軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蹂躙後

「み、みんなは!」

二人が息を吹き返したのを確認すると、ラッミスは泣き顔を一変させて飛び出していった。そうだ、二人は一先ず安心だが、他の面子は全く動きが無い。

生きていると信じたいが、ここからでは判断ができない。ラッミスが連れてくるのを待つしかないのか……俺には祈ることしかできないのか。

ラッミスが尋常ではない速度で仲間に駆け寄り、怪我の具合や呼吸を確かめているように見える。ホッと胸を撫で下ろしている時もあれば、何かを呟いている場面もあり、この距離では状況を正確に把握することは不可能だ。

じれったいが、彼女が戻ってくるのを待つしかない。

「何とか全員、命の危険はねえか……」

俺が出したバスタオルの上に並んで寝かされている面々を見つめ、ケリオイル団長が安堵の息を吐いた。

吹き飛ばされていた者の中で重傷もいたのだが、治癒薬と適切な応急処置が功を奏したようだ。今はそっと荷台にラッミスが運んでいっている。

完全に傷が癒えたわけではなく、衝撃で内臓がやられている可能性もあるので、今は少々無理をしても素早く集落に運ぶ必要があった。

ヒュールミとシュイはあれから眠り続けているので、彼女たちも荷猪車に乗せられている。

「ミシュエルすまねえが、俺と交代で御者やってもらうことになりそうだが」

「大丈夫です。治癒薬のおかげで、かなり楽になっていますので」

そう口にする二人だったが、お互いの顔色は悪く、万全には程遠い状態なのが見て取れる。ここは弱みを見せる状況でないことぐらい重々承知しているのだろう。

傷薬や痛み止めが自動販売機の商品にあればいいのだが、薬事法の問題なのか薬を自動販売機で売っているのを俺は見たことがなかった。海外にはあるそうなのだが、薬の自動販売機だけを見に行く為に海外旅行が出来る程、生前の俺は裕福ではない。

出来るだけ車体を揺らさないように気を付けながら、荷猪車が出発した。急いでいるのは彼らを治癒してもらうのが最大の理由ではある。だが、それ以外にも奴が――冥府の王が気まぐれで戻ってくるのではないかという疑心が俺たちを後押ししていた。

集落にたどり着き、亡者の嘆き階層で唯一の診療所に仲間たちが運ばれて行った。

適切な治療を受け、専門の担当医からもう大丈夫とお墨付きをもらうと、俺とラッミスは安堵のあまり床へと崩れ落ちていた。

だが、一度心臓の止まった二人は暫く安静となり、他の面々もあの闇魔法により身体のダメージだけではなく精神も削られた様で、数日であっさり元の状態になれるわけではないようだ。

最低でも一週間以上は入院する必要があるらしい。

そんな状況下なのだが、俺たちはのんびり仲間の回復を待つ時間はなかった。ギルドに冥府の王が現れたことを告げると、比較的軽傷の団長とミシュエルはこの階層のギルドマスターに呼び出され、緊急会議に組み込まれている。

半日もしないうちに熊会長や他の階層の会長もやってきたことにより、事の重要性が再認識された。

更に、一日も経たずにこの階層への一般市民の出入りが禁じられ、集落には続々とハンターが集まり始めている。

ラッミスも何度か会議に呼ばれ目撃したことを伝えてはいたようだが、会長たちの表情は芳しくなかったって零していたな。

俺とラッミスは待機中で、亡者の嘆き階層ハンター協会前で二人揃って、ぼーっと曇り空を眺めている。

「どうなるのかな、ハッコン。みんなが死なずに済んでホッとしているけど、あの冥府の王って強すぎるよね」

「いらっしゃいませ」

圧倒的な魔力による蹂躙。勝つどころか対抗手段も思いつかない。

知能があり浮くことのできる相手には俺は役に立たない。今までの階層主を倒せてきたことがどれ程、幸運だったのか思い知らされたよ。

仲間が殺されかけた怨みと憎しみがある間は、冥府の王を倒すことしか頭になかったが、時間が経つにつれ冷静になり、現実を正確に認識できるようになってしまった。

「あの四本腕骸骨、一体何だったんだろう。冥府の王なんて、うち聞いたこともないよ。ヒュールミなら知っているのかな」

階層主である死霊王を配下にする存在。一体何者なのか俺だって知りたい。

「冥府の王が何者であるか、知りたいか」

頭上から降ってきた渋い声に視界を移動させると、疲れたように肉球でこめかみをマッサージしている熊会長がいた。鼻眼鏡を掛けていて、片腕で資料の束を抱え込んでいる。

「熊会長、会議終わったの?」

「ああ、一先ずはな。まあ、その内容も含めて話がある。ハッコンにも。詳しくは中で」

協会から出てきたばかりだというのに踵を返して、俺たちを手招いている。話の内容が気になるし、断る理由もないのでラッミスに背負われて後を追う。

一階の奥まった場所にある、見るからに重厚そうな扉を軽々と熊会長が押し開くと、そこは大きな丸テーブルがある会議場だった。

「ラッミス適当に腰かけてくれるか」

直ぐ近くにあった椅子を移動させて俺をそこに設置すると、直ぐ隣にラッミスが座る。

ここには俺たちだけではなく、ケリオイル団長、ミシュエル、それ以外にも見たことが無い男女が九名、既に席に着いていた。

「そっちの二人は説明不要だな。残りのメンバーは各階層のハンター協会会長とその代理だ」

そうなのか。会長と呼ぶにふさわしい貫禄のある人もいるが、ラッミスと変わらない年齢に見える人もいるのだが、あの歳で会長をやっているというのか。

っと、顔見知りを除いた好奇の視線が俺に注がれている。この感じはもう慣れた。

「皆様、彼女と魔道具である彼は冥府の王と遭遇し、生き延びた者たちです。今回の作戦にも大きく関わる二人なので、特別に呼び寄せました」

「清流の会長、その魔道具が噂の金で未知の物を購入することが出来る箱なのか?」

真っ赤な女性用スーツで身を固めた妙齢の女性が、手元の万年筆を指で回しながらじっと見つめている。

「ああ、始まりの会長。それ以外にも、かなり有能な能力を保有し、何度も助けられておるからな」

会長たちは階層の名前で呼称されるのか。清流の会長よりも熊会長の方がピッタリだと思うのだが。

「そうか、話の腰を折ってすまなかったな。それだけだ」

「ふむ。では、話を続けさせてもらう。今回現れた冥府の王はほぼ間違いなく、魔王軍の左腕将軍である冥府の王で間違いない」

「おおおおっ」

と会長たちがざわついている。その驚き方が何処か芝居がかっていて、誰もがわかってはいたが、改めて驚いているといった感じに見える。

「あのー、魔王軍の左腕将軍って何ですか?」

おずおずと手を挙げラッミスが疑問を口にしてくれた。俺もそれを知りたかったところだ。ナイスアシスト。

「知らぬ者もいて当然ではあるな。ここから遥か北方に自らを魔王と呼称する者が治める国があるのだよ。その魔王軍は何人もの将軍がいるのだが位によって呼び名が異なるのだ。魔王である自分を頭と位置づけ、配下の者を手足と捉えた考えでな。位が上から順に右腕将軍、左腕将軍、右脚将軍、左脚将軍という四人の肢体将軍が存在し、その下には更に二十指将軍が控えておるのだ」

つまり、この世界には魔王が存在して配下に何人もの将軍を従えている。そのうちの上から二番目の地位にいる左腕将軍が冥府の王ってことだよな。

それってかなり上位の存在だよな。実質、魔王軍のナンバースリーが何でこんな場所に来たんだ。

しかし、魔王がいるのか。この世界感でいない方が不自然とも言えるが、魔王か。

「冥府の王がこの場所に現れた理由は不明だが、現場での会話から察するに、ここの階層主である死霊王は冥府の王の部下だったようだ。階層主というのはダンジョンから出ることが叶わぬ存在だというのは承知しておると思う」

そうだったのか、初耳だ。

「この階層には死者の魂が集まり魔物と化すと言われておる。死霊王は元人間もしくは魔物だった者が死してこの場に魂として集められ、死霊王となった……のかもしれぬ。もしくは別の手段でダンジョンに入り込んだか。あくまで仮定の話だが」

そういう経緯があったのかもしれないのか。死霊王と冥府の王の話を聞いた限りでは確かに上下関係があり、冥府の王が上司っぽい口ぶりだったよな。

「とまあ、わからぬことを考察するのは全てが終わってからでも良いだろう。問題はまだこの階層に滞在していると思われる、冥府の王の対処方法だ」

「ちょっといいか、清流の会長」

「何だろうか、灼熱の会長」

挙手して意見を口にしたのは、赤銅色の肌をして焦げ茶色の髪の毛が立っている、見るからに暑苦しい男だった。

服装は炎が描かれたアロハシャツのような上着と、砂漠の砂の様な色彩のズボン。夏の砂浜が似合いそうな男臭さがある。

「仮にも魔王軍の幹部と事を構えても大丈夫なのか? 倒しちまったら何かと後々問題になっちまうんじゃねえか」

「それは心配いらないだろう。そもそも、向こうから仕掛けてきたのだ。魔王軍が我々と事を構えたいのであれば、迎え撃つしかない。もっとも、少数で動くならまだしも、魔王軍が直接この場所に侵攻するには、防衛都市や帝国を滅ぼしてからになる。おそらく、今回の一件は冥府の王の単独行動で間違いないかと」

この世界の地理が頭に入っていないのだが、この迷宮がある国の北側には帝国があり、魔王軍と接する場所に防衛都市が存在していて、そこをどうにかしないと、ここまで攻め入ることは不可能って事だよな。

「じゃあ、何故、冥府の王はそんな単独行動を」

「始まりの会長、それはわかりかねる。ただ、ダンジョンには人知の及ばぬところがある。階層を突破した際の――憶測は止めておくとしよう」

政治が絡んでくると面倒臭いことになるのだが、そこは無視しても大丈夫なようだ。いや、寧ろ交渉事で追い払える方が、ここの人たちにとっては良いことなのかもしれないな。

「それで、対応策はどうすんだ」

「討伐しかない。我らが管理するダンジョン内で、ハンター協会の一員に手を出したのだ、総力を挙げて叩き潰すしかない」

一見穏やかで紳士の風格を漂わせる熊会長だが、その目に宿る光が野生の力強さを感じさせる。今回、懇意にしている愚者の奇行団や大食い団がやられたことに対し、腹に据えかねているようだ。

「珍しくやる気じゃねえか。だが、もっともだな。ハンターとは魔物を倒すのが仕事の一環だ。舐められたままじゃ、商売が成り立たねえ。俺んとこに所属しているハンターから腕の立つのを参戦させるぜ」

「始まりの階層からも何組か出そう」

他の階層からも腕利きのハンターを出すということで話がまとまり、会議は解散となった。これは大掛かりな戦いになりそうだな。

凄腕のハンター集団なら、あの化け物を倒すことも可能かもしれない。

「ラッミス、ハッコン、ケリオイル団長、それにミシュエル。ご苦労だった。今回の決議は皆も知っての通りだ。ここであえて問いたいことがある。お主ら今回の冥府の王討伐に参加する意思はあるか?」

「当たり前だ。うちの団員をあんな目に遭わせて、ただで済ますわけがねえ」

「私も参戦させていただきたい。己の未熟さを痛感させられる戦いでした。雪辱を果たすためにも是非!」

ケリオイル団長とミシュエルの心は全く折れていない。むしろ、闘志が溢れている。

会議が始まってから一言も発して無かったラッミスへ視線を移すと、俯いていた顔を勢いよく上げた。その顔には怯えも躊躇いもなく、強い決意が漲っていた。

「もちろん、参加するよ! みんなを傷つけて、ヒュールミをあんな目に……一発殴らないと気が済まない! ねえ、ハッコン」

「いらっしゃいませ」

ああ、その通りだラッミス。俺たちの力、見せつけてやろう。

「その熱い想い受け取った。清流の湖ハンター協会に所属する最高の人材を用意する。彼らと共に協力して冥府の王を討伐しようぞ」

そう言って熊会長が突き出した拳に全員が打ち合わせる。この時ばかりは俺にも腕があればと思わずにはいられなかった。