軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒の団 その2

「灼熱の砂階層程じゃないにしろ、やっぱあっちぃな」

「この黒の衣装が光を吸収するから余計にね」

シメライが呪文の発動体でもある扇で風を送っていると、ユミテが割り込んでいる。

「確かにここでは脱いでもいいかもしれませんね」

眩しそうに太陽を見つめて汗を拭うホクシー。

「皆はまだマシではないか。私は自家製の毛皮を纏っているのだぞ」

「全身真っ黒……逃げ道がない」

隣でうなだれているクロクロがまるで計ったかのように、私と同時に肩をすくめた。

お互い暑い場所では苦労するな。

黒の団では全員が揃って黒く染めた衣装を着込んでいる。シメライ、ユミテは故郷の民族衣装で着物と呼ばれる服を改良したものだ。

ホクシーは動きやすさを重視した軽装で、人間の中では一番の薄着。

私は帽子と黒のコートを常に着ているのだが、このコートは特別製でかなり強固な作りになっている。斬撃、打撃、魔法にも対応した優れものだ。なので、暑くとも脱ぐわけにはいかない。

クロクロに関しては出会った頃は全裸だったのだが、黒の団に加入してからは黒いタキシードを模した服を着るようになった。全身が黒いのでよく似合っている。

「さーて、半年ぶりのリベンジか」

「前回は散々だったからね」

シメライ、ユミテが睨む先にあるのは巨大な犬の姿をした岩山。

この犬岩山階層のシンボルでもあり、名の元となった階層主。

数年に一度しか動かず、あとは置物のように微動だにせず佇んでいるだけ。動く際も人間に手出しをする素振りはないのだが、あれだけの巨体が海を歩くだけで津波が発生し、毎回集落が海に呑み込まれてしまう。

なので、数年に何回かは住民が他の階層に避難をして、津波に呑み込まれて壊滅した街を復興させる作業が待っている。

ダンジョン内はハイリスクハイリターンの世界。誰もが危険を覚悟しているので住民から苦情が出ることは滅多にない。

「人っ子一人いねえな」

シメライが辺りを見回しながら呟く声に促され、私も周囲をぐるっと観察する。

津波に呑み込まれて崩壊した住居跡がそこら中にある。原形を留めている物は一切ない。それもそのはず、半年前に我々が階層主である犬岩山に挑んだ際にこの集落は壊滅して、そのまま放置されているからだ。

「故郷の諺で触らぬ神に祟りなし、ってのがあるんだけど、ほんとその通りね」

「ですが、先輩。アレを倒さないと先へは進めませんし」

「ハンターギルドからの依頼で、正式に許可も取っている。ここの住民には充分な補償が支払われているから安心していい」

前回の戦いは我々黒の団が無謀にも仕掛けて、集落に大損害を与えた……というわけではない。このダンジョンのハンターギルドからの正式な依頼だった。

ダンジョンでは階層主を倒さない限りは下の階層へ進むことが叶わない。もう、十年以上は攻略が停滞している状況なのでギルド側も焦っているらしい。

表向きは脅威となる階層主の討伐。だが、本音は違う。

我々ハンターは名誉と金で動く。魔物の素材もそれなりの高値で売れはするが、各層に存在した宝やめぼしい物は漁り尽くされてしまった。そろそろ、新しい階層への道を開いてダンジョンの宣伝に活用したいらしい。

「期限はギリギリ半年。明日まで、か。これで失敗したら俺たち追放されるかもな」

苦笑したシメライがぼやく。

「あり得ない、とは言えぬな。我々はこのダンジョンで頂点に立つ実力だが、これに失敗すれば地位が危うい」

「踏ん張りどころ……ですね」

隣でクロクロが小刻みに頷いている。

「今回は万全を期した。事前の準備を怠らず、作戦も練りに練った。前回の失敗を生かし、今回こそは成功させる。確実に」

強い意志を込めて発言する。無意識に手を握りしめて、熱く語ってしまった。

らしくない発言ではあったが、仲間たちは誰一人として茶化すことなく真剣な顔で頷く。

「負けっぱなしは癪だ。それに、新しい階層への一番乗りは譲れねえ」

「そうね。今度こそ、あのデカ物を切り裂いてみせるわ」

扇子を開閉させながら、鋭い目つきで睨むシメライ。

刀の鞘を強く握りしめ、同じ目つきで視線を送るユミテ。

「珍しくお二人が意気投合していますね。私も負けられません」

弓の手入れをしながら微笑むホクシー。

彼ら三人は我らのような亜人よりも身体能力が劣る人種である人間。……のはずなのだが、全員が飛び抜けた才能と実力を所有している。

「がんば、ろう」

「クロクロが今回の作戦の要だ。期待しているぞ」

「うん」

シメライたち三人がずば抜けた実力者であったとしても、あの巨大すぎる犬岩山を正攻法で倒すことは不可能。それが前回の戦いで学んだ教訓。

なので、今回はかなり無謀にも思える突入作戦を実行する!

クロクロに対しての言葉は嘘でも励ましでもない。彼がいなければ思いつきもしなかった、強攻策を実行させてもらうとしよう。

眼下には巨大な犬の頭。

周辺には青い海が何処までも広がっている。

我々は今、犬岩山の上空でふわふわと浮かんでいるのだが、向こうは気にもしていないようだ。

「攻撃を仕掛けない限り動かないのは、前回と同じみたいね」

「シメライ、当初の予定通りもう少し近づいてくれぬか」

「こういう微調節が一番面倒なんだがっ」

黒の団全員が乗った船がゆっくりと犬岩山の眼前まで移動する。

動かないとわかっていてもこの迫力に気圧されそうになる。至近距離で犬岩山の顔面を見るのは腰が引けてしまう。

「クロクロ、もう少し頑張ってくれ」

「まだ……いける」

上空に視線を向けると大きく広がった黒い布のような物が見える。これがクロクロだ。

闇人魔であるクロクロは身体を自由自在に伸縮させることが可能で、今回は船の四隅を掴んだ状態で大きく広がってもらい、内側からシメライが魔法で風を送ることで飛ぶ船が完成した。

同時に重力操作もおこなっているので、シメライの負担はかなり大きい。

通常の魔法使いなら二つ同時に魔法を発動することすら高難易度らしく、それを長時間維持することは神業に等しいそうだ。

それを文句の一つも言わず「ああくっそ、面倒くせえな」……文句は言うが実行できるシメライが桁外れな実力者であるのは間違いない。

「もうちょい右。高度をボミー一人分下げて。よしよし、あと少し左で……そこで止めて。よっし、そっから真っ直ぐに前進!」

ユミテの指示に従い、空飛ぶ船が進んでいく。

我々を乗せた船はゆっくりと前に進み、犬岩山の鼻の穴から中へと侵入していった。

「くしゃみしなくて助かったぜ」

鼻の内部に降り立った直後にシメライが漏らした言葉がそれだ。

「予定通りだけど、やっぱりちょっと怖かったね」

「そうですね、ユミテ先輩」

女性陣二人が安堵の表情で大きく息を吐いている。

「皆安心するのはまだ早いぞ。クロクロ助かった、礼を言う」

「役に立てて……よかった」

元の人型に戻ったクロクロが頭を掻いている。表情はわからないが、少し照れているのだろう。

「本番はここから。このまま空洞を通ってコアまで進む」

「そのコアを破壊したら任務完了ってわけやな」

「とっとと終わらせようよ」

そう、ここからだ。