軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話 ユージ、エルフ護送隊長として王都に向けて出立する

「よーし、みんな忘れ物はないかな?」

「ユージ兄こそだいじょーぶ?」

『いよいよ出発ね! 王都はどんなところなのかしら!』

ユージ家の玄関前。

それぞれに背嚢を背負った三人の姿があった。

ユージはこの世界で作られた服に皮鎧。プルミエの街で手に入れた大盾と短槍も持っていくようだ。

ケビンに注文して作ってもらった背嚢には、横に水を入れる皮袋、後ろに盾を取り付けられる箇所がついている。背嚢の中に入っているのは、着替えと保存食、毛布、カメラ用の予備バッテリーとメモリーカード。

もちろんユージの手にはカメラがあった。しかも、木工職人のトマスに作らせた自撮り棒は進化していた。ユージの右肩に重量をかけるパーツを取り付け、手だけではなく肩も使うことで安定性を増していた。動画撮影のための秘密兵器である。

ちなみにユージの下着はこの世界で作られた布を褌にしている。ユージがこの世界に来てからもう5年目。すでにユニ○ロのボクサーパンツは寿命を迎えたようだった。

アリスは、針子のユルシェルがこの世界の素材で作った自信作を身にまとっている。

膝丈のワンピースに、動きまわるということでズボンを履いていた。シンプルである。だが、ネットを通じてユージが伝えた技術を用いて作ったのだ。立体裁断は、美しいシルエットを見せていた。まあその上からフード付きローブを着込んでいるので、ほとんど意味はないのだが。

アリスの背にも小さな背嚢と皮袋があり、手には木製の杖を持っていた。アリスもすっかり旅装である。

アリス同様、エルフの少女・リーゼも針子のユルシェルが作った服に身を包んでいる。

シャツに上着、ズボン。こちらもシンプルな服装だが、やはり立体裁断によりリーゼの華奢な体型をいっそう美しく見せている。こちらもフード付きローブを着て、さらにニットキャップもかぶっているのだが。

そしてリーゼも背嚢、皮袋を背負い、木製の杖を手にしている。

髪と目の色こそ違うが、アリスと並んだ姿は姉妹のようだ。

三人を先導するコタローは荷物なし。全裸で闊歩している。犬なので。

「お待たせしました、ケビンさん!」

門の前、敷地の外の簡易広場で待っていた五人に声をかけるユージ。

そこにいたのは、ケビン、ケビンの専属護衛二人、元冒険者パーティの斥候・エンゾ、針子のユルシェル。

ユージやリーゼとともに王都に向かう面々である。

それぞれ旅装であり、また、思い思いに武装している。まあ針子のユルシェルは武器を持っていないようだが。

まずは開拓地・ホウジョウ村からプルミエの街へ。

そこで冒険者ギルドのマスターにしてリーゼの護衛役、サロモンと合流。

プルミエの街で一泊して、ケビンが用意した馬車を使って王都へ向かうのだ。

開拓地から街まで三日。プルミエの街から王都まで一週間ほど。

往復でおよそ一ヶ月の旅のはじまりである。

「ユージさん、忘れ物はありませんか? まあまずはプルミエの街に行くわけですから、そこで揃えればいいんですが」

「はいケビンさん、大丈夫です!」

出発前に言葉をやり取りするユージとケビン。

簡易広場には、開拓地に残る人々の姿もあった。

「では行きましょうかユージさん」

笑顔を浮かべてユージに声をかけるケビン。

ユージがまわりを見ると、アリスやリーゼといった同行する面々も、開拓地に残る人々も一様に笑顔を浮かべている。

危険な世界での旅路だが、誰も心配していないのはケビンへの信頼か、旅立つメンバーを聞いて安心しているのか。

ともあれ、出張組を含めて30名を超える人々を見渡して、ユージは挨拶するのだった。

「それじゃあみなさん、開拓地のことはよろしくお願いします。いってきます!」

「いってきまーす!」

「いってきます!」

ユージに続いて、アリスとリーゼが手をあげて挨拶を送る。

二人の足下では、コタローがワンッと一吠えしていた。いってきます、あとはよろしくね、と言っているかのように。

ユージが異世界に来てから5年目の春。

ユージはプルミエの街に向けて出発するのだった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ケビンさん、予定通り明日には街につきそうですね!」

「ええ、ユージさん」

「それにしても……最初の頃と比べたら、ずいぶん歩きやすくなりましたね」

「そうですね、あの二人と犯罪奴隷五人ががんばってますから。でもユージさん、明日はきっと驚くことになると思いますよ」

「え?」

コタロー、エンゾの索敵役に続いて歩くユージとケビン。

二人の少女を抱えた一行だが、ユージの言葉通り明日には街につくペースで森を進んでいた。下草や薮が払われた獣道は歩きやすく、モンスターに遭遇することもなく、まるでピクニックのような道行きである。

ユージとケビンの後ろでは、手をつないだアリスとリーゼが一緒に歌いながら歩くほどののどかさだ。ユージが教え込んだ日本の歌である。あるこう、と繰り返しながら元気に歌う二人の少女。

きっとこのなんでもない時間も、リーゼにとっては宝物になることだろう。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

ユージたちが開拓地を出てから三日目。

プルミエの街には今日到着する予定であった。

森の切れ目が見えてくる前に、何やら男たちの声がユージの耳に届く。

「はい! 次はここからここまでです!」

「よーし、やるぞおまえら!」

見えてきたのは、道造りに励む男たちの姿。

冒険者らしき一団に、木を切り倒して根を処理する範囲を指示する木こりと猿。

見れば、二人は伐採には参加せず、ロープを手に次の範囲を指定しているようだ。

二人と一緒に道造りの役務についた犯罪奴隷の五人は、黙々と荷車に伐採した木々を積み込んでいた。木は重く、荷崩れすれば危険もある。やはりリスクが高い作業は犯罪奴隷が受け持っているようだ。

だが粗末な服に身を包み、危険な作業に従事する彼らの目は死んでいなかった。森の中で厳しい冬を越え、監督する二人はその身をもって自分たちの命を助けてくれたのだ。彼らの心にも変化があったのかもしれない。

そして、冒険者たちを率いるように声を張り上げ、木に斬り掛かる一人の男。

一抱えはある木を一刀で斬り倒している。

サロモンであった。

「な、なにしてるんですかサロモンさん……」

「お? おお、ユージ殿にケビン殿! いやあ、出発までギルドで事務仕事ってのもアレだからな。ここで道造りしながら待ってたのよ!」

堂々とサボってたことを宣言するプルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモン。

ギルド職員たちの呪いは、おっさんの身に届いていないようだった。

ワフワフッと鳴き声をあげるコタロー。あきれたおじさんね、かわいそうなぶかたち、と哀れんでいるようだ。

「そうか、ケビンさんが昨日言ってた驚くことってこのことですか?」

「いえ……あの、ユージさん、ほら、あれを見てください。ここまで荷車が入れるようになったんです」

「ああ、確かに!」

サロモンの登場に驚いたユージが、合点がいったかのようにケビンに声をかける。だが、サロモンの姿はケビンにも予想外だったようだ。

ケビンが言っていた「驚くこと」は、プルミエの街から半日ちょっと、全長のおよそ四分の一の距離まで荷車が通れるようになったことのようだった。

春のさなかでこの進捗なのだ。ケビンと領主が目標としていた夏の終わりよりも早く、街と開拓地を結ぶ道は開通しそうだった。

「お二人が来たってことは出発か! よーし、おまえら! あとは任せたぞ!」

そう言い残して荷物をまとめ、さっさとユージたちについて歩き出すサロモン。

自由な男である。

ともあれ。

こうして、王都に向かう最後の一人も揃った。

あとは一度プルミエの街に行き、ケビンが手配した馬車や荷物を準備するために一泊。

そのあとは、いよいよリーゼとともに王都へ向けて出発するのだ。

エルフ護送隊長ユージ。

異世界生活5年目にして、初めての旅のはじまりである。