軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミスダンジョンコンテスト 結末

採点表を係の人に渡して、後は結果を待つだけとなった。

自分の採点結果は十点満点がラッミス。続いて九点をヒュールミとシュイにした。残りは全員八点だ。

かなり悩んだのだが贔屓目なしの的確な点数だと自画自賛している。ラッミスは会場の反応も一番良かったと思う。日頃の人気と制服が功を奏したのではないだろうか。

ヒュールミは似合ってはいたが色彩が地味過ぎた。むしろ、ラッミスを際立たせる為にあえて地味な服を選んだのではないかと疑っている。それでも、発明品の凄さとラッミスとのやり取りが受けていたので九点。

シュイは体操服姿がボーイッシュな女子高校生に見えて、化粧を施さなかったのが逆に良かったと思う。

んー、三人に高ポイントを与える結果となったが、これは厳正なる審査の結果であり手心を加えたりはしていない……と自分に言い聞かせてみた。

ミスダンジョンコンテストは見た目だけじゃなく、全てをひっくるめて魅力的に見えた人が優勝するべきだと思っている。なので、この結果は必然……だといいな。

「誰が優勝するのでしょうか、楽しみですわ」

あれ、背後から聞こえてきたこの声は。

視線を後ろに向けると、真後ろの観客席に座ったシャーリィがいた。いつものイブニングドレスではなく、ちょっと地味で一般的な格好をしている。

帽子を目深に被っているので周囲の人は気づいていないようだ。

「た い ち よ う」

「ざんねん」

「ええ、もう大丈夫ですわ。途中で棄権してしまったのは残念ですが」

そう言って頬に手を当てているが、見た感じでは血色も良く口調も滞りない。本当に体調が悪いのだろうかと疑念を抱いてしまうぐらいに。

このまま、一人で考え込んでいても答えに辿り着くことはないだろう。なら、いっそのこと素直に訊ねてみるか。

「で ま か せ」

「だ っ た り」

俺がそう言うと、帽子のつばが背中に当たるぐらい顔を寄せてきた。

「ふふっ、どうでしょうか」

悪戯っ子の様な笑みを浮かべている。それが答えなのだろう。

ここからはただの憶測だが、シャーリィは初めから優勝する気がなかったのではないか。

優勝したら俺に接吻すると口にして、ラッミスたちを引っ張りだしたのも狙い通りだとしたらどうだろうか。初めから盛り上げる為だけに参加を表明しただけで、優勝は誰かに譲るつもりだったと。

だとしたら、大人の対応だなシャーリィは。彼女が出ることで他の出場者たちも、服装や特技で創意工夫に励んだはずだ。その結果、イベントは大盛り上がりとなった。

「ありがとうございました」

「ふふっ、いえいえ」

彼女の反応を見る限り、俺の憶測はあながち間違っていないようだ。

今度、いつもの商品の売り値を少し下げておこう。

「後は結果を待つのみですか」

シャーリィの隣にやってきたのはヘブイか。そういや、姿が見えなかったな。

目を細めていつもの胡散臭い笑みを顔に貼り付けているが、ミスダンジョンコンテストに興味があるのだろうか。ちょっと質問してみるか。

「い ち い よ」

「せ う し て よ」

「一位予想ですか……そうですね、個人的には始まりの会長の真っ赤なブーツが一番だと思いますよ」

「ざんねん」

まあ、そうくるよな。ほんと、ぶれないなヘブイは。

靴よりも履いている人物に目がいくことはないのだろうか。今も隣にシャーリィがいるというのに軽く会釈しただけだ。普通の男なら緊張しそうなものだが。

俺は自動販売機の商品は好きだが女性に興味がないという訳じゃない。だけど、ヘブイは本当に靴だけにしか興味がないようだ。

「皆様、大変長らくお待たせしました。集計作業が終わり、順位が決定されました!」

話しこんでいる内にムナミが舞台に上がっていた。とうとう、結果発表か。

俺の評価と違う結果になっても受け入れて、非難せずに勝者を祝福しよう。

「では、第三位からの発表です。第三位は……赤と美脚で相手を悩殺よ、始まりの会長!」

おおっ、始まりの会長が三位か。これは男女問わずハンター票が流れたようだ。

このダンジョンで最初に足を踏み入れる始まりの階層で、誰もが会長に一度は世話になっている。なので、ハンターたちからの好感度がかなり高い。それに、始まりの階層から移り住んできた人々の票も集まったみたいだな。

「始まりの会長、一言お願いします」

ムナミの横に歩み出てきた始まりの会長はきりっとした表情のまま、ゆっくりと口を開いていく。

「皆、投票感謝する。以上だ」

簡潔で愛想のない言葉だが、その表情はいつもより若干穏やかに見える。

「ありがとうございました。続いて二位の発表となります。誰が、二位の座を射止めたのか……第二位は可愛さ満点、笑顔二百点、女性票と高齢者の票を多く集めた可憐な少女、キコユちゃんです!」

ここでキコユが来るのか。

舞台袖から現れたキコユはボタンにまたがり、黒八咫が上空を旋回している。

清らかなイメージを抱かせる白一色と幼さ。そして、二匹の動物を従えてのアピールタイムが勝因のようだ。

「キコユちゃん、感想をもらえるかな」

「はい、皆さんありがとうございます。凄く嬉しいです」

キコユが頭を下げると、それに合わせてボタンと黒八咫も頭を下げている。

正直、二位も三位も予想外だった。この舞台でのアピールに対しての客観的な評価だけではなく、票を投じた人々の価値観や感性の違いがここまで出るのか。

これで一位がわからなくなってきた。

「残すは一位のみです。さあ、優勝者は一体誰になるのでしょうか! 泣いても笑ってもこれが最後! 優勝者の発表です!」

舞台の奥で太鼓を小刻みに叩いている関係者の姿がある。やっぱり、こういう場面はドラムロールが必須だよな。

できることなら、三人の内の誰かが優勝して欲しいけど。

ピタリと太鼓の音が止むと同時に、ムナミが大きく息を吸い込んだ。

「栄えある優勝者は……元気ハツラツ怪力娘、ラッミスです!」

「うおおおおおおおおっ!」

おおおおっ! やったな、ラッミス!

会場が地鳴りのような野太い歓声で満たされている。優勝して欲しいと願ってはいたが、本当にするとは。やっぱり、人気者なのだなラッミスは。

後頭部に手を当てて、ぺこぺこお辞儀をしながら舞台に彼女が進み出てきた。

「やったよ、ハッコン!」

満面の笑みを浮かべて、両手を残像が見える速度で振っている。

嬉しさが溢れ出しているのが、見ている側に伝わってくるな。

「よ か っ た ね」

歓声に呑み込まれて俺の声は届かないだろうけど、心を込めてその言葉を贈った。

会場からは惜しみない拍手が鳴り響いている。それは優勝したラッミスだけではなく、出場者全てに向けられているようだった。

上位三名以外が舞台袖に消えると、舞台では表彰式と賞品の授与が行われている。

三位と二位にも結構いい物が贈られているな。これって、第二回目があったら賞品目当てに参加者が増えそうなぐらい豪華だぞ。

始まりの会長は苦笑いを浮かべて受け取っているな。賞品が目当てじゃなかったので、貰うか迷っていたようだが、こういう場面で受け取らないと場がしらけると判断したみたいだ。

キコユは無邪気な笑みを浮かべて何度も頭を下げている。

一位のラッミスには俺の五十回分お食事券と、スオリの商会から提供された靴が手渡されている。あの靴は魔道具らしく、魔力を込めると特別な力が発揮できるとの説明があった。

優勝者への商品となるので、スオリの性格からしてかなり高価な品だろうな。

見た目は黒がベースなのだが赤い縁取りがあり、文字のような物が表面に描かれていて結構オシャレなのではないだろうか。

「あの靴はっ!?」

俺の背後から聞こえる取り乱した声に視線を向けると、いつもの落ち着いた雰囲気は消え去り、身を乗り出して正面を睨みつけている――ヘブイがいた。

「やっと、やっと……見つけたっ!」

血が滲み出る程に噛みしめていた唇を開くと、言葉に高ぶる感情を込めて吐き出している。

それは歓喜の声のようでもあり、憎悪の声のようでもあった。

いつも飄々としていて感情の起伏を感じさせないヘブイが、感情を剥き出しにしてただ一点、賞品の靴を凝視している。

どういうことだ。彼が靴フェチなのは重々承知しているが、これはそういう次元じゃない。

あの靴に一体何があるのか。興味はあるがヘブイの様子を見ていると、それを知るのが恐ろしく思えてしまう。