軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弟子として その弐

「我が気配に気づくとは、 僥倖(ぎょうこう) 」

姿を現したのは一体の骸骨。頭には少しだけ長髪が残っていて風になびいている。

服は着ているのだが、それはこの世界ではあまりお目にかかったことのない服装をしている。シメライ様の戦闘服に似ているが、それとほぼ同じ服を最近見たことを思い出していた。

クリュマで観た映像の一つに、ハッコン師匠の世界での剣士たちを描いた物語があった。その時の剣士と格好がそっくりだ。腰に下げた片刃の武器――刀を収めた鞘も同じ。

確かハッコン師匠の説明では「り お う に ん」と呼ばれる職だった。

ユミテ様も刀を操る凄腕の剣士だが、目の前の骸骨はそれに匹敵する実力かもしれない。

「何者ですか」

「名か、この体になってから忘れてしもうたわい。今は人差将軍と呼ばれることが多いが」

その名を聞いた途端に大剣を正眼に構える。ここで、五指将軍の一人と遭遇するとは。

いや、ここで会えたのは幸運か。ここで奴を倒すことが叶えば、相手に痛手を与えられる。

「そういえば、小将軍が逃げた際に牢屋の格子が見事に切断されていたそうですが、それは貴方の仕業ですか」

「ああ、あの娘の尻拭いをしてやった」

あっさりと肯定した。格子の切り口を見てユミテ様が思わず息を吐いていたのを思い出してしまう。確か「これは油断ならぬ相手ですねぇ」と目を細め呟いていた。

あの方が警戒する腕だということは……私が敵う相手ではない。

だが、それは以前の自分だ。ハッコン師匠と苦難を乗り越え、鍛え上げられた今なら勝てなくとも相手に痛手を負わすことぐらいは。

この敵を自由にさせてしまえば、後続の皆さんが大きな損害を受けかねない。ここは私がなんとかしなければ!

「お主、我との実力差を見抜いておりながら、挑むというのか」

「退けぬ理由がありますので」

「それは僥倖。逃げ惑う相手を斬るのにも飽きておってな」

腰を落として刀の柄に手を掛けた瞬間、鞘走りの音がする前に自分の喉元に大剣を移動させた。

金属がぶつかり合う音が森に響く。一撃を刃で受けただけだというのに手がしびれている。

何という威力だっ。

「僥倖、僥倖、いやはや、居合を防がれたのは何時ぶりか」

感心してもらえているようだが、今のはユミテ様の戦いとクリュマで観たものを思い出して、体が反応したに過ぎない。実力で防いだとはいえない偶然に近い動き。

冷汗が背中を濡らしている。相手から視線を離すことができず、自分の呼吸と鼓動がうるさいぐらいに焦りを伝えてくる。

すみません、ハッコン師匠。私はここで終わりを迎えるようです。ですが、最後に一撃、我が全身全霊の一撃を相手に叩き込んでみせます。

刃が紅く輝き炎を噴き上げる。天に向けて突き刺すように掲げると、大きく息を吸う。

「ほぅ、玉砕覚悟の一撃。面白い、受けて立つ」

相手の実力であれば今すぐにでも私を切り捨てることが可能。だというのに、応じてくれる。こちらとしては、その心意気に甘えさせてもらうしかない!

一歩踏み出し、渾身の一撃を放とうと剣を振り下ろす直前、人差将軍が先に動く。

斬られた、自分の死を覚悟して続く痛みに身構えたが、いつまで経っても痛みがやってこず、血の流れる感覚もない。

思わず閉じていた目を開くと、刃の軌跡が幾条にも空間に走っているのが見えた。

キンキンと刃同士がぶつかり弾かれる音が何度も響き、人差将軍が刀を振るい何者かの攻撃を防いでいる。

目にも止まらぬ速度で斬り込まれているのは理解できるのだが、人差将軍を襲っているソレを見て、脳が思考を止めようとするのを懸命に堪えた。

「エシグ……」

草食の動物で頑丈な前歯と長く伸びた耳が特徴の動物が四匹、人差将軍と渡り合っているのだ。

大きさは普通のエシグに比べたら二回りほど大きいが、それでも私の膝ぐらいまでしかない。だというのに、信じられない速度で飛び跳ね刃の様に鋭く尖った耳で襲い掛かっている。

エシグの耳は剣のように硬く非常時にはそれで敵対する相手と戦うと聞いたことはあるが、所詮は小動物、最弱の魔物にすら勝てない……筈なのだが。

「ウサッター殿、ウッサリーナ殿、ウサリオン殿、ウサッピー殿、そのまま、敵を封じ込めてもらえるか! そこの御仁、今の内に早く逃げるがいい!」

エシグに続いて現れたのは、栗色の長い髪を後方で縛っている、凛々しい顔つきの女性だった。銀色の全身鎧を着込み片手剣を抜いてはいるが、戦いには参加していない。

ウサッター殿というのは、あのエシグたちのことだと推測できる。つまり、動物を操って戦わせる動物使いなのだろうか。

「ありがとうございます。ですが、私はここで引けぬのです」

「心意気は立派だが、ウサッター一家にここは任せた方が……ん? もしや、お主……ミシュエルか!?」

大声で私の名を叫ぶ女性の顔を驚きながらもまじまじと見つめる。

あの利発そうに見える整った顔にこの口調。もしや――。

「ハヤチ姉さん!」

何故、こんなところに!

父親は同じで母が違う――つまり腹違いの姉弟。私たちだけではなく多くの兄弟がいるのだが、皆一様に仲が悪かった。特に私は正式には認められていない子だったので、かなりの冷遇を受けた。

そんな中、この国の――第八王女であるハヤチ姉さんだけは違った。

責任感が強く、立場の低い私をかばい正義について熱く語る、姉。

「おお、やはりミシュエルであったか。大きくなったな、息災か!」

「ええ、まあ。ハヤチ姉さんはいつから動物使いになったのです。それもこんなに強力な」

四対一とはいえ、五指将軍の一人を完全に封じ込んでいる。見事な体捌きと剣技? 耳捌きで対等どころか押し気味だ。

剣の腕はそれなりで、自分の力の足りなさにいつも嘆いていたハヤチ姉さんだったが、知らぬ間にこんなに強力な力を得ていたなんて。

「動物使いではない。ウサッター殿たちは我が友だ!」

胸を張り堂々と言い放っている。昔から動物は好きだったが、近寄るといつも逃げられて寂しそうにしていたハヤチ姉さんが……。

動物を自在に操れるのが信じられなかったが、その口ぶりだとエシグたちは自分で考えて動いているかのようだ。

「積もる話は後にしよう。今は、奴を倒すことが最優先ではないか」

「そうですね、ハヤチ姉さん。お友達にそのまま相手を動けないようにしてもらえるよう、伝えてもらってもいいですか」

「構わないぞ。ウサッター殿、そのまま、相手を削ってもらえるか」

エシグたちは戦いながら頷いたように見えた。こちらの言葉を理解しているのか、まるでキコユさんたちと一緒にいた黒八咫さんやボタンさんのようだ。

私が何をしたいのか察したかのようにエシグたちの戦い方が変わった。相手の下半身を重点的に狙い、上半身には一切攻撃を加えていない。

腰を落とし、相手の居合切りを真似るように大剣を構える。このエシグたちなら俺の動きを察して動いてくれると信じよう。

刃に炎を纏わせるとエシグたちは人差将軍の注意を惹きつけるように、激しく動き回り自分に視線が向くことのない立ち回りをしてくれた。

大きく一歩鋭く踏み込むと同時に鋭く腰を回転させて、大剣を全力で横に薙ぐ。

以前からユミテ様の剣技を参考に高速の炎を飛ばす技を練習していたのだが、それがここで活きる!

半月状の炎の刃が大気を歪ませながら人差将軍に襲い掛かった。

気づき振り向いたときはもう遅く、相手の腰を捉え真っ二つに分断すると上半身と下半身が激しく燃え、あっという間に燃え尽き灰となる。

全ての力を込めた一撃が命中して安堵のあまり全身の力が抜けた。片膝を突くと大きく息を吸う。

「見事だったぞ、ミシュエル。成長したな!」

「エシグさんたちが協力してくれたからですよ」

エシグにしては大きな個体の四匹が、ピョンピョンと跳ねて寄るとハヤチ姉さんの足元に並んでいる。

「さすが、ウサッター殿たちだ。ミシュエル紹介しておこう、こちらが一家の主、ウサッター殿だ。そして、隣の美しい毛並みをしているのがウッサリーナ殿。こちらの少し小柄なのが子供たちでウサリオン殿、ウサッピー殿だ」

正直、私の目では見分けがつかないがハヤチ姉さんには違いがわかるらしい。

「ところで、こんなところで何をしていたのだ」

「ええ、そのことなのですが――」

今何が起こっているのか詳しい話をすると、ハヤチ姉さんは真剣な表情で何度も頷いていた。

「それで合点がいった。私はこの森の様子が変だと報告があってな、防衛都市からやってきたのだ。守護者殿の一件が片付いたかと思えば、ダンジョンでそんなことがあったとは」

「守護者殿?」

「防衛都市を守り、魔王とも渡り合った御方だ。戦いで痛手を負って、最近まで消息が不明だったのだが、つい先日復活を果たされた」

「そんな方がいらっしゃるのですね。ダンジョンに籠っていましたので、世事には疎くて申し訳ありません」

「最近、噂も聞かぬようになったので心配していたのだが、ダンジョンにいたとは。ミシュエルが師事する、ハッコン殿とはどのような御方なのだ?」

それを聞きますか。本気でハッコン師匠のことを語れば丸一日は覚悟して欲しいところですが、この状況だと簡潔に伝えないといけません。

「そうですね、誠実で寛大な心。どんな苦境に陥っても決して辛い顔一つ見せず、仲間を守り癒す方です」

「私が守護者殿に会えたように、ミシュエルにも素晴らしい出会いがあったのか」

「ええ、守護者様もご立派なようですが、ハッコン師匠はもうそれは素敵な方で」

「ちょっと待て、ハッコン殿の素晴らしさは認めるが、守護者殿より勝っているかのような発言は控えてもらおうか」

「これは失礼しました。貶めるつもりで発言したのではないのですよ。ただ、ハッコン師匠に匹敵する方など、この世にはいらっしゃいませんので」

「いやいや、守護者殿も寛大でおおらかで、何よりも大きい存在だ」

「いえいえ、ハッコン師匠もとても大きくなることが――」

と盛り上がり過ぎて口論になりそうだったが、エシグたちが、耳で鎧をこんこん叩くので話が中断された。

「ごほんっ、この話は全てが終わってからにするとしよう。今は、ここで魔王軍の足止めをしなければならないのだな」

「ええ、そうです。少しでも魔物の軍勢を足止めしなければ、あっという間に防衛都市が呑み込まれてしまいます!」

拳を握り締め、現状の厳しさを訴えたのだが、ハヤチ姉さんは平然と構えている。事の重大さは伝わっている筈なのだけど。

「防衛都市に連絡を伝えておるのだな。ならば、大丈夫だとは思うが念の為に罠を仕掛けるのを手伝おう。ウサッター殿たちがいれば木の加工も可能だ」

それは嬉しい申し出なのだが、緊張感が足りない気がする。

作業しながらもっと詳しく敵の情報を伝えるとしよう。

待っていてくださいね、ハッコン師匠。私はここでハッコン師匠が追い付くまでの時間を稼いでみますから!