軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お化け対策

ラッミスが倒れたということは、必然的に俺も一緒に床に倒れてしまう訳で、今、俺の上で気絶したラッミスが寝転んでいる。

「おいおい、まいったな。ここまで苦手だとは」

「これでも、ガキの頃に比べれば耐えた方だぜ。ラッミスは部屋まで運ぶとして、ハッコンはどうしようか」

意識を放棄したラッミスは背負子の革紐を外され、ケリオイル団長に担がれている。俺はこのままだと宿屋の営業妨害になるので、一旦〈ダンボール自動販売機〉になっておく。

「これなら誰でも運べるな。女将、宿屋の前にハッコンを設置するが構わないか」

「はい……その方がお話しになられていた……意志を持つ魔道具なのですね……ふふふ、神秘ですわ」

この人、宿屋の女将さんなのか。占い師とか副業にしたら似合いそうだ。

ヒュールミに抱き上げられ、宿屋の外にそっと置かれた。扉脇というのが俺の定位置に成りつつある。まあ、自動販売機の設置場所では定番中の定番だから文句はない。

「ほんっとに、ビビりだよな。昔っからああなんだぜ。怖い話とかしたら両手で耳を押さえて、あーあーって叫んでいたっけな。懐かしいぜ」

昔を思い出したのかヒュールミの目尻が下がり、優しい表情で微笑んでいる。何だかんだで二人はかなり仲がいいよな。二人が会話しているのを眺めていると、仲の良い姉妹にしか見えない時がある。

「いつもなら、とっくに逃げ出しているんだが、今回は譲れないみたいだな」

あれだけ怯えていたら普通は泣きが入って逃げ出すよな。

もしかして、俺を運ぶ人がいなくなると困る人がいるから頑張って耐えてくれているのだろうか。だとしたら、あまり無理をして欲しくないのだが。

「ハッコン。もしかして、見当違いの事を考えてねえか? ラッミスがなんで意地になって恐怖を克服しようと……って、オレが教えるのも癪だな」

「あたりがでたらもういっぽん」

今の発言はどういう意図があるのだろうか。意味深な物言いで、流し目を注いでいるだけで、ヒュールミはそれ以上、語ろうとしない。

自分で考えろって事だよな。意地になって克服しようとしている理由か。敵討ちの為に強くなりたいと願っている彼女としては、この程度の恐怖は乗り越えないと意味がないと思っているとか。

「まあ、じっくり考えてみることだな。んじゃ、俺はラッミスの様子見てくるぜ」

結局答えは教えてくれないのか。立ち去るヒュールミの背に疑問を投げかけたかったが、その言葉を俺は有していない。

わからず終いだが時間はある、のんびり考えるとしようか。

「お、何だこれ。変な物がガラスの向こうに並んでいるが、何だこれ?」

おっと、亡者の嘆き階層での初めての客か。金属鎧を着込んだハンターらしき若者だな。額が付きそうなぐらい顔を寄せて、商品を覗き込んでいる。

では、いつもの商売を開始するとしよう。

「いらっしゃいませ」

「うおっ、誰だ!? お前らか?」

「ちげえよ。その箱から音がしたように聞こえたぞ」

仲間の一人が指摘すると、今度は三人全てが俺を凝視している。

「こうかをとうにゅうしてください」

「おおおぅ、マジでこの箱から声がしやがった。硬貨を投入してくださいって何だ?」

三人は騒いでいるだけで硬貨を何処に投入していいかもわからず、慌てふためいているだけだ。やっぱり、普通はこんな言葉だけじゃ通用しないよな。

いつもは立て札を隣に置いてもらい、簡単な取扱説明書を張りつけてもらっているので、初心者でも対応できるのだが、今日は何もない状態でどうにかするしかない。

今までなら言葉を繰り返すしか手はなかったが、俺だって自分の体と機能を把握してきている。様々な手段を模索し、幾つかの方法を導き出している。そう、俺は進化する自動販売機なのだ。

まず商品を覆い隠すことになるが〈液晶パネル〉を設置する。そして、そこにとある映像を流す。

「おおっ、箱の中に女がいるぞ。ねえちゃん、これどうやって買えばいいかわかるか?」

若者はパネルに映る女性に声を掛けているが、録画した映像が返事をするわけがなく、映っている女性――ラッミスが無視をしてコインを握った手を伸ばしている。

そして「どれを買おうかなー」と迷いながら人差し指を立てて、相手を指差すような動作をした。その後、屈みこみ立ち上がった彼女の手には、コーンスープが握られていた。捻って蓋を開け、美味しそうに飲み干す。

そこで録画した映像は終わりなのだが、俺は繰り返して流し続ける。

「どういうこった。何でこの女は同じこと繰り返してんだよ」

「これって、幻影じゃねえか。映っている女が小さすぎるだろ。それに動きが全く同じだ」

暫く三人が集まってあれやこれやと討論を続け、結論に達したようだ。

「つまり、この女は俺たちに、この魔道具の使い方を教えている。そうだな」

「いらっしゃいませ」

時間はかかったが、何とか正解に辿り着いてくれた。今度はじっくりと映像を見つめ、使い方を覚えた一人が商品を購入してくれた。

「よっしゃあ、買えたぞ!」

「おー、そうやるのか」

「なるほどなぁ」

いつの間にか人が周囲に集まっていて、無事商品を購入できたハンターたちに感心している。興味はあったが何かわからずに観察していた人たちのようだ。

「これはこう捻って開けるんだよな。で、飲んでみるか……くはぁ、うめえぇ! キンキンに冷えてやがるぜ。五臓六腑に染み渡りやがる」

彼の反応が何よりの宣伝となり、それをきっかけに次々と商品が売れて行く。物珍しさと、この異世界では未経験の味に面白がって購入していく人が多い。

順調な滑り出しだな。ラッミスが帰りたいと言うまでは、暫く稼がせてもらうことにしよう。

ある程度商品を捌いてわかったのだが、この階層では温かい商品が良く売れる。住民の服装も厚着している人が多く、どうやら冬とまではいかなくても寒いようだ。

清流の湖階層は初夏に近い気温だったのだが、ここは真逆の気候らしい。お客の吐き出した息が白くないので10度前後かもしれないな。

そんなことを考えていると客足も絶え、通りに人影も減ってきている。薄暗かった辺りは完全な暗闇に支配され、どうやら夜が訪れたようだ。

日中も薄暗いとはいえ、夜と昼間の明るさは雲泥の差がある。集落内には街灯もあるのだが、その灯りを闇が侵食しているかのように、微量な光を漏らしているだけで充分な明かりだとは、お世辞にも言えない。

自動販売機になって夜は何度も経験しているが、この闇夜は違和感がある。不自然なぐらいに暗いのだ。辺りの建物の窓から明かりは漏れているのだが、明るいのはそこだけで周辺を全く照らしていない。

黒の世界にポツンポツンと光が点在するだけで、あとは一面の闇。ここまで暗いと、そりゃ誰も歩き回らないか。雑音も存在せず、現実と虚構の区別がつかなくなりそうなぐらいに、非現実的な光景だ。

亡者の嘆きと名乗るだけのことはありそうだ。ここの闇は特殊なのかもしれないな。魔物を討伐するにしても夜は避けて、昼間行動するべきだ。

人っ子一人いないので商売にならないと省エネモードに移行しようとすると、向こうの方から、ほんのり光る何かが寄ってきた。

手に灯りを持っているのだろうか。その灯りは近づくにつれ徐々に大きくなっていくのだが、その光に違和感を覚えていた。

光に照らされるべき人がいないのだ。その灯りは単独で浮いている。ゆらゆらと揺れながら、人であるなら腰の高さを維持しながら迫ってくる。

嫌な予感しかしない。足があるなら、直ぐにでも宿屋に逃げ込みたいのだが、残念ながら自動販売機に逃走手段は存在しない。

この体になって精神が強くなったと思っていたのだが、それは勘違いだったようだ。本体内部から異音が響いている。自動販売機になった俺が少しビビっているだと……。

恐怖と好奇心の板挟みになりながら、俺は目を凝らしそれを注意深く観察した。

それは炎を纏う頭蓋骨だった。って、炎飛頭魔じゃないか! なんだ、ビビッて損した。普通ならホラーな光景なのだろうが、相手の弱点もわかっているし何度も倒してきた、今更怯える必要がない。

正体がわかったら余裕が出てきたぞ。恐怖は掻き消えたが、問題は魔物が集落内に現れたことだよな。夜になると当たり前のように集落を魔物が徘徊するとなると、夜は迂闊に出歩けないのか。

っと考えている間に、他にも炎に包まれた頭蓋骨が現れている。見える範囲だけでもその数は八。何故か建物内部には入ろうとせずに彷徨っているだけで、奴らの目的がさっぱりわからない。

あれっ、今度は炎飛頭魔と一緒に骸骨が現れた。こいつは頭もあるただの骸骨だな。いや、動いていることが普通じゃないか。おっ、半透明の人間も出てきたぞ……野外のお化け屋敷状態だ。

これだけ、堂々と何体もいると怖くないな。というよりホラー要素が薄い。幽霊っぽい半透明の人も普通の服装で歩いているだけだし、人を脅かしたいのなら、もうちょっと工夫が欲しい。下半身が千切れて内臓を引きずりながら、恨めしそうな声を漏らし手で走るとか、日本のお化けを見習ってほしいところだ。

呑気に観察していられるのも、どの魔物も建物内部に入ろうとしていないからだ。この集落の住民が何かしらの対策をしているのかもしれないな。

念の為に〈結界〉を発動しているのだが、魔物が寄ってこない。俺に興味が全くないようだ。

今後、この階層を探索することになるのだから、色々と試しておくのも悪くないよな。対アンデッド用の商品なんてあったか。

んー、定番なら塩? 塩か……ありそうで、意外と自動販売機に置いてない商品の一つなんだよな。岩塩なら購入したことあるから、一応試してみるか。

透明な筒状のケースに入った岩塩を取り出し口に落とし、ケースだけ消して岩塩を〈結界〉で飛ばしてみる。狙ったのは骸骨だったのだが、狙いが逸れて幽霊に命中――素通りしたな。幽霊だけに物理攻撃を一切受け付けないのか。

コロコロと地面を転がる岩塩を魔物たちが一瞥しただけで、特に何の反応も示してくれなかった。効果は全くないと。

他に効き目がありそうなのは……あ、あれはどうだろうか。京都の映画村で有名な町にあった〈仏像自動販売機〉で購入した仏像と数珠。

俺が知っている変わり種商品トップ10に入る逸品だ。信じられないかもしれないが、本当に売っていたのだ。手のひらサイズでかなり小さいのだが、ちゃんとした仏像だった。

相手がお化けなら効果があるかもしれない。あの時購入した仏像二体と数珠を〈結界〉で弾き出し、じっと見守ってみる。

魔物たちは謎の物体に興味をもったようで近寄っては来るのだが、何の影響も与えていない。いや、数が足りないだけかもしれない。やるだけやってみるぞ。

「よー、ハッコン。昨日は眠れたか……うおおおっ、なんだこれ! 何で地面に妙な形をした人形とか石が転がってんだ」

もう、朝なのか。昨日は魔物たちを相手に岩塩や仏像の効力を試していたのだが、徹夜で朝までやっていたとは。

良い考えだと思ったのに、異世界は宗派が違ったかっ。