軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

捜索のススメ

決起集会の翌日、各階層のチームごとに決められた探索地域へ向かうこととなった。全チームには連絡用の魔道具が支給され、毎日の報告が義務付けられている。不測の事態や冥府の王を見つけた際の、連絡用でもあるのは言うまでもない。

清流の湖階層の探索チームは我々だけなのだが実力を見込まれ、亡者の嘆き階層の奥地まで向かうことになっている。

「皆、危険な役割を任せて申し訳ない」

荷猪車と並んで歩いている熊会長の詫びの言葉に全員が、全く気にしない素振りを見せている。リベンジでもある、ケリオイル団長とミシュエル、そしてラッミスとヒュールミも望むところであり、俺だって出来ることなら、冥府の王との決着はこの手で付けたいと思っている……手はないけど。

「お前さんは変わらんのぅ。堅苦しいところなんぞ、昔のままじゃ」

「そうですよ。仲間なのですから、詫びる必要等ありませんよ」

幌を外した荷台に座っている老夫婦にそう言われ、熊会長はバツが悪そうに頭を掻いている。先輩後輩関係が完全に身に染みているようだ。

「懐かしい光景ですわね。あっ、皆さん前方に魔物が十二体待ち構えているようです。準備をしてくださいね」

注意を促しているのだろうが、園長先生の穏やかでのんびりした声を聞くと、戦闘意欲が根こそぎ持って行かれそうになる。

しかし、園長先生は前方を眺めながらそう言うが、俺の目には全く敵の姿が見えていない。疑う訳じゃないが、本当に何かいる様には見えないな。

「おう、そうか。それじゃあ、ワシと婆さんとホクシーでやるとするか。最近現場に出ておらんかったからのぉ。身体を慣らしとかんといかん」

「準備運動は必要ですからねぇ」

「先輩との共同作業。久しぶりでワクワクします」

年齢を感じさせない身軽な動作で、荷台から老夫婦が飛び降りる。

園長先生は荷台に立ち上がり、弓を構えると弦を引いた。

この三人の戦いっぷりを見学できるのか。今後の方針にも関わってくることなので、見逃さないように録画しておこう。

「光よ鏃を包め」

静かにその言葉を園長先生が唱えると、矢の先端が電球になったかのように光が灯る。あれが光属性の魔法なのか。

「では、お先に失礼しますね」

そう言って矢が放たれたのだが、全く見えなかった。弦の鳴る音がしたかと思ったら、矢が消えていた。先端の光の軌道だけは残っているので、まるで弓からレーザーが発射されたかのように見える。

「腕は衰えておらんようじゃな。お見事」

「あら、一気に三体貫いたのね」

老夫婦が感心しているが、それが事実かどうかも判断できない。

「ええと、倒したのかな……ヒュールミ見える?」

「いや、さっぱりだ。あんたらは?」

ラッミスに問われて眉根を寄せた顔で、矢の行く先を睨みつけていたヒュールミだったが諦めて、ケリオイル団長とミシュエルに問いかけている。

「ああ、辛うじて確認できるが。相変わらず、えげつない腕してやがる」

「お見事ですね。この距離を一矢で三体も倒す。神技と言っても差支えがない腕ですよ」

二人が絶賛する程の実力なのか。これで園長先生の腕は問題ないどころか、格が違うことが判明した。残るは老夫婦の二人なのだが。

「やれやれ、距離が遠すぎて魔物がワシらの場所を把握しておらんようじゃ」

「それは困りましたね、お爺さん。私の刀届きませんよ?」

「そうじゃな。ならば、呼ぶか」

お爺さんが、友人を家に招くような気軽さで口にすると、帯に差し込んでいた扇子を一本引き抜いた。

ぱんっと扇子を振り下ろすようにして開くと、澄み渡る空に浮かぶ雲が描かれた扇面が飛び込んでくる。

その扇子を無造作に下から上に振り上げると、お爺さんの数メートル前の地面から巨大な風の渦が噴き上がった。

「えっ、えっ、えっ!」

強風に煽られ大口を開けて驚いているラッミスの顔が面白いことになっている。って、観察している場合じゃないか。これって、お爺さんが起こした竜巻なのか。

竜が天高く昇っていくかのように、竜巻が細長く上空へと伸びている。

「ほいっと」

今度はその扇子を横に薙ぐと、天に伸びていた竜巻が倒れていき、風の渦が地面に叩きつけられた。何がしたいのか、意図が掴めないでいたのだが、その答えは数秒後に判明した。

地面に伸びた風のトンネルから敵が十体飛び出してきたからだ。竜巻に巻き込んでここまで持ってきたのか。凄まじいな、お爺さんの魔法は。

魔物たちは平衡感覚をやられ、状況がわからず、ゆらゆらと揺れているだけで攻撃に移る気力もないように見える。可哀想に。

「まあ、こんなもんじゃて。婆さんや、何体かやっておくか」

「大丈夫ですよ。もう、終わりましたから」

えっ、終わった?

鞘鳴りのような音がしたので、お婆さんに視線を移すと、仕込み杖から半分ほど見えていた刃を収納しているところだった。

カチリと仕込み杖に刃が納まりきると、ゆらゆらと揺れていた全部の魔物たちの体に十字の線が走り、身体が四等分される。

嘘……だろ。お爺さんの魔法に圧倒されて視線を向けていなかったとはいえ、そんなの数秒程度だ。そんな短時間で十体もの魔物を瞬殺したのか。

何かもう、偉そうに実力を測るとか考えていた過去の自分を殴りたい。俺が心配すること自体が失礼に値するレベルだ。

熊会長が自信満々で呼び寄せたのも今なら納得できる。

「流石ですね、御三方。腕は衰えていないようだ」

「いや、練度が落ちておるのぅ。やれやれ、魔力を練り直さんといかんな」

「切れ味が鈍くなっていますよ。はぁ、年は取りたくないものですねぇ」

「もう少し精度を上げないと本番では使えません。これではシュイに偉そうなことは言えませんね。反省しなければ」

熊会長の称賛の言葉に謙遜……というより本気で反省している三人がいる。他のメンバーは会話内容に口元が引きつっているな。

「ゴルス。こっからは積極的に戦わせてもらおうぜ」

「ああ、自分が矮小な存在に思えた」

門番の二人の闘争心に火が付いたようだ。

「俺も負けてらんねえぞ」

「ええ、己が未熟さを痛感しました」

この二人もやる気スイッチが入ったようだ。あの年齢で自分より遥か高みに存在する人の活躍を見て、怖気づくのではなく、闘志を燃やせるのか。

「すっごいなぁ。ハッコン、うちらも負けてられないねっ」

「いらっしゃいませ」

そうだね、ラッミス。新たに増えた面子が尋常ではない実力者だということがわかった。心配は無用となれば、あとは俺たちが強くなるだけだ。

ラッミスは身体能力だけなら彼らと同等かそれ以上だろう。問題は有り余る怪力を思いのままに操れるか。彼女の今の状態はF1に乗っている新人ドライバーのようなものだと思う。

彼女に必要なのは時間と経験。急激な成長を期待するのは酷ってものだ。

だけど、ラッミスは一人で戦っている訳じゃない。常に俺が傍に……背中にいる。

つまり、俺が強くなれば必然的に彼女の戦力アップに繋がるということだ。そして、その糸口はある。冥府の王との戦いが終わった後、手に入れた新たな加護〈念動力〉これを有効活用できるかどうか。

あれから、毎夜、自主練習を繰り返して〈念動力〉の長所と短所はある程度は把握できた。

まず、短所なのだが。やはり、動かせる対象が商品のみということだろう。全く関係ない物が〈念動力〉の有効範囲にあっても、髪の毛一本動かせない。

だが、機能変化した身体の一部は問題なく操れるようで〈高圧洗浄機〉〈灯油計量器〉等のノズルは動かすことが可能だ。それに、操作性はステータスの器用さが関わってくるらしく、器用度を上げてからは手足のように動かせるようになった。

もう一つ問題なのが有効距離の短さだ。自分から一メートル以上離れると、効果範囲外となり効果を失う。五メートルぐらい範囲が広がれば戦略性も上がるのだけど、それは贅沢な話か。

長所は先にも述べたが、自分の商品や身体の一部であれば自在に操れることだろう。これはかなりメリットが大きい。ざっと思いつくだけでも幾つかある。

今までだったら扱いが難しかった商品も、実際に使って見せられる。

結界で飛ばさなくても、商品を相手の前に置ける。

掃除機やノズル系の操作が可能となり、戦略の幅が増える。

他にもまだまだメリットはあるだろうけど、これだけできるようになれば、世界が変わるレベルの変化を得られる筈だ。

でも、今のところ〈念動力〉の力を見せつけることはしていない。AEDで蘇生した一件で電極パットや装置を操っていたのだが、それを目撃したラッミス、団長、ミシュエルは、AEDがそういう物だと思っているようで追及をしてこなかった。俺が商品を自在に操れるようになったとは思っていないようだ。

冥府の王が二人を蘇生したことを目撃してないのであれば、俺が自在に商品を操れることも知らない筈だ。敵を欺くにはまず味方からと、〈念動力〉についてはラッミスとヒュールミ以外には教えていない。

ラッミスは共に行動するので知っておいて欲しかったのだが、ヒュールミに教えたのは目的があった。頭の回転が早いので、俺よりも〈念動力〉を有効に扱う方法を考え出してくれるのではないかと期待したからだ。

実際、教えた直後から様々な案を出してくれたし、活用できそうな道具の製作も始めている。

今も〈念動力〉を最大限に利用して、戦闘中のフォローや嫌がらせができないかと思案中だったりする。

もう一つ自分の能力についても疑問が解消されたのだが、それは戦闘で見せつけることにする予定だ。冥府の王が一度倒した俺たちを軽んじているなら、一泡吹かせてやる。