軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あるべきところへ

目も眩むまばゆい光の中から現れたのは――額から立派な角が生えた男だった。年齢は二十から三十半ばぐらいだろうか。ワイルドな風貌をしているが威厳も感じられる。

一見スーツのようにも見える服装に真っ赤なマント。どう見ても雑魚キャラじゃない風格だ。

「あの男は強いですよ、ハッコン師匠」

俺の前に立つミシュエルが柄に手を掛けた状態で、いつでも抜刀できるように腰を落とす。それを見てラッミスたちも戦闘態勢に移行した。

「あー、警戒させちまったか。悪い悪い。俺はそいつ……もう消えちまったようだが、冥府の王の上司をやっている、魔王だ」

魔王という言葉を聞き、全員の警戒レベルがマックスまで跳ね上がり、今にも攻撃を仕掛けそうになるが、ちょっと待った!

「ま っ て」

俺が最大音量で止めに入ると、全員が振り返り不審を隠そうともしないで訝しげに俺を見る。

「て が に か い」

「て た よ」

「手蟹掻いてた? あっ、手紙に書いてた! 畑さんの」

相変わらず見事な通訳だよ、ラッミス。そう、畑からの手紙に書いていたよね、魔王について。信用できる相手だと。

「おっ、理解してくれたようだな。それが噂の……本当に自動販売機なんだな、懐かしい」

懐かしい? 自動販売機を知っているということか。あの優しい目は過去を思い出し感動しているようにも思えるが。

過去に自動販売機があっちの世界で存在していたのか? いや、もしかして、魔王って俺たちと同じ――。

「魔王さんが、一体に何しに来たんだ。部下の敵討ちにでも来たのかよ」

ヒュールミの声に思考が妨害される。まあ、疑問は後で尋ねればいいだけだ。

こらこら、疑う気持ちはわかるけど相手を挑発しない、ヒュールミ。

「いや、どちらかといえば後始末に来たんだが、もう終わったようだな。手間かけさせちまって悪かった」

そう口にすると、魔王が深々と頭を下げた。

予想外の行動に仲間がたじろいでいる。腰を九十度曲げた見事なお辞儀だ。

暫くその体勢でいたのだが、すっと元に戻り背筋を伸ばしたまま小さく息を吐いた。

「今回の一件に関しては被害にあった人々には、魔王軍として幾らかの補償金を出す予定にしている。といっても、貧乏な国だからなぁ、期待には沿えないだろうが」

そこまでやってくれるのか。でも、部下を制御しておけばこの惨事が引き起こされることもなかった。当たり前の行為だとも思えるが、この異世界ではかなり異質な考えだろう。

「えっ、補償金なんて出るっすか。魔王国の方がしっかりしてるっすね」

「帝国なんて無視して終わりですからね。上に立つものとしては皇帝よりも……これは私が口にしていいことではありませんか」

シュイとヘブイからの評価が上がっていく。というか、帝国のトップが優れた人材ではないようだ。

「皇帝は無能で有名だからな!」

「ヒュールミ、そんなにはっきり言ったらダメだよ」

言葉を濁さずに言い切ったヒュールミに注意しているが、ラッミスも肯定しているよね。

その隣でピティーも頷いている。この国ではみんなに知られていることなのか。

「まあ、帝国に関しては俺も思うところがあるが……って、そうじゃねえ。俺の本命はお前さんたちを迎えに来た。あっちの帰還用の魔法陣の魔力が足りてなそうだから、様子を見に来たんだが余計なお世話だったか?」

おおおっ、グッジョブだよ、魔王!

完全にこの世界でサバイバル生活をするつもりだっただけに、このサプライズは嬉しい。

「いや、マジで助かる。正直、ここで暮らす気満々だったぜ」

「ハッコンとの……生活なら……地獄でも……大丈夫……」

ピティー、その気持ちは嬉しいけど重いです。

「あー、ここでの生活はお勧めできねえな。ここは邪神が支配する世界でな、昔は文明と魔法が発達した原住民がいたそうだが、邪神を召喚して乗っ取られちまったそうだぜ。で、世界中に邪神が召喚した化け物が闊歩している。人はもう生き残ってねえと思うぞ」

荒廃しているのはこの場所だけじゃないのか。世界中がこんな感じだと商品を売る相手もいないのか。お客のいない世界は自動販売機には向いてない。

「陰気臭えとは思っていたけどよ。じゃあ、あれ何かわかるか? あっちに真っすぐ天まで伸びている棒みたいなのは?」

あっ、それは俺も気になっていた。あれ本当になんなんだろう。

「あれか、冥府の王がなんか言ってたな。確か……邪神が戯れで作った塔らしいぞ。最上階に居座っていて、そこまで到達した人間がいればこの世界から立ち去るとかどうとか」

昔そんなゲームあったな。長い塔の最上階にラスボスが居座っていて、倒したらクリアーするのが。

「ほう、己を鍛えるのには、よい場所のようですね」

瞳を輝かせて興味を持つのはやめようね、ミシュエル。そんな危険な場所に行く気はさらさらないよ。

「やめたほうがいいぞ。鬼畜難易度らしいからな。冥府の王が何度か手下を送り出したようだが、誰一人として戻ってきていない。邪神の力を欲したようだが、手を出すべきではないという結論に達したようだ」

そんな危険な相手なら関わらないほうがいいに決まっている。

って、こんな立ち話をしていたら魔物たちが寄ってくるんじゃ……あっ、遠くから土煙が上がって、何かがこっちに突進してきてないか。くっ、自らフラグを立ててしまった。

対象を確認すると、馬の脚が二本だけ生えた巨大な岩が走ってきている。中心部には巨大な目がある。

うわぁ、キモイ。

「っと、続きは帰ってからするか。邪魔だ」

魔王が駆け込んでくる魔物に向かって人差し指を突きつけると、指先から圧縮された業火の球……まるで小型の太陽のような火の球が放たれ、魔物に着弾すると巨大な火柱を上げ、一瞬で灰となった。

魔王の名は伊達じゃないな。なんという高火力。

距離があるというのに熱であぶられたのか、ラッミスたちが顔をしかめている。

「また雑魚共が現れると厄介だ、魔法陣の上に乗ってくれ」

冥府の王の上司ということで腹に一物あるのかもしれないが、疑っていたらきりがないし、他に帰る方法が思いつかないので畑の人物評を信用するよ。

全員が魔法陣の上に乗ると魔王もやってきて、片膝をついて地面に触れる。

「んじゃ、戻るとするか」

軽いノリで放たれた言葉だったが、足下の魔法陣は正常に動き出し、俺たちは金色の光に包まれて消えた。

目が覚めるとそこは元の世界だった。

何故、一目でその判断ができたのか。だって、目の前に無数の脚が生えた畑がいるから。

そして、その前にずらっと仲間たちが並んでいる。会長たちもケリオイル団長一家もみんな揃っているようだ。

よかった、信じていたけど笑顔で俺たちの帰還を喜んでくれている面々を見たら、安堵して電源が落ちかけたよ。

「よくぞ、無事に戻ってきた。皆ご苦労だったな」

熊会長が一歩前に踏み出て、ねぎらいの言葉をかけてくれる。

その行動に促されたのか、仲間がこちらに向かって駆け寄ってきた。

「やりやがったな! 冥府の王には散々世話になったから、俺たちで引導を渡してやりたがったが、よくやってくれた!」

「これで、私たち一家にも平穏が訪れるのですね」

「ハッコンさん、本当にお世話になりました。ボクも家族も感謝しています」

「あの方は滅んだのね……ありがとう」

「かーっ、町を救った一行として俺たちモテモテになるんじゃね? どう思うよ、赤」

「そりゃ、可愛い子は選り取り見取りで、体がもたねえんじゃないか?」

ケリオイル団長一家が称賛してくれて、一部が意味不明なことを口走っている。

スルリィムは冥府の王に救われた過去があるので複雑な心境のようだが、心配して手を握る灰に弱弱しいが微笑んでいるので、大丈夫だと思うことにした。

「かーっ、燃えるぜ! やっぱ、世界を救うってのは気持ちがいいなっ!」

世界は大袈裟だと思うけど、気持ちはわからなくもないよ灼熱の会長。だけど、全身が燃え上がって二つの意味で暑苦しいから、ちょっと離れて。

「これで復興に力を入れられそうやな。ふっこうな過去は忘れて復興に力入れんと!」

闇の会長のくだらないギャグが今日も絶好調のようだ。

「ご苦労様やったね。今日はゆっくりしいや」

「暴れまわって疲労がたまっておるじゃろうて。しっかり体を休めることもハンターとしての仕事じゃよ」

シメライお爺さんとユミテお婆さんの老夫婦が俺の体をポンポンと軽く叩いた。

二人は少しだけ疲れているように見えるけど、五指将軍と戦った後とは思えないぐらい服に汚れがない……みんなの戦いも見たかったな。

「お主らが我が清流の湖階層のハンターであることを誇りに思う。志半ばで散っていった、ハンターや住民たちも喜んでくれているだろう」

熊会長は空を見上げている。

ダンジョンでは本当に色々あったな。その責務に押しつぶされることもなく、熊会長は誰よりも働き踏ん張ってくれた。

「か い ち よ う」「ありがとう」

「会長も、ありがとうね!」

俺とラッミスが同じことを口にすると、熊会長が視線を落とし俺たちを見つめ口元を緩める。

「シュイ、怪我はありませんか。貴方が無事でなによりです、頑張りましたね」

「はい、園長先生!」

シュイが園長先生に抱き着くと、その頭を優しく撫でている。

思わず頬が緩みそうになる光景なのだが、ぐーっという腹の音が全てを台無しにしている。ごめんな、向こうでの祝勝会を始める前に戻ってきたから、食べるチャンスを逃したままだった。

よっし、まだまだ話し足りないだろうから、今から祝勝会しようか。

みんなで食べて騒いで、思う存分楽しもう!