軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

切り札

沸き立つ民衆を前にして熊会長が天に向かって吠える。

大気を揺るがす咆哮に騒いでいた人々の視線が熊会長に集中した。

「盛り上がっているところ悪いのだが、まだ終わっておらぬ。これから、残る魔物の討伐に向かう。半数はこの場に残り続いて防衛を頼みたい。共に残りの魔物を討伐する意思がある者は門前に集まって欲しい」

それだけ伝えると熊会長と俺たちは門から集落の外に出る。

ハンターたちも集まり始めているな。これなら、直ぐにでも規定人数に達しそうだ。

「会長、俺たちは門番を継続しておくぜ」

「裏があるかもしれない」

カリオスとゴルスのコンビが残ってくれるなら、後顧の憂いが無くなるので安心して掃討戦に参加できる。

元から清流の湖階層を拠点にしていたハンターたちは防衛に回るようだ。闇の森林階層と犬岩山階層からやってきたハンターの大半が参加を希望しているのか。

腕利きが集まっているだけあって好戦的なのだろう。

「相手の戦力が削られ、動揺している今が好機だと考えている。他のハンターは始まりの会長と闇の会長が指揮を担当してくれるそうだ。我々だけ先行するとしよう」

このタイミングを逃すべきじゃないと判断したのか。

さっきのメンバーに加えてヘブイとヒュールミと大食い団の四人も手伝ってくれるとのことだ。この階層の敵なら問題ないので頼りにさせてもらおう。

一足先に出発すると大食い団は自分の足で並走している。

俺は双眼鏡になって遠方の敵を観察しているのだが、鰐人魔が数十体、王蛙人魔とその周りに蛙人魔が十体程度。双蛇魔の五メートル級が二体という編成だ。

「鰐人魔が多めなのが厄介だが、この面子だと負ける気がしねえな」

ヒュールミが仲間の顔を見回しながら苦笑いを浮かべた。

鰐人魔が蛙人魔より強力とはいえ、楽々と一刀両断するような人物が揃っているからな。ラッミスだって以前戦った時とは比べ物にならないぐらい腕が上がっている。

王蛙人魔だって今なら逃走を選択する必要もないだろう。

「ボクたちは蛙人魔担当するね」

「後で焼いて食べようよ」

荷台と並走するミケネがそう言うと、ペルが舌なめずりをして同意した。

大食い団の身体能力なら蛙人魔に後れを取ることはないので、安心して任せられるよ。

「王蛙人魔は体が燃えて、打撃を吸収すると聞いたことがあります。私が担当しても問題ないでしょうか、ハッコン師匠」

「う ん」

ミシュエルの実力ならタイマンでも勝てそうだが、もっと余裕を持って戦いたいな。

「おっ、燃える蛙だったか! ならば、俺も参戦させてもらうぜえええええっ!」

荷台の縁に足を乗せ雄叫びを上げる、今日も暑苦しい灼熱の会長が手伝ってくれるなら蛙軍団の戦力としては充分か。

「では、あの蛇二匹は私たちでなんとかしましょうかねぇ、お爺さん」

「少々物足りんが、まあええじゃろう」

「先輩たちと戦うと昔を思い出しますね」

「ということだ。双蛇魔は我ら四人に任せて欲しい」

歴戦のハンターであるシメライお爺さんとユミテお婆さんの老夫婦コンビに加え、園長先生と熊会長が担当してくれるなら何の問題もない。

元チームメイトだから連携にも不安がないので大船に乗ったつもりで見学できそうだ。

「では、鰐人魔は私たちで対応しましょうか。皆さん靴を傷つけられないようにしてください」

「最低な指示っすね」

「ハッコンは……傷つけさせない……」

元愚者の奇行団の三名の実力は疑う余地がない。少し敵が多いがそこは――

「うちらも鰐人魔担当だね!」

「いらっしゃいませ」

俺たちが加われば問題ない。それに後方から追いかけてきているハンターの一団もいる。

その場を凌げばいいだけなら、予想外のアクシデントに遭遇しない限り余裕だろう。

魔物の群れは距離が詰まっているというのに動きがない。指揮官らしき人物も見当たらないが、もしかして一人だけ逃げ去ったのだろうか。

俺たちは荷台から飛び降り、各自が担当する魔物たちへと向かっていく。

「オレはここで待機しておくぜ。無茶すんなよ!」

ヒュールミの声援を背に受け、みんなが拳を掲げる。

そこでようやく相手にも動きがあった。俺たちを敵とみなしたようで狙い通り担当メンバーへと押し寄せてくる。

鰐人魔が駆け寄ってくるのだが次々と射抜かれて地面へと倒れ伏していく。

皮の分厚さで防御力に定評のある魔物なのだが、目や関節部分といった比較的柔らかい場所を的確に射抜いている。

「ガンガン射るっすよ!」

遠距離では分が悪いことを理解したのか、急所を守るように体を丸めながら突進してくるのだが、中距離まで近づくと今度は棘の生えた鉄球の餌食となる。

ヘブイの振るう鎖を伸ばした鉄球の威力は〈怪力〉の効果もあり、鰐人魔の防御力を容易く打ち抜き砕いていく。

「鰐革で靴を作るのも良いかもしれませんね」

二人だけでも敵を殲滅しそうな勢いだが、あの数なので流石に無理があるようで敵の接近を許している。

ヘブイは伸ばした鎖を元に戻し、本来のモーニングスターとして武器を振るい鰐の頭を粉砕している。シュイは接近戦に持ち込まれると分が悪いのだが、前に滑り込んできたピティーが全ての攻撃を弾き逸らした。

「ありがとう、ピティー!」

「うん……守りは……任せて……」

紅白双子戦でも見せた、二人が背中合わせになり攻防一体の攻撃を繰り広げ、鰐人魔たちが近づけずにいる。

最近は強敵ばかりを相手にしていたので仲間の実力を測りかねていたのだが、やはり一つ頭の抜けた腕利きの集まりだよな。

「うちらも、やるよ!」

「いらっしゃいませ」

彼らの活躍に触発されたようで、ラッミスが近くにいた鰐人魔に突進していく。

こちらに手にした槍を突き出してきたが、意にも介さず懐に飛び込むと掌底を相手の胸元に叩きつける。

胸が陥没して軽々と宙を舞うお馴染みの光景に驚くこともなく、今日の吹っ飛び具合を計測しておいた。

ふむ、今日は一突きで五メートルか。昔はもっと飛距離を稼いでいたが、これは威力が落ちているという訳じゃない。

力の配分が上手くなったのと、相手へ与える衝撃が効率よく加えられるようになったということでもある。と熊会長が言っていた。

俺は格闘技の経験もないので完全には理解できないが、蛙人魔にも苦戦していた彼女が鰐人魔を粉砕する姿を目撃すれば強くなったことは理解できる。

そんな彼女を見守りながら忍び寄ってきた鰐人魔の顔面に瓶ジュースをぶつけておく。

仲間の戦いは安定しているし、後続のハンターたちも追いついて戦いに加わっているので勝ちは確定した。

仲間たちは残った敵を後続に任せたようで、全員が俺の周りに集まってきている。

「誰か指揮官らしき人影を見た者はいるか」

「うちは見てないよ。ハッコンは見つけられた?」

「ざんねん」

誰も指揮官らしき人物を発見できなかった。先に逃げたと結論を出し、最後の敵が倒されたのを確認してから、ハンターたちに撤退する様に熊会長が促そうとした、その時。

「まだ終わっとらんようじゃな」

「ですね、お爺さん」

「あらまあまあ、本命はこちらでしたか」

「ふむ、それが狙いだったか」

熊会長たち元ハンター四人が真っ先に異変に気づき、全員が同じ方向を睨みつけている。

釣られて同じ方向へ顔を向けた仲間たちも、ソレに気づいたようだ。もちろん、俺もだが。

「こちらに迫ってきているアレは……もしや、以前ハッコン師匠が倒したという階層主ではありませんか」

「せ い か い」

ミシュエルの問いに答えた俺の視線が捉えているのは、八本の足を生やした巨大な生物。清流の湖階層の階層主である八足鰐だった。

前回は喰われてからの内臓爆発で倒したが、今回も同じ作戦でやれるか?

「ハッコン、また食べられるのは無しだからね!」

うっ、先に釘を刺されてしまった。ラッミスの膨らんだ頬が背中側から見える。これは何を言っても説得できそうにないな。

「まあ、正攻法で倒せるじゃろうて。なあ婆さん」

「そうですね、ここにいる全員でかかれば問題ありませんよ」

老夫婦の意気込むわけでもなく自然体な物言いに、比較的若いメンバーの緊張した表情がほぐれていく。

そうだね。あの時とは実力も違えば仲間もいる。顔を見回してみて思ったのだが、このメンバーで負ける方が難しい気すらしてきた。

それだけ頼もしい仲間たちに囲まれていることを忘れてはいけないよな。

「これだけの面子が揃った状態で戦えることなんて滅多にありませんからね、先輩方の戦いぶりを堪能させていただきますよ」

「今日こそ園長先生を超えてみせるっす!」

「どんな攻撃も……受け流して……みせる……」

「よーっし、頑張るよー!」

主要メンバーである比較的若い仲間たちが、先輩たちを意識して気合を入れなおしている。

そんな若者の姿を見て熊会長たちは嬉しそうに口元を緩めた。

「では、我々も若い者に良いところを見せなければならないな」

「まだまだ、若者には負けてられんのう」

「足の一、二本は斬り落としましょうかね」

「シュイに負けたらこの弓を譲りますよ」

熟年チームも若者の活気に当てられて、やる気が湧いてきたようだ。

本当に負ける気がしないな、仲間を見ていると。

「いいねええっ! 燃え盛ろうぜ! 魂を燃やせっ!」

灼熱の会長が文字通り燃え上っている。いつもなら暑苦しいだけなのだが、この雰囲気だと邪魔になっていない。

大地を揺らし迫りくる八足鰐を見据え、全員が一歩踏み出した。