軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒の団 その一

冥府の王がダンジョン内で暴れ回ったせいで多くの階層が窮地に陥り、殆どの住民が清流の湖階層へと避難している。

人口が爆発的に増えてしまい、本来なら食糧問題が懸念されるところなのだが……この階層には俺がいる! そう、自動販売機として転生したこのハッコンがっ!

「いらっしゃいませ」

「ありがとう、ハッコン」

「またのごりようをおまちしています」

今日も次から次へと客がやって来て大繁盛だ。

着の身着のままで逃げてきた人も少なくないので、当初は無料で販売していたのだが今はちゃんとお金をもらっている。割安にはしているけど。

スオリの商店が避難民用の住居を大量に建築して、その人員を避難民で補い仕事を分け与えた。人口の増加に伴い商店もいくつか増やしたそうで、それも避難民を優先的に雇っているそうだ。

多くの人が職を得て収入も安定しているらしい。なので、俺も無料奉仕をしなくて済むようになった。

あとは最下層の永遠の階層に挑むのみ。ここでの供給が安定したら旅立たないと。

「ハッコンのおかげで飲食の心配が無用だ。感謝する」

急に影が射したかと思えば、熊会長が正面に立って俺を見下ろしている。

熊会長ぐらいだろうな、ここの住民で俺を余裕で見下ろせるのは。

「ハッコン、冷たい水をもらってもええかのう」

「お爺さん、冷たい物ばかりを取るとお腹が冷えてしまいますよ。温かいお茶はどうですか」

「婆さんや、年寄り扱いするでない」

シメライ、ユミテ老夫婦もいるのか。

二人は常連だからな。お爺さんは水を買うことが多くて、お婆さんは温かいお茶を好んでいる。

「お二人は昔から仲が良いですね」

背後から顔を出したのは孤児院の園長先生ホクシーだ。シュイの弓の師匠でもある。

「パーティーを組んでた頃から熱々で、その熱であぶられて真っ黒になってしもうたわ。ほんま堪忍してや。わいなんて虚しい独り身で頑張ってきたっちゅうのに」

軽快な喋りで話に割り込んできたのは、熊会長の影からにゅーっと伸びてきた、闇の森林会長。

闇人魔という特殊な種族で、文字通り影のように全身が真っ黒。何故か金ぴかのロングコートだけを羽織っている。

ぶっちゃけ、変質者にしか見えない。

最近はこの五人が一緒の状態を頻繁に目撃するようになった。五人は親しげで常に仲良く会話している。

そういえばこの五人って……。

「ご に ん と も」

「だ ち だ よ ね」

「友達か。間違いではないが、正確には大切な仲間だ」

熊会長が腕を組んでここにいる人の顔を見回してから、目尻を下げて優しく微笑む。

「わいらは元黒の団やからな! 昔はブイブイいわしとったんやで!」

「懐かしいですね、お爺さん」

「あの頃はわしらも若かったからのう」

「無茶なこともやりましたね。若気の至りです」

全員が遠い目をして昔を懐かしんでいる。

黒の団とは五人が所属していたパーティーで、このダンジョンで一番の凄腕として名を馳せていたそうだ。愚者の奇行団のケリオイル団長も一目置いているぐらい。

この五人が一緒に戦っていたのか。年を経た今でも充分すぎる程の実力なのに、若い頃の五人はどんな感じだったのだろう。想像もつかない。

「く り よ だ ん」

「た の し か っ」

「た の」

「くりよだん、たのしかったの……。ああっ、黒の団楽しかったの、か」

真っ先に解読してくれたのが熊会長だった。この中では一番一緒に居る時間が長いだけのことはある。ハッコン検定三級を進呈しよう。ちなみに一級はラッミスで二級はヒュールミだ。

「楽しかった、か。大変だった思い出ばかりだがのう」

「忙しく慌ただしい毎日でしたね、お爺さん」

「血気盛んな先輩たちをボミーさんが制御しきれずに、いつも困っていました」

「ほんま、どいつもこいつも厄介な仲間ばっかで。わいを見習って大人しくできへんのかと、いっつも頭を悩ませとったわ」

肩をすくめて大袈裟な動作で頭を左右に振り、わざとらしく大きなため息を吐いてみせる闇の森林会長。

他の人たちは半眼で闇の森林会長を睨んでいる。

「し り た い」

「知りたいとは、何のことだ?」

意図が伝わらなかったようで熊会長が首を傾げている。

「ハッコンはみんなの昔話が聞きたいんじゃないかな?」

俺の後ろからひょこっと顔を出して、言いたいことを伝えてくれたのはラッミスか。

「オレも興味があるぜ」

「園長先生の昔を知りたいっす!」

続いてヒュールミとシュイも現れた。

三人とも近くに潜んで話を聞いていたようだ。

「盗み聞きは感心しませんね、シュイ」

「すみません、園長先生」

叱られてペコペコと頭を下げるシュイ。

「良いではないか。皆は我々の昔話に興味があるのか」

「うん、とっても!」

「いらっしゃいませ」

食い気味にラッミスと俺が返事をすると、熊会長たちは顔を見合わせた。

全員が小さく頷いたのを確認して、熊会長が一度咳払いをしてから再び口を開く。

「あまり面白い話ではないが。では、昔話でもするとしよう」

どんな話が聞けるのだろうか。わくわくで照明の点滅が止まらない。

ラッミスたちも同じようで、目を輝かせて熊会長の話を待っている。

「そう、あれは今から五十年ぐらい前か――」

「はっ、今回も余裕だったぜ。俺の魔法でイチコロだったな」

「シメライ、調子に乗りすぎ。もっと大人しくしたらどう?」

「うっせえな。ユミテ、お前は俺の母親か」

「こんな魔法バカの小憎たらしい子供なんていらないわ」

「っだとてめえ! ……お、おい、刀を抜くのは反則だろっ!」

魔法使いのシメライと剣士のユミテがまた喧嘩をしている。

ハンターとして依頼をこなし、酒場で祝勝会を開いている最中だというのにこの二人は……。

シメライは長く黒い髪を荒縄で雑に縛っている髪型で、顔は人間の基準では精悍で容姿は整っている方らしいのだが、傲慢で自己中心的な性格が災いして女が寄りつかない。

そんなシメライに対して容赦のない対応をしているのが、剣士ユミテ。

剣術の使い手で凄腕。ユミテに切れぬ物はなし、と噂されるぐらいの実力者。実際、彼女はありとあらゆる物体や魔物を紙切れのように切り刻むことができる。

今も口論中のシメライとは同郷で幼馴染みらしい。

「先輩方、周りの目もありますし、もう少し声を抑えてください」

そんな二人をなだめすかしているのは、弓使いホクシー。

黒の団の最年少で唯一の十代なのだが、弓の腕は達人級で何度も助けられている。ユミテは癒やしの魔法を使えるのだが、ホクシーも同じ魔法の使い手だ。

ユミテとホクシーは魔法が切っ掛けで知り合ったそうで、黒の団が結成されるまではシメライを含めた三人で冒険をしていた。

そして、熊人魔である私、ボミーも黒の団の一員。

生まれ持った強靱な肉体と怪力で前衛として、皆の盾となり相手の攻撃を一手に引き受けている。攻撃の際はこの鋭い爪で容赦なく切り裂いていく。

「ホクシーの言う通りだ。あまり暴れては出禁にされかねないぞ」

「相変わらず、堅苦しいなボミーは。そんなデカい図体をしてんだから、もっと堂々と威張り散らせばいいのによ」

「あんたとは違うのよ。あんたとは」

「なにぃぃぃ! お前だって喧嘩っ早いくせに、かまととぶってんじゃねえよ! 前もナンパしてきた野郎の腕を問答無用で切り落とした癖に!」

「あ、あれは……後で腕をくっつけてあげたから問題ないわ」

「問題しかねえよ! だから、直ぐに刃物を抜くなっ!」

切りつけられた刃を魔法の障壁で防ぐシメライ。

第三者から見れば大事だが、我々にとってはいつもの光景でしかない。

二人とも黙っていればモテるというのに、いつもこうやってじゃれ合っているので他人が寄りついてこない。なんだかんだ言いながらも楽しそうなので、もう放置しておこう。

「あやつらは放っておいて、飯を食うか。このままでは冷え切ってしまう」

「そう、ですね。我々だけでも温かい内にいただきましょう」

「……はい」

二人を無視して三人で食事を始める。

何かと問題を起こす二人には手を焼くが、残りの二人は手がかからないのでバランスは取れているのかもしれない。

ホクシーもそうだが、もう一人の彼が一番大人しい。

物静かで自分から話すことがほとんどなく、こちらが気を遣って話しかけなければ一日中黙っていることもざらだ。

「どうだ、美味しいか?」

「はい……とても」

小さく頷き、黙々と食事を口に運んでいる。

目も鼻もないので表情はわからないが、たぶん喜んでいるのだろう。

「クロクロ、もう少し自発的に動いてもよいのだぞ。言いたいことは口に出さなければ伝わらぬ。特にあの二人が喧しいからな」

「そ、そうですね。……頑張ります」

「「「誰っ⁉」」」

話の途中だが、ラッミス、ヒュールミ、シュイが思わず大声でツッコミを入れる。

俺なんて驚きすぎて電源が落ちそうになっていた。

「い、今の大人しい人ってもしかしなくても……」

「いやいや、悪い冗談だろ……」

「あり得ないっす……」

三人が否定の言葉を口にしながらも、視線は一人の闇人魔に集中していた。

視線の先にいた黒い人物はわざとらしく辺りを見回してから、自分を指差して小首を傾げる。

「そんなに見つめられたら照れるやんか。何を隠そう、その内気で優しく大人しい真面目キャラはわいやで! 昔は今よりもちょっとだけ消極的で恥ずかしがり屋さんやったからな」

闇の森林会長が胸を張って堂々と答える。

「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ‼ 嘘だああああああああああああああああっ⁉」」」

絶叫に近い悲鳴が集落に響き渡った。

「皆、落ち着くのだ。残念ながら事実だ。本当に残念だが」

大きなため息を吐いた熊会長が、帽子のつばを掴み目元が隠れるように深く被った。

シメライ、ユミテ、ホクシーが額に手を当てて俯き、頭を左右に振っている。

本当、なのか。あの、陽気でお喋りで口を噤んだら死にそうな闇の森林会長が、昔は物静かなキャラだった……。いやいやいやいやいや、嘘でしょ⁉

「わいは引っ込み思案な自分が嫌いでな。それを改善しようと頑張った結果が今や。見違えるように輝いて見えてるんとちゃうか!」

輝いているのは金色のコートだけだ。

「ま、まあ、色々あってな。話を戻すとしようか。どうせ話すのであれば、犬岩山階層の階層主を倒したときの話はどうだろうか」

それ、ずっと知りたかった話だ!

犬岩山階層の階層主を倒したことがあるのは黒の団だけ。対峙してわかったことだけど、あんな化け物をどうやって倒したのか興味津々だよ。

ラッミスたちも同じだったようで、凜々と目を輝かせて熊会長に迫っている。

「ふむ、では犬岩山階層にたどり着いたタイミングから話すとしようか」