軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミシュエルと一緒

「じゃあ、まずは〈加護〉が使用可能か調べてみよう」

ミシュエルが気を利かせて後退る。

なら、まずは〈結界〉を試してみるか。これが使えるかどうかで今後の立ち回りが決まってくる。さて、頼むぞ……。

「結界発動!」

ノーモーションで発動できるはずなのだが、なんとなく右手を伸ばして声に出す。その方がそれっぽいだろう。

半透明の青い光がいつものように俺を取り囲む。〈結界〉は大丈夫なようだ。範囲も俺を中心として二メートルの箱状。

「ええと、大きさの調整をしてみるか」

いつもの感覚で〈結界〉の縮小をしてみる。限界まで縮めてみると、体に〈結界〉を膜のように貼り付けることも可能のようだ。これだと相手に悟られることなく常に体を保護するのも可能か。

「問題ないようですね。お見事です、ハッコン師匠!」

「うん、ありがとう。結界は問題なしっと。じゃあ、次は〈念動力〉を試してみよう」

近くに転がっていた石に向けて意識を集中して、操られるかどうか試してみる。

これも一応、手を伸ばしてそれっぽくしてみるか……ビジュアルは大切だ。

「動けっ!」

気合を入れて踏ん張ってみるが、石はピクリともしない。

暫く腕を伸ばした状態で力を込めている最中に、ふと大切なことを思い出した。

――俺、自分の商品しか動かせないじゃないか。

平静を保っているつもりだったが、人に戻って浮かれていたみたいだ。肝心な部分がすっかり頭から抜けていた。

「先に自動販売機の商品を出せるか試してみようか」

「はい!」

ちらっと視線をミシュエルに向けると、ニコニコと嬉しそうにこっちを見つめているだけだ。

さてと、ジュースを出せるのは村で試したことがあるのでわかっているが、一応確認の為に出してみるか。

手のひらにペットボトルの感触が広がる。とりあえずミネラルウォーターを出してみたが、これをついでに〈念動力〉で操ってみよう。

ミネラルウォーターが浮かび上がり、ミシュエルの元へと飛んでいく。

「念動力も問題なし。それはミシュエル飲んでいいよ」

「ありがとうございます!」

ただのペットボトルを嬉しそうに抱きかかえなくても。いつもながら大袈裟だな。

次は変わった商品を出してみるか。ええと、〈高圧洗浄機〉の水とか出せるのかな?

地面に向けて手を伸ばして水を噴出するイメージを頭に描く。

おっ、出た出た。地面に高圧で押し出された水が突き刺さる。威力も調整可能。

ついでに他の商品や灯油も出るか試してみたが、全て可能だった。

人型になったら無力になるのではないかと心配していたのだが、それは無用なようだ。まずは一安心だな。これなら、いざという時も役に立てる。

「一通りは試したから、もういいな。よっし、ミシュエル時間はまだ余っている、何かして欲しいことはないか?」

「いえ、私はハッコン師匠のお手伝いがしたかっただけですから」

手と首を激しく左右に振って断っているが、俺ばかりではなく弟子の望みは叶えてやりたい。

「残り二十分はいけるから、もったいないよ。さあ、弟子よ望みを口にするがいい」

わざとらしく偉そうに振る舞うと、ミシュエルが微笑む。

俺が女性だったらその顔に見惚れていたと断言できるぐらいの、魅力的すぎる笑顔だ。そりゃモテますわ。

「で、では、僭越ながら……お手合わせ願えませんか!」

そういや、初めから鍛錬をつけてほしいって話だったよな。

この体の身体能力はまだ確かめてないから、ちょうどいい申し出だ。それに、師匠として弟子と戦うというシチュエーションは燃えるものがある。

「構わないよ。じゃあ、防衛都市の外でやるか」

「はい、お願いします!」

そんなに瞳を輝かせて喜ばなくても。ミシュエルが尻尾を振って喜ぶ子犬に見えてきたよ。いや、どちらかといえば忠犬か。

巨大な門をくぐり農業地帯から少し外れた場所まで駆け足で移動する。

結構距離が離れていたのだが、五分も経たずに到着した。二本の脚で走ってわかったのだが、異様に足が速い。

初めは俺を気遣ってミシュエルが速度を落としてくれていたのかと思っていたのだが、そうではないようだ。辺りの風景が飛ぶように過ぎ去り、体が羽毛のように軽かった。

ずっと自力で動けなかったからそう感じるのではなく、日本での自分とは比べ物にならない身体能力を得ている。

「凄いですね、ハッコン師匠! 本気で走ったのに追いつけませんでした!」

ミシュエルが軽い興奮状態だ。嘘をつくような弟子じゃないから、あれは本心だよな。

これは他の身体能力も期待できるか?

「じゃあ、まずは軽く素手で戦ってみるか。生身で暴れるのは久しぶりだから手加減頼むよ」

「わかりました。では、軽く攻撃を仕掛けますので、避けるか防御してみてください」

大剣を地面に置き、鎧も脱ぐと軽装となったミシュエルが構える。

格闘技なんてしたことはないが、ラッミスの戦い方を思い出して、それっぽいポーズをしてみた。

「では、いきます!」

鋭い踏み込みで一気に間合いを詰めるミシュエル。

この動きも常人では見極められない速度なのだろうが、ずっと一緒に戦ってきたんだ。動体視力だけは自信がある!

相手の動きを目で追いながら、突き出された拳に対して回避してみるか。

左胸元に伸びる右拳に対し、片足を引いて半身になる。ワイシャツを掠めた拳を見送り、更に繰り出された左拳を屈んで避けた。

ミシュエルの目が大きく見開かれ、驚くと同時に口元に笑みが浮かんでいる。避けられたことを喜んでいるように見えるな。

「お見事です、ハッコン師匠!」

「自分でも驚いているよ」

更にミシュエルの攻撃が続くが、今のところ全てを避けきっている。徐々に回転速度が上がり突き出される拳や蹴りも鋭くなっているのだが、まだいけるな。

半ば本気に見えるミシュエルの攻撃を、自動販売機だった俺がどうして躱せるのかは、思い当たるふしがある。というか、確実にこれが理由だろう。

ステータスの〈筋力〉や〈素早さ〉のパラメーターを上げたからだ。元々、人の体を動かすために必要な能力だ。結構なポイントを消費して割り振っているのだから、この身体能力にも納得がいく。

あれ、それってつまり〈頑丈〉も高いってことだよな。素手だから大丈夫か。

俺は顔面に放たれた拳をあえて避けずに食らってみた。

ガンッと鉄を殴ったかのような音が響く。さっきまで喜色満面だったミシュエルの顔が一瞬で血の気が失せ、上下左右に震え始めている。

痛みは全くない。むしろ、ミシュエルの手を心配するレベルだぞ、これは。拳の感触はあるのだけど、そっと頬に触れた程度だ。

「す、すみません、ハッコン師匠!」

頭を深々と下げるミシュエルに「大丈夫、大丈夫。わざと避けなかっただけだから」と手を振り、心配させないように頑丈さをアピールしておく。

これならラッミスと一緒にいても怪力でどうこうなることもないかな。常に力を制御している彼女だから、俺と一緒の時ぐらいは余計な気を使わないで自然体でいられるといいのだけど。

「体もかなり頑丈になっているようだから、もっと遠慮なくきていいぞ。今のでわかっただろ?」

「まるで鉄を殴ったかのような感触でした。さすが、ハッコン師匠です」

弟子の口癖が「さすが、ハッコン師匠」になっている気がする。そろそろ、独り立ちさせて距離を置いた方が彼の為じゃないかと、思わなくもない。

「ミシュエル鎧を着てくれないか。たぶん筋力も相当あがっているから、俺が攻撃したら傷つけてしまうかもしれない」

魔力以外、ステータスをかなり伸ばしているから、下手したら骨の一つぐらい折ってしまいかねない。

「わかりました、しばしお待ちください!」

着なれているのだろう、素早く着込むと大剣は地面に置いたまま再び構える。

じゃあ、今度は筋力の見極めだ。

ラッミスの戦闘シーンを思い出し、それを模倣して体を動かす。

自動販売機の能力なのかは不明だが、彼女の動きが頭に鮮明な映像で思い浮かぶ。その動きをなぞるように体を動かし、軽い跳躍からの正拳右突き。

拳がミシュエルの右胸を捉える。威力を確かめる目的であえて避けなかったのだろう。

あの鎧の強度を知っているので遠慮は一切せず、全力で殴ってみた。

「うごっ!」

カンフーアクションのようにミシュエルの体が宙に浮き、後方へと吹っ飛んでいく。

そのまま倒れることはなく体勢を持ち直し着地すると、片膝をついたまま地面を削り止まったようだ。今、五メートルぐらい飛ばなかったか?

「……はぁ?」

弟子が気を利かせて後方に跳んだ……ないな。

眼球が零れ落ちそうなぐらい目を見開いて、驚愕しているあの姿が芝居なら、もう役者になった方がいい。

「凄いですよ! ラッミスさん程じゃないですが、ヘブイさんの怪力を上回るのでは!」

ラッミスの桁外れな怪力の足元にも及ばないとは自覚しているが、ヘブイも相当の怪力だ。五百キロ以上ある自動販売機の俺を、持ち上げられるぐらいだからな。

それぐらいは筋力があるということなのか。

初めからこの体で異世界に来ていたら、理想的な異世界生活が待っていたかもしれない。残念のような気もするが、自動販売機だったから仲間たちと出会えた。

なら、これでよかったのかもしれない。

「悪いがもう少し、付き合ってくれるか」

「もちろんです。思う存分、体を動かしてください」

それじゃ、お言葉に甘えて時間ぎりぎりまでやらしてもらおう。

それからタイムリミットまで戦い、生身の能力が十二分に理解できた。

ミシュエルの願いを叶えるどころか、俺の能力確認しかやっていない。弟子の望みではあるのだが、申し訳ない気持ちが残っている。

「いやー楽しかったですね、師匠!」

汗を拭い地面に座り込んでいる姿は満足気だ。当人が納得しているのなら、何も言うことはないのだが……今度、別の機会にお礼をしないとな。

「いらっしゃいませ」

自動販売機に戻ると会話が怪しくなるのが惜しいが、定型文だけでも俺の思いは伝わっている。なんだかんだで付き合い長いからね。

「ところでハッコン師匠、一つ問題がありまして」

「ん」

なんだろう? 俺はもう時間が過ぎたから、この基本の自動販売機以外にはなれないけど、手伝えることがあるなら、なんでもするぞ。

「あのですね……城塞都市から結構離れてしまっていますが、その、ここからハッコン師匠を運ばないといけないわけでして……」

自動販売機である俺をここから町まで運ぶのか。

町に帰るまでが鍛錬だ……頑張れ、ミシュエル。