軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鬼退治

外壁に沿って移動を続け、ここなら大丈夫だろうという位置まで移動すると体を休めることになった。

ここは俺の出番なので大量のスポーツドリンクと冷たい物がいいかと思ったのだが、夜も更けているのでここは温かい食事の方が喜ばれそうだ。

死が迫っていた状況に精神的負担はあったが、肉体的には余裕があるようで全員が徐々に生気を取り戻している。ミシュエルも高性能の鎧のおかげなのか、直ぐに目を覚まして食事を取るぐらいの元気はある。

「済まねえ。俺が階層主の情報を事前に伝えておくべきだった」

ヒュールミが砂の上に座り込んだ状態のまま、深々と頭を下げている。

「そんな、ヒュールミは悪くないよ」

「そうですよ。私も頭に血が上り過ぎていました。皆さんを危険に晒し、申し訳ありません」

「私も役立つどころか足手まといに……どんな処罰も受け入れます、ハッコン師匠!」

みんなで謝りあっている。我が強く責任転嫁しない人ばかりだというのは恵まれていることなのだろうが、これじゃ話が進まない。

「さ く せ ん を」

「た て よ う」

「そうですよ。誰が悪かった何て追及は後でゆっくりすればいいのです。今はあの鬼をどうするか、そこが問題です」

俺の意見に追従してキコユが口にしてくれた。見た目と一致しない大人びた口調だが、年齢はやはりラッミスよりも上なのかもしれない。

「そうだな。あの双対鬼をどうするかだ。選択肢は二つだ。このまま逃げるか、倒すか」

「敵が強すぎましたからね、逃げるのもありだと思いますよ」

ヘブイがそう切り出すと、隣に座っていたシュイがじっとその顔を見つめている。

「ヘブイ、いいんっすか。タシテ置いてきたっすよ」

「あの様子だと、双対鬼に食われるか既に出血で死んでいるかのどちらかでしょう。あの髑髏の指輪で全く制御できていませんでしたからね」

「あの指輪は簡単な命令しかできねえからな。階層主ともなると、攻撃の合図を送るのが精一杯なんだろうぜ。そして、制御できなくなって襲われたってオチだろうな。合図を送るまで、冥府の王の手によって仮死状態か眠っていたのかもしんねえぞ」

目を閉じて微動だにしていなかったからな。眠るというよりは仮死状態の方がしっくりくる。

「髑髏の指輪って今もタシテが持っているよね。それを食べたら双対鬼に指揮権が移るってことないよね?」

「はっはっは、それは流石に……あり得……ないとは言えねえな」

「もしそうなったら、この砂漠の柱の魔物を制御して操る双対鬼の誕生ですか」

ただでさえ、常軌を逸した強さを誇る双対鬼が魔物たちを自在に操ることができれば、どういう展開が待っているのか考えることすら恐ろしい。

「一階にいた魔物たちはこの階層では下級の魔物だった。この砂漠の柱は上の階ほど強力な魔物が住み着いていて、それを制御して集落に襲い掛かられたら……やべえな」

「では、ここで今の内に討伐するべきではないでしょうか。ハッコン師匠はどう思いますか」

そこで話を俺に振らないでもらえないでしょうか、ミシュエル君。

全員の視線が俺に集中している。

自動販売機に何を期待していらっしゃるのでしょうか。今までは策が当たって上手くいったけど、時間もない状況で通用する策がほいほい浮かぶわけがない。

「お に の」

「の う り よ く」

まずは情報だ。双対鬼がどんな能力を有しているのか、それを知らなければ始まらない。

「おっ、そうだな。オレの知りうる範囲だが双対鬼について話しておくぜ。まず、頭が二つあるが右側が男で左側が女。意見が異なることもあるようだが、基本的には仲がいいそうだ。体は鋼鉄よりも硬く、力は見ての通りだ。ラッミスが正面から力比べをしたら、勝てねえだろうな」

あの防御力と怪力は経験したから理解できる。三人の攻撃をもろに喰らったというのに、ノーダメージに見えた。

「ですが、私の攻撃は兎も角、ミシュエルさんとラッミスさんの攻撃であれば鋼鉄の強度があろうと、その防御を貫ける筈では」

「そうだな。ここからは双対鬼の加護について話すぞ。まずは怪力。これは納得できるだろ」

あれを見たら誰もが納得するに決まっている。

「そして、厄介なのが硬化だ。全身の皮膚の強度を跳ね上げる加護だな。その効果はお前らの攻撃を弾く程だ。怪力と硬化。単純だがそれ故に手が付けられねえ」

鬼に棍棒と鎧を与えたようなものか。シンプルな能力だが双対鬼がそれを得ることにより、強さが倍増している。

「硬化は団長がいればなんとかなったかもしれないっすね……」

呟くシュイの横顔は寂しそうに見た。

ケリオイル団長の加護である〈破眼〉の力か。相手の加護を消すことが可能な能力。あれがあれば、確かに硬化を解除させることが可能だったかもしれない。

「ないものを強請ってもしょうがねえさ。俺たちの出来る範囲でやるしかねえ」

良いこと言うね、ヒュールミは。

ここにいる仲間もみんな有能だ。力を合わせれば何とかなると信じたい。

敵の加護は把握した、他に知っておくべき情報は何かあるかな。

「あと、双対鬼について知っていることは……大食漢で大酒飲みらしいぜ」

日本の鬼の特徴と共通しているな。酒飲みの鬼と言えば酒呑童子が有名だ。

酒か……ここは定番だが酒で酔わせて襲うってのはどうだろうか。〈硬化〉も意識して発動しているのであれば、油断して眠っていれば攻撃が通じそうな気がする。

今なら大量に飯を食って喉が渇いているだろうから、酒を提供したらあっさりと飲みそうな気がするぞ。

酒なら幾らでも提供できる。俺は滅多に酒は飲まなかったが、飲めない訳じゃない。友人との飲み会で酒を仕入れる時は酒屋の前の自動販売機で購入していた。

友人たちには「店内の方が安いだろ」と言われたがそこは譲らなかったな。懐かしい思い出だ。

酒好きの友人がいたおかげでアルコール類の種類も豊富だ。何が幸いするかわからないものだな、今だけは友人に感謝しておこう。

となると酒の種類なのだが、酔わせるならアルコール度数の高いものが良いよな。そういえば、アルコールとスポーツドリンクを一緒に飲むと、吸収率が高まって酔いやすくなるという話を聞いたことがあったがあれは嘘らしい。

なので純粋にアルコール度数の高い酒で勝負することにしよう。

酒といえば面白いのがあったな。大阪の空港内にあった日本酒を利き酒できる自動販売機が。三十ぐらい銘柄があって、百円でおちょこ一杯分飲めるシステムだった。

物珍しさと自動販売機マニアとしての意地で全種類飲んだのは無理しすぎだったよなぁ。

あの巨体だとおちょこ一杯では何の足しにもならないだろうけど、二リットルのペットボトルの中身を消して、その中に酒を満タンになるまで注ぎ込めばいけるんじゃないか。

他にも普通に自動販売機で売っていた度数高めの酒を用意して、やるだけやってみよう。一応ネタとして鬼殺しも選んでおくか。

俺が酒を並べていくと即座に理解してくれたようで、皆が手伝ってくれている。

普通のサイズの瓶や缶では、三メートルを超える巨体の双対鬼だと飲むのにも一苦労だろう。全部二リットルのペットボトルに詰め替えないとな。

結構な数を揃えると、そこで今度は新たな問題に遭遇した。

「で、これをどうやって飲ませるんだ?」

一所懸命詰め替えてくれていた全員の動きがピタリと止まった。

美人が酒を提供して飲ませるというのが定番中の定番だが、そもそも鬼の美的感覚が人間と同じなのかという疑問が発生する。

あの二つの顔の片側の女顔は気の強い美人系なので、似たような感覚かも知れないが、男と女がいるなら酒を運ぶ側も、男女取り揃えた方が良いのだろうか。

「あれだけの魔物の肉を喰らった後なら、腹は膨れているから喰われる心配はいらないかもしれないが、殺されないって訳じゃねえ」

「んーと、あの双対鬼が殺さない対象っていないのかな、同じ魔物で」

「あー、この階層にいる鬼族には一切手を出さないらしいな。それがどうした」

「うーん、幻覚で鬼に化けたらいけない?」

あっ、その手があったか。

視線を向けられたヘブイは手の平に拳を打ち付けて、俺と同じような反応をしている。

「時間を掛ければ不可能ではありませんよ。鬼族なら何度か遭遇したことがあるので、自分にその映像を重ね合わせれば、誤魔化すことは可能かもしれません」

「言葉はあの双対鬼のように片言を話すか、ぐあ、ぐお、といった返事しかできないそうだ」

それなら何とか対応できるかもしれない。それでも危険極まりない役割だが、ヘブイはやる気満々のようだ。

それ以外に策が思いつかないのなら、やるしかないのか。

もしここで逃げたとして、集落に戻る前に双対鬼と魔物たちに砂漠で襲われたら生き延びる術はないだろう。危険を覚悟の上で挑んだ方が生存率は上がるかもしれない。

「やるだけやってみようぜ。受け渡しの方法については一つ考えがある」

ヒュールミが自信満々に言う時は根拠がある。なら、彼女を信じて従うことにしよう。

何に化けるかの相談を二人が始めたので、その間にペットボトル入りの酒を大量に製造しておこう。

ウォッカがあれば簡単に酔い潰せるかもしれないが、俺は一度も自動販売機でウォッカが売られているのを見たことがない。ここは商品のアルコール度数チェックをして、高い順から選んでいこう。

屋外で風の吹き抜ける場所だからましだが、これ屋内の密室でやっていたら臭いだけで酔いそうだな。俺は自販機だから問題ないからいいけど。