軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

金貨と銀貨

ケリオイル団長がとぼとぼと哀愁を漂わせて帰っていった。

俺としては断って正解だと思っている。有名な一団だとしても、そこに加入するということは荒事が増えるということだ。ハンターをやっていても危険が隣り合わせだとは理解している。だけど、今の彼女は強豪の中で、もまれるよりも、ここでじっくりと腰を据えて実力を伸ばすべきだと、勝手ながらにそう思う。

でだ、これは俺の意見であって、肝心のラッミスが何故断ったのか。それが不思議でならない。

「おいおい。あんた、何で愚者の奇行団の誘い断ったんだよ!」

お、短髪のハンター、ナイスなツッコミだ。それ、それが知りたかった。

「んー、だって、この街って復興中だし。人手が足りなくなったら、困るでしょ?」

ハンターたちの開いた口が塞がらない。あー、ラッミス……別に今すぐって意味じゃないと思うぞ。言えば復興が終わるまでは待ってくれるだろうに。

「じゃあ、みんな続き頑張ろうね!」

彼女以外の人がため息を吐くと、作業に戻っていった。状況が理解できず、首を傾げていたラッミスも瓦礫の撤去に戻っていく。

それからは特に面白いイベントもなく。昼になった。宿屋復興部隊にカップ麺とおでんを売り捌き、ラッミスに背負われて今度はハンター協会前に移動する。

到着を待ち構えていた人々に次々と商品が売れて行く。この調子だったら昨日のマイナス分は直ぐに取り返せそうだ。

お客は購入経験がある人が大半だったが、一度も使用したことない人も今日は多かった。その顔に見覚えが無いということは、今日からこの清流の湖階層にやってきた人たちか。

その人たちには共通点があって、頭に布を巻いて長袖とポケットが多いズボンをはいている。何と言うか大工っぽいな。ざっと見ただけでも100人ぐらいいるぞ。ということは、集落の人口が少なくとも倍に跳ね上がっているってことだよな。

困ったなぁーまた商品が大量に捌けてしまうじゃないかぁ。困ったなぁー、いやーまいったまいった……後でポイント計算をしておこう。

「よーし、ハッコン作業に戻るよー」

「いらっしゃいませ」

また宿屋前の定位置に戻り、購入に来る人たちの相手をしながら過ごしていると。俺の前にすっと立つ人がいた。

この世界って眼鏡とスーツっぽい服も存在しているのか。黒縁の眼鏡をかけ、緑のワイシャツと膝の少し上までの丈しかないスカートを履いた女性が、じっとこっちを見ている。

日本だったら会計とか弁護士とか似合いそうな人だ。目尻も吊り上がり気味で、ちょっと怖いイメージを抱くが美人だな。

その後ろに立つ2メートルを超える大男は、この人の知り合いなのだろうか。逆三角形の筋肉の塊で腕が長く、顔は眉間にしわがあり目尻が下がっていて鼻が低い。正直な第一印象は、人の良さそうなゴリラだ。

服装はスーツっぽいがぱつんぱつんで、今にも破れそうだ。背中には巨大なバックパックのようなものを背負っている。

「貴方は意思のある箱で間違いありませんか。ハッコン様と呼ばれているそうで」

唐突にそんな言葉を投げかけられた。え、どう答えたらいいのか。と、取りあえず、いつもの挨拶をしておこう。

「いらっしゃいませ」

「事前に調べた情報によりますと、それは、はいと受け取って宜しいのでしょうか」

……やりにくいよこの人! 表情も全く変わらないし、威圧感が半端ないぞ。見られているだけで、体が硬くなる。まあ、自動販売機だけど。

何が目的なのだろう。真面目な話っぽいけど、ど、どうしようか。

「あれ、ハッコンどうしたの。ええと、どちら様?」

ラッミスが俺の後ろからひょこっと顔を出して、黒物眼鏡の女性に物怖じもせずに話しかけている。

「貴方はラッミスさんですね、失礼しました。わたくし、両替商のアコウイと申します。以後お見知りおきを。後ろに控えているのは、助手のゴッガイです」

「よろしくお願いします」

冷たく澄んだような声をしているアコウイと、温かみを感じさせるのんびりとした口調のゴッガイ。両極端な二人だな。

しかし、両替商か。あれって、円とドルを交換とかしているのは現代版だよな。確か、昔だと金貨を銀貨に両替とか逆のことをする職業だったか。銀行の元とかなんとか聞いたことがある。

「この階層で銀貨が不足しているという情報を得まして、我々が出向いたのです」

誰だ、銀貨を貯め込んでいる奴は。まったくもって、けしからん。

「あー、ハッコンへの支払いが銀貨ばかりだから!」

しー、ラッミスそれを言ったらダメだろ。え、もしかして、貯め込んでばかりだと硬貨の流通が滞るとか文句の一つも言われるのか。

そんなことを言われたとしても、ポイントに変換したからな。今更どうしようもないぞ。

「やはりそうでしたか。そこで、我々はここが好機と判断しまして、ハッコン様にご提案があるのです。我々は金貨を100枚ほど持ってきていますので、幾つか貯め込んだ銀貨と交換いたしませんか?」

あれ、商談なのか。銀貨と金貨を交換することに異論はないけど、確か金貨一枚と銀貨100枚ぐらいが同じ価値だったよな。日本円だと金貨って10万ぐらいなのかな。まあ、変動もしているだろうから、大体だけど。にしても、金貨を100枚ってかなりの大金を所持しているってことだよな。大丈夫なのか?

出来ることなら両替してあげたいが、どうすればいいんだ?

機能に〈両替〉とかあるのだろうか。自動販売機は普通、両替機能がついてないけど。ええと、ざっと見てみたがないよな。

「ざんねん」

「それは承諾しかねるということですか」

申し訳ない。してあげたいけど、やりようがないんだ。

「あ、両替は無理だとしても、金貨で商品買えばいいんじゃないの。そしたらお釣りでないのかな?」

ラッミスの何気ない一言に、俯き気味だったアコウイの顔ががくんと勢いよく前を向いた。目が爛々と輝いていて、初めて感情らしいものを見せてくれた。

実際、金貨を入れられたらどうなるのだろう。今まで一度も金貨を入れられたことがない。お釣りがもらえるかどうかわからない状況で、試しに金貨を入れる猛者がいなかったからな。

「そうですか! ゴッガイまとめ買いしますよ。金貨を」

あ、初投入か。ど、どうしよう。もし、お釣りが出ないようなら金貨そのまま返そう。

おおっ、自動販売機人生初の金貨が我が体内に。銀貨一枚の商品を買われたとしたら、銀貨九十九枚出すことになる訳だが。男は度胸、物は試しだ。

今までにない全身が湧きたつような感覚に自動販売機が振動する。これが、金貨が体内に入り込むということなのか。って、余韻に浸っている場合じゃない。お釣りはどうなった。

じゃらじゃらと釣り銭受け皿に銀貨が流れていき、溢れた銀貨が地面に零れ落ちている。遠回しにこっちを見ていたハンターたちが生唾を呑み込んでいるな。

普通にお釣りが出たか。これが出なかったら泥棒扱いされかねなかった。

「これでいいのですね。じゃんじゃん買いましょう」

金貨が次々と投入され、銀貨が次々と排出されていく。ゴッガイがその巨体を折り曲げ、銀貨を残さずに拾っている。

金貨を十枚入れたところで、アコウイさんも納得したらしい。ほくほく顔でバックパックに詰められた銀貨を眺めている。金銭が絡むと表情が変化するのか。

「これ以上はハッコン様の負担になってしまうかもしれませんので、ここまでにいたします。では、また後日、購入させてもらいますので。これからもよしなに」

スキップでも踏み出しそうな後姿だな。ゴッガイさんは硬貨と商品が大量に詰め込まれたバックパックを苦もなく運んでいる。見た目に反しない筋力のようだ。

あの人たちとは長い付き合いになるのだろうか。悪い人たちではないようだが。

「ハッコンってすっごいお金持ちだよね。お金取られないように気を付けないと」

「いらっしゃいませ」

そうだね。まあ、俺を破壊して解体したところで、中から硬貨が出るかどうかは怪しいけど。商品だって湧き出るシステムなのだから、硬貨だって体内にあったというよりは、需要に応じて現れたという感じだった。

こんな話をしている間、じっとこっちを見つめる熱い視線が幾つもあった。若手のハンターにしてみれば、今、金貨を十枚吸い込んだ俺の体は、それは魅力的に見えることだろう。

そういや、自動販売機は治安が悪いところには置けないので、あれ程、日本に自動販売機があるというのは平和で治安がいい証拠らしい。

暫くは、馬鹿なことを考えそうな人たちの警戒もした方が良さそうだ。

「あ、そうそう。ごめん、ハッコン! ずっと言うのを忘れていたんだけど、ヒュールミに暫く会えそうもないんだ。手紙送ったけど、返事がなくて……たぶん、また階層内をうろついているっぽい。だから、連絡が取れるまではここで待機ってことで、いい?」

手を合わせてぺこぺこと頭を下げているラッミスに「いらっしゃいませ」と伝えておいた。一瞬、ヒュールミって誰って思ったが、初めて会った時に言っていた魔道具技師の友人だったか。

そういや、そんな目的があったなと他人事のように思い出していた。

妙な出会いがあった一日だったが、復興初日は特に問題なく終わりを告げようとしている。夜になり、ハンター協会前の定位置に居座り晩御飯の商品も売り終え、集落の明かりが次々と消えて行くのをぼーっと眺めていた。

魔道具には電球代わりの物もあるようで、集落にもその灯りが点在しているのだが、やはり日本の夜と比べるとかなり暗い。魔道具はかなり高価らしく、一般のご家庭で使われることはまずないようだ。基本的にはランタンやそれこそ松明を設置しているテントも少なくない。

灯りの周辺だけはそれなりに明るいが、そこから少しでも離れると深く黒い闇が佇んでいる。

俺のいる場所も光から離れた場所にあるので、本来なら人の目に留まりにくい。だが、俺は自動販売機だ。自ら光を発しているので、いつもなら異様なまでに目立っている。

しかし、今日は発光モードを消して、尚且つ機能の塗装変化を取得してボディーを真っ黒に塗りつぶしておいた。あの時のやり取りを見ていたハンターたちもそうだが、遠征中に金を狙ってきた小悪党の一件もある。夜は闇と同化して、余計な揉め事は避けることにした。

「あれっ、ここら辺にいつもあるよな」

「移動したんじゃないか。ほら、怪力女がいつも運んでいるだろ」

「くそっ、宿屋跡地のほうに回るぞ」

噂をすればなんとやら。一緒に仕事をした若いハンターたちではなかったが、三人組の男たちが俺を探しているようだ。

実際、俺にちょっかいを出してきたところで〈結界〉もあるし、最大音量で音声を再生すれば、ハンター協会から何人か飛び出してきてくれるので問題はない。だけど、穏便に済ませられるなら、それでいいか。