れていなかったようだ。

将を射んと欲すればまず馬を射よ。いや、アリスと話してたのは決してそんなつもりではなかったのだろう。ただアリスのかわいさにお近づきになりたかっただけなのだ。たぶん。

ともあれ。

ユージの狼狽は置いておいて、稀人の来訪とリーゼの帰還を歓迎する宴は夜まで続いた。

以前リーゼが言っていた『エルフのみんなが欲しがる物は開拓地にある』というのは真実だったらしい。

まあユージは長老会で交易について話すのをすっかり忘れていたようだが。

エルフの里に滞在してから二日目の夜も、こうして平和に過ぎていくのだった。

ユージの貞操も無事である。

まあユージはキープくんだった20才の頃に一度経験があり、純潔ではないのだが。どうでもいい。