軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

砂漠の遺跡

砂漠にある遺跡を目指しているのだが、距離感がつかめないので近づいているのか時折不安になる。遺跡自体は目立つ外観をしているので目印としては最適なのに。

「まだつかないね、あの塔」

ラッミスがぼやくのも無理はない。集落を出る前からずっと見えている一本の棒。

当初は砂漠に揺らめく一本の長い毛にしか見えなかったのだが、砂漠横断四日目にもなると結構太い棒に見えてきた。

「砂漠の柱はクソでけえらしいからな、近寄ったら壮観だろうよ」

ヒュールミの口にした砂漠の柱というのは、遺跡である塔の別称らしい。本当の名前は別らしいが、いつの頃からかハンターたちの間で広まった呼び名だそうだ。

砂漠の柱は百階建てだそうで最上階には階層主が居座っている。

十階ぐらいまでは中級ハンターチームなら容易に到達できるらしく、結構儲けが良くてこの階層に住みついているハンターの大半がその稼ぎ目当てだと、灼熱の会長が言っていた。

「はあぁ、暑いっす……アイス欲しいっす」

今日五個目になるアイスを強請るシュイに、さっぱりオレンジ味のアイスを渡しておいた。暑いのはわかるけど、あんまり食べ過ぎるとお腹壊すよ。

前は常時俺の体に貼り付いていた三人だったが、今は少し暑さに慣れてきたようで少し距離を取って歩いては、限界が近くなるとくっつくを繰り返している。

シュイに至っては「暑さを耐えてからのアイスや冷たい飲み物が格別に美味いっす」と言っていたな。わざと暑さを感じることにより食事の美味しさを増す作戦のようだ。食べることが何よりも好きな彼女らしい発想だ。

最も熱くなる昼は長めの休憩を取っているので進行速度はお世辞にも速いとは言えないが、魔物の討伐も順調で今のところ問題は発生していない。

「あれから誰とも会ってねえな」

ヒュールミの言う誰ともというのは死体も含まれている。二日目までは何体かの干からびた死体と遭遇したが、それ以降は魔物以外と会ってない。

風景に変化がないというのは結構きつくて、本当に進んでいるのかという疑心暗鬼が生じている。砂漠の柱が徐々に太くなることだけが進んでいる証となっている。

集落を出発してから一週間が過ぎているのだが、そろそろ着いてくれないだろうか。

「灼熱の会長の話だと順調に行けば十日前後って話だったよな。オレたちの移動速度は相当なもんだろ、もうそろそろ着いてもよくないか」

ボタンの背に乗っているヒュールミが目を細めて、砂漠に立つ一本の棒を睨みつけている。

砂漠の柱は日に日に太くなっているのだが、それでも結構太い棒程度にしか見えない。どう見ても、まだまだ距離があるよな。

「黒八咫、ちょっと前方を見て来てもらえるかな」

「クワック」

俺の頭の上で休んでいた黒八咫にキコユが声を掛けると、一鳴きして飛び立って行った。

雲一つない空に漆黒の体が映えるな。大きく羽ばたきながらスーッと滑空していく姿は何処か幻想的でもある。

その姿が徐々に小さくなっていくのをぼーっと見つめていると、唐突に姿が掻き消えた……えっ?

「あれっ、黒八咫!?」

「今、突然消えたよねっ!」

「ああ、確かに消えたぞ」

「視覚を操作して視力を上げていたのですが、何の前触れもなく消え去りましたよ」

「ハッコン師匠、私にも消えたように見えました」

俺の見間違いじゃないのか。全員が消えた瞬間を目撃している。

何が起こったのかは不明だが、それを確かめる為に全員が歩く速度を上げた。口を開いたら不安が零れ出るのを警戒してなのか誰も何を語らず、黙々と歩を進めていた。

一時間ぐらい歩き続けて黒八咫が消えた辺りまで辿り着いたのだが、何もおかしな点はない。

「んー、何もねえな。確かここら辺だと思ったんだが」

「黒八咫……大丈夫かな」

「ブフォッブフォ」

心配しているキコユをボタンが頭を激しく上下に揺らして、慰めているように見える。

最悪の展開としては何者かに撃ち落されたのかとも考えたのだが、死体もなければ体の一部が転がっているような事もない。

「何で消えたのかな……一瞬だったから良く見えなかったけど、急に速度を上げたとか」

ラッミスは言葉を選んでいる訳ではなく本気でそう思ってそうだな。

俺としては黒八咫がそう簡単にやられる訳がないと信じているので、死んでいるとは思いたくない。そうなると、何故消えたのかという疑問に戻る訳だが。

「あれ、何かここ変じゃない?」

ラッミスが俺を降ろしてから虚空に顔を突き出して、じっと見つめている。

別に変な所は無いように見えるのだが、何でそんなにも真剣に見続けているのだろうか。

俺も釣られて同じ場所を見ているのだが……特に……おっ、あれ、何か揺らいでない?

ほんの少しなのだが目の前の映像が少し揺れた気がした。まるで水面に映る風景のように波打ったような。

「また、揺れたよね。何だろう……」

ラッミスが無造作に手を伸ばして、その部分に触れようとしたので、慌てて取り出し口のペットボトルを飛ばした。

手が触れる前にペットボトルが揺らいでいた部分にぶつかると――消えた。黒八咫の時と同じように消えたぞ。

「うわっ、消えたよ! ハッコン、消えた、消えたよ!」

うん、見ていたから知っているよ、ラッミス。ちょっと落ち着こうね。

テンションが上がっている彼女の頬にキンキンに冷やした缶ジュースを当てると「ひぃやうっ!」と叫んで静かになった。

もう一本ペットボトルを取り出して〈念動力〉で操り消えた場所にゆっくりと近づけていく。今も少しだけ揺らいでいる部分にそっとペットボトルの先端を当てると……触れた部分が消えた。水面に沈んでいくかのように触れた部分だけが綺麗さっぱり消え失せたのだ。

さらに半分ぐらい押し込んでみたのだが完全に消滅している。消えた部分の切断面が気になったので引き戻してみると――あれ、消えた筈のペットボトルが存在している。

「あれっ、あれっ? 元に戻ったよ」

もう一度繰り返してわかったのだが、どうやら水面のような部分から先に進むとこちらから見えなくなるだけで、消滅している訳じゃないようだ。

「どうなってんだこれ」

俺が実験をしている間に仲間たちが集まっていたようで、全員がその不思議な光景に首を傾げている。

ヘブイが自分の武器であるモーニングスターの鉄球を、突っ込んでは引き抜いてを繰り返している。その隣でシュイも矢で同じ事をしているな。

「私の加護と似た設置型の幻覚の一種っぽいですね。ここが境界線になっていて先は全く違う光景になっているのではないでしょうか」

ということは黒八咫も消滅したわけじゃなく、消えたように見えただけなのか。

「面白いねっ」

って、考えなしに頭突っ込まない!

ラッミスの首から先が消えて完全にホラーだ。声は聞こえるので視覚のみを誤魔化しているようだ。

「あれ、すっごく近いよ! 塔が目の前にあるよ!」

驚く声に反応して全員が顔を突っ込んだ。

うわぁ……全員の頭が消えた。何だろうこのシュールな光景。

でもちょっと羨ましい。俺だけ参加できないのが、若干寂しく思ってしまう自分が嫌だ。

「本当に砂漠の柱が近くにありますね。この幻覚で距離を偽り近寄らせないようにしていたのでしょうか。私の加護と似たような力ですか」

「まだまだ距離があるように見えていたからな。途中で挫けて集落に引き返したくなるように錯覚させていやがったのか」

「誰かが近づけたくなかったから、こんな小細工していたってことっすか?」

「何でこんなことしたのかな。灼熱の会長はこんな仕組みがあるって言ってなかったよね」

「言っていませんでした。そうですよね、ハッコン師匠」

「いらっしゃいませ」

灼熱の会長がそんな重要なことを話し忘れることはないだろう。

となると誰かが仕込んだということか。その目的として考えられるのは、この塔に人を近づけたくなかったということだよな。

「一気に胡散臭くなってきやがったな」

「そうですね。一筋縄ではいかないかもしれませんよ」

「誰の仕業っすかね」

「ハッコン師匠には傷一つ付けさせませんので、ご安心ください!」

「黒八咫は怪しんで周辺を調べてくれているのでしょうか」

この状況を即座に理解して仲間たちが警戒している中、ラッミスが小首を傾げた状態で眉根を寄せている。

「どういうことなのかな……ハッコンはわかる?」

自分だけがわかってないことに気づいたようで、小声で俺に訊ねてきた。

警戒するのは俺の役目だから心配しなくても大丈夫だよ、というのは甘やかしすぎだろうか。こういう少し抜けたところも彼女の魅力の一部なのだが。

頭が冴えて危険を事前に察知するのはラッミスのキャラじゃないよな。俺を背負っている限り、足りない部分は補えるから今のままでもいい気はする。

とはいえ、危険なハンター稼業だ。命の危機に晒されることも多いので、理解力は必要になってくる場面が多い。ちゃんと説明しておかないとな。

俺が伝えたところで言葉足らずで時間がかかるので、ヒュールミが今の状態から予想できる現状の説明をみんなにすると、やはりラッミス以外は既に把握していた。

「ええと、誰かが砂漠の柱で悪巧みをしているかもしれないから、気を付けろってことだよね」

「ああ、その通りだぜ」

そして、その悪巧みにヘブイが探しているタシテと滾る爆炎の団が、加わっているかもしれないということだ。

これは確定ではなくあくまで予想でしかない。だけど、警戒するに越したことはないからな。

全員が気を引き締め直して波打つ境界線を越えると、塔は本当に目の前にあった。距離は百メートルもないだろう。

巨大な一本の柱が天に向かって伸びている。見上げてもその先端が見えず、最上部がどれ程の高さにあるのか、想像しただけで目が眩みそうだ。

「あっ、黒八咫!」

砂漠の柱の裏側から現れた黒八咫が何事もなかったかのように舞い降りてくると、キコユに歩み寄りじっと見つめている。

「お疲れ様。どうだった、何か見つかった」

頭に手を触れて幾つか質問をしている。黒八咫が今まで何をしていたのか情報を訊きだしているようだ。

「ええと、塔が高すぎて最上部までたどり着けなかったそうです。周辺には人の気配もなく、見張りらしき人影が塔の二階部分から見下ろしていたとのことです。散々からかったら矢を取りに引っ込んだそうで、行くなら今の内だって言っていますよ」

至れり尽くせりだな。黒八咫の作ってくれた、このチャンスを逃すわけにはいかない。

俺たちは残り僅かな距離を一気に駆け抜け塔の大きな鉄扉に貼り付いた。ここだと上から覗いたとしても庇部分が邪魔になって見えないだろう。

さてと、ここからが本番だ。気合入れて行かないとな。