軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラッミスと一緒

仲間の望みを人型で叶えよう週間も最終日を迎えました。

さんさんと輝く太陽が今日を祝福しているかのようだ。

最後の締めくくりは我が相棒であるラッミス。彼女も楽しみにしていてくれているだろうが、俺だって今日を待ちわびていた。

まだ自動販売機形態なのは、少しでも時間を有意義に使う為に、彼女がやってくるまで〈変形〉を発動させたくないからだ。

体の灯りを点滅させながら待っていると、相棒の気配を感じた。

機械の体で気配を感じるというのもおかしな話だけど、なんとなく分かるのだ。

彼女はいつものように花が咲いたような、見ているこっちまで幸せを感じる満面の笑みを浮かべているのだ……ろ……あの、ラッミスさん?

腰に手を当てて仁王立ちしている彼女の顔は、フグのように頬が大きく膨らんでいた。目尻も若干上がっている。

つまり、怒っていらっしゃるようだ。

「い いらっしゃいませ」

怒っているように見えて実は新しい顔芸なのかもしれない。いつもの挨拶で反応を確かめてみる。

「いらっしゃいません」

うん、怒ってるね、やっぱり。

プンプンという文字が背後に浮かび上がりそうな、典型的な怒り方をしている。

腕を組んでいるので豊かな胸が下から押し上げられ、いつもよりそこが強調されているのだが、狙っているわけじゃないよな。

「ハッコン、うちがなんで怒っているかわかる?」

「ざんねん」

正直さっぱりです。

最近、彼女と喧嘩したこともないし、怒らすような発言をした覚えもない。

昨日はヒュールミと一緒に過ごす前に会ったきりだが、その時は機嫌が良かった。あの後、何かあったということだよな。

彼女の身に一体何がっ!

「ヒュールミに服を選んであげて、買ってあげたんだよね」

「いらっしゃいませ」

「ピティーとは恋人役やって、いちゃいちゃしてたんだってね」

「い いらっしゃいませ」

「ふーん、いいなぁー、私もそういうの考えていたんだけどなー」

鈍い俺でもさすがに理解できたぞ。つまり――、

「し っ と」

「んもおおおおう! そういうことは、思っても言わないの!」

照れ隠しなのだろう、手を振り回して俺をぽかぽか殴ってくる。

まあ、実際はぽかぽかなんて生易しい物ではなく、ドゴンドガン! といった感じで手がぶつかるたびに衝撃波で砂埃が舞い上がっている。

普通の人なら一撃目で運が良くて骨折、悪ければ死ぬ恐れもある威力だが、頑丈の上がった俺の体なら余裕だ。

《1のダメージ。耐久力が1減りました》

《1のダメージ。耐久力が1減りました》

《1のダメージ。耐久力が1減りました》

男として我慢すべき場面ってあるよね。

「二人としたことをうちもするからね! 恋人役は同じ条件だし……服を買いに行くよ!」

いつものように背負子を俺に取り付け背負うラッミス。

そして、そのまま大通りを進んでいく……って、ちょっと待てい。

いつもの流れだったので違和感なく背負われてしまったが、今日は人として付き合うのだから、この状況は間違っている。

「ら っ い す」

「なーに、ハッコン」

「お り り ゅ」

「えっ、降りたいの? そしたら、ハッコン動けな……あっ、そうだった!」

ラッミスも気づいてくれたようで、俺を地面に降ろして背負子を外してくれた。

よっし、〈変形〉発動だ。

最近は毎日人に戻っているので、自分の体に対する違和感も薄れてきた。そもそも、元の体なのだから当たり前なのだけど。

「いつもの癖で、ハッコンが戻れるの忘れちゃってた。ごめんね」

「いいよ。俺も同じだったし。じゃあ、服屋までエスコートさせてもらうよ」

「うん、お願い。あっ、ええとね、一つやってみたいことがあるの。いいかな?」

横に並んだラッミスが上目遣いで頼みごとを口にする。女性のこの仕草って反則だよな。大抵の男が断れないと思う。もちろん、俺もそっち側だ。

「なにかな」

「腕組んで……いい?」

「もちろん、喜んで」

よっし、かなりドキッとしたが動揺を隠して自然に返せた。

片腕を曲げて、そこに腕を通す隙間を作るとラッミスがすっと腕を入れてくる。

「あはっ、嬉しいなー。ずーっと夢見ていたんだよ。こうやって、腕を組んで歩くのを」

「それは、俺も同じだよ」

腕に伝わる温かさと柔らかい感触。自分が人間であることを実感させてくれる。

人の姿に戻ったら周りから嫌われるのではないかと心配していたが、それは杞憂だった。

仲間は誰一人として態度を変えずに今に至る。悩んでいた自分が馬鹿らしく思えるぐらい、自然体で接してくれているみんなには本当に感謝しているよ。

他愛もない雑談をしながら町を歩く。それだけで、胸が高鳴り鼓動が激しくなる。

この時間が永遠に続けばいいと、月並みなことを思うが制限時間は三十分しかない。〈変形〉の制限時間も使い続けていれば、いつか伸びるかもしれないな。それを期待しよう。

「っと、この店だよ」

「わー、素敵なお店だね!」

ヒュールミと同じ店にしようかとも思ったのだが、自動販売機の勘が同じ場所は避けた方がいいと囁いていたので、別の店をチョイスした。

この店は男性の衣服も置いてあるので、前から覗いてみたかった店だ。

人間になれるようになったのだから、異世界の服に袖を通すのも悪くない。

店内は前の店よりかは値段控えめだが、それでも一般市民が手を出すには躊躇する値段設定だ。

「えっと、じゃあ……ハッコンうちの服選んでね!」

「やっぱり、そうきたか。任せて、ラッミスに似合う服を選んでみせるから」

ふっ、この展開は予想通り。ヒュールミの服選びで散々迷って、貴重な時間を浪費させてしまったことを後悔していたので、自動販売機に戻ってからファッション雑誌を夜中に読み込んでいたのだよ!

闇夜に鉄の塊の前に〈念動力〉で浮かぶ雑誌、というホラーな光景で住民に迷惑をかけたかもしれないが、それもこの時のため。付け焼刃とはいえ、かなり勉強してきたからね。

ラッミスにお似合いの服を選び差し出すと、向こうも服を俺の胸に押し付けてきた。

「えっ?」

「うちもハッコンの服選んでみたから、これを着てみて」

「あっ、そうなんだ。じゃあ、着替えてみようかな」

「うん。一緒に新しい服にお着替えだよ」

まさか、俺の服を選んでもらえるとは。じゃあ、隣の試着室で着させてもらうか。

スーツが体と一体化してないか不安だったが、ちゃんと脱げるな。異世界の服は少しごわごわしているけど、思ったよりも動きやすくて着心地もそんなに悪くない。

白が基調で橙色の縁取りがアクセントになっている感じか。これって基本状態の自動販売機の色に合わせてくれているみたいだな。

うん、いいんじゃないかな。この色彩は落ち着くし。

試着室のカーテンを開けて、外に出て待っていると。ラッミスの入った試着室のカーテンが開いた。

そこには暖かい色合いではあるが、少し大人びた格好をしたラッミスがいた。いつも短パンなのでスカートを選んだが、正解だったようだ。

ヒュールミとは逆に落ち着いた感じにしたのは、前に偽自動販売機の敵情視察に向かった時の格好がとても似あっていたので、それを参考に選ばせてもらった。

「ハッコン、かっこいいよ! すっごく、似合ってる」

「ラッミスも可愛いくて、綺麗だよ」

お、おーし、言えたぞ。目の前のラッミスも真っ赤だが俺も顔が熱いので、たぶん同じような状態なのだろう。

「んと、ええと、この後はなにしようか」

「露店で何か買って、大広場で一緒に食べようか。そういう、普通の……恋人がするようなことを、ラッミスと一緒にしたいな」

「あう、ずるいよ、そんなこと言われたら……もっと好きになっちゃう」

反則級の言葉に俺はノックアウト寸前で彼女を見つめることもできず、手を強引に繋ぐと大広場へと駆け出す。

「ねっ、ハッコン。もしかして、照れてる?」

「どうだろう」

「じゃあ、こっち向いてよ。ねっ、ねぇ」

脇腹を人差し指で突いてくる彼女の攻撃を躱しながら、俺は露店へと急いだ。

「いい天気だねー」

「そうだね。日向ぼっこってこんなに気持ちよかったんだね」

日差しを眩しいと思ったことはあるが、こんなにも心地よいと感じたことはなかった。

暖かい陽の光だけじゃない、隣にラッミスがいるからこそ、ここまでの幸せを感じることができる。

「手料理は前に食べてもらったから、また今度ね」

「料理は本当に美味しかったよ」

「次はもっと腕によりをかけて、得意料理を披露するからね」

「ん、楽しみにしているよ」

「ねえ、ハッコン。時間はどれぐらい残ってる?」

「残り五分を切っているのか。楽しい時間は経つのが早いな」

これが最後というわけじゃないのだが、それでもこの時間が続けばいいと思ってしまう。

繋がれた手から伝わる温もりも穏やかに流れる時間も、全てが愛おしい。

「もう、時間がないね。今日はありがとう、ハッコン。私のわがままを聞いてもらって。えっとね、私はもう満足したからハッコンがしてみたいことってない?」

してみたいことか。今でも十分すぎるぐらい幸せなのだけど……やりたいこと、あったな。ラッミスにだけしてみたかったこと。

ずっとずっと、彼女と出会ってからやってみたかったことが……ある。

「なんでもいいのかな?」

「うん、なんだっていいよ。どんなことだって」

ここでとんでもないことを要求しても、彼女はきっと従ってくれるだろう。

なら、俺の望むことはたった一つ。

俺は広場のベンチから腰を上げると彼女の前に立ち、背を向けると屈みこむ。

「ラッミスを背負わせてくれないかい」

今まで背負われてばかりだった。

どんな苦難も彼女の背から見守ることしかできなかった。

あの小さな背中に守られていた。

本当は平和な場所で穏やかに過ごしているのが似合う優しい女性だ。そんな彼女に何もかも背負わせてしまった。

望んでもいなかった怪力を手に入れたばかりに、人に甘えることも接することもできなかった。

そんな小さな彼女を俺は背負ってあげたい。

「どうぞ、ラッミス」

「うん」

背を向けているのでどんな表情をしているかもわからないが、背中に流れ落ちてくる水滴が全てを物語っている。

背中を覆う彼女の温もりを感じながら立ち上がった。

軽いな。こんなに軽かったんだラッミスは。

彼女を背負ったまま大通りを進んでいく。目的地は決まってないけど、ただゆっくりと歩を進める。

「温かいんだね、人の背中って」

俺の肩に添えた手にギュッと力が入ったのがわかる。

「ハッコンの背中大きくて、好きだよ」

「それは、よかった」

「うちってさ、生まれたころから怪力で、人を簡単に傷つけてしまうから、人に触れないように触れられないようにしてきたんだよ」

「うん、知ってる」

ヒュールミに相談されたこともあったからね。

「だから、両親にも背負ってもらった記憶がなくて。友達とも触れ合うことはなかったの」

自分の怪力を持て余していたラッミスは人と触れ合うことを極端に恐れていた。悪気がなくても容易に人を傷つけてしまうからだ。

「ハッコンが鉄の塊で、うちが力を込めても壊れないってわかった時、本当に嬉しかったんだ。やっと、触れ合える友達ができたって」

他の人と接するときはいつも緊張していたよね。それを表に出さないようにしていたから、気づいている人は少なかったみたいだけど。

「ヒュールミは大切な親友だよ。でも、一緒にはしゃいで遊んでも、手を繋いだりすることができなかった。でも、ハッコンは特別。うちにとって特別で大切な人」

「俺もそうだよ」

「人間に戻っても、傍にいてくれる?」

彼女の緊張がかすかに震える手と、萎縮した体から伝わってくる。

俺は大きく一度新鮮な空気を吸い込み、頭と心を落ち着かせてから言葉を返す。

「当たり前だよ。ずっと一緒にいようね、ラッミス」

「うん、ずっと一緒だよ!」

振り返らなくても、彼女がどんな顔をしているか想像がつく。

――きっと、俺と同じ表情をしているから。