軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最後の指

早朝まで商品を大量に提供し続けたので、大穴の前に飲食料品の山ができた。

これだけあれば、軽く二週間は持つだろう。ポイントも減るには減ったが、譲り受けた金銀財宝から得たポイントに比べたら、気にもならない程度だ。

「これで大丈夫だよね、ハッコン」

朝日に照らされたラッミスがコリをほぐす為に、身体を大きく伸ばしている。

「これで、憂いなく後を追えるな、お疲れさん」

付き合ってくれていたヒュールミが俺の体を小突いて笑う。他にも清流の階層の住民たちが手伝ってくれたので、一晩で終わることができた。

この程度の逆境には慣れてしまっている面々なので、町の住民と比べて立ち直りが異常に早い……いや、落ち込んですらいない。

「い こ う か」

急かすようだが、ここでやるべきことは終わったので魔物の群れを追いかけたい。

大食い団は近隣の町村に危険を知らせに行ったそうだけど、ケリオイル団長一家は魔物の群れを追って少しでも削っているそうだ。

熊会長と門番ズとヘブイ、そして弟子が先行して、敵の目的地である防衛都市に先に向かっている。永遠の階層で出した車は無事残っていたらしく、それに熊会長たちが乗っていったらしい。

商品が遠くにあっても失われていないことはわかるので、今も無事だと思う。

「ハッコンは休憩しないで大丈夫っすか?」

シュイが焼きそばを頬張りながら心配してくれている。

「そうだよ……体を……休めないと……」

いつの間にか忍び寄ったピティーが隣に寄り添って、じっと俺を見つめている。顔が接近しすぎていて、唇が体にくっつきそうだ。

「ピティーは近寄り過ぎっ」

あっ、ラッミスに襟首を掴まれて運ばれて行くピティー。

結局、この四人は一日中付き合ってくれていた。俺は眠らなくても平気だから、みんなは寝てくれと何度も言ったのだが、頑として聞き入れずに今に至る。

「みんなの言う通りだよ。休憩した方がいいんじゃないかな?」

「う う ん い く」

休憩は必要ないよ。今すぐにでも飛び出したくてうずうずしている。気が急いてしょうがない。

気遣ってくれるのは嬉しいのだけど、これ以上はみんなを待たすわけにはいかない。

「そう言うと思うておったよ。年寄りの早起きが役に立つ日が来るとはのぉ」

「歳を取るのも悪くないものですねぇ、お爺さん」

「早起きには慣れていますからね」

シメライお爺さん、ユミテお婆さん、園長先生が朝日をバックに歩み寄ってきている。

全員戦闘衣装で既に旅立つ準備を終えているということは、三人は追撃戦に参加するつもりなのか。

「ワイも同行するで」

「俺も行くぜえええっ!」

早朝の目に優しくない金色のコートと、まだ寝ている人に怒られそうな絶叫が響き渡る。

闇の会長と灼熱の会長も参戦決定。この二人は戦力としては頼もしいが、旅の同行者として考えると、少し躊躇ってしまう。

「私はここに残り、街の復興に邁進します。なので、こちらの心配は無用です」

真っ赤なスーツが目立つ始まりの会長が残ってくれるなら、この町の心配は無用だ。

「ふああああぁぁ、眠いよぉ」

「犬岩山会長、もう少しシャキッとしてください。皆さんの前ですよ」

子供会長と迷路会長は戦闘力が皆無らしいので、始まりの会長の補佐をやってくれるそうだ。

「もう、行かれるのですね。寂しくなりますわ、ハッコンさん」

シャーリィさんも朝早いのに見送りに来てくれたのか。今日はいつものイブニングドレスじゃなくて、少し大人しめの格好をしている。

それでも、魅力が隠しきれていないので女性陣の羨ましそうな視線を全身に浴びているが、平然と佇み微笑む。

「じゃあ、北門の前まで移動しようね!」

ラッミスに運ばれて復旧中の北門から外に出て、少し町から離れる。

今から仲間の後を追うメンバーだけじゃなく、残る人も見送る為にここまでついてきてくれた。

「これ以上は危険ですので残念ですが、ここまでですわ」

シャーリィさんたち居残り組が脚を止めて、寂しそうに笑っている。

「ありがとう ま た ね」

二度と会えなくなる訳じゃないのだが、暫く会えなくなるので名残惜しい。

スオリとも言葉を交わしたかったが、今は別の町に向かっているそうなので、今度会う時にはオレンジジュースを進呈させてもらうよ。

仲間たちが別れの挨拶をしている間に車を呼び出そうと機能欄に目を通していると、

「おやおや、そこに隠れていらっしゃるのはどちらさまでしょうか」

ユミテお婆さんが唐突に近くに生えていた木に向かって声を掛けた。

全員がそっちに目を向けると、一人の女性がゆっくりと歩み出てくる。

ふくよかで温和そうに見える女性。年齢は五十代だろうか。軽くウェーブのかかった金色の髪に目尻の下がった細い目の奥は真黒で……眼球が存在していない。

「あらまあ、気づかれてしまいましたか。初めまして皆様。うちの息子がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

両手を揃えて深々と頭を下げる姿に、警戒していた仲間が数人、構えていた武器を下ろしている。

見た目だけで判断するなら、人の良さそうなオバサンなのだが、眼球ないんだよなぁ。それに、黒のローブといえば冥府の王の部下を嫌でも連想してしまう。

「あんたは誰だ、それに息子って誰の事だよ」

ヒュールミが半眼で睨みつけ、疑いを隠そうともせずに質問した。

語気が荒かったというのに、対面のオバサンは笑顔を崩さずに微笑んでいる。まるで、その笑顔以外の表情ができないかのように……。

「あらまあ、まだ自己紹介をしていませんでしたね、申し訳ありません。ロッちゃんがやんちゃ過ぎて、ほんと困った子ですよ。昔は素直で大人しい子だったのに、どうしてあんな風になってしまったのでしょうね」

頬に手を当てて悩んでいる仕草をしているのだが、表情に変化はない。

張り付いた笑みに雑談でもしているような気軽さ……不気味だ。

「あ、あのぉ、ロッちゃんって、どちら様なのでしょうか?」

ラッミスはおずおずとオバサンに話しかけている。

相手の危険性を理解してないのか、それとも天性の朗らかさの成せる業か、一緒に居る時間が長いのに、未だ性格を掴めないところがある。

このオバサンが何者なのか、幾つか予想はつくがこのタイミングで現れるということは、つまり冥府の王の配下の一人、そしてそれなりに地位のある者。

正直、子供のことより当人について尋ねて欲しかった。

「ロッちゃんはね、ええと、今は違う呼ばれ方しているの……確か、冥府の王だったかしら」

とんでもないことをあっさりと口にした。全員が息を呑み唖然としていたが、慌てて武器を構える。

まさか……母親が現れるとはこれは予想外だった。俺も呆気にとられていたよ。

「昔は心根が優しくて、虫一匹殺せない子だったのにねぇ。まさか、実の母親で実験して、あんな骸骨の体を手に入れるなんて信じられないわぁ。それから、ずーーっと、死なせてくれないのよ」

母親と名乗った彼女の顔がボロボロと崩れていく。

まるで高速で風化していくかのように、肌がどす黒く変色してひび割れ、髪が抜け落ちる。誰もが声を出せず凝視している間に、目の前の女性はどす黒い頭蓋骨となった。

「酷いと思わない? ずっと、死なせてくれないの。秘術が成功するか実の母で試したのよ。同じ血を引く者ならば、最高の実験体になるって。全くしょうがない子よね……でも、私はお母さんだから全てを許してあげたわ。こうやって永遠に寄り添っていられるのだから。今は親将軍として、息子の邪魔ものを処分したりもしているのよ、立派でしょ」

親将軍であることには驚きが薄いが、母親で試したのか。下種野郎なのは重々承知していたけど、救いようがないな。

「無償の愛、これこそが母親だと思うわよね」

黒い骸骨がカタカタと顎を鳴らして熱弁を振るっている。

今の部分だけ切り取れば立派なセリフだが、あれに手を貸しているということは同罪だ。

「間抜けで愚かな母親ですねぇ。子が誤った道を進むのであれば、それを止めるのが親の務めですよ」

「ああ、それは愛情ではない。ただの、依存と甘やかしじゃわい」

シメライお爺さんとユミテお婆さんの老夫婦が同時に一歩前に踏み出した。

相手を見据えているだけだが、その表情に静かな怒りが見えた。

「身を挺して子を庇うのは親の務めですが、過ちを正すのは親の責任ですよ」

園長先生も前に踏み出すと、親将軍に優しく語り掛ける。責めるのではなく諭すような声だ。

「あらまあまあ、皆さんで私を責めるのですね……姑と同じように……こんなにも素敵な母親を捕まえて……貴方たちは……ロッちゃんの敵……やっぱり、この世界には……私と……ロッちゃんだけでいいのよっ!」

激昂する親将軍の身体から濃密な闇が噴き出す。闇の量が莫大で親将軍の周囲が小さな黒い池のようになっているぞ。

過保護を通り越した、躾を全くしなかった親の末路がこれだと思うと、悲しくなってくるな。親になる権利のない精神が子供な大人が、子供を育てた結果がこの有様なのか。

「戦えない者はオレと一緒に下がれ!」

ヒュールミが叫び、戦闘員以外は町に向かって走り去っていく。

残ったのは闇の会長、灼熱の会長、シュイ、ピティー、シメライお爺さん、ユミテお婆さん、園長先生。あれっ、シャーリィさんも鞭を手にしている。元ハンターとして手伝ってくれるのか。

そして、残りはラッミスと俺。

「みんないらない なにもいらない ろっちゃんがいれば ほかになにもいらない みんなしんじゃえ シンジャエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」

天に向かって絶叫を上げる親将軍に仲間たちが一斉に向かっていく。

まだ冥府の王に借りを返していないのに、こんなところで倒される訳にはいかない。全力でいこう、ラッミス!