軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 ユージ、報告のため領主の館を訪れる

「ユージさん、今回は落ち着いていますね」

「そうですね、ちょっと慣れました。それにこの前会った時に、領主様がストレートな方だったので……」

「慣れましたか、いいことです! ……ユージさんより、ハルさんのほうが心配になってきました」

「ケビンおじちゃん、どうしたの? ハルさんはカッコいいし、しっかりしてるよ!」

「そうですよケビンさん! ボクだって場所はわきまえてますって!」

「はあ、それならいいんですが……」

『わ、忘れてたわ! あのおっぱいが大きいニンゲンのレディも来るのね! たいへん! ハル、あなたホントにわきまえなさいよ!』

『え? そんなステキなニンゲンのレディが? エルフはみんな薄いからなあ……』

『ちょっとハル!』

『ハルさん、どういうことですか? ちょっと詳しく聞きたいんですけど』

プルミエの街、領主の館。

その応接間にユージたちの姿があった。

身なりを整えたユージ、アリス、ケビン。

エルフの少女・リーゼとその護衛役で現役の1級冒険者、エルフのハル。

そして、ユージたちのひらひらだらけの服に誘惑されているコタローである。

コタローは、だめ、だめよはしたない、とばかりに欲望と理性の狭間で苦悩しているようだ。まさに獣欲である。犬だけに。

応接間で出されたお茶を飲みながら雑談する一行。

ユージもずいぶん余裕があるようだ。

元引きニートから脱却して五年目。

数々の経験が、ユージを成長させたのだろう。

一方で、ケビンとリーゼは新たな不安を抱えていた。

ここに来て気づいてしまったのだ。

美しく色気がある領主夫人と、ハルの組み合わせのマズさを。

ケビンがもらった面会予約の返事には領主と領主夫人の名前があった。

領主は愛妻家であり、かつてユージは手を出そうとした人は物理的に首になると聞かされている。

ハルを同行者に選んだケビン、痛恨のミスである。

護衛だけであれば、ギルドマスターのサロモンでも構わなかったのだ。

事ここにいたっては、ハルが自称する「わきまえている」を信じるしかない。

ユージは大丈夫そうだが、一行が新たな不安に包まれたその時。

廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

ノックもなくガチャリと開く応接間の扉。

「お客人、お待たせした! おお、ひさしぶりだなユージ殿、ケビン殿!」

入室してきたのは大きな男。

2mを超える身長もさることながら、筋肉の鎧をまとった身体は横にもデカい。ついでに声もデカい。

「あなた、ご挨拶はきっちりしてくださいね。みなさま、おひさしぶりです」

続けて入ってきたのは領主夫人。

今日もホルターネックのドレス姿であり、ユージの特殊技能『 神の眼(スカウター) 』で判別されたGもしくはHは封印されていた。

いや谷間が隠れたところで、胸部装甲を盛り上げる山の存在感はすさまじい。

ユージ、そしてハルの視線は偉大な山脈に釘付けである。

哀しき男の性よ。

ユージの脇腹をアリスが、ハルの脇腹をリーゼがつねる。

二人の男はようやく我に返ったようだ。

ケビン、ユージ、ハル、そしてアリスとリーゼが領主夫妻に挨拶していく。

コタローもワンッと一吠えして、よろしくね、と言っているかのようだ。

「面会が急な日程になって申し訳ない! 儂は明日、王都に向けて発つことになってな! はあ、気が重い……いや、自業自得なのだが……」

「あなた、お客人に聞かせることではありません。みなさん、気にしないでくださいね」

ケビンが面会を申し込んだ翌日の面会。たしかに貴族と面会するにはありえないほど急な日程ではあった。

そのことを詫びる領主。律儀な男である。

それにしても、王都行きは領主にとって気が重い事情であるようだ。

思わず漏らしたグチは、艶然と微笑む領主夫人に諌められていた。

「しかしだな……む? ユージ殿たちになら言っても構わぬのではないか? それに……」

領主はチラッとアリスに目をやり、その後、確認を取るように領主夫人を見つめる。

豪快な性格ではあるが、このあたりは気がまわるようだ。

「ええ、そうでしたね。ではあなた、きっちりとお願いいたしますわ」

とつぜん始まった夫婦の会話を無言で見つめるユージたち。

ユージとハルの目線は領主に向いている。鉄の自制心である。

まあチラ見するたびに、二人の少女がそれぞれの脇腹をつねってくるせいなのだが。

「うむ。アリス殿。バスチアン・ドゥ・ゴルティエ侯爵より手紙をいただいた。領内の安全は領主である儂の責任である。アンフォレ村、そしてご家族の件、誠に申し訳ありません」

領主夫妻が揃ってアリスに頭を下げている。

ユージやアリスはもちろん、ケビンも呆気にとられていた。

最初に立ち直ったケビンが問いかける。

「その、バスチアン様からのお手紙にはなんと?」

「うむ、バスチアン卿が後援するゆえ、ユージ殿率いる開拓団とケビン商会に手は出さぬようにと。まあ儂が援助する、商売のために手を組む分には適正であれば問題ないとのことだった。そして……」

「私からお話ししますわ。バスチアン卿の娘のことも書かれておりました。その娘の子のことも。それにユージ殿については、私たちが害さぬようにと念を押されていました」

本人と関係者を前にしても明言はしなかったが、どうやら事情は手紙に書かれていたようだ。

たしかにユージがバスチアンに「稀人だ」と明かした際、領主に話はつけておこうという言葉をもらっていた。

だが。

「え? その、たしかにのんびり帰ってきましたけど、もう連絡が来てたんですか?」

そう問いかけるユージ。

昨日時点で急遽王都に行くことが決まったのであれば、領主はその前に連絡を受けたことになる。

ユージ、権力者を前にしても多少は頭がまわるようになってきたようだ。

「うむ、バスチアン卿から特急便をもらってな。依頼を受けた冒険者が、手紙一通届けるために王都から走ってきおったわ!」

「あ、ひょっとしてあの時に見た?」

「そうかもしれませんね。ユージさん、それよりも……」

「アリス殿、申し訳なかった。身分ゆえに言うのではない。領主として、儂が守りきれなかったのだ」

「りょーしゅさま、もういいの。アリス、幸せになるって決めたんだから! お父さんとお母さんが、ひとりでも幸せにって言ってたんだから!」

再び頭を下げる領主夫妻にアリスは宣言する。タフな少女である。

イスに座るアリスのヒザに前脚をかけてワンッ! と鳴くコタロー。よくいったわありす、わたしはほこらしいわよ、と言いたいようだ。

「ありがとう、アリス殿……いま、代官のレイモンが領地の防衛計画を見直しておる。農村の安全を強化できるようにとな」

これまでユージたちが領主夫人、あるいは夫妻に面会するたびに同席していた代官。

今日いないのは、重要かつ至急の仕事があるためのようだ。

「それは何よりです。私はプルミエの街を中心に、農村を行商でまわっていましたが……防衛と治安は農村にとって最大の関心事でしたから」

「うむ。手を抜いておったわけではないのだがな……それでも不足していたのは確かなのだ。見直す機会であろう。ユージ殿たちは無事に往復できたようでなにより!」

「あ、その、峠で一度襲われました。撃退しましたけど」

「む、そうであったか。やはりあそこには兵を常駐させたほうがよいか……」

「あなた、考え事は後になさい。お客人の前ですよ」

ユージの報告を聞いて考え込む領主。

領主の太ももに、そっと手を置いて注意する領主夫人。ただ手を動かしただけなのになぜかエロい。

ユージとハルの視線がたおやかな手を追いかける。

すかさずアリスとリーゼに攻撃される。

哀しい男たちである。

「すまぬ、話がそれてしまったな。それでユージ殿、エルフ護送隊は役目を果たしたと考えてよいのか?」

「はい、王都でハルさんと合流できました。プルミエの街で用事を片付けて開拓地に帰ったら、エルフの里に送ってきます」

「おお、それはよかった! ハル殿と言いましたか、不都合なことはありませんでしたか?」

「ファビアン様、お気遣い感謝いたします。ユージさんより、リーゼの保護に手を尽くしてくれたと聞いております。首尾よく私と合流できましたし、何も問題はありません。ファビアン様のこれまでの行動に感謝を」

「……ハ、ハルさん?」

現地の言葉で流暢に感謝を述べるハル。

ハルのノリの違いに、ユージは驚きを見せていた。

どうやら言動が軽いこのエルフ、やればできるようだ。

まあ他種族しかいない街に一人だけ送り込まれた男なのだ。戦闘力もさることながら、コミュ力が高いのも当然だろう。

「ハル殿、この後エルフの里へ行くということだが、護衛は必要か? 不足しているようであればこちらから信頼できる者を遣わせるが」

「ファビアン様、重ねて感謝を。ですが私はこれでも1級冒険者。それにゲガス商会の元会頭『血塗れゲガス』も護衛にあたっております。戦力は充分です」

「ほう、ゲガス殿が来ておるのか。挨拶したかったが……王都に向かわねばならぬのでな」

「領主様、ゲガスはしばらくこのあたりに滞在しそうです。いずれ向かわせますので」

「うむ、久方ぶりに拳を交わしたいものよ」

どうやら領主とゲガスは知己であるようだ。

そういえばかつてケビンが絹のドレスを見せた際、領主はゲガス商会の布だと見抜いていた。

それにしても拳を交わすとはなんなのか。商会の会頭と貴族の面会内容ではない。仲が良さそうなのは確かだが。

「ふう、ともかくこれで肩の荷が一つ下りた! ユージ殿にも感謝を!」

「いえ、俺はリーゼと一緒にいただけですから」

「それでもだ! いや、それこそが重要なのだ! ユージ殿がリーゼ殿から信頼されなければ、事態はややこしいことになっておったかもしれん! ユージ殿、エルフ護送隊への報酬を受け取っていただきたい!」

領主夫人が呼び鈴を鳴らすと、布袋を持ったメイドが入ってくる。

テーブルの上に置かれたソレは、いかにもずっしりと重そうだ。

「そんな、いろいろ手配していただいたうえに報酬なんて……」

「ユージ殿、申し訳ないがそれほどの金額ではない。なに、ユージ殿が心苦しければ護送隊全員で分けるがよい! いらんと言われても儂はもう受け取らんからな!」

肩でも叩きそうな勢いでユージに告げる領主。

ようやくいつもの豪快な性格が顔を出したようだ。

「ユージさん、領主様のご厚意です、受け取ってください。領主様の言うように、分配や使い方を工夫すればいいじゃないですか」

「ケビンさん……。ありがとうございます、領主様」

そう言って布袋を受け取るユージ。

本人がどう思っていたとしても、部下に報いるのは長の仕事。

護送隊長だったユージはいまだ理解していないようだが、まわりのサポートを受けてそのあたりも変わってきているようだ。

開拓地の場合は、気にすることなく振る舞っているのだが、問題はない。

なにしろユージが家持ちとはいえ、新しく家を建てた先からバンバン古参に渡しているのだ。

かつてユージがいた日本ほどではないが、それでも自分の家となればけっこうな値段で買うか借りるものなのである。

これまで開拓地で家を手に入れたのは、奴隷、そして最初に移住した元冒険者たち。

ユージが狙ってやったことではないが、開拓民の忠誠度はそれだけでうなぎのぼりであった。

「うむ、よいよい! それでのう、ユージ殿。一つ相談があるのだが……」

「え? その、領主様から頼みごとって、あまり自信はありませんけど……なんでしょうか」

「なに、絶対という話ではない! あくまでできればの話だ! ケビン殿もハル殿もおるし、ちょうど良いのでな!」

エルフ護送隊としての報告は終わった。

領主夫妻の用事である、アリスへの謝罪も。

だが、領主夫妻との面談はまだ続くようだ。

そろそろアリスとリーゼとコタローは退屈そうにしていたが。

二人とコタローにはつまらない話題だったようだ。

いかにレディぶっていても、しょせん少女と犬である。