軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シュイと一緒

「今日は待ちに待った食べ歩きの日っす!」

頭上には澄み切った空が広がり、日差しを浴びた元気いっぱいのシュイが、俺の前で腰に手を当てて仁王立ちしている。

ミシュエルに続いて二番を引いた彼女と今日は付き合うことになっているのだが……食べ歩きか。

人になれるようになってから食べるチャンスはあったのだが、自分で出したジュースを飲んだぐらいなんだよな。

いつも〈変形〉を発動させるときは戦闘中なので、敵を倒した残り時間に人に戻っても長くて十分、少ない時は二、三分しかないので食事をする時間の余裕がなかった。

そのことをシュイも考慮して食べ歩きを提案してくれたのかもしれないな。

「思う存分、食べてほしいっす! いつもお世話になっているから、今日はおごるっすよ!」

「いらっしゃいませ」

ここで遠慮をするのは失礼な話だよな。前のダンジョン攻略でシュイの懐にも余裕があるらしいから、ここは甘えさせてもらおう。

向かう店も決まっているようなので、そろそろ人型になろうかな。

「おー、やっぱり人間バージョンのハッコンは新鮮っすよね」

「元々はこの姿なんだけどな」

「うんうん、悪くないっすよ。紅白と違ってまともな人に見えるっす」

「それ……褒められてる?」

あの紅白双子……じゃない、今は三色三つ子だった。見るからに軽薄そうな二人と比べたら大半の男はまともだと思う。最近、長男である灰とスルリィムの熱々ぶりに当てられて危機感を覚えたらしく、本気で彼女を募集しているらしい。

あそこは団長と副団長も仲がいいから、二人の疎外感が半端ないのだろう。

「べた褒めっすよ。って、話している時間がもったいないから、店でゆっくり話すっすよ!」

俺はシュイに手首を掴まれて引っ張られていく。

場所はさっきの場所から徒歩で二分ほどの距離で、洒落た感じ――ではなく、大衆居酒屋のような店構えをしている。日本なら定食が美味しそうな、こぢんまりとした家族経営の店といった感じだ。

あれ? 食べ歩きと言っていたから、露店巡りでもするかと思っていたのだが……まあいいか。

「前に見つけた穴場っすよ! まだ誰も連れてきてないところで、一押しっす」

「それは光栄だね。食べることに関してはシュイに間違いはないだろうから、期待しているよ」

そう口にするとシュイは笑みを浮かべ、俺を中へと引っ張り込んだ。

店内は床張りに見るからに年代物の机と椅子が並んでいるが、しっかりと磨き上げられていて掃除が行き届いている。

日本と違いこの世界だと店内が汚らしい店も少なくないので、これだけでも飲食店としての期待が高まるな。

「店長、お願いしていたのよろしくっす!」

四人から六人用だと思われる大きな丸机の席に躊躇いなくシュイが腰を下ろし、隣に座るよう椅子をポンポンと叩いている。

二人で使うにしては大きすぎる机だが店員も彼女の食欲を理解しているのだろう、ツッコミもなかった。

それに事前に連絡を入れていたのだろうな、席に着いてから一分も経たないうちに食事が運ばれてきている。

「ハッコンは時間制限があるっすから、時間指定して準備しておいてもらったっす」

「やっぱりそうなんだ」

「三十分は短いっすから。本気で食べても満腹にはなれないっすよ」

それはシュイだけだと思う。普通は三十分も食べ続けたら満足だよ。

目の前に並べられた料理を目の当たりにして、俺は目を見張った。思わず、料理とシュイの顔を交互に見つめてしまうぐらい驚いている。

この反応を待っていたのか、悪戯が成功した子供のような無邪気な笑顔がそこにあった。

「これって、和食というか日本の家庭料理だよね」

スープはお味噌汁でポテトサラダや肉じゃが、それ以外にも焼きそばやオムライスもある。懐かしいレパートリーだ。

ここは異世界の筈なのに、この料理の数々はどういうこと?

「驚いた? 驚いたっすか? 防衛都市にはハッコンと同郷の畑さんがいるっすよ。畑さんがニホンの料理を広めたって話っす」

ああ、そうか。俺と同じく日本から転生させられた畑がいたな、ここには。

自動販売機に転生した俺も相当なものだが、畑に転生よりかはマシな気がする。という話を以前畑としたことがあるのだが、

『そっちよりマシだと思う』

と文字で伝えてきた。あっちはあっちで充実しているそうなので、お互い幸せならそれでいい気がする。

「さあ、温かいうちに食べるっすよ。いただきます!」

「いただきます!」

久しぶりの食事が日本食なのは本当に嬉しいな。まずは肉じゃがをいただこう。

丁寧な仕事で面取りまでしているジャガイモ。この世界ではズュギウマと呼ばれているのだったか、それを箸で摘まみ口に運ぶ。

崩れるまで煮込んだものも好きだが、これは適度に食感を残しながらも味がしっかりしみているぅぅぅぅぅっ!?

口内に広がる絶妙な味付けと芋の甘みと風味に、脳が揺さぶられるような感覚に意識が一瞬遠のいた。

く、くそぅ、甘く見ていた、ここの野菜を。

みんなから転生者である畑が作った畑産の野菜は、意識が吹っ飛ぶぐらいおいしいとは聞いていたが今のはやばかった。

味付けも素晴らしいが芋のインパクトが強すぎる。となると、肉じゃがの人参もおおおおおぉぉぅ! なんで食べるたびに腰が砕けそうになるんだ!

久しぶりに食べる日本食が美味しいとかじゃなくて、野菜の強烈すぎる味に全てが持っていかれている。

「ふああああっ、いつ食べてもやばひぃぃ」

大食いと早食いが自慢のシュイが一口一口を噛みしめている。語尾に「す」をつけることすら忘れて、堪能しているな。

しかし、この味は確かにヤバい。ここまでくると、もう危険薬物の一種じゃないのかと疑いたくなるレベルだ。

「ここまで美味しいのは畑さんも流通を控えているそうなんっすけど、ここだけは特別に許されているそうっす。美味しいっすか?」

「美味しいどころの話じゃ……野菜の味はとんでもないが、味付けもいい感じで好みだな」

「ふーん、味も美味しいっすかー。あっ、じゃあこのウナスススャエギ焼きはどうっすか」

食べるのが好きなシュイは料理が褒められるのが嬉しいのか、ニヤニヤしながらこっちを見ている。

ウナスススャエギ焼きというのは、パッと見た感じだと豚生姜焼きだ。ウナススというのはこの世界のイノシシなので、あながち間違いではないのだろう。

ウナススの肉と玉ねぎっぽいチミノグを炒めた料理。今度は純粋に味付けを評価するために肉だけを口にした。

「ふんっぐぐぐぐ、よっし」

肉だけだと思ったが口に広がるショウガの辛味と刺激、チミノグから染み出した甘味が肉に絡んでいて、またも意識を持っていかれそうになる。今度は踏ん張ったが。

何度も口にしていると野菜本来の強烈なインパクトになれてきたのか、純粋に味を楽しめるようになってきた。よく見ると食材の大きさも均一化されていて、単純な野菜の味だけではなく料理人の腕が良いのが分かる。

それになんと言えばいいのか……この味付けほっとする。味噌汁も口にしたが、なんというか体の芯まで温まる優しい味だ。

「野菜の味だけじゃなくて……なんか、ほっとするよ。毎日、これが飲めたら幸せだろうな」

ガランッと、店の奥から大きな音が響いてきた。調理道具でも落としてしまったのだろうか。

「ふーん、毎日飲みたいと思うぐらい、美味しいっすか!」

シュイが大声で繰り返して確認しているのだが、なんでそんなにも嬉しそうなんだ。

さっきから自分のことのように喜んでいるように見えるが、ここの店主と仲がいいのだろうか。

「もっといっぱい食べるといいっすよ」

「じゃあ、遠慮なく」

時間制限があるので全部食べてみないと損だな。並べられていた料理の全てに箸をつける。

俺とシュイは隣り合わせで食べ続けているだけなのだが、これで彼女の望みは叶えられたのだろうか。

ミシュエルもそうだが、二人とも自分の望みというより、俺の為に行動してくれているようにしか思えない……気を使わせてばかりだな。

体感で残りの時間が三分を切ったことがわかったので、俺は食卓に箸を置いた。

「シュイ、今日は誘ってくれてありがとう。本当においしかったよ。でも、これでよかったのかい?」

俺としては大満足だが、彼女はこれで満足なのだろうか。視線を向けるとニコニコと心底嬉しそうに見えるが。

「うん。前から美味しい物を一緒に食べてみたかったっす。それに、そろそろ進展してもらわないと……あきらめがつかないから」

「ん? ごめん、なんていったの?」

最後は俯いて囁くような小声だったので、よく聞こえなかった。

シュイは顔を上げると怒っているような、笑っているような、表現しづらい顔で俺を優しく見つめている。

「あ、そうっす。料理人を紹介するっすね」

手をぱんぱんと打ち鳴らすと、店の奥から料理人が歩み寄って……寄って……。

「ラッミス!?」

胸の前で手をもじもじさせながら歩み寄ってきたのは、ピンク色のエプロンをつけたラッミスだった。

「ええとね。ほら、手料理をいつか食べてほしいって言ってたよね。だから、シュイが気を使ってくれて」

そういうことか。何故、シュイがずっと笑顔だったのか理解できた。

シュイは大雑把なところもあるけど、孤児院で子供たちの面倒をずっと見てきただけあって、結構気が利くんだよな。

この料理は全てラッミスの手料理だったのか。

「あのね、美味しかった?」

顔を真っ赤にさせてチラチラこっちを見ている彼女に伝える言葉は、決まりきっているよな。

「ご馳走様。おいしかったよ。また食べたいな」

「うんっ、また食べてね!」

「よかったっすね、ラッミス」

手を取り喜び合う二人を見て、自分がどれだけ仲間に恵まれているのかを実感している。

ありがとう、二人とも。腹も心も満たされた最高の食事だったよ。