軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とどめの一撃

「ミケネ、様子はどうだ」

穴の中を覗き込んでいるミケネにケリオイル団長が問いかけている。

「ある程度、痛手は与えているみたいだけど、もう一押し足りない感じがするよ」

あの程度の石では決め手にかけるのか。もっと重く硬い物があればやれるかもしれない……ん? 何故、皆様はわたくしを見つめていらっしゃるのかな。

「ハッコンならいけるんじゃねえか?」

「いや、でも、失敗したらハッコンさん壊れますよ」

「階層割れから落ちてもいけたんだから、大丈夫じゃねえか」

団長さんと副団長さん。当人を目の前にして物騒な話し合いはやめてもらえませんかね。でも、正直な話、俺が巨大な自動販売機に変化して、落ちるのが一番有効なのは確かっぽいな。

「ダメだよ! ハッコンに危険なことはさせられない!」

「確実性がないからな。オレも反対させてもらう」

ラッミスとヒュールミが俺を庇うように前に並んだ。二人の気持ちは嬉しいが、他に決定打が無いなら、この策も一考の余地はあるとおもう。

頑丈は結構上がっているので、落ちても大丈夫な気もする。耐久力が0にならない限りはポイントで修復できるので、やれると思うのだが。でも、失敗したらそこで終わりなんだよな。

「そうだな、ハッコンはこれまで充分に役立ってくれた。これ以上負担させるのは酷ってもんだ。俺たちもいいところ見せておかないといかんしな」

「飛び込んで一気にやりますか?」

「そうだな、邪魔な炎さえなければやれるか……」

えっ、いやいやいや、それは駄目だ! 下は二酸化炭素が充満している。彼らが下りたら呼吸困難というか二酸化炭素中毒で死ぬぞ。

これは予想外だった。どうにかして、彼らが下りることだけは避けないと。

「いらっしゃいませ いらっしゃいませ いらっしゃいませ」

「おっ、ハッコンも賛成なのか」

ちっがーーう!

「ざんねん ざんねん ざんねん」

「違うのか。だが、もたもたしていると――」

「骨が穴を登ろうとしている!」

穴で大人しくしている理由なんてないもんな。そりゃ登ろうとしてくるか。益々、時間が無い。だからといって、人を穴に下ろすわけにもいかない。

「この好機を逃すわけにはいかねえぞ。お前ら、準備はイイか!」

「命綱離さないでくださいね!」

「マジで頼んます!」

「マジでネタふりじゃないから!」

こういう時の思い切りの良さは尊敬に値するが、今はそれが悪い方向に作用している。ダメだ、このままでは……何か手は、何か彼らを止める術は!

俺の今いる位置は穴から少し離れた場所。傾斜がある落とし穴の縁までは三メートルはある。俺の近くにいるのはラッミスとヒュールミ。そして、ミケネを除いた大食い団の残りか。

団長が俺の体に巻きつけていた命綱を外し、熊会長に手渡している。長さの調整をする場合、都合がいいからだろう。

どうにか傾斜部分に俺の体を持っていけないか。まずは車輪をこそっと底に装着しておく。後は押してもらえれば何とかいけそうなのだが。

ラッミスに伝える手段があったとしても、彼女は頭を縦に振ることは無いだろう。ヒュールミもさっきの様子じゃ無理っぽい。そうなると、熊会長もしくは大食い団か。

大食い団が押す場合、全力で力を合わせないと無理だし、熊会長は命綱を託されて両手が塞がっている。ラッミスの怪力なら軽く押す程度でも斜面までは余裕で移動できそうだが。

あっ……一つ方法を思いついた。だけど、これを実行するには恥も外聞も投げ捨てなければならない。勝つ為だ、好感度が少々下がっても彼女たちが死ぬよりマシだ。

俺はフォルムチェンジを選ぶ――エロ本販売機に。

「え、ハッコン急に変わって……えっ、ええええっ!?」

ガラスの向こう側に並ぶ煽情的な格好をした女性たちが妖艶なポーズを取り、男たちを誘っているようにしか見えない。

それを目撃したラッミスの顔が見る見るうちに赤く染まっていく。

「へぅ、えっ、何でこの人たち、下着姿でお尻を突き出したり胸を持ち上げて……うわぁぁ」

照れながらも食い入るように見入っている。恥ずかしいけど興味あるといった感じだな。気持ちはわかるよラッミス。

と、ラッミスの照れている姿に萌えている場合ではない。更にここでダメ押しだ。

「いらっしゃいませ」

「へあうあっ! や、やだもう、ハッコン。こんなの買わないって、もうスケベ!」

集中していたところに声を掛けられて、過剰な反応を示したラッミスが動揺を誤魔化すように、俺の体を平手で叩く。

普通なら軽い音がする程度なのだが、動揺していて力の加減を誤ったのか結構な衝撃が体を貫いた。

そして、その衝撃により自動販売機の体が横にすっとずれた。車輪を出していなければ体が揺れた程度なのだろうが、今の俺には充分すぎる威力。

「えっ、ハッコン!?」

「ありがとうございました」

彼女が慌てて手を伸ばすが、その手は空を握りしめただけで、俺は斜面に差し掛かると速度を増して、穴へと跳び込んでいく。

体が宙に浮いた感覚がすると同時に今度は巨大な自動販売機に変化する。

下に視線を向けると、穴をよじ登ろうとしてた骸骨と見つめ合う形となった。手を離せば穴へ落ちる状況で真上から落ちてくる自動販売機。

手を離して俺を弾くか、それとも受け止めるか。その一瞬の迷いが炎巨骨魔の命取りとなった。結局判断が付かなかったのか、額で受け止める羽目になった頭蓋骨を、自動販売機の体が容易く打ち砕く。

丁度角が当たったのも幸運だった。頭蓋骨を粉砕した俺の体が喉、あばら、腰骨を破壊して地面に墜落した。

《12のダメージ。耐久力が12減りました》

思ったよりダメージが少なかったのは、骨を砕く際に落下速度が激減してくれたからだろう。

体の三分の一ぐらいが地面にめり込んでいるのは不格好だが、結果良ければ全て良し。

頭上から骨の欠片がパラパラと降ってくる。ちゃんと止めを刺せたようだな。これで万事OK。

「はっこおおおおん! また無茶してえええええっ! 今から行くから、ちょっと待ってなさい!」

ラッミスさんが激怒していらっしゃる。今すぐにでも降りてきそうだな。って、ここは二酸化炭素で満たされているから、酸素自動販売機に変わって酸素を放出しておこう。

「ざんねん ざんねん ざんねん」

彼女を近寄らせないように残念を連呼したのだが、聞く耳を持たないようで穴の上から縄が垂れてきた。酸素ハイスピードで出し続けるぞ!

ずっと「ざんねん」と叫んでいた成果があったようで、ラッミスが下りるのを躊躇ってくれたようだ。周りに止められたのかもしれないが。

「ハッコン! 今はまだ下は危険だってことか!」

「いらっしゃいませ」

ヒュールミの問いかけに即座に応える。こういう場面での彼女の存在はありがたい。ラッミスも察しは良い方なのだが、俺が絡むと途端、無謀になる。

心配してくれるのは嬉しいのだが、もう少し自分の身を案じて欲しい。って俺も人のことは言えないか。

そう言えば階層主を倒したのだから、コインがそこら辺に落ちていないだろうか。おっ、あったあった。前と同様に〈コイン式掃除機〉を何とか調節してコインを吸い込んでおく。

所持品の欄に〈炎巨骨魔のコイン〉が追加されているな。

あとは暫く酸素を出し続けて……って、酸素は二酸化炭素より比重が軽いから穴の底には溜まらないか。となると、みんなに俺がどうやって階層割れから帰還したのかを教えておくか。

風船を大量に作り、結界内部をパンパンにすると〈ダンボール自動販売機〉になる。体が浮遊感に包まれ、ふわふわと舞い上がっていく。

これって、二酸化炭素の中だから比重の関係で浮きやすくなっているのか。思ったよりも勢いよく浮上している。

穴の半分より少し上に差し掛かると速度が激減する。ここまで二酸化炭素で満たされていたってことだよな。前回よりも風船を多めにしておいたので何とか体は上に進んでいく。

「ええと、ハッコン?」

「いらっしゃいませ」

ダンボールの体だから声を出せないのではないかと不安だったのだが、そこは大丈夫なようだ。まあ、他の自動販売機も音声再生機能が無いのに話せたしな。

「ミケネ、穴を塞いでくれ」

「わかりました」

熊会長の命令で落とし穴の蓋が閉じたので、〈結界〉を解除して風船を解放して着地した。そして、いつもの自動販売機に戻り、ほっと一息つくと……俺の体に影が差した。

嫌な予感と言うか視線を向けたくないのだが、しらばくれる訳にもいかず、渋々だが前を見た。

腰に手を当てて前屈みで頬を膨らましているラッミスがいた。うん、間違いなく怒っている。

「ハッコン。壊れたらどうする気だったの?」

声が優しいのが逆に怖い。

「あたりがでたらもういっぽん」

「誤魔化さない。うちは怒っているんやで」

くっ、感情が高ぶっている時の方言が出ている。ここは大人しくしておこう。

元々、女性を言い含められる話術は無いし、この音声データでは何を言っても無駄だろう。と考えた自分の浅はかさを知るのは、説教が終わった一時間後。

初めは怒っていたのだが徐々に愚痴とどれだけ心配していたかという話に移行し、見かねたヒュールミが止めに入るまで続いていた。

「ラッミス、それぐらいにしておけ。あんまりしつこく責めると、ハッコンに嫌われるぞ」

「あうぅ。じゃあ、これぐらいにしておく。もう、こんな無謀な真似はしないでね」

彼女の懇願する問いに俺は沈黙で答えた。彼女に対して嘘は吐きたくない。だから、俺は何も答えられない。みんなを助けられる場面に遭遇したら、再び同じことをするだろうから。

そんな俺の態度にイラつくわけでもなく、ラッミスは苦笑いを浮かべた。まるで、俺の心を読んで呆れたかのように。

「話し合いは終わったか。ちょっと俺からも質問があるんだが、構わねえか?」

話しかけるタイミングを見計らっていたのだろう、ケリオイル団長が帽子のつばに指を這わせながら歩み寄ってきた。

「今回もご苦労さん。ハッコン、穴の底に階層主のコインは落ちていなかったか?」

「いらっしゃいませ」

「お、そうか。なら後で拾いに行かないとな」

回収しておいたコインを提出しておくか。ええと、どうやるのだ。所持品の〈炎巨骨魔のコイン〉に合わせて、外に出すような感じで。

「おおっ、拾っておいてくれたのか!」

上手い具合に目の前にコインが転がり落ちてくれた。団長が迷わず拾おうとしたのだが、横合いから伸びた手が腕を掴んだ。

「何のつもりだヒュールミ」

「当たり前のように自分の物にしようとしているが、炎巨骨魔を倒したのも拾ったのもハッコンだろ。所有権はあんたじゃねえ」

正論ではあるが俺としては別にどうでもいい。でもまあ、こういうのは馴れあうよりも、きちんとしておいた方がいいかもしれないな。

「ああ、すまなかった。お前さんの大活躍で何とかなったのは事実だ。これを得る権利があるのはハッコンで間違いない。ってことで、これを買い取らせて欲しい。金貨百枚でどうだ?」

軽いノリで口にしていい金額じゃないよな。金貨百枚ってことはポイント換算すると10万ポイントか。って、滅茶苦茶大金じゃないか。

ラッミスは俺と同じで驚いているようで、真ん丸な目を見開いてコインと俺を交互に見ている。

ヒュールミは特段驚いている様子もなく、チラッと視線を傍観者と化していた熊会長に向けた。

「ふむ。階層主のコインの相場であるなら、それぐらいで間違いはない」

「だってよ、ハッコン。どうする」

それなら何の問題もないどころか十二分だよ。既に階層主のコインは一つ確保しているから、これ以上は必要ない。

「いらっしゃいませ」

「流石ハッコンだ。話が早くて助かる。金は後日支払うってことで構わねえよな。それだけの大金常に持ち歩くわけにはいかねえからな」

交渉が成立してコインは彼らの物となった。ケリオイル団長は摘まんだコインを光にかざして、じっくりと観察すると腰の鞄に放り込んだ。

さーて、後は清流の湖階層に戻るだけだな。迷路階層は上空からと大通りしか知らずに終わりそうだが、もうここに来ることは二度とないだろう。