軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 ユージ、長い旅を終えて自宅に帰り着く

「土さん、ちょっと下にいってー!」

『土に宿りし魔素よ、我が命を聞け。固まることなくただ下へ。 土壌降下(ディセンド・アース) 』

プルミエの街から開拓地を目指す道のり、その三日目。

獣道の横、二つの切り株に向かって二人の少女が地面に手をついている。

エルフの少女・リーゼ。

そして、アリス。

魔法で切り株のまわりの土をどかし、根を露出させているのだ。

「おお、アリスもリーゼもすごい!」

『やりましたねお嬢様!』

『ふふん、リーゼは立派なレディだもの! 年下のアリスちゃんに負けてられないわ!』

自慢げに胸を張るリーゼ。絶壁である。まだ12才だから仕方ないのだ。これからなのだ。たぶん。

「やったねリーゼちゃん! アリスと一緒にお手伝いしようね!」

初めて切り株を露出させる土魔法を成功させたリーゼに、アリスが笑顔で駆け寄る。

ここまでの道が整備されていたため、時間には余裕がある。

ゆっくり進んでも陽が落ちる前に開拓地には到着する予定となっていた。

ひさしぶりの開拓地を目前にして、アリスもテンションが上がっているのだろう。

『開拓地、稀人が暮らす家か……ああ、楽しみだぜ! よーし嬢ちゃん、魔法を使った後は下がってろ! 俺が一刀ずつ入れていってやる!』

『わかったわゲガス! さあどんどんいくわよ!』

『はは、張り切りすぎだよゲガス! まあ気持ちはわかるけどね! 「アリスちゃん、魔法が終わったら下がってね。アリスちゃんのほうはボクが斬ろう」』

「はーいハルさん! アリス、またえいってやるね?」

「ゲガスさん? ハルさん?」

「もう、パパったら!」

「ユージさん、ああなったらもう止まりません。まあ害はないみたいですし、放っておいてやってください。エンゾさん! 二人の分も警戒をお願いします!」

「はいよ、ケビンさん」

「うふふ、頼られてるのねエンゾ。私からもよろしくね。妹も一緒なんだもの、ここまできて危ない目には遭いたくないわ」

「いよっしゃあ、任せとけイヴォンヌちゃん! 行くぞコタロー!」

「あ、エンゾさん! コタローまで! ……まあ二人なら大丈夫か。二人とも強いし、こっちにはケビンさんの護衛の二人もいるし」

「もうすぐ開拓地ね……何から作ろうかしら。いえ、これはアレね、先にヴァレリーと見習いたちに教えて単純作業を任せて、私は……」

カオスである。

テンションが上がっているのはアリスだけではなかったようだ。

ユージにいたってはコタローを人間としてカウントしている。二人、とはなんなのか。一人と一匹ではないのか。

ともあれ、13人と一匹はわいわいはしゃぎながら旅の最終日を過ごすのだった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「あれ? ここにも休憩用の広場がある?」

「しかもテントと荷物がありますね……ああユージさん、あれですよ。あの7人組の」

「ああなるほど。そういえばこの先はまた整備されてますもんね」

「ええ、彼らは開拓地に近い側を受け持ったんでしょう。冒険者30人規模の集団と犯罪奴隷が同じ場所にいたら、問題がおこっても仕方ありませんから」

「え? 彼ら、けっこうマジメに働いてましたよ? ワイバーンと戦った時だって……」

「ユージさん、そのあたりは関係ないのです。犯罪奴隷は犯罪奴隷。そういう目で見られるものですよ。実際、彼らは罪を犯したわけですから」

「そうですか……」

「ユージさん、開拓地まではまだかかります。ここで最後の休憩をとりましょう」

「あ、はい。おーいみんな!」

後続に呼びかけるユージ。

いや、後続だけではない。

道の脇で切り株を蹂躙しながら進むアリスとリーゼ、ゲガスとハル。

張り切って索敵するあまり、なぜか山鳥二羽とウサギを仕留めてきたエンゾとコタロー。

夢中になっている五人と一匹に呼びかけていたようだ。

まあそれでも4級冒険者相当のケビンの専属護衛が二人、5級冒険者となったユージ、ケビンがいるのだ。

つくづく過剰戦力である。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「あ、ユージさんたち! こんにちは!」

「ちわーっす!」

開拓地まであと3時間ほど。

最後の休憩をとっていたユージたちの下へ、ぞろぞろと男たちがやってくる。

「な、なんですかその体育会系の部活みたいなノリ……」

「ああ、これですか。俺が王都の冒険者ギルド学校にいた時に習ったヤツなんですよ。集団行動には必要だって」

ユージに答えたのは、二足歩行する猿だった。

プルミエの街の冒険者ギルドでユージに絡んだ木こり、コンビを組んでいた猿人族の男。それと5人の犯罪奴隷たち。

どうやらこの休憩所を使っていた、道造りの役務に従事している7人の男たち。

一仕事終えて、彼らも休憩を取りに来たようだった。

「俺たちはここと開拓地の間の道を切り拓いてるところです。この先はもう荷車が通れますよ。ちょうどいま、開拓地まで木材を運んで帰ってきたところなんです」

「おお、じゃあ道が完成するまでホントにあとちょっとなんですね!」

「ええ。木工職人のトマスさんが作ったこの荷車、すごい使いやすいです! 車輪はユージさんが考えたんですよね?」

「え、ええ、考えたというか、うん、まあ」

「ユージさん、あとで詳しい話を聞かせてください」

『あはは、なにコレ! 固いのに柔らかいよ!』

『落ち着けハル。初代国王の父が開発したっていうタイヤに似てるが……稀人はみんな作り方を知ってんのか?』

『あ、ちょっとゲガスさん! そんな強く叩いちゃダメです!』

7人の男たちが引いてきた荷車には、二つの車輪が取り付けられていた。

動かなくなったユージ宅の軽自動車から取り外したタイヤである。

それを見たケビン、ハル、ゲガス、目ざとい三人は大騒ぎしていた。

ゲガスがエルフの言葉を使っていたのは、開拓民にはユージが稀人だとまだ明かしていないことを配慮してのことだろう。

アリスとリーゼはまったく驚いていない。

なにしろ二人の少女はユージの家で生活しているのだ。

タイヤよりも驚くべきことが大量にあるのだ。

この二人もずいぶん現代の生活に毒されているようだった。

「そういえば……道が完成したらお二人の罰は終わりですね。どうされるつもりですか? また冒険者に?」

木こりと猿にそう問いかけるケビン。

冒険者に戻るつもりなら、何か考えがあるのかもしれない。

「おい猿」

「ああ、ちょうどよかったかもしれねえな」

「二人ともどうしたんですか?」

ぼそぼそとたがいに言葉を交わす木こりと猿。

それを見たユージが二人に問いかける。

やがて木こりと猿がユージに向き直り、跪く。

両手を前に伸ばして地面につけ、額を地面にこすりつける。

「ユージさん! お願いがあります!」

「冒険者ギルドで絡んだ俺たちが頼み事をするのは申し訳ないんですが、そこをなんとか!」

「は、はあ……とりあえず言ってみてください」

「道が完成したら、コイツらに宿場町を造る役務に就かせてやれるよう、口を利いてもらえないでしょうか!」

「俺たちも一緒に働くつもりです! お願いします!」

「えっと、後ろの犯罪奴隷の人たちを? なんでですか?」

頼まれた内容はわかるが、意味がわからない。

ユージがふたたび木こりと猿に問いかける。

「道が完成したら俺たちは自由になる。でもコイツらは次にどんな役務に就くかわからねえんです!」

「7人でやり切ろうって約束したんですよ……でも思ったより早く完成しちまいそうで」

「それに……最後まで面倒みてやりたいんです。なんなんですかね、この気持ち」

木こりと猿が口々に思いの丈をぶつける。

とりあえず、むさくるしい大男のちょっと照れくさそうなしゃべりがキモい。恋する乙女か。

ユージはいまいちその気持ちが理解できなかったようで、首を傾げていた。

「厳しい冬を越え、同じ役務に就くことで生まれた連帯感でしょう。それに、ワイバーン戦のこともありますしね」

「あ、なるほど。7人で一つの仲間ってことですね!」

ユージに解説するケビン。

ようやくユージも理解できたようだ。

ユージがケビンから男たちに目線を戻すと。

跪いた男が、二人から七人に増えていた。

「ユージさん。彼ら犯罪奴隷たちは、身を呈してワイバーンから助けられたわけです。この二人は犯罪奴隷たちから信頼されているようですね。結束は固いみたいです」

「お願いしますユージさん!」

「おねっしゃーす!」

「は、はあ……ケビンさん、どうなんですか? この道の途中に宿場町って」

「私たちはアリスちゃんとリーゼちゃんの足に合わせて進んできました。それでも余裕を持って三日。おそらく普通に行けば二日の道のりになるでしょう。ええ、間に宿泊できる場所があると助かります」

「じゃあその、頼んでみてもいいんですかね? 領主様とか代官様ですよね?」

「陳情自体は問題ありませんよ。労働力として犯罪奴隷をまわしてもらう場合はみんなそうしてますから。ただ……」

「ただ?」

「おそらくユージさんが陳情すれば、採用されるでしょう。成功している開拓地は貴重ですし、ユージさんは例の件で領主様からの頼み事を聞いたわけですから」

「はあ」

「ですから、陳情されたら通るものとしてどうするか考えてください」

「あ、そういう意味ですか。わかりました」

「その、ユージさん、どうっすか?」

ケビンの解説で、ようやくユージが現状を理解したとわかったのだろう。

男たちがおそるおそる顔を上げる。

「ちょっと開拓地のみんなと相談してみます」

ユージ、得意の先送りである。違う。事は開拓地にも関わるのだ。

ユージはどうやら副村長のブレーズや木工職人のトマスも交えて話し合うつもりのようだった。

開拓団長にして村長のユージ、成長である。

「ところでその……なんなんですかそのポーズ? いや、似てるのは知ってるんですけど、同じかどうか」

「これですか? ドゲザって言います! 王都の冒険者ギルド学校で教わったんですよ!」

答えたのは、王都育ちのシティボーイの猿だった。

どうやら初代国王の父は、学校だけではなく様々なことをこの世界に持ち込んだようだ。

300年近い間に、ちょっと形が変化したようだが。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「さあ、そろそろ見えてきますよ」

「おおお、やっとか! 長かったなあ……」

「リーゼちゃん、もうすぐおうちだよ! 帰ったら一緒にお風呂入ろうね!」

『ユージ兄、アリスちゃん、コタロー……ううん、まだ一緒にいられるし、里に帰ってもまた会えるんだものね!』

『そうですよお嬢様。……話がうまくいかなかったら、また抜け出せばいいんです』

『ハル、聞かなかったことにしてやるわ。俺はもう引退したしな!』

「さあイヴォンヌちゃん、もうすぐ開拓地だ!」

「ふふ、ホントに森の中にあるのね」

「お姉ちゃん、私たちがいた村みたいだね」

「それでね、ジゼル。とりあえずコレを教え込もうと思うの。そしたら私が自由に動けるから!」

「うん、いいと思うよユルシェル。作業はある程度まかせちゃって、ユルシェルとイヴォンヌは主力商品の開発にまわってほしいの。あとはユージさんを巻き込まなきゃね!」

カオスである。

開拓地まであとわずか、一行の足は自然と早まっていた。

そして。

先頭を歩くコタローが、ワンワンワンッ! と叫ぶ。みえたわよ、わたしたちのかいたくち! と言っているかのように。

顔を見合わせるユージとアリス。

ユージを真ん中に、右にアリス、左にリーゼ。

手を繋いだ三人が駆け出す。

そんな三人を、残りの9人は微笑みながら見守っていた。

いちおうハルだけはすぐ後ろを走っていたが。

駆け出した三人だが、先頭を走るコタローには追いつかない。

かけっこにまけるわけにはいかないわ、と言わんばかりのスピードである。コタロー、そこに気遣いはないようだ。しょせん獣である。

いや、きっとコタローも嬉しいのだろう。

ユージたちが開拓地を出てから二ヶ月弱。

ついに一行は開拓地に帰り着いたのだ。

一番外の柵を越えて開拓地に入り、ユージは大きな声で叫ぶのだった。

「みんな、ただいま!!」