軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話 ユージ、異世界の衣料品事情を知る

「ここが市場ですか! けっこう賑わってますねえ」

「ええ、夏に収穫される野菜なんかを近隣の農村から持ち込む人も多いですからね。ユージさん、アリスちゃん、はぐれないように気をつけてくださいね!」

はーい、と元気よくアリスが答え、ユージの手を握る。アリスがはぐれないようにしているのか、ユージをはぐれさせないようにしているかは謎である。まるで先導するかのように、コタローがふたりの前を歩いていた。

ユージがプルミエの街を訪れるのは二度目。目的だった鍛冶工房の見学と移住予定の鍛冶師との顔合わせを終え、今日はゆっくり街を見学するようだ。ユージのリクエストで、ケビンと一緒に露店が並ぶ青空市場を見に来ていた。

「イモ、麦、野菜……農作物はあんまり変わらないんだなあ。そして、やっぱり米はなしか……」

青空市場のうち、まずは食料が並ぶ一角を見てまわるユージたち。どうやら目にする限り、地球の農作物とあまり変わりはないようである。もっとも、ユージと掲示板の住人たちが想定するに、ここは中世のヨーロッパに近い。とするとすでにイモやトマトがあるのは不思議だが……。ユージはそんなことに気がついていないようであった。

「次のエリアは……おお、服か! 俺のはともかく、アリスはいいのがあったら買っていこうか!」

「うん! やったー!」

満面の笑みを浮かべるアリス。先導するコタローは後ろを振り返り、二人に向かってワンッと一鳴きしている。そうね、おんなのこはおしゃれしなきゃ、と言いたいようだ。

だが。

青空市場、衣料品エリア。

そこは、オシャレ素人のユージすら絶望に叩き落とすのだった。

「なんだコレ……ボロいし地味だしダサいし……。え? これしかないの?」

露店に並ぶ服は、良く言えば生成り。素材の色を活かした服ばかり。それも中古が多く、ケビンに聞くとこれでも清潔なほうなのだという。

さらに。

「これが、下着……だと? いや、男物……ですよね?」

おそるおそる売り子らしき恰幅のいいおばちゃんに声をかけるユージ。

「なーに言ってんだいアンタ! 男も女も、お貴族様か大商人でもなけりゃこれが普通だろ? ああ、下じゃなくて上かい? その子にはまだ早いと思うけどねえ。まあいいや、ほら」

ユージが手にしたのは、ドロワーズをさらにペラペラにしたパンツ。どうやら庶民は男女ともこれをはいているようである。

そして、売り子のおばちゃんから渡された女性のバスト用下着。

それは、布だった。

サラシである。

「……マジか。マジでみんなコレなのか」

ユージのテンションはだだ下がりであった。

そして、ユージの家にいるときはユージの妹、サクラの服を好んで着るようになったアリスのテンションも目に見えて落ちていた。どうやらアリスも現代日本のファッションに毒されていたようである。

コタローは、クゥーンと力なく鳴く。これがげんじつなのよ、あきらめなさい、と言いたいようだ。

「なんだいアンタたち? お貴族様が着るような服や下着を探してたのかい? 市場じゃそんなの置いてないよ!」

恰幅のいいおばちゃんは、沈み込む二人と一匹に愛想よく教えていた。自分の商品を買わない相手に対して、ずいぶん親切なことである。

売り子のおばちゃんの言葉を受け、すかさずケビンがユージに声をかける。

「ユージさん、せっかくですから新品の服を誂える店も見てみますか?」

ケビンの言葉を受け、チラリとアリスに目をやるユージ。アリスはいまだ落ち込んでいる。その姿を見て、ユージはええ、ぜひ、とケビンに言葉を返すのだった。

だが、ユージは知らない。

ケビンの目が、企みに輝いていたことを。

種を見つけ、案内モードから商売モードへ変わっていたことを。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「ここは私がよく利用している仕立て屋です。針子の腕もいいんですよ。ああ、領主夫人と代官にお会いする時、ユージさんにお貸ししたのもこの店の服ですね」

「これはケビンさま。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

プルミエの街の一角。ケビンに案内された店に入ると、すかさず店員が声をかけてきた。高い上背に、ぴしりと着込んだスーツに似た洋服。どうやら常連であるケビンの顔も覚えているようであった。

「こちらは新しく設立した開拓団の団長、ユージさんです。貴族に会う機会もありますし、二人に一着ずつ誂えてください。服を作るのは初めてのことですから、見本や生地なんかをいろいろ見せてあげてくださいね」

ニコニコと服屋の店員に告げるケビン。いつの間にかユージとアリスの服を作ることになっていた。

開拓民の申請でユージとアリスが領主夫人と代官に会う際は間に合わなかった。だが作っておけば使う機会があるだろうとケビンが考えたのも事実。事実だが、そう言っておけば、いろいろ見せてくれるだろうという思惑も働いていたのであった。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「では、出来上がりましたらケビン商会へお届けいたします。またのお越しをお待ちしております」

店員に見送られ、店を出る一行。どうやら貴族と会う際に着る服は注文したようである。

だが、ユージもアリスも、横で見ていたコタローもテンションは低いままであった。

染色された生地はあった。当たり前だ。地球でも化学染料こそ19世紀ごろとはいえ、天然染料は紀元前からあるのだ。美しく染められた生地で誂えた服は、この世界でも王侯貴族が好んで着るもののようだった。

だが。

高い。

そして当然だが、デザインが古くさい。ユージの目にはまるでコスプレのように映っていた。もっとも掲示板の住人たちが考察し、想定している時代を考えると古くさくて当たり前なのだが。

そして。

下着は、いけていなかった。

気をきかせたケビンがアリスちゃんの将来のためにと店員に言い含め、いくつかサンプルを持ってこさせていた。

ドロワーズ、サラシ、あるいは貴族用のコルセット。極端であった。

ユージは落ち込んだ。アリスも落ち込んだ。

アリスは下を向いて、サクラお姉ちゃんのお部屋にかわいいのがいっぱいあったのに、と呟いていた。ユージは何もコメントしなかった。ついうっかりしゃべってしまい、サクラに知られたら大惨事であるゆえ。

落ち込む二人を見て、コタローが励ますように小さく吠える。げんきだしなさい、さくらのをきればいいじゃない、と慰めているようだ。だがさすがに無理だろう。カップ数が合えばいいだけの話ではないのだ。コタローは優しくて気がきく女だが、やはり犬であった。

「ああ、そうだ、ユージさん。布を用意して針子を雇ったら、ユージさんやアリスちゃんにもっと違った服や下着を作れますかね?」

さもいま思いついたように、ケビンがユージに問いかける。

ユージとアリスが、バッと勢いよくケビンの方を向き、コクコクと無言で頷く。その動きはぴったりシンクロしていた。

そうですか、では昼は農作業、夜は針仕事ができる開拓民を探しましょうかねえ。ひとまずは。

嬉しそうに、それは嬉しそうに笑い、ケビンは告げるのだった。

それはいいですね! と笑顔を見せるユージとアリス。

コタローは疑わしげな視線をケビンに送っていた。もう、しょうばいにするきね、と言いたいようだ。

ちなみに。

ケビンが修業した王都のゲガス商会の名物は、若い頃に世界各地を旅した会頭ゲガスの伝手でどこからか入手してくる珍しい商品の数々。中でも貴族からの人気は高いが、量が少なく常に品薄の人気商品。その中には、絹があった。

もっとも貴族の好みや、それぞれにお気に入りの針子がいるため、現在ゲガス商会は絹の布を卸すのみであったが。

後に、王侯貴族や商人、平民まで巻き込む服飾ブーム。

それは、アリスにかわいい服を着せたいというユージの親心と。

この話を聞いた、掲示板住人たちの熱狂と欲望によって生まれたのである。