軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話 ユージ、貴族の屋敷に行って事情を聞く

「おお、おお……その赤い髪、その顔立ち……幼い頃のアメリーにそっくりじゃ……」

「旦那さま、みなさま困っておられます。詳しい話は屋敷でされてはいかがでしょうか?」

「おお、おお……」

王都・リヴィエール、その高級商店街。

道端で話し込んでいたユージたちは、貴族らしき初老の男に話しかけられていた。

いや、初老の男はアリスを見て涙を流しているだけで、話しかけられてはいないが。

「みなさま、旦那さまが申し訳ありません。ここではなんですし、屋敷までご同行いただけないでしょうか?」

初老の男に続いて4頭立ての豪華な馬車から降りてきた人物がユージたちに声をかける。

「ケビンさん、これ……」

「状況はわかりません。ですがユージさん、これは断れませんよ……」

跪いているケビンにあわせてしゃがみ込み、ささやき声でケビンに話しかけるユージ。

ユージと同じようにささやき声でケビンが答える。

ケビンは、チラリと馬車を横目で捉えていた。

馬車の横に描かれた、貴族の紋章を。

「わかりましたケビンさん。大丈夫かな……」

「かしこまりました。同行していた者に使いを出してもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。では参りましょうか。ゆっくり走らせますので、馬車の後をついてきてください」

ユージの了承を受けて代表して答えるケビン。

同じ馬車から降りてきた男は、初老の男の腕を掴んで馬車へと引っ張る。

仕切り出した人物は執事風であったが、主人に対してずいぶん荒い扱いだ。

まあ初老の男は泣き続けており、そうでもしなければ動きそうもなかったが。

「イアニス、ジゼルとユルシェルさんにこれを渡してください。アイアスを護衛にして、ゲガス商会へ戻るようにと。もし陽が落ちるまでに私たちから連絡がなかった場合は、会頭を連れてこの紋章の屋敷を訪れるよう伝えてください」

専属護衛・イアニスに伝えるケビン。

手に持ったこの世界の紙にざっと紋章を描き、イアニスに手渡す。

ケビンの顔色は悪い。

だが、しっかりと保険はかけたようだ。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ケビンさん、あの人ってやっぱり貴族ですよね?」

「ええ、間違いないでしょう。おそらく……いえ、憶測はやめましょう。サロモンさん、エンゾさん。もしもの時は」

「ああ。護衛を引き受けてるからな。リーゼの嬢ちゃんのついでに全員守ってみせるさ。元1級冒険者を舐めるなよ」

「ま、おやっさんと二人がかりならなんとでもなる。ユージさん、そんなに心配すんな」

貴族の馬車の後について歩きながら言葉を交わすユージたち。

ユージ、アリス、リーゼ、コタロー、エンゾ。

ケビン、使いから戻ってきたケビンの専属護衛のイアニス、プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモン。

アリスの兄・シャルル、狼人族のドニ。

合計9人と一匹の行列である。

状況はわからない。

強ばった表情を浮かべる一行。

ケビンとサロモン、エンゾは覚悟を固めたようだ。

そして、アリスとシャルルの横を無言で歩くドニも。

やがて馬車はもう一つの石の壁を通り抜ける。

門番に立っていた兵は、ユージたちをチラリと見るのみ。

どうやら前を走っていた馬車からなんらかの指示を受けているようで、一行はノーチェックで通過する。

「ユージさん、ここからは貴族街です。難しいかもしれませんが、道は覚えておいてください」

「え? そんな、まるでケビンさんが同行しないみたいな言い方……え?」

「最悪の場合、それもあり得ます。おそらく心配ないとは思うのですが……」

大人たちの不安な気持ちが伝染したのか。

普段は無邪気なアリス、リーゼも落ち着かない様子である。

ただ一人。

コタローだけが悠然と歩を進めていた。

いや、一人ではなく一匹だが。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「旦那さま、いつまで呆けてらっしゃるのですか。お客様が困ってらっしゃいますよ。さっさと自己紹介なさってください」

ユージたちが案内された貴族の館、その応接間。

連れてこられたユージたちは敷地の広さに驚き、屋敷の前の車まわしに驚き、屋敷の広さと豪華さに驚き。

予想以上の大物だと見て取って、さらに顔色を悪くしていた。

応接間の立派なソファでもくつろげないようだ。

ユージたちの対面に座った初老の男は、アリスを見ては涙を流し、ため息をつき、話しかけようとしてはやめる始末。

全員にお茶を配り終えた執事風の男から促されるまで、アリスを見つめてすっかり自分の世界に入っていた。

「う、うむ、すまぬ。儂はバスチアン・ドゥ・ゴルティエ。王都の南、ゴルティエ領を治める侯爵じゃ。路傍で話しかけた失礼と急な招待を詫びよう」

「これはご丁寧にありがとうございます。私、ケビン商会の会頭をしておりますケビンと申します」

ケビンに続いてサロモン、ユージが挨拶していく。

ケビンの後ろには専属護衛、ユージの後ろにエンゾ。

アリスとリーゼ、シャルルの後ろには狼人族のドニが立っていた。

サロモンはソファに座っている。リーゼの護衛としてではなく、プルミエの街の冒険者ギルドマスターだと自己紹介していた。貴族に対して、少しでも抑止力になればと思ったようだ。

そして。

「アリスはアリスです! 9才です! アンフォレ村に住んでたけど、いまはユージ兄と一緒に住んでます!」

「アリス……」

「旦那さま、動揺するのはわかりますが、いい加減落ち着いてくださいませ。アリスさん、お母さまのお名前はわかりますか?」

「はい! お母さんのお名前は、アメリーです!」

「おお、やはり……そ、それで、アメリーは? アメリーはいまどこに!?」

「お、おかあさんと、おとうさんと、バジルにいは……」

そう言ってうつむくアリス。

その横ではシャルルもうつむき、後ろのドニも目を落としている。

「バスチアン様。私からお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ケビンと言ったか? うむ、許す」

貴族風の男がずっとアリスを見つめていたこと。

アリスの両親が駆け落ちで、ドニが交換で手に入れたナイフは紋章が潰された跡があったこと。

そして、いまのやり取り。

ケビンは察したのだろう。

静かに話をはじめる。

それは、ドニから聞いたアンフォレ村の顛末。

アリスの父と母、兄の最期と、シャルルを守るドニの苦闘、そして盗賊団・泥鼠殲滅の物語だった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

ケビンが長い話を終える。

応接間には、すすり泣く音だけが響いていた。

手を握り合うアリスとシャルル。

対面に座った貴族・バスチアンは、上を向いて手のひらで目を押さえ、涙を落としていた。

「そうか……アメリーは逝ったか……」

「はい。その場にいたドニさんが確認しています」

「あの魔法を使ったのならば、アメリーの死は免れまい。そういう魔法じゃ。それで……アメリーは村人を守れたか?」

「プルミエの街の代官によりますと、アンフォレ村の生き残りは11名。シャルルくんとドニさんを見つけましたので、13名となります。あの規模の村が泥鼠に襲われたこと、奇襲が成功したことを考えると、立派な数かと」

「アメリーの死は……娘の死は、無駄ではなかったのじゃな」

初老の男・バスチアンの言葉に目を剥くユージ。

ケビンとサロモン、エンゾ、専属護衛のイアニス、ドニはやはりという表情を浮かべている。

子供たちを除いて、気づいてなかったのはユージだけだったようだ。

「え? そ、それじゃあ、アリスとシャルルくんの祖父……」

「そのようじゃな。アリスは、アメリーの幼い頃にそっくりじゃ」

「ケビンさん、これを」

そう言って、護衛として後ろに立っていた狼人族の男・ドニが腰のナイフを鞘ごと差し出す。

それは、アンフォレ村に住むドニがアリスの母親と物々交換したナイフであった。

「バスチアン様、これは貴族の紋章が潰されているのですが……お確かめください」

「これは……フェルナン、あれを持て」

ナイフを受け取り、 検(あらた) めるバスチアン。

後ろにいた執事風の男・フェルナンに指示を出し、一振りのナイフを持ってこさせる。

鞘、拵え、刀身。

テーブルの上に並べた二振りのナイフは、ユージの目にもそっくりに見えた。

「間違いない、か。いや、あの魔法を使ったという話を聞けば、間違いであるわけはないのじゃが……」

肩を落とし、深くソファに沈み込むバスチアン。

物証を得たことで、娘の死を実感したようだった。

「あの時、儂が認めておれば……いまさら言っても詮無きことか……」

後悔に 苛(さいな) まれているのだろう。

バスチアンはソファに深く座り込み、組んだ手を見つめて呟いていた。

その時である。

立ち上がり、トコトコと歩いてテーブルを回り込んだアリスが、ぎゅっとバスチアンの手を握る。

「お父さんとお母さんは、盗賊に襲われたら、逃げられた人だけでも幸せにって言ってたの! だから、元気出して、 お(・) じ(・) ー(・) ち(・) ゃ(・) ん(・) !」

「おお、おお……儂を祖父と呼んでくれるか……」

ふたたび号泣する初老の男。

慰めたのに泣き出されたことで、キョトンとした表情を浮かべるアリス。

強心臓な幼女である。