軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暑苦しい

「もっと、もっとだ! この身を焦がすような暑さがたんねえぞっ!」

灼熱の砂階層で世話になったお礼にやってきてくれた、灼熱の会長がうるさい。

暑いとテンションが上がる人らしく、会長としての事務作業よりも現場で戦うことに特化した人だそうだ。

「すっごく元気な人だね」

「あれは元気って表現に当てはまらんだろ。無駄に暑苦しいぞ」

ラッミスは高評価のようだがヒュールミがうんざりしている。

しかし、熊会長は何故あの人を選んだのだろうか。お爺さんに助力を頼むものだと思い込んでいた。

「本当は爺さんに来てほしかったんだが、熊会長の依頼で大食い団と死者の嘆き階層に向かっていてな。雪精人の話をしたら灼熱の会長を紹介された」

ということはあの冷気攻撃に対して何かしらの対応ができる人材なのか。

こう言ってはあれだが、魔法系の能力を保有しているタイプには見えない。俗にいう脳筋タイプの格闘家としか思えないのだけど。武器も所持していないみたいだし。

「熊会長が勧めたのだから実力はあると思うぞ。ただ、あの暑苦しさに付いて行けるかだが」

「ピティーさんが元気ないから、灼熱の会長と足したらちょうどいいよ!」

その発想はなかったよ、ラッミス。バランスという点では確かにそうかもしれないな。

「まあ、あれだ、全員戻ってくるまで待つか」

探しに行く気力もないようで、俺たちはみんなが戻ってくるのを待つことにした。遠くの方から「海だぜええええ!」やら「うおおおおっ!」という叫び声と共に水飛沫が見えたりしているが気にしないでおこう。

一時間ほどして全員が戻ってきたので灼熱の会長が助っ人に来てくれたことを説明する。そうしていると晴天の空に映える太陽に負けない笑顔の灼熱の会長も戻ってきた。

「思う存分、体を動かすと気持ちいいな! 海水浴最高だぜ!」

これがテレビの映像なら、この人が話している時だけ音量を下げたい。

「ひいいぃ……」

ピティーが灼熱の会長を見て眩しそうに目を細めて怯えている。陰と陽の関係だよな、この二人。

「お前さんちゃんと飯を食ってるか! 元気出せよ!」

「ひぃ……た、助けて……」

空気の読めない灼熱の会長が距離を詰めると巨大な盾の中に引きこもってしまった。

「お、何だこの貝みてえな盾! 面白いじゃねえかっ!」

貝のように見える盾に興味を持った灼熱の会長が小突き回している。この二人、最悪に相性が悪いな。

「灼熱の会長、そこら辺で勘弁してあげてください。少し人見知りなのですよ」

「おっ、そうか。そりゃ悪かったな! がはははははっ!」

これっぽっちも悪びれる様子もなく灼熱の会長が腰に手を当てて笑っている。

灼熱の会長がいるだけで雰囲気が明るいを通り越して熱い。暑いじゃなくて熱い。

「では、今後の方針ですが。まずはピティーが引きこもっていた島を目指しましょう。持って行きたい私物もあるそうですから。そこにケリオイル団長たちがいるかもしれませんのでご注意を」

「団長たちへの対応はどうするっすか」

俺たちとしては説得が無理なら捕縛したいところだが、元団員の三人の意見を尊重したいとは思っている。

「私は一応説得を試みますが、頑固ですからねあの人たち。意見を変えることはないでしょう。そうなると、力でねじ伏せて清流の湖階層の牢屋にでも放り込むのが一番かと」

「そうなるっすよね。仕方ない……ことっすよね」

「団長と副団長……夫婦……紅白が息子……私も……いずれ……夫婦に……」

団長たちの現状は隠さずに当人たちからほぼ正確に伝えられていて、俺たちが現状を説明するまでもなくピティーは理解していた。

団長たちの行為の善悪がどうというわけではなく、無理やり外に出されるのが嫌だったという理由でピティーは抵抗していたようだ。

他を犠牲にしてまで誰かの為に行動することは否定しない。

だからこそ、団長たちはまだ説得の可能性があると考えて、残っている可能性もあると考えている。

「そこで争いがなければ、今度は指揮官を探しに行くことになりますが犬岩山階層は広いので、まずはあの犬岩山を目指しましょう」

ヘブイが指差す方向に全員が目を向ける。

階層の名の元となったお尻を付けて座る犬の形をした岩山が、海の上にちょこんと乗っているように見えた。

距離があるというのに正確にその姿が見えるということは、かなりの大きさだと見て間違いない。

「確かあそこに階層主がいるからな。おまけに魔物がわんさか密集しているらしいぜ」

「それだけに指揮官がいる確率が高いかと。ただ、ここの階層主に関しては手を出さないようにしてください。このメンバーでも勝てるとは思えませんので」

この意見には誰もが同意している。灼熱の会長なら「気合で倒すぜ、気合だ!」ぐらい言い出しそうなイメージがあるが黙って頷いている。

それには訳がある。信じられないことに、あの巨大な犬岩山がここの階層主なのだ。十年前に一度倒されてから一度も倒されていない。こちらから仕掛けなければ無害な岩山なので誰も手を出さないでいる。

近くに寄らないと正確な大きさはわからないが、あれと戦うなんて怪獣を相手にするようなものだろう。

前回、あんなものをどうやって倒したのか気になるが、当時参加したメンバー以外には討伐方法が知らされていない。

「我々の目的はあくまでダンジョンの異変の解決です。冥府の王に関する情報を集めてはいますが、余計な戦いは避けられるのなら避けていきましょう」

ヘブイは靴以外に関しては優秀な指導者になれそうな器だな。そういや、このチームのリーダーって誰なのだろうか。全員の立場が公平でまとめ役はヘブイかヒュールミなのだがリーダーという感じではない。

知名度と実力ではミシュエルが適しているのだが、コミュ障の彼に任せるのは酷だろう。

ラッミスはムードメーカーの立ち位置だよな。今になって個性の強い面子を取りまとめていたケリオイル団長の有能さが理解できたよ。

「となると、まずは船をどうするかだな。犬岩山会長に相談してみっか」

ピティーのように盾を船にするわけにはいかないから、船の確保が最優先事項か。

船といえば客船でもあるフェリーの中は貴重な自動販売機が多くて、何度か自動販売機目的で乗船したことがある。

いつでも利用できるという点が評価され、自動販売機のラインナップが充実しているのだ。飲み物だけではなく独創性のある自動販売機が置かれていてお勧めだ。

パン、お菓子、アイスは言うまでもなく、そこにしかない手作りのパスタが置かれていたり、他では見たことのない冷凍食品が並ぶ自動販売機もあった。

そこで購入してから備え付けの電子レンジを使って自分で温め直さないとダメだったが。味に関しては……当たり外れが大きかったとしておこう。

船に関しては自動販売機としては昔を懐かしむことぐらいしかできない。商品に船はないからね。ここは話し合いの結果を大人しく待つしかないな。

交渉事はヒュールミとヘブイ、そしてハンター協会の会長がいた方がいいだろうと、灼熱の会長も同行してもらった。

また待つことになった俺たちは再び波止場に向かい、残った全員で釣りを再開する。

メンバーは俺、ラッミス、ミシュエル、シュイ、ピティーとなった。

意外なことにピティーが一番釣れていて、次にミシュエル、そして俺。シュイとラッミスは竿がピクリとも動いていない。

「釣りは……穏やかな……心で……」

穏やかというか存在感がないので魚が警戒心を抱かず釣られている気がする。この階層で生活していたので釣りの技術もあるようだが。

「で し た い り」

「よ う だ ね」

「ハッコン師匠、お褒めにあずかり恐縮です。魚の気配を探って釣り糸を垂らしていますので、そのおかげかと」

意外な気配を読み取る能力の利用方法だな。魚のいる場所がわかるのなら釣れるのも納得だ。

「大物くるっすよー。美味しく食べてやるから、さっさと釣られるっす!」

その食い気を感じて魚が寄り付かないのじゃないかな、シュイ。

いっそのこと水面近くにいる魚に矢を撃ち込んだ方が効率的な気がする。

「あれっ、あの魔物が釣れてから全然釣れないね。何でだろう、ハッコン。ちゃんと餌も付けているし、同じ場所でずっと頑張っているのに」

「ざんねん」

前回、魔物が釣れたのは運が良かっただけかもしれないね。

基本的に落ち着きがないタイプだから釣りに向いてないようだし、常に俺に話しかけていて波止場から足を垂らして揺らしているから、それを見て魚が逃げているのかも。

俺は釣り糸も商品なので〈念動力〉で操れるメリットが大きい。感覚はないが浮きが沈んだ瞬間に一気に引き上げることが可能だから、魚を逃がすことはまずない。

結局、ヘブイたちが戻ってくるまでシュイとラッミスは一匹も釣れなかったが、その代わり俺たちが大漁だったので晩飯のおかずは確保できた。

こんな状況でもまったりとした日常を送れるというのはありがたい。息抜きは大切だからね。

その後、実は俺が釣り上げた中に微量ながら毒を含む魚がいて、俺と灼熱の会長以外が腹痛となり半日潰れることになったのは、ここだけの秘密だ。